両津達は東京で開かれた高校弓道大会の会場に来ていた。
「賑わってますね。」
「そりゃあ大会はどこも賑わうものだ。」
時行が周りをキョロキョロ見回している。すると、左京を見つけた。両津に左京がいることを伝える。両津も左京に気付くと近づいて挨拶した。
「久しぶりだな。」
「お久しぶりです。」
左京は両津を見て軽く会釈する。
「お前も来てたんだな。」
「私の母校の弓道部が出場していますので。」
左京も加えて会場に入る。既に人混みで溢れていた。両津が進むと早矢が手を振って居場所を教えてくれた。両津達は早矢が取ってくれた席に座る。
「左京さんも来ていましたのね。」
「はい。右京も来てますよ。」
「そうなのか。」
両津は普通の返事だったが時行は緊張していた。すると、その右京が両津達を見つけてやって来た。
「お久しぶりです両津さん、早矢さん。」
「よぉ!待ってたぞ!」
右京は時行の隣に座る。時行を見て微笑む右京に時行はドキッとしている。
「お久しぶりです時行君。」
「は、はい!お久しぶりです右京さん!」
「そろそろ始まるぞ。」
両津が前を見る。大会が始まった。何人もの参加者達が的を狙い矢を放つ。
「皆さん、凄いですね。」
「高校の威信をかけているからな。」
時行にとって弓矢は戦に使用するものだった。それが今では競技として平和的に使用されていることに感動している。時行は参加者達を見ている。すると、1人の男子高校生に目が止まった。弓を引く姿が目から離れない。
「美しい。」
男子高校生が放つ矢は全て的のど真ん中に命中している。早矢達もその腕を評価していた。
「素晴らしい腕ですわ。」
「あれは…小笠原流か。」
「小笠原…」
久しぶりに聞く名前。時行はその名前に反応した。
「確か…いた。パンフレットに載っていたぞ。小笠原時宗。卑差志蛮高校3年弓道部部長。」
「小笠原!?」
時行が両津が持っているパンフレットを覗く。今、弓道界で一番注目されている高校生として紹介されていた。
「父であり弓道部顧問の小笠原義宗の指導の元正確無比で豪快な弓が得意。」
時行が驚く。そして、全参加者の弓が終わった。優勝は小笠原時宗だった。唯一ど真ん中から1射も外していないのだから当たり前だった。
「卑差志蛮高校と言えば問題児だらけの男子校だったな。」
両津が思い出す。表彰式も終わりみんな帰る。両津達も帰っていると早矢の前に時宗が現れた。
「あの…」
「磯鷲早矢。貴殿に勝負を申し込む。」
突然の挑戦状に驚く。
「いきなりなんだ?」
「武道の名門磯鷲家の才女に勝利すれば我が小笠原の名はさらに武道に響くだろう。」
「済まない。息子はこういう奴でな。」
後ろから父親であり顧問も務める義宗が来た。
「息子はあんたに勝ちたい一心でここまできた。」
「卑差志蛮高校は関東一荒れていると聞いたがあんたのような人もいるんだな。」
「少数だがな。だが、今年生徒会長になった奴が凄い遣手でな。次々と改革していってる。」
両津と義宗が会話している中、早矢は時宗の挑戦状を受けるか迷っていた。すると、時行が時宗の前に出た。
「あの、私と勝負していただけませんか?」
「は?」
疑問に思う時宗。時行は小笠原という名前でまさかと思い確認したいことがあるらしい。その瞬間、叫び声ご聞こえた。
