両津達がニューヨークに到着してから2時間後
「何!?演説をするだと!?暗殺されかけたばっかりだろ!?」
「暗殺されかけた直後だからこそ演説をするんだ。そこでテロには屈しないという強い意思を見せないと誰もついで来ない。」
「逃げるという手ぐらい考えろよ。」
マックスからアーバインの演説を聞いた両津は呆れていた。時間は明日の15時。ニューヨークの広場にて行うとのことだ。もちろん、厳重に警備しアーバインが狙えるビルは全て封鎖される。
そして、演説当日。時間通りにアーバインが広場に来る。その正面から見えるビルにウェンディがいた。警察官達を次々と気絶させ屋上に着く。後ろにはベックがいる。
「ボス。本当にウェンディにチャンスをやるんですか?」
「ウェンディは実際アーバインを恨んでいる。この暗殺は恨んでいるウェンディの単独犯に見せなければならない。そこであいつがアーバインの暗殺に成功したら自殺に見せかけて殺せ。」
「了解。ボス。」
ベックはここに来る直前にオンドゥルからの命令を思い出す。ウェンディはロケットペンダントを握り外した。
一方、時行はギッタンとジョシュをジーと見ていた。2人は酒を飲みながら時行を監視している。
「早く終わらねえか?」
「楽ですねアニキ。」
「それにしてもあの美貌を持つ日本人の男の子ってなかなか見ないな。」
「女の子と言われても納得しますね。」
2人は時行を見て談笑する。時行は手に何かを持っていた。それはウェンディが近付いた時に置いていった金属片だった。それを持ってロープを切ろうとする。2人が何をしているのか気になって見ている。それを誤魔化すために話しかけた。
「あの…厠に行きたいのですが…」
2人は日本語が分からないので首を傾げる。時行は顔を赤らめ体をもじもじさせる。
「アニキ、もしかしてトイレに行きたいとかじゃ。」
「あ〜。ジョシュ、連れてやれ。」
「はい!」
ジョシュが時行を監禁部屋にあるトイレに連れて行く。ギッタンは再び酒を飲む。その時、ロープを切った時行がジョシュを蹴り飛ばし出て来た。それに驚きギッタンが拳銃を撃つも時行は避けた。
「なんだこいつ!?どうやってロープを解いた!?」
時行の動きを捉えることが出来ない。一瞬、時行を見失う。その瞬間、時行がギッタンの前で猫騙しをした。ギッタンは驚き後ろにこける。その隙に地下室から脱出する。
「ここは…」
時行はとにかく階段を駆け上がる。ギッタンがジョシュを叩き起こす。
「何してんだマヌケ!」
「ごめんよアニキ!」
ギッタンとジョシュが時行を追いかける。時行は地上へと出ることが出来たがまだ建物内だ。すると、サンディの声が聞こえた。怒鳴っているようだ。その声を頼りに走る。
「何度も言わせないで!この通り捜査令状が出ているのよ!」
「証拠がねぇだろ!俺達が暗殺に関わった証拠を出してから言え!」
サンディがいるのはオンドゥルのビルだった。彼女の後ろにはジョディーとマリリンもいる。サンディが何度もビルに入ろうとするもマフィアがそれを妨害する。
「俺達が犯罪をした証拠を今すぐ出せ!」
「サンディさん!」
そこにサンディを見つけた時行が来た。後ろには拳銃を持ったギッタンとジョシュもいる。サンディはこれだとニヤリと笑った。
「あら?彼は私の友人よ。何故ここにいるのかしら?」
「え、えっと…」
言い訳すら出来なくなったマフィアが拳銃を取り出すと同時にサンディがマフィアを取り押さえた。ギッタンとジョシュが拳銃を向けるもジョディーが撃ち落とした。
「映画祭を台無しにした報い…受けてもらうわよ!」
そこにヌンチャクを持ったマリリンが飛び出しギッタンとジョシュを一瞬で倒した。警官隊がビルへと突入する。時行はすぐにサンディのところに向かう。
「大丈夫!?」
「はい!それよりアーバインさんは?」
「演説よ。そろそろ始まるわね。」
「今すぐ連れて行ってください!」
時行がお願いする。サンディが迷うもここは任せてとジョディーが親指を立てる。サンディは時行をバイクの後ろに乗せてアーバインの演説会場へと爆走した。
広場ではアーバインの演説が始まった。それをテレビでオンドゥルが見ていた。
「最初の10分ぐらいは喋らせてやれ。民衆の視線が一番集まった瞬間に撃ち殺せ。それで我らの力をアメリカ中に知らせることが出来る。」
「了解。」
