ある日、時行は派出所の休憩室で耳にイヤホンを着けて何かを聴いている大原部長を見つけた。
「何を聴いているのでしょうか?」
時行に気付いた大原部長はイヤホンをのける。
「これが気になるかね?」
「は、はい!」
「これは演歌という。」
大原部長が時行に演歌を聴かせる。人生初の演歌に時行は聴き入っていた。
「両さん達が聴いている音楽とは違う感じがしますね。」
「分かるかね?これは昔からある日本の歌だ。」
時行が興味津々に聴いているのを両津が見ていた。後日、両津は時行を連れて勘兵衛のところに行った。勘兵衛は老人達と演歌を歌っている。
「よお勘兵衛!」
「また、勘吉と時行か。」
「今、お前が演歌を推していると聞いてな。」
「演歌は定期的にブームが来る。今がその時だ。」
「それに新しい風を吹かしてやろうと思ってな。」
両津は時行に演歌を歌わせてみた。
「じゃあ…定番の津軽海峡・冬景色を歌ってみよう。」
時行は歌詞と曲を聞いてみる。時行はマイクを持ち歌い始めた。それを聞いた勘兵衛は驚いている。
「なんだあの子。なんでも出来るのか?」
「わしも予想以上で驚いてる。」
周りにいた人達も聴き入っている。時行が歌い終える。そこに両津達が拍手した。
「素晴らしい!」
「やるじゃねぇか時行!」
「は、初めてでしたので緊張しました。」
「あれで初めてか。」
照れている時行。両津は勘兵衛と話し合い時行を売り出すことにする。
「ジェロの演歌は30万枚以上売れている。次の演歌ブームは外国人じゃなく少年演歌だ。」
「それで行こう。あの容姿と歌声だ。絶対人気になる。」
両津は勘兵衛のプロデュースで知り合いのレコード会社に時行を売り込む。そこの担当者に時行の歌声を聴かせる。担当者は綺麗の歌声に驚いていた。
「これが…本当に子供の歌声なのかい?」
「百聞は一見にしかず。歌っているところを見てみるか?」
「是非!」
両津は担当者を連れて勘兵衛のところに行く。既に時行が矢切の渡しを熱唱していた。どうやらこの曲が気に入ってくれたようだ。時行の歌声を聞いた担当者がこれだと叫ぶ。
「行けるぞ!外国人演歌歌手の次は美少年演歌歌手だ!」
早速、時行を演歌デビューさせる。時代に合わせてまずは動画サイトにアップする。すぐに何万回と視聴された。これを見て両津はいけると判断する。
「もっと売り込むぞ!時行を歌番組に出演させて視聴率を稼ぐと同時にCDの販売、時行のブロマイドも売る準備しておけ!」
「動きが早い。」
「勘吉は商魂はわし譲りだからな。」
次々と指示を出していく両津を見て担当者は目を丸くさせていた。両津も勘兵衛のプロデュースで時行は歌番組に出た。そこで歌った演歌が見事ヒット。時行は瞬く間に時の人となった。そこに両津がCDやブロマイドをネットで販売する。
「店頭じゃ行ける人しか買えないからな。送料無料にすれば商品が多少高くなっても買ってくれる人はいる。」
「どこまで精通しているんですか?」
「どこまでもだ。」
ものすごい勢いで売れていく時行グッズ。時行の演歌は大原部長も気に入ってくれたようだ。
「さすが時行君だ。素晴らしい演歌だ。」
「よく分からないわ。」
「僕も。」
大原部長は涙さえ出しているが麗子と本田は全く興味を示していない。
両津は時行の演歌をさらに売り込むため演歌の大御所に会わせた。
「初めまして!こちらが今話題の演歌少年、北条時行君でございます。」
「よ、よろしくお願いします!」
「そうか…君が…確かに君からは今とは違う昔の雰囲気を感じるよ。」
(時行は昭和どころか南北朝の人間だから昔の雰囲気が出て当たり前だな。)