「スリよ!」
「なに!?」
両津が叫び声がした方向に走るが犯人と思われる男がスクーターの乗って逃走を始めた。このままでは逃げられる。それを見た時宗が弓矢を構えた。時行はまたその姿を美しいと思った。時宗が矢を放つ。その矢は逃げる犯人のスクーターのタイヤに命中し犯人をこかした。そこに両津が来て犯人を捕まえた。
「凄い…」
「私と同じ…いや、それ以上の動体視力。」
右京と左京も驚く。
「このレベルじゃ自慢にもならないが俺は先祖代々優れた目を持つ。それを一番活かせたのが弓道というだけではある。」
(やっぱりこの人…貞宗殿の子孫だ。)
時宗を見て時行は目をキラキラ輝かせていた。犯人を他の警察官に任せた両津が戻る。時行が時宗を興味津々に見ていた。
「どうした時行?」
「私、この人と鬼ごっこがしたいです。」
「始まったか…」
両津はいつものやつだと呆れる。
「時宗だったな。早矢はこれから仕事がある。だから時行とやってくれ。もしお前が勝てば今度早矢と闘う。時行は早矢も認める弓矢の天才だ。これでどうだ?」
「…いいだろう。磯鷲早矢と闘うことが出来るなら文句はない。」
既に勝つ気満々の時宗。時行は弓矢を借りて誰も居なくなった会場を借り勝負することにした。しかし、大会が終わったため的はなかった。
「今から的を用意するから待ってろ。」
「その必要はない。」
「はぁ?」
「的は己自身だ。」
時宗の言葉に両津が反発する。
「バカヤロー!競技用とはいえ当たれば怪我するぞ!」
「そもそも弓矢とはそういうものだ。」
両津がどれだけ言っても聞く耳を持たなかった。時宗はルールを説明する。
「頭部は2点。それ以外は1点。使う矢は5つ。多く点を取った方の勝ち。いいな?」
「はい。」
「大丈夫か時行?」
両津が心配する。時行と時宗以外は席に座る。早矢が審判を務める。
「では、時間無制限。時行対時宗の弓矢勝負を始めます。双方、準備はいいでしょうか?」
「はい!」
「問題ない。」
「では…始め!」
突然始まる弓矢対決。時行は心躍る体験が出来ると嬉しそうに弓矢を構えた。
「少年。悪いがお前など眼中にない。すぐに終わらせる。」
時宗も弓矢を構えた。
令和鬼ごっこ
新千里眼鬼
《小笠原 時宗》
最初に仕掛けたのは時宗だ。弓を思いっきり引き時行を狙う。矢を放つ。時行はそれを紙一重で躱した。それを見た義宗が感嘆した。
「凄いなあの少年。時宗の矢を見てから避けたぞ。」
「時行も昔から弓矢をやっていたから弓矢をやる者の動きが分かるんだ。」
「なるほど。でも…弓矢の常識を超えるのが時宗だ。我ら小笠原流の中でも弓道の革命児と呼ばれるほどだ。」
時行は時宗の周りを周りながら観察する。時宗は弓矢を構えるだけで全く動かない。時行は時宗の後ろから矢を放つ。それを時宗は回転して避けた。見てすらないのに避けられた事実に驚く時行。それでも時行は周りながら隙を探す。もう一度矢を放つ。その瞬間、時宗が体を捻り矢を放った。時宗の矢は時行の矢に命中し時行の矢を弾く。そのまま逃げている時行の後頭部に命中した。
「時行!」
両津が叫ぶ。時行の頭から血が流れる。それを見て心配する両津達。時行は自分の頭を触り血が出ているのを確認した。
(当たった!あの時と同じだ…痛い…凄い!楽しい!)