オンドゥルがベックに電話して指示を出す。ベックが返事すると双眼鏡でアーバインを見た。誰もこちらには気付いていない。ベックはチラッとウェンディを見る。狙撃銃を構えていつでも撃てる状態だ。
サンディが飛ばしたおかげで広場が見えた。警官隊と一緒に警備していた両津が2人に気付く。
「サンディ!…時行!お前、どこに行っていた!?」
「それよりウェンディさんは!?」
「ここにはいないが…まさか、この辺りにいるのか!?」
両津が見回すもウェンディの姿は無い。どうすれば、暗殺を止められるか分からない。すると、時行はアーバインのところに走り出した。両津達が追いかける。
「私は今まで幾度もテロや暗殺の脅威にさらされてきた!それでも私はここに立っている!それはテロリストに屈しないアメリカそのものだ!…」
「今ならまだ間に合う。」
時行はボディガード達の間を掻い潜る。ウェンディのスコープがアーバインの頭を捉える。
「そろそろだ。しっかり狙えよ。今度は脅しじゃねぇ。殺しだ。」
「はい。」
ウェンディが引鉄に指を掛ける。その時、時行がアーバインの前に着地した。突然のことにボディガード達がアーバインを囲む。それを見ていたベックが驚いた。
「なんであのガキが!?ギッタンは何をしてたんだ!?」
テレビで見ていたオンドゥルも驚いている。しかし、ウェンディは違っていた。時行を見て嬉しそうな顔をしている。スコープで覗く時行はボディガード達から逃げている。
「邪魔が入った!アーバインは…まだ狙える位置だ。」
ベックが笑う。すると、ウェンディが引鉄を引いた。放たれた弾丸はステージに着弾する。それを見たボディガード達はすぐにアーバインは安全な車へと連れて行く。
「バカ野郎!アーバインが逃げたじゃねぇか!」
ベックが怒鳴るもウェンディは無視していた。時行はウェンディに気付くとこちらを向いて両手を広げた。何か喋っている。ウェンディには聞こえていないが泣いていた。
「ありがとう…」
ウェンディは狙撃銃にレーザーサイトを取り付ける。レーザーサイトのポイントが時行の額に移動する。パニックになる会場。両津達も時行のところへ行くがレーザーサイトを見て躊躇してしまう。そんな状態でも時行は冷静だった。ウェンディが再び引鉄を引く。これが開戦の合図となった。
「行くぜ。北条時行。」
「あなたを助けます。あなたが鬼になる前に。」
︽
手 | 冷
撃
狙 | 鬼
こ っ ご
︾
時行は紙一重で弾丸を避ける。レーザーサイトが時行を追う。時行はまた弾丸を避ける。両津達はその動きで時行の狙いを予想した。
「ここから時行を狙えるビルは…」
両津は角度や距離から狙撃場所を逆算する。そして、ウェンディがいると思われるビルを見つけた。
「あそこが一番怪しい。けどあそこから時行までざっと見ても800ヤードはあるだろ。」
「ウェンディなら…」
サンディが走り出す。両津も時行を心配するも信じサンディの後を追った。アーバインは車から時行を見ている。狙われてあるのに楽しそうに逃げる時行に惹かれていた。
「素晴らしい。私もあんな風になりたい者だ。」
時行はステージからは出ない。狙いを自分にだけ向けるつもりだ。ベックがイライラする。
「何しているウェンディ!そんなガキよりアーバインだ!」
もうベックの声は届いてない。そこにオンドゥルから電話がくる。
『どういうことだ?』
「すみませんボス!ギッタンの奴がしくじったようでして…」
『もういい。さっさとウェンディを始末してずらかれ。』
「了解!」
ベックが拳銃を取り出す。ウェンディに向けた瞬間、ウェンディは装填しながら転び近距離でベックの拳銃を撃ち落とした。そのまま狙撃銃で殴り飛ばす。ウェンディは再び狙撃銃を構えて時行を狙う。そのビルに両津とサンディが到着した。
「ここだ!」
「ウェンディ!」
両津達が走る。そこにジョディーから電話がきた。
『両さん!こっちにオンドゥルはいなかったわ!』
「何!?」
『多分、もう1つのビルよ。』
「そっちにはマックスが行ってるわ!」
「よし!わしらはここだ!」
両津達がビルに突入する。そこには気絶している警官隊がいた。
「ビンゴ。ここにいるぞ。」
2人は急いで屋上に向かう。時行はウェンディの狙撃から避けている。いつ終わるか分からない。そんな極限状態を時行は楽しんでいた。お互い何も喋らない。それでも互いのことが分かってあるかのようにウェンディの狙撃を時行は避けていた。
