逃げ上手の転生記 〜亀有の破天荒警官と〜   作:虹武者

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いつものハチャメチャ日常
700年越しの誕生日


 ある日、派出所に中川が来ると両津が悩んでいた。

 

「どうしたんですか先輩?」

「中川か。時行のことでな。」

「時行君ですか?」

 

 中川が聞いていると麗子と椎名もやってきた。

 

「どうしたの両ちゃん。」

「時行の誕生日プレゼントを考えていたんだ。」

「時行様の?」

 

 みんなで時行の誕生日プレゼントを考える。その前に時行の誕生日がいつか知らなかった。

 

「時行様の誕生日っていつでしたっけ?」

「時行に聞いてみたが本人も知らなかった。」

「そんなことあるんですか?」

「あり得なくはないですね。」

 

 椎名は首を傾げるも中川と麗子は納得していた。南北朝時代。毎日が生死を掛けた時代に誕生日なんて祝う風習はなかった。そのため、誕生日が不明な武将もいた。時行もその1人である。

 

「わしなりに調べてみたんだが…どうやら12月22日が誕生日らしい。」

「そうなんですね…って3日後じゃないですか!?」

「そうだ。だから悩んでるんだ。時行が喜ぶ誕生日プレゼントをどうしようか?」

 

 みんな悩む。時行は南北朝の人間。元から物欲がそんなに無い。そもそも物を欲しがる状況じゃない時代に生きてきた時行にはプレゼントなんて考えたことはなかった。

 

「僕らもそれぞれ時行君へのプレゼントを考えることにしましょう。」

「分かりました!」

 

 中川達が時行の誕生日パーティーのために準備を始める。大原部長にもそのことを伝える。

 

「両津が…あいつも父親らしくなったんだなぁ。」

「両ちゃん。檸檬ちゃんの時も盛大に誕生日を祝ってるもの。そういうの好きよね。」

「先輩は子供や祭り事が好きですから。」

 

 大原部長が泣いている。もちろん、大原部長も時行の誕生日パーティーに参加する。そのことを聞いた弧太郎達がやってくる。

 

「俺達も時行の誕生日プレゼント決めるっすよ!」

「うん!」

「そう言えば、時行君の好きな物、欲しい物があまり浮かびませんね。」

「美味しいご飯。」

「あり得る!」

 

 みんなで考える。そんなこと知らない時行が両津のところに来た。

 

「両さん。今、何をしているのですか?」

「すまん時行。今、1人で考えている。」

 

 時行は仕方なく中川のところへ行くも同じ回答をされた。超神田寿司に帰る。そこには檸檬と纏が何か考え事をしていた。後ろから声をかけてみる。

 

「あの…」

「うおっ!時行か…」

「何をしているのですか?」

 

 時行が聞くと2人とも目を反らした。時行が訝しむ。

 

「何か隠してます?」

「な、何も…」

「ま、纏と一緒にカンキチのところに行く約束をしていただけじゃ。」

 

 時行がジーと見る。そこに夏春都が2人を呼ぶため2人は慌てて去って行った。

 

「まったく。時行のためとはいえここまで隠す必要があるのかね。」

「あの真っ直ぐな目を見ると罪悪感が…」

「すまぬ時行。」

 

 2人は時行へのプレゼントを考えていた。お世話になったお礼として考えるも良い物が浮かばない。一方の両津も早矢に相談していた。

 

「どうだ早矢?」

「時行君は和風な物が好きと聞いたのでやはり和風な物でしょうか?」

「やっぱりそうか…でも、なかなか浮かばない。時行が喜ぶ物なんて…」

「両津さんなら良い物が浮かぶと思いますわ。時行君と一番長く居ますもの。」

 

 早矢にお礼を言って去る。今度はマリアに相談してみる。

 

「時行君は活発なので動きやすい服や丈夫な靴などはいかがでしょう両様!」

「さすがマリア。参考になる。」

 

 両津はメモする。マリアが時行の誕生日に参加したいと言うので2つ返事でOKした。次に両津は残念の部屋に行って南北朝を勉強する。

 

「珍しいですね勉強なんて。」

「ちょっと気になったことがあるんだよ。…残念、もしお前が武士だったら何が欲しい?」

「何ですかその質問?そうですねぇ…食料とかでしょうか?長持ちする食料が欲しいですね。」

「食べ物かぁ…」

 

 次は本田達だ。

 

「時行君の好きな物ですか…」

「なかなか思い付きませんね。」

「彼が何かを欲しがるところを見たことないですね。」

「難しいかぁ…」

 

 本田や乙姫、風波と一緒に考えている。それを後ろで聞いていた小町と奈緒子が驚いていた。時行のことで真剣になっている両津の姿が珍しいのだ。

 

「あの原始人が…」

「珍しい。」

 

 両津は左近寺とボルボにも聞いてみる。

 

「俺だったらバーベルとプロテインだな。」

「俺は最新のスコープかこのアサルトライフルだな。」

「お前らの好みはいいんだよ。」

 

