ある日、時行がいつものように登校していると両津と中川がいた。しかし、いつもの雰囲気と違い真面目な感じがした。時行が駆け寄る。
「両さん。どうかされたのですか?」
「時行か。最近、野良猫や野良犬が殺される事件が多発している。幸い飼われているペットに被害は出てないがこのままエスカレートすれば大変なことになるからな。それを防ぐためのパトロールだ。」
両津が時行に注意するように促す。時行は頷いて返事すると両津と中川はパトロールに戻った。時行が校庭に入る。すると、モモの犬小屋の周りに人集りが出来ていた。気になった時行が向かう。人混みを抜けるとモモが小さな子猫と一緒にいた。
「弧太郎、あの子猫は?」
「モモが連れて来た野良猫っすよ。」
桃井が子猫にミルクをあげている。子猫は最初は警戒していたがモモが舐めるふりしてくれるとミルクを飲み始めた。それを見て可愛いとみんな叫ぶ。
「多分、親猫とはぐれたんだろう。」
「先生!ここで飼うことって出来ますか?」
「出来なくはないが…まずは病気を持っていないかとかいろいろ確認しないといけない。それにこの子用のケージやご飯も用意しないといけないから今ここで判断するのは難しい。」
ショボンとする亜矢達。檸檬が桃井にお願いする。
「このままだと可哀想じゃ。なんとかならんかの?」
「とりあえず、明日病院に行ってみよう。話はそれからだ。」
桃井が飼う方向で話を進めた。それを聞いて檸檬達は大喜びだ。
「良かったのぉ。」
「名前着けようぜ!」
みんなでワイワイしている。しかし、桃井は浮かない顔をしていた。それを見た時行が聞く。
「どうかされたのですか?」
「3ヶ月ぐらい前から野良猫や野良犬に対して暴力を振るい殺害する事件が相次いでいてな。一応、警戒はしているけど。」
両津が言っていたことと同じだ。時行もそれを心配する。そうしていると子猫の名前が決定した。
「渚のカエデちゃんに決定〜!」
「いつの間に!」
時行も参加したかったらしく悔しがる。子猫は渚に懐いていた。
「じゃあ、今晩だけ渚が家で飼うってのは?」
「ダメだよ。お母さんがペットは飼わないって言ってたから。」
「1日だけなら今は使われていない鳥小屋があるからそこに入れるとしよう。」
みんな賛成しカエデを鳥小屋に入れる。新しい仲間が増えると喜びながら下校して行く。檸檬はその時の話を超神田寿司に帰ってからした。
「学校に新しい仲間が来たのじゃ。」
「へぇ~。」
「名前はカエデ。渚が決めてくれたのじゃ。」
檸檬が嬉しそうに話す。纏もその話を聞いて微笑んでいる。それを時行は障子の隙間から覗いていた。その夜、数人の男が校庭に侵入した。
「最近野良が出なくて退屈だぜ。」
「そろそろ別の遊びしようぜ。」
「待て。確か…」
男達は校庭を彷徨いている。それにモモが気付く。男達が近付く。
「おいおい。さすがに飼ってる奴はまずくねぇか?」
「問題ねぇよ。何かあっても親父が揉み消してくれる。」
「おっ。見窄らしい猫がいるじゃん。」
男の1人が金網を蹴る。カエデはビビって奥に逃げる。その瞬間、モモが飛び出した。金網を蹴った男に噛みつく。男は痛がり暴れる。モモを振り払うと持っていた金属バットで攻撃した。
「てめぇ!」
モモは金属バットを避け再び噛みつく。しかし、他の男達に引き離される。そのままモモは男達から暴行を受けてしまう。男の1人がナイフを出す。その時、警備員が男達に気付き駆け寄ってきた。
「お前ら!何してる!」
「やべっ!逃げるぞ!」
「待て!」
警備員が追いかけるも逃げられてしまった。
翌日、時行達が登校する。しかし、校門前にはパトカーが停まっていた。時行が駆け寄ると両津がいた。
「どうしたのですか!?」
「時行…心して聞いてくれ。」
両津が衝撃の事実を話す。モモが襲われて重症だと聞かされた。時行も後ろにいた檸檬も驚愕し声が出ない。校庭には中川達警察官がいる。
