ある日、両津が大原部長に怒られていた。
「何度言ったら分かるんだ!?」
「すみません!」
「貴様には馬の耳に念仏というんだ!」
両津はん?と思い顔をあげた。
「何故馬に念仏を聞かせるんですか?」
大原部長は黙ってしまった。そこに中川が説明をしてくれた。
「昔の中国では馬は大切な乗り物でした。その馬に行き先をどれだけ言っても聞いてくれないことを同じく中国では大切にされていた念仏で例えたところからと言われています。」
「ほう。」
「そうなんですね。」
「初めて知りました。」
中川の説明に時行と椎名も納得する。
「昔の人はこうやって大切な物事を分かりやすく伝えるためにことわざを作ったのだ。お前にピッタリじゃないか。」
「何故昔だけなんですか?今の時代に合わせたことわざはないんですか?」
「そ、それは…」
大原部長が両津に押される。
「ことわざはどれも昔の人だから通用したなんてのが多いです。変わっていく時代に合わせたことわざがあってもいいじゃないですか?」
「それをわしに言われても…」
「確かに。早起きは三文の徳とか全く分かりませんでしたね。」
「それは昔、朝起きて家の前に鹿の死体があったら三文を罰金として支払うという制度があった時代の話よ。」
「全然今とあってない。」
麗子の説明に椎名は唖然とする。
「漢字だって今に合わせたやつがあるんですよ。」
そう言って両津は『座』という字の片方の人が下にズレた漢字を大原部長に見せた。
「なんだねそれは?」
「これでソーシャルディスタンスと読みます。」
「ふざけるな!そんな漢字など見たことないぞ!お前が今作ったんだろ!」
「部長、ありますよ。」
「え?」
大原部長が信じられないと振り向く。
「創作漢字というものでコロナ禍で三密を防ぐために席を離して座ることから作られた漢字なんです。」
「あ〜、確かにありましたねこの漢字。」
中川に言われて渋々納得する。
「このように漢字も今の時代になってきているんです。ことわざも今の時代に合わせるべきです。」
そこで両津が提案した。
「なので、わしらでことわざを創りませんか?」
「はぁ!?」
「わしらで令和にピッタリのことわざを創るんですよ。」
両津の突拍子もない提案に大原部長は訝しむ。
「何を…」
「面白そうじゃない?」
すると、麗子が両津の提案に乗った。それを皮切りに中川達も賛成する。
「僕達でことわざを作るのもいいかもしれませんね。」
「今に通じることわざもいいかも。」
大原部長以外が両津の提案に乗ったため大原部長も渋々乗ることにした。
「じゃあ、4日後にここで発表ということで。」
4日後、派出所に集まった両津達が各々考えたことわざを発表する。まずは麗子だ。
「私は“コロナからズーム”よ。」
「どういう意味だ?」
「コロナのような大変な時期にズームなどが発展したからどんな苦境でも成長することは出来るって意味よ。」
「麗子君らしい素晴らしいことわざだ。」
大原部長が褒める。椎名は目を点にしていた。次は中川が挙手したので中川の番だ。
「僕は…“今日のドルと明日のドルは違う”です。ドルはアメリカ経済の変動に影響されるので常に移り変わりするものには注意深く見ようという意味です。」
「え、中川先輩も凄い…」
椎名は冷や汗を掻いていた。
「じゃあ次は…」
「わしが行こう。」
大原部長が発表する。
「“演歌の心百過ぎても変わらず”だ。」
「どういう意味ですか?」
「演歌は昭和から続く素晴らしい歌だが今の時代ほとんど見られなくなった。しかし、わしらの心には残っている。それは演歌がどれだけ時間が経とうとも人の心に残る歌だからだ。それに転じて素晴らしいものはどれだけ時間が経過しても忘れることはないという意味だ。」
部長のことわざに中川と麗子は頷いている。しかし、椎名はワナワナしていた。両津が椎名を指名する。