 両津が呆れる。

 

「もう時行本人に聞いてみたらどうだ?」

「前に聞いた。特にありませんだ。時行は基本、物を欲しがらないからな。」

「ミニマリストって奴か。今時の子供にしては珍しいよな。」

(今時じゃないからな。)

 

 両津は雑と根我手部にも聞いてみた。

 

「やっぱり知識が必要ですから勉強や雑学に関する本がいいんじゃないかな?」

「彼は生き残ることが好きなので防災グッズや災害時の非常用食料などがいいかと。」

「残念と同じこと言ってる。」

 

 残念と根我手部の意見が一致したことに驚く両津。署員以外にも聞いてみようと勘兵衛のところに行く。そこには何故か風祭もいた。

 

「なんでお前がここにいる?」

「対ひったくり用防犯装置のモニターに呼んだ。」

「いくらで?」

「100万だ。」

 

 両津はやっぱりと思った。2人に時行の誕生日プレゼントに何がいいか聞いてみる。

 

「あいつは鬼ごっこしている時が一番イキイキしているから鬼ごっこ出来る何かだろ。」

「じゃあ、このいつでもいつまでも追いかける捕獲ドローンなんてどうじゃ?」

「却下。」

 

 両津は次のところへ向かう。

 

「北条君への誕生日プレゼント?」

 

 次は電極一家だ。スパークとプラスがいたので2人に聞いてみる。

 

「普通の子供なら玩具が一番無難なんですが彼が玩具で遊ぶところを見たことないですね。」

「確かに…時行が持ってる玩具なんてわしのプラモデルか円川からもらったザムシャーの怪獣ソフビぐらいだぞ。」

「なら、我が社で開発した子供用運動能力向上ギプスなんてどうだ?これを着ければ北条君の身体能力は格段に向上するぞ。」

「既に僕でテスト済みなので問題ありませんよ。」

「心配しかねぇぞ。」

 

 両津は次へと向かう。

 

「この忍者グッズなんてどうだ?」

「いらん。」

 

 次へと向かう。

 

「この全自動子供ビール製造機なんてどうだい両津君?」

「いらん。」

 

 次へと向かう。

 

「ならば翻堕羅拳法師範補佐の称号を…」

「必要ない。」

 

 次へと向かう。

 

「あの綺麗な貧乏人に誕生日プレゼントか!いいだろう!この…」

「次。」

「最後まで聞け!」

 

 次に向かう。

 

「この真っ裸刑事全特殊刑事バージョン…」

「絶対いらん!」

 

 両津は苦戦していた。いざ、時行のプレゼントを考えると何がいいか分からなくなってくる。一方の大原部長達も苦戦していた。屯田署長にも聞いてみる。

 

「時行君のプレゼントか…孫にはアラシのサイン付きCDをプレゼントしたが…」

「時行君には好きなアイドルやアーティストなんていませんね。」

 

 2人は悩んでいた。

 

「本人に聞いてみるかね?」

「両津が聞いたそうですが特にありませんだったと。」

「う〜む…今時の子供ならなんとか分かるが…」

 

 派出所では中川達も悩んでいた。一応欲しがりそうな物はいくつかピックアップしたがそれではなんか足りない。時行が今一番欲しい物はなんだろうか?

 

「両ちゃんならお金よね。」

「みんなで鬼ごっこ!」

「美味しいお米1年分。」

 

 両津が派出所に向かう。いいのが思い浮かばない。

 

「時行の人生を振り返ってみるか。」

 

 両津は残念から教えてもらった南北朝の時代背景を考える。鎌倉を足利尊氏に滅ぼされ何度も鎌倉奪還を試みた。その中で多くの仲間を失ったりと波乱万丈な人生を送っている。そんな時行が今一番欲しいもの…

 

「あれ?」

 

 そこで両津は気が付いた。時行は今まで一番欲しいものを幾度も言っていた。既に答えはあった。その答えに辿り着いた両津はこれしかないと確信した。急いで派出所に戻る。そこには中川がいた。

 

「中川!」

「先輩!」

「決まったぞ!車を出せ!」

「ええ!?」

 

 両津は中川を連れてどこかへと行ってしまった。

 そして、時行の誕生日当日。両津達や弧太郎達、纏やマリアに早矢達が時行の誕生日を祝っている。時行は初めての誕生日に感激していた。

 

「ありがとうございます。」

「いいって!そんなに畏まる必要はない!」

「そうですよ。今日は殿様になった気分でいてください。」

 

 みんなで誕生日パーティーを楽しむ。しかし、大原部長が気になったことがあると両津に聞いた。

 

「両津。時行君の誕生日パーティーを何故キャンピングカーでやるんだ?」

 

 そう。今いるのは高速道路を走るトレーラーぐらいの巨大なキャンピングカーの中だ。

 

「いいじゃないですか部長!こういうのは派手にやるのが一番です!」

「カンキチらしいと言えばらしいな。」

「しかし、窓がないとどこを走っているのか全然分からんな。」

 

