両津達は狙撃場所と思われるビルの屋上にいた。既に誰も居ないが警察犬が硝煙の臭いを嗅ぎ付けた。
「ここが狙撃場所なのは間違いないようね。」
「でもどこに?出入口は警察官で固めてるし部屋を捜している警察官からは連絡なんて…」
「飛び越えたんだろ。」
両津が隣のビルを見る。他の警察官がまさかと思う中、両津は走りジャンプしてビルを飛び越えた。それを見た警察官達はおぉ!と拍手する。
「なるほど。犯人はそうやって逃げて別のビルから堂々と出たってところかしら?」
「だいたい4mちょっと。走り幅跳びが得意な人なら簡単にいける距離ね。」
サンディがすぐに付近を捜すように指示する。両津はビルから出てマリリン達のところに向かう。
「どうだった?」
「既に逃げられている。時行は?」
「両さんの後を追いかけたっきり見てないわ。」
「私も。」
両津が時行を捜す。しかし、見つからない。
「時行が居ない!?」
「なんですって!」
両津が時行のスマホにかけるも繋がらない。
「チクショー!」
「パパに頼んで捜してもらうわ!」
「頼む!」
ジョディーがすぐに爆竜に電話する。
「私も映画祭に居ないかどうかアナウンスしてもらうわ!」
マリリンも去って行く。両津は繋がらないスマホを見て時行を心配するのだった。その時行は…
「なんですかこれ?」
「お前、女装が似合うぜ。」
「嬉しくありません。」
何故かウェンディに女装させられていた。髪を伸ばし女の子っぽい服を着せる。ウェンディは黒髪ロングのカツラを被る。
「とりあえず変装はこんなもんでいいか。」
「それでどこに行くのですか?」
「ニューヨークだぜ。」
「ニューヨーク?」
「お前、アメリカに行ったことないか?」
「はい。」
ウェンディが地図を広げる。
「私達がいたロサンゼルスはここ。今から行くニューヨークはここだぜ。」
「は、端から端…」
「そうだぜ。ぶっ通しで行けば2日で行けるが休憩とか入れると3日以上はかかるぜ。」
ウェンディが車を走らせる。
「そもそも何故ニューヨークに?」
「アーバインの暗殺をするためだぜ。」
時行は目を丸くさせた。ウェンディはまだアーバインの暗殺を諦めていなかった。
「何故です!?」
「仕事だからだぜ。」
ウェンディはガソリンスタンドを見つけるとそこで給油を開始した。時行は今なら逃げれるがここがどこなのか分からない上に今いる場所がガソリンスタンド以外何も無い荒野のため今逃げても野垂れ死にするだけだ。そう判断し車に残る。
「待たせたな。」
「いえ。」
「キャンディいるか?」
時行はウェンディから受け取ったキャンディを舐める。
「これ、変な味しますね。」
「オニオングレープ味らしいぜ。」
「なんですかそれ?」
「私も知らん。」
2人は何も無い長い道を走る。周りには岩か砂しかない。
「この先に街がある。そこで物資を調達しようぜ。」
車が街に到着する。まだ、自分を捜している警察官はいないと判断し買い物をする。食べ物や飲み物、生活必需品を買って車に戻った。
「さぁ、行くぜ。」
「その前に教えていただけませんか?」
「何をだ?」
「何故こんなことをするのですか?」
「それはそれは私がアーバインを暗殺すること?それとも今やってる仕事そのもの?」
「後者です。」
時行に言われてウェンディは話し始める。
「私はメキシコ人の父とアメリカ人の母の間に産まれた。最初は幸せだったが高校を出た後に父が不法移民だと発覚して逮捕された。そのまま収監所で看守に殴られ死亡。アーバインが不法移民に対する過剰な弾圧を行った結果だぜ。」
「だからアーバインさんを恨んでいると?」
「いや。確かにそのせいで合格していた大学から入学拒否され母は麻薬でおかしくなって自殺。私も差別されるようになったが恨んでいたわけじゃないぜ。実際に不法移民による事件や問題は起きているしアーバインもメキシコからの入国審査の緩和などちゃんと移民に対する措置はとっていたぜ。」
ウェンディがロケットペンダントを開ける。そこには両親に抱きかかえられている幼いウェンディがいた。それを時行に見せる。
「この時は幸せだったんだぜ。でも…今はたまに何やってるんだろうって思う時があるんだぜ。アクション女優になるために頑張って体操したのにそれを買ってくれたのがマッサッカーファミリーだったなんて。」