時行は興奮していた。自分の矢を弾きながら自分に当てる技術、極限状態でも冷静に状況を見極める精神、そして矢を放つ時の構えの美しさに惹かれていた。再び時宗が矢を放つ。それをジャンプして避けた。
「まさか、時行に当てる奴が出てくるとは。」
「あの人、矢を放つと同時に体を捻ってる。」
「ええ。それに加えてあの動体視力の鋭さ。」
左京と右京が評価する。体を捻ることで腕力だけではなく体全体で弓矢を引くことができ速射を可能としていた。それを支えているのが驚異的な動体視力だ。どれだけ素早く動く標的も見逃さない正確無比な矢を実現させているのはこの2つの能力だ。
「我々の先祖は優れた眼を持っているとされています。特に時宗はその能力を一番強く受け継いでいる。実残形式の弓矢で時宗に敵う奴はいないと自負出来るほどにね。」
義宗が自慢する。時行と時宗が同時に放つ。お互いの矢が命中し弾かれる。それを両者避けた。すると、時宗が動き出した。時行の背後をとり弓矢を引く。時行は逃げようとするも細かい動きを気取られ先読みされる。
「速い!」
時行は背後を取られないように立ち回るもそれに食らいつく時宗。時宗が大きく体を捻り弓を引いた。時行はそれをチャンスと弓を引く。しかし、それより早く時宗が矢を放った。時行は咄嗟に両腕で顔をガードした。その結果、右腕に矢が命中した。
「これで俺は全ての矢を使い切った。」
時宗は時行の頭と腕に命中させた結果3点ゲットした。対する時行は0点で残りの矢は2本。両方時宗の頭部に命中させないと勝てない。
「絶体絶命だな。」
よく見ると時行の右腕に青痣が出来ていた。これでは弓を引くのも一苦労だ。時宗は時行を観察している。どう来るか予測しようとしていた。
「普通に射っても当たらない。その前に普通に引けない。時間は無制限。相手は余裕。こっちは2本とも頭に当てないとダメ。」
時行は現状を呟く。その間に時宗は時行の背後に回った。
(普通にいけば勝ちだが気になる。この少年は侮ってはいけないと直感している。)
時宗は警戒する。時行は深呼吸すると走り出した。時宗は矢だけを見て警戒する。時行は壁まで走るとジャンプして壁を蹴った。そのまま反転して時宗に向かって走り出した。
「走る勢いで腕の怪我をカバーか。小学生にしてはよく考えてる。」
時行が弓を引く。時宗は両腕で顔をガードした。その時、時行が思いっきり体を捻った。時宗の真似をしたのだ。さらに、矢を回転させて弦を巻き込む。そのまま放った。矢は時宗の胸にまっすぐ飛ぶ。
「あのままじゃ顔に当たらんぞ!」
両津が叫ぶ。すると、矢は回転したままカーブを描き時宗の首に命中した。油断していたところに命中したため時宗の動きが止まる。時宗が片膝を着くと時行がジャンプして時宗の後ろを取った。
(しまった!)
そのまま時行はもう1発矢を放った。時宗は避けようとするも矢は耳に命中した。その結果、時行が4点獲得し逆転勝利した。それを見た両津達は喜び義宗は拍手していた。
「勝者、時行!」
「やったー!」
「見事だ。」
両津達が時行に駆け寄る。時宗は耳を抑えながら立ち上がる。そこに義宗が来る。
「どうだった?」
「磯鷲早矢が認める理由が分かった気がする。あの度胸は普通の練習じゃ身につかない。あいつも実残で真価を発揮するタイプだ。」
時行が時宗に手を出す。
「ありがとうございました!楽しかったです!」
「そうか。俺もだ北条時行。」
時宗は時行と握手した。
同時刻、卑差志蛮高校生徒会室に書類仕事をしている男子高校生がいた。近くには斯波崎がスマホを見ていた。
「小笠原先輩、弓道大会優勝だって。」
「よし。これで実績が出来た。来年の弓道部の部費を2割増しにする。」
どうやら彼が卑差志蛮高校の生徒会長みたいだ。生徒会長は部費予算の書類に目を通している。
「野球部は役立たずの金食い虫だ。今すぐ廃部しろ。サッカー部は西尾と横宮が将来有望だ。この2人を手厚く支援しろ。水泳部と将棋部は全国大会ベスト3は狙える。こちらも部費を2割増しにしろ。陸上部は短距離走と走り幅跳びと400mリレーと槍投げ以外は将来が見込めんからから予算を2割減らせ。剣道部は今休部している佐々木が将来有望だ。彼のリハビリを優先しろ。科学部と美術部は次の結果次第。後は通年通りだ。」
生徒会長が指示を出す。それを見て斯波崎は口笛を吹いて感心していた。
「さすが生徒会長。全部1人で出来るから驚きだよ。」
「それで近日うちに警察官が来るんだな?」
「そう。最近のうちの生徒の横暴を注意しにだって。」
「お前もその1人だろ。」
「まぁね。」
斯波崎が笑う。生徒会長が呆れている。
「警察官には余計なことはいうかなよ。あいつらにもそう言っておけ。」
「分かりましたよ足賀直利会長。」
斯波崎は足賀にそう言った。