時行、アメリカに行く
時行は唖然としていた。目の前にはHollywoodという巨大な文字が見えていた。そう。時行は今、アメリカにいた。
話の始まりは両津がまたアメリカへ研修に行くところからだ。両津は屯田署長の命令でアメリカに行く。その時に時行を誘ったのだ。
「す、凄い…」
もちろんアメリカなんて初めての時行は見る物全てに目を輝かせていた。両津はガイドの案内でロサンゼルス市警のところへ向かう。
「ここか。時行はここで待ってろ。」
「はい!」
両津は時行を玄関で待たせると警察署に入った。アメリカでのお世話役を捜していた。屯田署長からは行けば分かるとだけ言われていた。
「どうやったら分かるんだよ。ロサンゼルス市警なんて行ったことないぞ。」
両津が悪態をついていると1人のアメリカ人女性が両津を見つけた。その女性は迷うことなく両津に近づいて来る。
「久しぶり!」
突然後ろからハグされた両津はびっくりして振り向く。その女性を見た瞬間、両津は喜んだ。
「サンディか!久しぶりだな!」
彼女はサンディ。以前、両津がアメリカ研修に行った際に出会った女性警察官だ。サンディは両津の頬にキスする。
「驚いたわ!本当に会えたのね!」
「わしも驚いたぞ。まさか、ロサンゼルスでサンディに会うなんてな。」
「こっちには出張なの。そこで両さんがここに来ると分かってすぐに立候補したわ。」
「それはありがたい!」
両津も知っているサンディが居てくれた方が嬉しいのだ。2人は早速警察署を出る。そこで待っていた時行が両津のところに来た。
「え、え〜と…」
「わしらがアメリカにいる間、世話役をしてくれるサンディだ。こっちがわしが養子として育てている時行だ。」
両津がそれぞれに紹介する。
「そうなのね!両さんが子供なんて…でも、分かる気がする。前もあの子と仲良くしてくれたものね。」
「わしは子供は好きな方だぞ。」
「よ、よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくね!」
お互いに挨拶する。サンディは時行が初めてアメリカに来たことを両津から聞くと案内すると言ってハリウッドに向かった。今、ハリウッドでは映画祭が行われ多くの俳優女優有名人で賑わっていた。
「さすがハリウッド。映画の街だな。」
「今年は日本の映画もノミネートされているから日本人も多いわね。」
サンディが映画祭を案内する。すると、両津はマリリンを見つけた。すかさずマリリンのところに行く。
「マリリンじゃねぇか!」
「あら!?両さんじゃない!奇遇ね!」
「本当に奇遇ね!」
マリリンの隣にはジョディーもいた。
「なんだお前ら?マリリンは映画祭だろうけどジョディーもか?」
「ジョディーは私が誘ったのよ。丁度アメリカにいたみたいだし。」
「グランドキャニオンで婿選びするからその下見をしてたのよ。」
ジョディーがグランドキャニオンで撮影した写真を見せる。試しに爆竜の部隊がやってみた写真らしい。が、崖からのダイブや炎天下でのマラソンなど今までと同じぐらい過酷そうな写真だった。
「ボルボでもキツくないか?」
「ボビーなら大丈夫よ。」
「それより両さんはなんでハリウッドに?」
「研修だよ。紹介するよ。ここでの世話役を担った…」
「サンディよ!よろしくね!」
サンディがマリリンとジョディーと握手する。両津は時行も来ていることを伝えようと時行を捜すが居ない。どこに行ったと周りを見渡すと記者達に囲まれてあたふたしている時行がいた。
「時行!」
「あら?時行君もいるの?」
両津が慌てて時行を引き離す。代わりにマリリンが対応してくれた。
「た、助かりました…」
「なんでお前にあんなに記者が来るんだ?」
「分かりません。」
「多分、これでしょ。」
ジョディーがポスターを見せる。それはマリリンと時行が出演した『カンフーポリス 香港大爆発』のポスターだ。
「これにマリリンと時行君が出演しているからよ。すっかりハリウッド俳優ね。」
「それにこの美貌だから人気者になるのは当たり前ね。」
サンディが時行の頭を撫でる。その目はどこか悲しげだった。それが気になり両津が聞く。
「どうかしたのかサンディ?」
「…私の高校の時の友人の夢がハリウッド女優なの。2人でよく日本のアクション映画を見ていたわ。」
「それで日本語が上手いのか。」
サンディが両津達にその友人と一緒に撮った写真を見せる。サンディの隣にいる茶髪と褐色肌が特徴的な美少女だ。
「彼女の名前はウェンディ。父親がメキシコのハーフなのよ。そのせいで周りからは疎遠だったの。でも私はすぐに仲良くなれたわ。サンディとウェンディ、名前が似てるってところから始まったのよ。」
「いい話じゃねぇか。」
「彼女、凄く運動が得意で体操なんて学校一だったのよ。自分はアクション映画で主演女優賞を獲得するのが夢って言ってたわ。」
サンディがウェンディを説明していた時、歓声が上がった。なんだと見ると体格のいい男が複数のボディガード達に囲まれて歩いていた。
「誰だ?」
「アーバイン•F•ステイシュヴァル。今最もアメリカ大統領に近いと言われるニューヨーク州知事よ。」