「マッサッカーファミリー?」
「メキシコから麻薬を密輸して捌くマフィアだぜ。行き場の無い私に狙撃を教え暗殺の世界に歩ませた組織だぜ。」
ウェンディは上を向く。
「話は終わりだぜ。次の街に行くぜ。」
そう言ってウェンディは車を走らせた。時行はウェンディの顔を見る。失敗したはずなのに悔しかっている感じはしない。それどころか安心しているようにも見える。
「あの…」
「なんだ?」
「もしかして、今まで誰一人殺したことありませんよね?」
「なんで分かったんだぜ?」
ウェンディが驚く。
「私は今まで人を殺してきた人を多く見てきました。その皆さんの…なんと言いますか…狂気?みたいな雰囲気を感じることがあります。けど、ウェンディさんからはそんな感じがしません。」
「どんな小学生なんだぜ。」
ウェンディは恐怖していた。
「あんたの言う通りだぜ。技術はあるが覚悟が足りなかった。だから、今までは肩や耳、足などを狙ってきた。それだけでも充分脅しにはなったがボスのオンドゥルがとうとうキレてしまったんだせ。だから、この仕事を最初で最後の殺しにするつもりだったんだせ。1人も殺したことない暗殺者、笑えるだろ?」
「いえ。」
時行が首を横に振る。
「あなたは綺麗な人です。命を奪うことの重みをしっかり認識していてそれを理性で止めることが出来る。あなたは素晴らしい人ですよ。」
時行の微笑みに一瞬惚れそうになる。ウェンディは咳払いして前を見た。
「ジョークはよせって言いたいんだがあんた、ジョークとか苦手な気がするぜ。」
「ジョーク?」
「そもそも知らなかったのぜ。」
車を走らせていると街が見えてきた。次の街に行く頃にはもう夜中になるため2人はここで1晩泊まることにした。
「マッサッカーファミリー?」
一方、警察署では両津達もサンディ達が調べた情報から推察していた。
「メキシコから麻薬を密輸してアメリカ中に売り捌くマフィアよ、ボスの名前はオンドゥル•マッサッカー。表向きは投資家の実業家。なかなか尻尾を出さないから警察も手を焼いていたのよ。」
「そいつらが刺客を雇いアーバインを襲ったと?」
「ええ。オンドゥルにとってアーバインは目の上のたんこぶだからね。」
サンディがオンドゥルの写真を出す。見るからに胡散臭いおっさんだ。
「オンドゥルはメキシコから不法移民を使って麻薬を密輸していたの。でも、これと言った証拠が無くオンドゥルを逮捕することが出来ないのよ。」
「それで…」
両津が何か聞こうとした時、後ろでアーバインと撃たれたボディガードの会話が聞こえた。
「大丈夫か?」
「問題無いです。これでくたばるようならあなたの隣に立ってませんよ。」
「それでこそだ。俺と共にシリアを駆け抜けたお前達がこれぐらいでくたばっては困る。」
「ボディガードは大丈夫のようだな。」
「そうみたいね。」
両津達が安心する。
「それで狙撃手に心当たりは?」
「今は捜査中よ。マッサッカーファミリーには凄腕のスナイパーがいるみたいなのよ。」
「そいつが実行犯で間違いないんだな?」
「ええ。」
両津達が捜査しているとアーバイン達の動きが慌ただしくなった。
「なんだ?」
「今からニューヨークに帰るみたいよ。」
「おい。その暗殺者も…」
「ニューヨークに行く可能性が高いわ。」
「よし!わしらも今すぐ行くぞ!」
両津達が警察署を出るとジョディーとマリリンが待っていた。
「ニューヨークに行くならパパの部隊に乗って行くといいわ!」
「私も同行するわ!あの事件のせいで映画祭が中止になっちゃったからそのお礼にいかないと。」
「サンディ!」
「分かってるわ!私もマックスに連絡して応援要請するわ!」
両津達もニューヨークへと向かう。それを時行とウェンディを撃った2人組が見ている。アニキがボスに電話する。
「ボス。アーバインがニューヨークに帰るみたいです。」
『よし。お前らもニューヨークに迎え。それと…ウェンディを見つけ次第殺せ。最後まで中途半端な人形は要らん。殺り方はお前らに任せる。」』
「了解しました。」
2人組もお互いに顔を合わせて頷くとすぐに車でニューヨークに行った。時行とウェンディ、両津とサンディ達、アーバイン達、怪しい2人組、それぞれの思惑が交差する中、舞台はロサンゼルスからニューヨークへと移っていった。