「私…ですか?」
花山の口から北条時行が出てきたため時行は首を傾げた。花山は話を続ける。
「そうじゃ。お主らは時行は本来この時代の人間じゃないことは知っておるな。」
「ええ。南北朝時代の武将というのは知っているわ。」
花山の質問に麗子が答えた。
「おい、まさか…」
両津がある仮説を立てた。それを言う前に花山が話す。
「最初にわしら天国警察の仕事の1つに死者の魂を天国に送るか地獄に送るかを分ける仕事がある。昔は書類だったが今はネットで天国か地獄に送ることが出来る。」
花山の話を時行は理解していない。そこに両津が分かりやすく説明する。
「つまり、死んだ後はこのじいさん達が決めるってことだ。」
「天国ってそんな感じなのだすか?」
「ここで問題になってくるのが戦国時代と第二次世界大戦じゃ。」
花山が頷きながら話す。
「その2つは死者が多いだけではなくその時の倫理観によって善か悪かが目まぐるしく変わる。戦争に巻き込まれただけの人なら分けるのは簡単だ。しかし、武士や兵士は天国警察の法でも分けるのが難しい。」
「戦国時代も第二次世界大戦も自国、または信頼する者のために命が消えるから。」
小梅が追加する。
「実際、まだ戦国時代も第二次世界大戦も全ての魂の仕分けが済んでおらん。そんな時じゃ。魂とその書類を誤って紛失してしまったのじゃ。」
「おい待て。その魂って…」
「そう。北条時行じゃ。」
花山が時行を見る。どうやら、両津の仮説は当たっていたようだ。
「本来、北条時行はこちらで天国に行くか地獄に行くかを決める予定だった。しかし、いつの間にか書類が紛失しそれと同時に魂も消えてしまった。」
「それで時行がこの時代に転生したかたのか。」
以前も死んだ両津を天国にも地獄にも送れないということで現世に戻したことがある。それと似たような事態が時行に起こっていたのだ。
「つまり、お前らのミスじゃねぇか!」
「言い訳すらできん。」
両津が詰め寄る。
「そこでじゃ!こちらとしても間違いを正したい。だから、北条時行を引き取りに来たのじゃ。」
花山の提案に時行は黙って見ていた。
「本来、北条時行はこの時代にいてはならない存在。なので、彼の魂をちゃんと供養し天国警察に預けてもらう。」
「そんなことしたら時行と交流してきたわしらはどうなる!?」
「そこも大丈夫じゃ。北条時行がいたという記憶を全て忘れさせる。」
両津は言葉が出なくなってしまう。時行との思い出が全て無くなるのだ。それに両津は激昂した。
「ふざけるな!そもそもお前らのせいだろうが!」
「だからその責任をとって元に戻すと言っておるじゃろ!」
中川が両津を落ち着かせる。大原部長も花山に反論する。
「すみませんが時行君は既に多くの人に知られています。記憶を消すと歪みが生じるのでは?」
「大丈夫じゃ。整合性はちゃんと合わせる。」
花山が代案を出す。時行がいたという事実を改変させる。そうすれば、時行が居なくなっても何も変わらない。いつもと同じ日常が送れる。
「さっきも言ったが本来北条時行はこの時代にいてはいけない人物。存在するだけで時代を変えてしまう危険性がある。」
「だからって勝手に存在消すんじゃ…」
「大丈夫です両さん。」
花山に言い寄る両津を時行が止めた。
「分かりました。あなたの案を受け入れます。」
「時行!?」
両津が驚く。
「お前、何言ってるか分かってるのか!?」
「はい。そもそも私はあの日、龍ノ口で終わる運命だったのです。ここで生きていたこと自体が奇跡です。」
時行は覚悟していた。いつかこんな日が来ると。時行の顔は清々しいほど達観していた。しかし、両津は見逃さない。時行が少し震えていた。
「なら…」
「時行!」
花山を突飛ばした両津が時行の肩を掴む。
「本当にいいのか!?」
「は、はい。私1人で全てが丸く収まるなら…」
「そうじゃない!」
今までにない両津の怒号に時行はビクッとする。
「そんな建前じゃない!お前の本心を言え!」
「わ、私は…」
時行の言葉が詰まる。今までの思い出が甦る。すると、時行の目から涙が溢れ落ちた。
「お前はなんだ!?」
「私は…北条時行。逃げ上手で…生きたがりで…両さんの息子です!」
「そうだ!お前はどうしたい!?」
「私は…生きたい!まだ皆さんと一緒にいたいです!」
時行が涙を流しながら叫んだ。その涙に大原部長達は何も言わない。
「よし!わしに任せろ!」
両津は時行を自転車の後ろに乗せるも猛ダッシュで駆け出した。派出所に戻って来た椎名が驚く。
「何があったんですか?」
「あのバカ…」
大原部長が呆れる。しかし、怒ることも追いかけることも出来ない。両津の気持ちも時行の気持ちも分かるからだ。両津を追いかけようとする花山を小梅が止めた。
