ある日、両津が派出所に戻ると大原部長達が1人の男子高校生と談笑していた。
「部長。誰ですかそいつ?」
「彼かね?彼は屋流木伝蔵。明日から復学することになった。」
「復学って停学でもしてたんですか?」
「違う!彼は不登校だったんだ。」
大原部長が説明してくれる。両津は屋流木を見る。明らかに不真面目そうな不良だ。
「イジメでも受けてたんですか?」
「いや。ただ学校に行きたくなかっただけ。」
「それをわしが一生懸命諭してやっと学校に通う気になってくれたのだ。」
「偉いわよね!」
「偉いか?」
麗子が褒めるも両津が疑問に思った。
「麗子。本当にこいつが偉いと思うか?」
「そうよ。だってずっと不登校だった学校に通ってくれるのよ。偉いじゃない。」
「まず理由だ。授業についていけないだとかイジメが原因で不登校になるのは分かる。そいつが復学すらなら偉いがさっき行きたくないという理由だけで不登校の奴が復学したからなんだって話ですよ。」
「あ〜、俺、授業についていけてないんすよ。」
横柄な態度の屋流木に両津がイラッとする。
「こんな元から学校に通う気の無い奴を諭しても無駄です部長。どうせまた数日後には不登校になります。」
「やってみないと分からんじゃん。」
「お前は分かる。」
「何が?」
「不真面目なバカの見本じゃねぇか。」
「なんだとぉ!」
屋流木が掴み掛かろうとするのを椎名達が止める。
「両津!言い過ぎだぞ!」
「ここまで言わないと分からないものです。偉い奴ってのは一度も自分勝手な理由で休まずに学校に通い続けた者です。イジメに合っても心が折れずに通い続けた者です。少なくともこんな最初から行く気のない奴に使う言葉じゃないですよ。」
両津が大原部長に詰め寄る。
「そ、そうだな。確かに一理ある。」
「でしょ。」
「だったら次の不登校セミナーを両津にやってもらおう。」
両津がずっこけた。
「なんでわしが!?」
「わしのやり方に文句があるなら両津のやり方で不登校を治してみろ。」
大原部長に言われて両津は売り言葉に買い言葉と請け負ってしまった。翌日、両津がセミナーを開くも誰も来なかった。一緒にいた時行が両津を見る。
「両さん…」
「だろうな。こんなところに真面目に来る奴は既に学校に通っている。」
両津はリストを見る。両津はリストに乗っている不登校者の両親に電話して無理矢理連れて来させる。やっと全員揃った。しかし、全員やる気がない。
「お前らを見たら分かる。バカだ。」
「うるせぇ!」
「てめぇもバカみてぇな顔だろうが!」
「殺すぞ!」
次々と罵倒してくる不登校生達。両津はイラッとしたのか時行に指示する時行は頷くと弓矢を構え不登校生達の後ろにあるポスターに命中させた。ポスターの顔のど真ん中に刺さる矢を見て不登校生達が黙る。
「次ふざけたこと言った奴は当てる。」
完全に脅しになった両津に怯えた全員が普通に座る。
「いいか!お前らが学校サボってる間も他の奴は真面目に勉強して授業受けたり働いて学費稼いだりしてるんだぞ!」
「それと俺達って無関係ですよね?」
「他所は他所、うちはうちってやつですよ。」
「時行、あの2人の首に矢を当てろ。」
「待ってください。それ完全に殺人です。」
狙われた2人が机の下に隠れる。
「関係ないことはない!お前らがサボって行かない間の学費もしっかり払われているんだぞ!その金は誰が得ている!?お前らの両親だろうが!」
「それは…」
「お前らの中にイジメを受けた経験のある奴はいるか?」
「…」
「イジメをしたことある奴は?」
全員挙手する。
「時行、あいつらの手に矢を当てろ。」
「正直に答えただけなのに!」
「それが原因で不登校になっている奴もいるんだぞ!」
両津が怒る。
「でもさぁ〜。なんかやる気出ないよね〜。」
「分かる〜。先生がマジウザでスゴキモでホントにニンゲ〜ンって感じ〜!」
「時行、あのバカの顔をさらにキモくしてやれ。」
「最悪!」
両津が後ろの席にいる女子達を睨む。
「そもそも男女平等なんだからうちらにも優しくしろよ!」
「お前らの男女平等の使い方がおかしいぞ。」
「ねぇ!隣の子、すごく可愛くない?」
「わしの話を聞け!」
両津の怒号が無視される。
「ねぇ。坊やなら分かるでしょ〜!うちら女の子は男より弱いんだからもっと優しくするべきだよねぇ〜!」
「いえ。私の故郷の鎌倉に射る女性は皆さん強かったですよ。それこそ素手で人の首を捩じ切れるぐらいです。」
「嘘でしょ!?」
「鎌倉の女怖っ!」
「俺、鎌倉だけには絶対行かねえ。」
時行の発言に戦慄する不登校生達。
「ここで話し合っても仕方ない。お前ら、わしについて来い。」
「え〜、嫌だ〜。」
「ついて来ないなら時行の矢がどこかに刺さる。それに、ついて来たらいい物をやる。」