「次は椎名だ。」
「そ、その前に時行様お願いします!」
椎名が時行に振る。時行は分かりましたと立ち上がって発表した。
「私はことわざというものがよく分からなかったので少しことわざを調べてみました。…ということで私が考えたことわざは…“鎌倉を目指す者は諦めない”です!」
「なんですかそれ?」
「大切な物を取り返すのに妥協なんていらない。全身全霊で挑みましょうという意味です!」
「そこからそんな壮大な話になるんですか!?」
椎名がびっくりするも両津達は納得していた。
「両津先輩。何故鎌倉に行くだけなのにあんな意味になるんですか?」
「お前はまだ知らなくていい。」
「え?」
「それより次はお前だぞ椎名。」
椎名の冷や汗が凄いことになる。
「そ、その…皆さん、凄いしっかりしたことわざだったので自分のは…その…」
「まぁ、言ってみろ。」
「え、えっと…“ゲームは1日1時間”です。意味はゲームのし過ぎは止めましょうです。」
椎名が天井を見てから笑いする。自分だけふざけた感じになったのが恥ずかしいようだ。最後は両津だ。両津は自信があるのか胸を張って発表した。
「わしが創ったことわざは“大原部長の怒り”だ!」
両津のことわざに大原部長が吹く。
「どんな意味なんですか両津先輩?」
「真っ当に怒ること、過剰に怒ること、意味のないものの例え、怖いもの…」
「意味多すぎません?」
「両津〜!」
「これが大原部長の怒りです!」
両津がことわざを使って誂う。
「これを署で使ってみましょう!」
「これをですか!?」
「椎名ちゃんのは…ちょっとね。」
「分かってます麗子先輩!私のことわざはことわざじゃないことぐらい!」
恥ずかしくなって顔を覆う。試しにと中川と麗子が新葛飾署で創作ことわざを使ってみた。結構反響があり他の署員達も面白そうだと言ってことわざを考えてみた。しかし、そう簡単に出来るものじゃなかった。
「意外と難しいな。」
「どれも既存のことわざとほぼ同じだ…」
左近寺達がやってみたけど苦戦している。その横で両津が自分が創ったことわざを誰にでも使っていた。その汎用性の高さと両津が大原部長をいじったことがネタになり署内で流行っていった。それに大原部長はいい思いをしていない。
「まったく両津の奴。」
大原部長はあまり乗り気じゃない。それを知った両津がますます調子に乗った。大原部長の怒りに理不尽な様、余計なことなどを意味として付け加えた。
「これって大原部長の怒りですよね。」
「この前、大原部長の怒りを受けてさぁ。」
「バカヤロー!お前、大原部長の怒りか!?」
署内の至る所から大原部長の怒りが聞こえてくる。これには、さすがの大原部長を苛立ちを隠しきれていなかった。
「それは大原部長の怒りだよね。」
「バカモーン!それはもうことわざじゃない!」
「すみません!」
「あれが大原部長の怒りか。」
「間違いない。」
大原部長は両津を捜す。両津は時行やマリアと会話していた。
「それが結局大原部長の怒りになったんだよ。」
「両津!」
「部長!?」
「貴様、わしの怒りが意味ないだの理不尽だの散々言ってくれたな。」
「い、いいじゃないですか!分かりやすくて馴染みやすいですよ!」
「そうか。なら、わしも新しいことわざをいくつか考えたぞ。」
「え…」
大原部長が笑う。そして…
「猫に小判、豚に真珠と同じ意味として“両津に勉強”。すぐに忘れ同じ過ちを繰り返す意味として“両津の始末書百万を超える”。他にも調子に乗った結果全てを無駄にするという意味で“両津の金儲け”など…」
「すみません部長。もうここまでにしてもらえませんか?あの…」
「これが“石車に乗る”ですか。」
署員達に新しいことわざを教える大原部長。その隣で汗を掻き大原部長を止めようとする両津。それを見て覚えたことわざを使う時行であった。