「おじいちゃま、特例でなんとか出来ないかな?」
「それはわしに言われても。」
花山は迷ってしまう。しかし、両津と時行を捕まえないことには始まらない。花山は小梅を連れて派出所を出て行った。両津と時行は静かな道路を走っていた。周りには誰もおらず月明かりが2人を照らす。
「よく言った時行。」
時行は喋らない。
「確かに理香の言ったことは分かる。本来お前は令和の人間じゃない。」
「はい。」
「でも、お前は今ここに生きている。それは誰にも否定はさせん。」
両津の言葉に時行は微笑んだ。
「ずるいです両さん。」
「ん?」
両津が聞く。
「私はさっきまでここにいていいのかどうか迷っていました。本来の時代に戻すべく天国に行くべきだと思いました。自分の死を覚悟してました。」
時行は満月を見上げる。
「私は恥知らずだ。逃若党のみんなも顕家卿も…頼重殿もいないこの時代で…私だけが楽しく生きている。本当は死ぬべきなのに…貴方のせいでまた生きる悦びにときめいてしまった。」
時行は涙を流しながら両津の背中に寄り添う。
「勘吉殿。責任は取ってもらうぞ。」
「任せろぉ!わしは諏訪頼重より長生きすらからな!」
時行は安心してしまう。さっきまでの不安はもうなかった。
「そう言えば、これからどうするのですか?」
「天国に行く。」
「はい?」
時行の目が点になる。
「え?天国?」
「そうだ。天国に行って直談判してくる。」
「そんなこと出来るのですか!?」
「出来る!わしは地獄を支配し天国に宣戦布告した男だぞ!」
「不安しかありません!」
違う不安が込み上げてきた。両津はどこかに電話する。そこに花山と小梅が追いかけてきた。
「まずい!時行!しっかり捕まってろよ!」
「は、はい!」
時行が両津の体をしっかり掴むと両津は時速100kmを超えるスピードで自転車を漕ぎ出した。さすがに花山は追い付けない。
両津が走っていると影が出来た。時行が上を見上げると夜間戦闘機月光が飛んでいた。月光は両津と時行の前に止まる。そこから月光刑事と美茄子刑事が出てきた。
「パトロール中に我らを呼ぶとは。」
「何の用だ聖羅太郎、聖羅寿日太?」
「お前ら、月光を貸せ。」
「「は?」」
両津は後部座席に時行を乗せると発進した。月光刑事と美茄子刑事は唖然としている。
「これで天国に行くのですか?」
「そうだ。」
「天国って割りと簡単に行けるのですね。」
時行は思っていた天国と違うことに混乱していた。両津と時行はとうとう天国に到着した。月光から降りて真っ直ぐ進む。そして、広い部屋に来た。そこには金ぴかで派手な奈良の大仏のような容姿をしたのがいた。
「両津勘吉!?何しに来た!?」
「やい神!今すぐ時行に対する処遇を取り消せ!」
両津が指差し要求する。時行は目を丸くしていた。目の前にいるのが神と呼ばれた存在だからだ。
「神って頼重殿じや…」
「たまに私の声が聞こえたり私の力を譲受出来る者が地球に現れることがある。」
「そんなぁ~!」
時行が頭を抱える。まさか、頼重や尊氏の力の源がこの神なのではないかと思ってしまったのだ。神は時行を見る。
「両津勘吉。北条時行を連れて来たのか。」
「そうだ!今すぐ時行を天国に連れに行くのを止めろ!」
「断る。自然の摂理を歪めてはならぬ。」
「お前らのミスが歪めてるじゃねぇか。」
両津に痛いところを指摘され口笛を吹いて聞いてないふりをする神。
「責任はわしが持つ!時行は令和に生きる!」
「ええい!こっちもこれ以上恥を晒すわけにはいかんのだ!」
神が手を突き出す。その瞬間、武器を持った天使の兵隊が両津と時行を取り囲んだ。
「お前に攻められて以来いつどんな時に襲われてもいいように編成した天国護衛隊だ!2人を取っ捕まえろ!」
神の命令で天国護衛隊が両津と時行に襲ってきた。両津は拳で対抗するも硬い鎧に苦戦した。時行は天国護衛隊から逃げるも初めて見る魔法に捕まりそうになった。
「捕まえたら両津勘吉はゴキブリにして北条時行は天国警察預かりとする!」
苦戦する両津と時行。もう絶体絶命。そう思った瞬間、天国護衛隊の後ろから誰かが来た。天国護衛隊を吹き飛ばしやって来る。
「どりゃあー!」
その誰かが両津と時行の前に現れた。時行はその少年を見て涙を流し名前を叫んだ。
「弧次郎!」
「お前ら!誰に手を出そうとしてるッスか!?こちらにいらっしゃるのは天下の北条高時の嫡子で俺達逃若党の党首で逃げ上手の…北条時行だ!」
長い刀を振り回し堂々と名乗り上げる少年。嘗ての時行の仲間で逃若党の一員、根津弧次郎が両津と時行の前に飛び出して来た。