この日、学校は急遽休校となり時行達は家に帰った。そのままモモがいる動物病院に行く。既に弧太郎達が心配して待っていた。時行は桃井に容態を聞く。
「相当暴力を受けていたみたいで助かるかどうかは五分五分だそうだ。」
「そんな…」
時行が狼狽する。周りを見るとほとんどの子供が泣いていた。時行がチラッと横を見ると檸檬は泣いていなかった。けど、拳を強く握っている。過去にも何かがあったのだろう。時行はそれを聞くことはなかった。両津を見つける。その後を追う。
「どうだ中川?」
「モモちゃんの歯に人の血液が付着していたそうです。」
「モモも抵抗していたんだな。」
「はい。そのDNAと警備員の目撃証言から犯人の割り出しは出来ました。しかし…」
時行は2人の会話を聞いた。中川が話す犯人をしっかりと覚える。
「それでもわしは行くぞ。」
「先輩!」
「犯行方法が一連の事件と同一だ。だが、今度は野良じゃない。このままだとエスカレートしていくぞ。」
「それはそうですけど…」
時行は深呼吸すると今まで見たことないほどの顔になった。時行が離れる。そこに渚がいた。渚も時行と同じことを考えているようだ。2人は互いの顔を見て頷く。
2人は両津の後を追う。すると、檸檬が後ろから声をかけた。
「どこに行くのじゃ?」
「「…モモの代行。」」
2人はそう言い残し両津の後を追った。両津が向かったのはとある有名な大学だった。そこには纏もいる。両津は責任者に事情を話す。
「…ということで銅崎仙太郎に会わせてもらうぞ。」
「ダメです。いくら警察でもそれはできません。」
「何故だ!」
両津が無理矢理入ろうとする。それを纏が止めた。
「これ以上ここに居座るなら弁護士を呼んでしかるべき処置をとりますよ。」
「上等だ!くびさでもなんでもしやがれ!」
「待てカンキチ!」
纏が両津を大学から離した。両津は悔しそうに帰って行く。両津が被害にあった野良達の写真を見る。その中にはカエデに似た大人の野良猫もいた。両津はイライラしている。
「クソ!子供がやらかしたことに責任を持つのが大人の仕事だろ!」
「仕方ないよ。相手はあの大学の理事長、銅崎勉の息子なんだから。」
両津と纏が会話している隙に時行と渚が大学内に入った。その大学の理事長室では責任者から話を聞いた銅崎勉が頭を抱えていた。
「全くあのバカ息子は…隠蔽するこっちの気にもなれ。」
「どうしますか?」
「いつも通り揉み消す。大学の評判を落とすわけにはいかん。」
銅崎勉が窓から大学を覗いていた。一方、仙太郎はスマホで今朝のニュースを見ていた。彼の腕には噛まれた跡がある。周りにはゲームしたりパフェを食ったりしている仲間が4人いた。
「大事になってるぜ。」
「気にすんな。いつも通り親父が揉み消す。」
仙太郎が笑っている。すると、時行と渚が部屋に入って来た。突然の2人に仙太郎は困惑している。
「なんだガキ?」
「あなたがモモを傷付けたで間違いないですね。」
「モモ?」
「こいつだろ。」
仲間がモモのニュースを指差す。
「何?復讐?復讐とかやっても何も得る物ないぞ。復讐なんて止めとけ。」
「復讐じゃありませんよ。」
「はぁ?じゃあなんだ?」
「「再戦。」」
2人が構えた。それを見て笑う仙太郎達。
「まさか、俺達に喧嘩売ってんのかよ。バカだろ。俺はここの理事長の息子だぜ。俺のやったことなんか全て消してくれる。だから、俺がこれの犯人という証拠は何1つないんだよ。」
2人は黙ったまま動かない。仲間達が金属バットなどを持って2人を囲む。
「痛い目見ないと分からないみたいだねぇ。」
「死んでも俺達は未成年だし罪に問われねぇぜ。」
「やれ。ちょっと痛めつけたらすぐ大人しくなるだろ。」
仙太郎の命令で仲間達が攻撃する。それを2人は避けた。時行が仲間達の後ろから挑発する。
「お〜にさ〜ん、こ〜ち〜ら〜、手〜の鳴〜るほ〜うへ〜。」
「クソガキ!」