ウェンディが狙撃に集中している。そこにベックが起き上がった。拳銃を拾い再びウェンディを狙う。そこに両津とサンディが来た。ベックがすぐに拳銃を向けるも両津が大外刈りでベックを仕留めた。
「ウェンディ!」
サンディの呼ぶ声に反応する。ウェンディは狙撃を止め振り向く。
「やっぱりあなただったのね。」
「ごめんねサンディ。あなたは立派な警察官になる夢を叶えれたのに私は…」
「まだだ。まだ立ち上がれる。」
ベックを逮捕した両津がウェンディに語りかける。
「人生は何があるか分からん。躓くことだってある。それは恥ずかしいことじゃない。立ち上がらないことが恥ずかしいんだ。」
「今度は私もいる!次は2人で夢に向かって歩こう!」
両津とサンディの言葉にウェンディは狙撃銃を落とす。そのまま崩れ落ちた。
「やっと…終わった…長かったぜ。」
「お前は時行を信じていたんだな。だから、わざと外さなかった。」
「買い被り過ぎだぜ。ただ、私には狙撃の腕がなかっただけ。ただそれだけだぜ。」
事件はこうして終息した…かに思えたがアーバインの暗殺失敗をテレビで見ていたオンドゥルはすぐに逃げるために屋上に来ていた。ヘリが待っていた。そこに爆竜のヘリが来てヘリを撃ち破壊した。
「何!?」
「CHPだ!」
そこにマックスが来る。オンドゥルが拳銃を取り出すもマックスがオンドゥルを殴り飛ばし捕まえた。後から来た警官隊もオンドゥルの部下達を捕まえる。
こうして、本当に事件は終息した。事情聴取などで数日間ニューヨークにいることになった時行達。その間も時行はウェンディのことを考えていた。
そして、帰国当日。両津と時行のところにジョディーやマリリン、マックス達が来た。時行は事情聴取の間仲良くなったジョンと会話している。
「また、会おう。時行。」
「はい!」
もうすぐで時行達が乗る飛行機の搭乗時間になる。時行は周りをキョロキョロ見回していた。すると、サンディがやってきた。隣にはウェンディもいる。彼女は手錠をかけられているが付き添いの警官はサンディだけだった。
「ウェンディさん!」
「サンディ!来ないかと思ってたよ!」
「ちょっと彼女を連れて行くのに手間取っちゃって。」
ウェンディがニコニコしながら手を振る。
「大丈夫なのか?お前、確か…」
「ええ。マフィアに加担して多くの罪を犯してきたけど…司法取引で減刑してもらったぜ。」
「司法取引?」
「事件に重要な情報を教える代わりに罪を軽くしてもらう制度のことよ。」
サンディが教えてくれた。
「そのおかげで懲役150年が1年になったから。」
「減り過ぎだろ。」
「そのおかげでオンドゥルがメキシコ人を密入国させ麻薬の運び屋をさせてたり数々の暗殺に関わっていたことが判明したのよ。これでオンドゥルは二度と刑務所から出ることはないわ。」
サンディが時行にウェンディから話したいことがあると言って両津達と一緒に2人から離れた。ウェンディは時行と同じ目線まで屈む。
「あの時は怖い思いをさせて済まなかったんだせ。」
「いえ。私もあなたとの鬼ごっこが楽しかったので。」
時行が笑う。すると、ウェンディが時行の顔に近付いた。何か囁こうとしているのか?そう思った次の瞬間、ウェンディが時行の唇にキスをした。みんな顔を赤くさせる。サンディがジョンの、マリリンが両津の目を塞ぐも両津はすぐに状況を理解しニヤニヤしていた。
(な、なにを…!?)
突然のキスに時行は動揺している。顔中真っ赤にさせ全身が硬直する。長いキスの後、ウェンディはクスリと笑った。
「初めてのキスだったぜ。」
「え!?」
「それと…約束守ってくれてありがとうな。今度、日本語教えてくれ。」
キスも終わり搭乗ゲートに向かう時行と両津。後ろを振り返るとみんな手を振っていた。
「また来てね!」
「今度こそうちで盛大にパーティーしよう!」
「私は決めた!また、君みたいなアクション映画女優を目指す!」
飛行機に乗りアメリカを飛び立つ。
「そう言えば、さっきウェンディが約束って言ってたが何か約束していたのか?」
「さぁ。なんでしょうね。」
「時行が惚けた。」
両津が驚く。時行はだんだん遠くなっていくアメリカを見ながらあの時の言葉を思い出していた。
「助けに…来て。」