両津と時行が隅田川沿いを歩いている。
「この辺りは春になると桜が咲いて花見シーズンになる。この辺りの人気スポットだ。」
「綺麗ですね。」
時行が眺めていると上を向いて止まった。両津も見上げると東京スカイツリーを見ていることに気付いた。
「そういえば、スカイツリーに行ったことないか。」
「ありません。」
「じゃあ、行くか。」
「いいのですか!?」
両津は時行を連れてスカイツリーに向かう。すると、両津が足を止めた。時行が聞くとスカイツリーを見上げている2人の男を指差した。両津はその2人に声をかける。
「よぉ、珍吉、豚平。」
「ん?勘吉か!」
「おぉ、久しぶり!」
両津を見た2人が挨拶した。
「この方達は?」
「わしの悪友の珍吉と豚平だ。」
「お前が一番の悪だろ。」
珍吉がツッコミする。2人は時行を見てコソコソと話し始めた。
「勘吉が誘拐したに今日の昼飯。」
「同じじゃ賭けにならねぇだろ。」
「お前らぁ!」
両津が叫ぶ。時行が2人に自己紹介した。
「初めまして。この度、両津勘吉さんのところで厄介になりました。北条時行と申します。よろしくお願いいたします。」
「上品だ…」
「勘吉には不釣り合いなほど上品だ。」
「聞こえてるぞ!」
両津が叫ぶ。もうすぐ昼だ。久しぶりに出会った2人と一緒にみんなでうどんを食べる。
「このコシ、この出汁、どれも素朴ですが味わい深いです。」
「料理評論家か?」
「それが出来るほどの舌を持ってる。」
美味しそうに食べる時行を見て唖然とする珍吉と豚平。
「しかし、こうして3人揃うといろいろ思い出すなぁ。」
「どんな話ですか!?」
時行が興味津々に聞く。
「大変だったぞ。こいつに付き合って勝鬨橋を上げたり列車にメンコばらまいたり…」
「怒られたなぁ俺達。」
「「大体勘吉が悪いけど。」」
「お前らも同罪だ!わしら合わせてトン・チン・カントリオだっただろうが!」
両津が怒る。それでも話は続く。
「トロリーバスで突撃したこともあったな!」
「花やしきの人工衛星を1人で転がし沈めたこともあったぞ。」
「想像ができません。」
「「だろうな。」」
子供の頃の両津のハチャメチャな行動に時行は首を傾げてしまう。
「お前ら、わしと時行は今からスカイツリーに昇る予定だが一緒に行くか?」
「おぉ、行く行く。」
「暇だったしな。」
両津達は食事を終えてスカイツリーに向かう。
「東京スタジアムに花やしきの人工衛星塔…」
「トロリーバスに俺達の校舎、時代が進むにつれ消えていく物が増えたな。」
「おばけ煙突だろ。蟻の町だろ。おさるの電車だろ。…数え出したらキリがない。」
3人は周りを見ながら変わりゆく時代を感じていた。時行はそんな3人の顔を見ていた。寂しい気持ちと懐かしむ気持ちが混ざった顔だ。
スカイツリーに到着する。両津達はエレベーターで昇る。エレベーターから降りた時行は目の前の景色に舌を巻いた。下に広がる東京の街。地球が丸いと分かるぐらい地平線が丸くなっていた。
「凄い!」
「ああやって見ると普通の子供だな。」
(南北朝にはこんな建物なかったしな。)
珍吉、豚平と一緒に東京を見下ろしている時行を見る。両津も一緒に見ていると東京タワーが目に写った。
「懐かしいな。東京タワーにも登ったぞ。」
「登ったな!おばけ煙突にも登ってたな勘吉!」
「確かに登った。…そう言えば絵崎と東京タワー早登りもしたしここのてっぺんにも昇ったなぁ。」
「…バカと煙は高い所が好きってのは本当だな。」
「昔の人は凄えや。」
「やかましい!」
両津がまた叫ぶ。3人は仲良く会話している。時行が珍吉と豚平に両津のことを聞く。
「昔の両さんってどんな方だったのですか?」
2人は悩む。
「…バカ。」
「バカだな。」
「真っ先に出たのはそれか。」
両津が2人にツッコミをする。
「教えるのが大変なバカだからな。」
「猿と同レベル。」
「バカ以外言うことないのかぁ!」
両津が叫んだ。
「無駄に行動力はある。」
「変な知識はある。」
「バカ力もある。」
「あとエロい。」
「お前らぁ!」
両津が2人を追い払う。