「私も知っているわよ。」
サンディが教えてくれた。そこにマリリンも来る。
「元空軍大佐でアクション映画が大好きなナイスガイよ。」
「そのナイスガイのボディガードにしては多過ぎないか?」
「脅迫されてるのよ。」
サンディが話す。よく見るとボディガードだけではなくロサンゼルス警察署も警察官も周りを囲っていた。
「彼の政策はメキシコからの不法移民の完全排除と麻薬組織の撲滅よ。だから、麻薬を売買するマフィアから何度も命を狙われているの。まぁ、彼は実際何度も襲われてるけど全て返り討ちにしているのよね。」
「さすがだな。」
両津が感心しながらアーバインを見る。そのアーバインを睨む人影がいた。ビルの屋上にいた人影はゴルフバッグから取り出した部品を合わせる。すると、狙撃銃になった。人影がフードを脱ぐ。茶髪と褐色肌が特徴的な女性だった。
「目標、アーバイン。」
女性はスコープをアーバインの頭に合わせる。女性はネックレスに付いているロケットペンダントを握る。
(これで最後…)
時行は両津に肩車してもらいアーバインを見る。すると、一瞬、光が揺らめいだ。気になった時行が周りを見る。その時、ビルの上がキラリと光った。時行は直感した。これはヤバいと。
「両さん!」
時行がすぐに両津に話す。両津もビルを見ると薄っすらと人影が見えた。女性は既に引鉄に指をかけている。
「伏せろぉ!」
両津が叫ぶ。ボディガード達は日本語が分かってないため両津を警戒していた。そこにサンディが英語で伏せろと叫ぶ。その声に反応してボディガード達がアーバインに覆い被さる。銃声が響く。弾丸はボディガードの肩を貫通した。
「なっ!?」
女性は驚いていた。会場はパニックになる。女性はすぐに狙撃銃をゴルフバッグに入れると隣のビルへと大ジャンプして渡るとそこから逃げた。両津達は警察官と一緒に女性がいたビルへと突入する。時行も行くがビルには入れない。その時、後ろを歩く女性から何か臭った。
「この臭い…」
時行が振り返る。ゴルフバッグを担いだフードの女性だ。時行はその女性の後ろを追跡した。女性は誰も居ない地下駐車場に行く。停めてあった車のドアを開けてゴルフバッグを入れる。
「あの!」
その時、時行が声を掛けた。女性が驚き振り向く。手は懐に入っていた。
「子供!?」
驚いた女性が叫ぶ。しかし、英語のため時行は分かってない。女性は声を掛けたのが子供と分かると車に乗ろうとした。
「もしかして、さっきアーバインさんを襲ったのはあなたですか?」
女性はドキッとした。驚いた顔で時行を見る。
「その…あなたから両さんに教えてもらった硝煙?の臭いがしましたので。」
(こんな子供にバレた!?警察だって分かってないのに!?)
女性は再び手を懐に入れる。しかし、そこから動かない。すると、今度は時行の後ろに車が来た。そこから2人の男が出て来る。
「ウェンディ。しくじったな。」
「この代償はデカいぞ。」
「次は完遂させる。」
「ボスはカンカンだぞ。」
女性と男達が会話する。英語だから時行には分からない。男の1人が拳銃を取り出して時行に向けた。
「まずは邪魔な目撃者からだ。」
「待て!子供を殺す気か!?」
「こんなところを見てしまったこいつの運が悪かっただけだ。」
男が発砲した。真っ直ぐ飛ぶ弾丸を時行は避けた。それに驚く男達。
「アニキ!何外してるんすか!」
「俺はちゃんと狙ったぞ!」
アニキが何度も撃つ。しかし、時行は全ての弾丸を避けきった。弾丸が無くなり装填する。その間に女性が車に乗り時行に声を掛ける。
「乗れ!」
時行は理解は出来てないがドアを開けて叫んでいる女性の意図は汲み取れたため車に飛び乗る。アニキと呼んでいた弟分も撃つが女性は車を飛ばしてそこから逃げた。
「まったく…あんたのせいで酷い目にあった。」
「あ、ありがとうございます。」
「あんた、日本人か。」
「は、はい!」
突然の日本語に驚くも時行は答えた。
「その顔、確か中国の映画に出てたよね?」
「マリリンさんが主役の映画ですか?」
「マリリン?あぁ、麻里凛の愛称か。そうだぜ。」
「は、はい。出てました。北条時行です。」
時行が自己紹介する。女性の顔に見覚えがある。さっきサンディに見せてもらった写真に写っていた友人だ。
「いいねぇ。その歳でハリウッド俳優か。」
「あの…もしかしてあなたはサンディさんのお友達の…」
「ウェンディだぜ。あんた、サンディの知り合い?」
「私は今日初めてお会いしましたが両さんが知り合いみたいです。」
「そう…」
ウェンディが車を飛ばしながらラジオを点けた。
『臨時ニュースをお届けします。先程、ニューヨーク州知事のアーバイン•F•ステイシュヴァルがロサンゼルスのハリウッド映画祭で狙撃される事件が発生しました。犯人は依然として逃走中。アーバイン氏のボディガード1人が肩を撃たれて重症…』
「やっぱり殺れてなかったぜ。」
時行がウェンディを睨む。
「何故こんなことを?」
「話は後だぜ。ここまで来たら付き合ってもらうぜ北条時行。」
初めてのアメリカ。そこで北条時行は重大な暗殺事件の犯人ウェンディと一緒に奇妙な旅を始めるのであった。