 直接参加出来なかったボルボ達もズームで参加している。そのボルボが窓がないことを指摘した。麗子達も気になっている。

 

「圭ちゃん。これ、窓があった場所よね?何故塞いでいるの?」

「それは着いてからのお楽しみですよ。」

 

 麗子が窓枠を見つける。これ以上指摘されるのはまずいと両津が遮る。

 

「では!ここで時行にプレゼントを渡したいと思います!」

 

 無理矢理進行する。弧太郎達が乗ったので麗子も気にはなるが進行の乗ることにする。まずは弧太郎達からだ。玩具や今流行りのご飯のお供だったりと自分で考えたプレゼントを時行に渡した。

 

「ありがとうございます!」

 

 時行は嬉しそうだ。次はマリア達だ。マリアからは動きやすいインナーや新しいシューズ、早矢からは時行に合わせた特注の弓矢、纏と檸檬からは好きだと言っていた鎌倉で採れた鯛の寿司をもらった。

 

「どうだ?」

「嬉しいです!」

 

 モニターからはボルボが軽くて丈夫な防弾チョッキ、左近寺からはすぐ疲労回復に役立つというプロテイン、残念と雑からは様々な本、本田達からは冬にピッタリのマフラーや手袋、根我手部からは防災グッズがプレゼントされた。

 

「今までこんな祝いをしてもらったことないので嬉しいです。」

「時行の家がどんなのか気になる。」

 

 他にも最新のゲームや高級食材、忍者グッズ、ドローン、ポルシェのミニカーなどがプレゼントとして用意されていた。両津が喜ぶ時行を見ていると中川が両津に耳打ちした。

 

「あと15分で到着です。」

「分かった。」

「次は…両ちゃんと圭ちゃんね!」

 

 麗子が声を掛ける。

 

「いや!わしと中川は最後のオオトリだ!次は部長達ですよ!」

「そうか。」

 

 大原部長は屯田署長と一緒に選んだ選りすぐりの演歌を纏めたCDだ。両津が大丈夫かと思っているが時行は嬉しそうなので何も言わない。椎名からは腕時計がプレゼントされた。

 

「時行様が欲しい物が分からず結局これになってしまいました。」

「ありがとうございます!嬉しいです!」

 

 時行に喜んでもらいホッとする椎名。麗子は時行に新しい髪留めをプレゼントした。北条家の家紋である三つ鱗が着いた特注の髪留めだ。

 

「どうかしら?」

「似合うっすよ時行!」

「可愛いですよ時行様!」

 

 時行が照れている。すると、キャンピングカーがどこかに到着したようだ。両津が先導して降りる。

 

「ここは…」

「神奈川県鎌倉市鎌倉市役所でございます!」

 

 両津が手を向けた先には手押し車があった。

 

「僕からはこの鎌倉を一周する観光をプレゼントします。」

「おぉ!」

 

 中川のプレゼントに大原部長達が唸る。時行もキラキラさせている。

 

「そして、わしからのプレゼントは…」

 

 両津は時行を市役所内へ案内する。みんな、その後ろを着いて行く。ある部屋に入ると現鎌倉市長が待っていた。

 

「初めまして。」

「は、初めまして!」

 

 時行が市長と握手する。

 

「両さん。これは?」

「実は昨日両津さんと話し合いまして時行君を1日鎌倉市長に任命したいと思います。」

 

 その言葉に時行が止まる。

 

「市長?」

「市長というのは市の中で一番偉い人。トップということだ。」

 

 両津が説明する。

 

「つまり、今日だけだが時行は鎌倉のトップ…将軍になれるということだ。」

 

 両津がカーテンを開けて鎌倉の街を時行に見せる。

 

「わしからは…鎌倉をプレゼントする!」

 

 両津のプレゼントに一同驚愕する。

 

「ス、スケールが違う…」

「考えもしなかった…」

「確かに時行君は鎌倉出身だったな。」

 

 両津からのプレゼントに時行は涙する。今まで何度も鎌倉奪還を考えていた。故郷を取り戻そうと必死だった。最後まで叶わぬ夢だった。それが1日だけでも叶ったのだ。

 

「圭ちゃん、知ってたの?」

「昨日知りました。」

 

 中川も最初は驚いていたみたいだ。時行は嬉し過ぎて泣いている。

 

「あ、ありがとうございます。」

「いいってことよ。」

 

 時行が1日鎌倉市長になった。両津が押す手押し車に乗り鎌倉を観光する。初めて来た時は必死でよく見てなかった鎌倉を改めて見る。

 

「綺麗…」

「だろ!日本は何度もピンチに陥ったがそれでもこんなに成長している!それは時行達が必死に頑張ってきた証でもある!だから、楽しめ!今生きていることを一番喜ぶ日、それが誕生日だ!」

「はい!」

 

 時行が乗る手押し車を中川達が後ろから見ている。時行は忘れない。今日が自分の誕生日だということを。今日が人生で最高の日なんだということを。

 その思い出を胸に時行は両津と一緒に鎌倉の街を楽しむのであった。

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