時行の活躍で再び演歌ブームが到来する。両津は昭和世代の人達のためにレコードも復活させスマホが苦手な老人達のための売り込みもした。
「最近のアイドル曲やJ-POP、アニソンもいいがやっぱり昔懐かしの演歌や歌謡曲も廃れてはいかん日本の文化だ。」
「最もだ。わしのところでも演歌を推している。」
勘兵衛は凄く元気な爺さん達を連れて来た。番組で視聴者参加型の演歌、歌謡曲歌自慢コンテストをするつもりだ。両津は調子に乗ってそこに自分と時行をエントリーさせた。
「今の日本を築き上げてきた男達の歌。それが演歌だ。メッセージ性のある心に染みるいい歌ばかりだ。」
「だが、最近はその演歌が廃れていっている。」
「それを防ぐためにこのコンテストをするのだ。」
演歌、歌謡曲歌自慢コンテストが始まる。次々と得意の演歌を歌っていく老人達。そのほとんどがプロ級だ。
「さすが慣れ親しんだ時代の男達だ。演歌に対する気持ちが違う。」
「私が場違いな気もするのですが。」
「それをわしが覆してやる。」
両津の出番となる。両津は哀愁波止場を熱唱しだす。力強い歌声に頷く審査員達。次は時行の出番だ。時行は深呼吸すると矢切の渡しを熱唱しだした。
「やはり綺麗な声だ。」
勘兵衛が頷く。全員が歌い終わり結果が出るも両津でも時行でもない全然違う爺さんが優勝した。それに納得出来ない両津が勘兵衛に文句を言う。
「なんでわしと時行が落ちた!?」
「確かにいい演歌だったが…本来これは素人の中から決めるコンテストだ。最初から上手いお前と時行は特別枠だ。」
「騙された…」
「騙した覚えはないぞ。」
両津が愕然とする。それでも、両津の狙い通り時行は演歌歌手として人気にはなっている。両津はこのまま時行を売り込む方針を進める。
「時行をさらに売り込むためには…」
両津はだんだん演歌としてではなく時行を売り込むようになった。時行が歌う演歌のCDの付属品として時行の写真を出す。時行が演歌を歌う時の服装のフィギュアを出す。そんなことを知らない時行は大原部長と一緒に演歌番組を見ていた。
「これだ…また、演歌の時代が来た。」
「そこまでなんですね。」
「ああ…懐かしい。昔はよく歌ったものだ。演歌はわしらにとって…働く人にとっての応援歌だった。演歌を聞くだけで明日を生きようと思えてくるぐらいだ。」
「す、凄い。」
歌という文化すらなかった時代から来た時行にとって大原部長の反応ほ新鮮だった。演歌ってそんなに凄いんだと思った時行が勘兵衛のところに行く。
「ああ。昔は演歌、歌謡曲1本だった。これも1つの文化だ。日本という国を説明する時に無くてはならいものだったよ。」
「そうなのですね。」
「そう言えば時行。お前、最近歌ってないだろ。」
「そう言えばそうですね。両さんから次の仕事が来るまで待てと言われてからは1回も歌ってません。」
「やっぱり。」
勘兵衛が動画サイトを見せる。昨日投稿された時行が演歌を歌う動画だ。しかし、時行にはこの演歌を歌った記憶がなかった。
「あれ?」
「おそらくこれは勘吉がAIでお前の声を学習させた後、別の映像に作ったお前の声を合わせてるだけだな。」
時行が唖然とする。中には如何わしい格好で演歌を歌う時行の動画もあった。見てみると両津が出していた。かなりの再生数だ。それを知った時行は顔を真っ赤にさせた。
後日…
「両さん!両さんはどこですか!?」
「先輩なら兄弟船が聴きたいと言ってジョディーさんがいるカール・ヴィンソンに行きましたよ。」
いつの間にか変な感じに利用されたことに怒った時行が弓矢を装備して派出所へ突撃する。その時行に中川が両津の居場所を教えるのであった。