両津はそう言って時行に弓矢を構えさせ懐から封筒を出す。その結果、全員が両津の指示に従った。両津は工事現場に連れて行く。
「なんでここ?」
「今からここで働いてもらう。」
「マジかよ!だる〜!」
「ふざけるな!そのダルいと言った仕事を真面目にしているんだぞ!」
そう言って両津は1人の高校生を指差す。まだ若いのに鉄骨を持って運んでいる。
「あいつは母子家庭で母親の負担を軽くするために定時制の高校に通いながらこうして働いているんだ。お前らの真逆だぞ。」
「だからってここはないでしょ?もっとこうレストランとかオシャレなところがいい。」
「俺も力仕事は嫌だからもっと楽に稼げるところにしてくれない?」
屋流木達がグダグダ言うので両津は時行に弓矢を構えさせた。それを見て全員黙る。
「まずその楽なところへ逃げようとするのがいかん!お前らはもっと苦労を知るべきだ!今日1日だけだ!1日ここで働いて金の大切さを学べ!」
両津は現場責任者のところへと行く。
「両さん、応援に来てくれるのは助かるが大丈夫なのか?」
「安心しろ。逃げようものなら時行の矢の餌食だ。ビシバシしごいて構わん。」
両津は不登校生達を着替えさせ仕事をやらせる。どうやら、両津はここの手伝いを不登校生達にやらせるつもりだ。
「こことダブルブッキングしてしまった時はどうしようか悩んだがこれはこれでいいぞ。」
「両さん、私の出番って…」
時行がジーと両津を見る。既にバテている不登校生達。それから時間が過ぎ昼飯の時間になった。バテている不登校生達に大人達が弁当を渡す。
「男が情けねぇ。これぐらいでへばってたらこの先やっていけんぞ。」
「俺達、ここをやる気ないんで。」
「ここだけじゃねぇ。社会に出てやっていけんってことだ。学力や才能だけでやっていける奴なんて本の一握りだ。俺達のような凡人は血の滲む思いで働かんと生きていけんぞ。」
そう言われて渡された弁当はいつも以上に美味しく感じたらしくガツガツ食べている。両津は働いていた学生と食事しながら談笑している。
「偉いな。」
「いえ、こうでもしないと学校にも通えないので。」
近くでそれを聞いていた屋流木は気まずくなる。行きたくても行けない人がいることを知ったのだ。休憩時間も終わり再び仕事に戻る。最初は悪態ついていた不登校生達も真面目に取り組んでいる。
「つ、疲れる。」
「これを毎日…」
「慣れだ慣れ!」
両津が監督している。後ろでは女子不登校生が事務仕事をしていた。
「全然分からんな〜い。」
「最初はみんなそんなものよ。」
先輩事務員が優しく教えている。時行はその姿を見てもしかしてと思い聞いてみる。
「両さん。最初からここに連れて行くつもりでした?」
「どうだろうな。少なくともわしが楽出来るからやって良かったとは思っているぞ。」
「楽したいんですね。」
さっき楽しようとするなと言っていた両津の発言に時行は呆れている。それはそうと両津も手伝いをする。大体の力仕事は両津がしてくれた。高いところに工具箱を運んでいる不登校生の後ろで作業する。その時、不登校生が足を滑らせ転落した。
「危ねえ!」
咄嗟に両津が手を掴み不登校生を助ける。しかし、工具箱が下にいる高校生に当たりそうになった。そこに時行が来て鉄柱を駆け上がりジャンプして工具箱を取った。それを見た現場監督達は拍手する。
「気を付けろよ。ベルト着けているからって油断するとこうなる。」
「す、すみません。」
両津が不登校生を引き上げ降りる。幸い誰も怪我していないので良かったと言う。
「ここはこういうことがあるから注意してくれ。」
「はい。」
「それにしても凄いな坊や。大きくなったらうちで働かないか?」
「あ、ありがとうございます。」
現場監督達が時行に感謝している。そこからは大きな問題も無く仕事が終わった。やっと終わったと不登校生達は疲れ倒れている。
「どうだった?」
「新米なんてあんなもんだ。慣れればいい仕事するんじゃないか?」
両津が現場監督に聞く。両津は不登校生の前に来てペットボトルのお茶を配給する。
「これが働くだ。お金を稼ぐのも楽じゃない。今、お前達が学校に通えるのも親がこうして苦労しているからだ。」
両津の言葉が刺さる。仕事が終わり不登校生達は現場監督達に挨拶する。
「「「ありがとうございました!」」」
「いいよ。今度大学出たらうちに来い!いつでも面接抜きで歓迎するよ!」
セミナーが終わる。その頃には不登校生達の目はキラキラ輝いていた。それを見て頷く両津に時行はやっぱりと思い微笑んだ。
後日…
「両津。確かに不登校を無くしたのは評価するが…全員ガテン系になっているぞ!どんな指導をしたんだ!?」
「やだなぁ部長。わしはちゃんと真面目になるように諭しましたよ。」
派出所で大原部長が文句を言っている。それに対して説明する両津とこうなるのかぁと思った時行であった。