「あいつらもバカだぞ。珍吉は鉄道の知識以外ほとんどないし豚平は特徴がない。」
「うるせぇ!」
「お前よりマシだろ!」
「同類だ!」
両津が珍吉と豚平を殴る。時行は笑っている。
「今もあまり変わっていないのですね。」
「おい、勘吉。今もバカと言われてるぞ。」
「時行…」
相手が時行のため怒れない両津。
「こうやって見ると本当に変わったよなぁ。街も俺達も。」
「時代に合わせて街も人も変わっていく。それが一概に悪いとは言わないが寂しくはなるな。」
「そうですね。」
「おい。時行も勘吉と同じ目してるぞ。」
「小学生の貫禄じゃねぇ。」
南北朝から変わっていった世界を見ている時行も両津の言っていることが分かる。双眼鏡で街を見てみる。
「双眼鏡という物を初めて使ってみました。」
「よく見えるだろ。」
「はい!」
時行は双眼鏡でいろんなところを見回す。
「今の人はこんな高い建物も造るようになったのですね。」
「東京スカイツリーは2012 年に開業。今から13年前だ。中心は空洞になっていてそこにコンクリートを流し込み心柱としてスカイツリーの揺れを低減させる。地震の多い日本ならではの対策だ。五重塔にもつかわれてるぞ。」
「そうなのですね。」
「まるで自分が造りましたと言わんばかりの言い方だな。」
両津の隣に豚平が来る。
「実際、ここに携わったからな。」
「マジで?」
「小学校に高田いただろ?あいつがここの作業員だったが交通事故で入院してな。退院するまでわしが代わりに作業員として入った。」
「なんでもするなぁホント。」
2人が両津に感心していた。
「スカイツリーが建つまで東京タワーが一番高い電波塔だった。」
「そういえば何故赤と白なのですか?」
「航空機が衝突しないためだ。当時はまだレーダーが発達してないから目測するしかなかった。だから目立つように赤と白にした。夜になればライトアップして綺麗だぞ。ちなみに、満月の夜は満月が綺麗に見えるようにってライトアップはしていない。」
「本当に変な知識はいっぱいあるよなお前。」
「さっきからうるさいぞ。」
両津が2人を睨む。そろそろスカイツリーを降りようかという話になる。両津が時行を呼ぶ。時行は返事をして両津のところに行く。
「そういやぁ、時行はどこ産まれだ?」
「鎌倉です。」
「なんで両津と?」
「私の両親が亡くなってしまい天涯孤独の身になったところを両さんが養子にしてくれたのです。」
「なんか…聞き辛いこと聞いてごめん。」
時行の身の上話を聞いた珍吉が気まずくなる。時行は気にしてませんよと笑顔で返した。
「家族が亡くなっても思い出は残る。おばけ煙突もそうだ。今はもう無いが跡地には帝京科学大学が立っていてそこにお化け煙突を輪切りにしたモニュメントが飾られている。誰かが覚えている限り消えることはない。」
「勘吉のくせにいいこと言いやがって。」
「最初の部分はいらんだろ。」
エレベーターに乗って降りる。
「時代の流れは時に残酷だよな。」
「あぁ。おばけ煙突が崩れていくのを見た時は堪えた。」
「俺はトロリーバスかな。なんか悲しくなったし虚しくなった。」
「いつまでもあると思ってる物ほどいつの間にか無くなってるよな。」
「ホントそうだよな!」
「分かる!」
両津達が思い出を語り合う。その時の顔は寂しいと同時に楽しそうに見えた。エレベーターが地上に到着する。
「そうだ。確か…やっぱり。」
「何がやっぱりだ?」
「30分後に亀有座で橘琴音主演の公演が始まるぞ。お前らも一緒に行くか?」
「いいね!」
両津達がスカイツリーを出る。時行も一緒に出る。ふと、並べられているポスターを見る。『ピアニスト姫野恵 ピアノ独奏会』『北海大学教授 白鳥純 講演会“動く橋”』『映画監督 星野光 特別企画“オリオン”開催』などのポスターが目に止まった。
「折角だから呼べる友達呼んで同窓会でもするか?」
「いいな!昴や風乃にも声をかけてみるか。…時行!早く来い!」
「置いていかれるぞ!」
「は、はい!」
時行は楽しそうに歩いている両津達の後ろを走って行った。