時行の挑発に乗った仲間達が時行を攻撃する。しかし、その全てを時行は見事に躱し続けた。それを見て仙太郎は目を丸くする。
「は?てめぇら、一発も当てれねぇのかよ!」
「銅崎さん!このガキすばしっこすぎますよ!」
「囲んで袋叩きにしろ!」
そう命令するもそもそも囲むことが出来ない。時行は何度も挑発しながら手を叩く。だんだんと言葉を無くし2回の手拍子だけになる。仲間達は手拍子の音で時行の場所を捜すはめになった。それを見た仙太郎は疑問に思った。
「おい?もう1人のガキはどこ行った?」
手拍子だけが部屋に鳴り響く。仲間達は2回目手拍子が鳴った瞬間に攻撃しようと神経を集中させる。そして、1回目が鳴った。その方向に顔を向けた。その時、いつの間にかいた渚が仲間達の前で猫騙しをした。時行と渚の周りで倒れ気絶する仲間達。
「おいおいおい…待てよ。たかがガキ2人だぞ。ただの猫騙しだろ。なんで倒れてんだてめぇら!?」
「残るは…」
「あなただけ。」
「クソガキが!」
仙太郎はナイフを取り出す。
「こいつで野良共のように切り刻んでやる!」
仙太郎がナイフを振り上げ襲う。それを2人は躱した。時行が仙太郎の周りをぐるぐる周る。渚は離れたところからじっと観察している。
「ガキの分際で…」
仙太郎が焦る。すると、時行が突然止まる。そのまま渚の方へと走って行った。それを見てニヤリと仙太郎が笑った。
「おい!逃げるのかよ腰抜け!」
仙太郎は調子に乗って追いかける。その瞬間、渚が殺意を向けた。仙太郎はビビってしまい立ち止まる。渚が走る。それと同時に時行が後ろに下がり仙太郎の鳩尾に肘打ちした。
「ぐぼっ!」
仙太郎は鳩尾を抑え蹲ると渚がジャンプして仙太郎に乗りかかり仰向けに倒した。そのまま両足で仙太郎の両腕を封じ両手で目隠しする。そこに時行が伸し掛かり首に冷たい何かを当てた。手にはナイフはもうない。それを知った仙太郎が命乞いを始めた。
「ま、待て!金ならいくらでもやるからよ!」
「「要りません。」」
「じゃあ、親父に頼んでこれから好き放題させてやるよ!親父の後ろ盾があればなんでも出来るぞ!」
「「要りません。」」
必死に命乞いするも2人は動じない。
「何故殺すのですか?」
「あ、あれは…そうだ!殺すつもりはなかったんだ!ちょっと小突いただけなんだ!あれだけで死ぬなんて思ってもいなかったんだ!」
「それが理由ですか?」
「そうだ!お前らだってあるだろ!?虫とかちょっと小突いただけで死んだり遊びのつもりなのに向こうが勝手に死んだりするだろ!?」
「「いえ、ありません。」」
仙太郎の言い訳を即否定する。
「私は今までお巫山戯で命を奪ったことはありません。」
「僕もこれから遊びで命を奪うことなんてないと思う。」
「私達が…」
「命を奪う時は…」
時行の手に力が入る。
「ま、待ってくれ…」
「きっと、殺意と敬意を込めて殺すよ。」
「だから…」
(待ってくれ、待ってくれ、待ってくれ、待ってくれ…)
動きも視界も封じられ何も出来ずにガタガタ震える仙太郎の左右の耳に時行と渚が近付き囁いた。
「「…ありがとう。」」
「止めてくれぇ〜!」
時行が思いっきり腕を振った。仙太郎は気絶し漏らしてしまう。時行はそらを見るも持っていたスプーンを投げ捨てた。仲間の1人がパフェを食う時に使っていたスプーンだ。時行と渚はハイタッチしながら大学を出て行った。
その翌日、新聞には仙太郎達が野良犬や野良猫を殺害したことを自首する内容が大きく載っていた。この結果、事件を隠蔽しようとした銅崎勉は責任をとって辞職することになる。
「当たり前だな。」
「でも先輩、これ…」
「ん?『銅崎仙太郎(19)は調べに対し“全ての罪を認めるので一生刑務所に入れて殺し屋から守ってくれ”と供述…』殺し屋なんて今の時代儲かるわけねぇだろ。」
「そこですか?」
両津が殺し屋なんていないと言ったのと同時刻、元気になったモモを見て喜ぶ時行と渚の姿があった。