「待てー!」
両津が声を荒げながら追いかける。時行は通行人の間をスルスル避けながら逃げている。
「なんて逃げ足だ!忍者かあいつは!」
両津が必死に追う。時行は追って来る両津の顔を見て恐怖する。そのまま逃げると最初にいた神社がある境内が見えた。時行はそこに向かうべく階段を駆け上がった。
両津も境内へと向かう。そこに中川と麗子が合流した。
「先輩!」
「中川!わしはこのまま追う!お前と麗子はここで待伏せだ!」
「分かりました!」
両津が2人に指示して階段を駆け上がる。上がりきると神社の前に時行がいた。空を見上げている。両津は息を整えて時行に近付く。
「おい!」
両津の声にびっくりして振り返る。
「え、え〜と…」
「お前、信号無視だぞ!それとその持ってる刀!それも銃刀法違反だ!」
「信号無視…?銃刀法違反…?」
な、なんなんだ!?あの鎌倉武士が着ている服はなんだ!?あんな武士は見たことない!何もかもが分からない!
両津が凄い形相で近付く。時行は両津から少しずつ離れる。そして、横に走り出した。
「待て!わしから逃げ切れると思うなよ!」
両津が追う。すると、時行は木を登って神社の屋根に乗った。両津は下から時行を追う。時行は屋根を走り抜けジャンプして近くの枝に跳び移る。
「本当に忍者かお前は!」
木から木へと跳び移り逃げる時行を追いかける。時行は木から飛び降りて階段を駆け降りる。そこに中川と麗子が待ち構えていた。
「君!止まりなさい!」
中川が声をかけるも時行は止まらない。中川が前に出る。すると、時行はジャンプして木を蹴りさらに高くジャンプした。中川が驚く。時行はガードレールに着地する。麗子が捕まえようと接近する。時行は麗子を見るとジャンプして後ろに下がった。そこは道路だった。
「危ない!」
麗子が助けようと手を伸ばす。しかし、時行は麗子から離れ車の屋根に乗りジャンプして近くを通るバスの屋根に飛び乗った。そのまま座り込み去って行く。
「嘘!?」
「中川!麗子!あの子はどうした!?」
2人が遠くなっていく時行を見ていると両津が合流した。
「せ、先輩。あの子、バスに飛び乗って行ってしまいました。」
「はぁ!?」
両津が中川が指差す方向を見るも既に時行はいない。両津が時行を探そうとすると携帯の着信音がした。両津がスマホを取り出し電話に出る。
『両津!今どこにいる!』
「ぶ、部長!」
両津が驚く。電話の相手は大原大次郎。亀有公園前派出所の班長で両津の上司だ。今、大原部長は鎌倉署から電話している。時間を忘れ時行を追っていた両津がペコペコお辞儀している。中川も腕時計を見て会議の時間を過ぎていることに気付く。
『今すぐ戻ってこい!』
「は、はい!」
両津が電話を切る。
「仕方ない。中川、麗子、お前達は署に戻って部長にこのことを話してくれ。」
「先輩は?」
「わしはあの子を追う。頼んだぞ!」
「わ、分かりました!」
両津は中川達に指示するとバスが向かって行った方向へと走り出した。
一方、時行はバスの上で風に煽られている。心地よい風にニコニコだが周りの人達は時行を見て驚いている。バスが停留所に止まる。すると、時行は停留所の屋根に飛び降りジャンプした。着地すると人が居ない方向に走り出す。周りの人々も時行を見て驚いている。
「ここは…鎌倉なのか?京都なのか?どこも見たことない建物ばかりだ。」
初めて見る建物に時行は動揺している。どこに行けばいいのかすら分からない。その時、後ろから音がした。何の音だと振り返ると両津が自転車を漕ぎながら追ってきた。
「待てー!」
「わぁ〜!」
時行は絶叫し逃げ出した。馬よりも速く走る自転車が迫ってくる。時行は塀を乗り越えて民家の庭に入ってしまう。
「こらー!不法侵入だぞ!」
両津が民家に入ろうとすると犬が吠えた。それにビビった時行が民家から出てくる。
「ごめんなさーい!」
時行が出て来たので両津は再び自転車を漕ぎ出した。
一方、鎌倉署に戻った中川と麗子が大原部長に事情を説明していた。
「にわかには信じられんが中川と麗子が嘘をつくわけないか。それで両津の奴はまだその子供を追いかけているのか?」
「はい。先輩はまだ追っていると思います。」
説明していると鎌倉署の警察官が報告にやってきた。
「その少年ですが近くの寺社に問い合わせてみましたが該当する人物はいませんでした。それと…」
警察官が中川達にスマホを見せる。SNSにバスに乗っている時行が投稿されていた。
「間違いありません。彼です。」
「確かに長い髪に神主が着るような服をしているな。」
動画で確認する。麗子がチラッと外を見る。すると、逃げている時行がいた。
「圭ちゃん!部長さん!外!」
言われて外を見ると時行が周りをキョロキョロしていた。
「いました!」
「あの子が…」
時行が後ろを見て逃げる。その後を両津が自転車で追いかけていた。
「あのバカ、まだ捕まえられてないのか。」
「相当逃げるのが上手いみたいですね。」
「そうね。両ちゃんが捕まえられないなんて。」
中川達は鎌倉署から出てパトカーに乗る。未だに両津が時行を追いかけている。
「両津!」
「部長!これにはわけが…」
「いつまでやっている!もう会議は終わったぞ!」
両津の隣にパトカーを寄せる。両津が経緯を話す。その間にも時行は逃げている。すると、前に警察官が現れた。このまま時行を挟み打ちにするつもりだ。すると、時行は電柱を登って逃げた。
「待て!そこは危ないぞ!」
「降りてきなさい!」
両津と大原部長が呼び掛ける。しかし、警戒している時行は電柱から降りない。次々と警察官が集まってくる。さすがに騒ぎが大きくなってきた。時行は周りを見回すと電柱から飛び降りた。
「待ちなさい!」
「きゃー!」
大原部長が叫び麗子が悲鳴をあげて目を覆う。時行は落ちながら電柱を蹴り屋根に着地した。その身のこなしを見て驚愕する。
「なんて子だ。」
大原部長達が唖然と見ている中、時行は屋根伝いに逃げて行った。しばらく逃げて疲れた時行は鎌倉大仏の前に座った。周りの人達が時行を見ている。服装はもちろん、髪や肌まで初めて見る人達ばかりだ。
「私の知っている鎌倉ではない…」
時行は俯いてしまう。すると、お腹が鳴った。ここに来てから何も口にしていない。
(吹雪殿ほどではないがお腹が空いてしまった。だけど、どうすれば…)
時行はどこに行けば食べれるのかすら分からない。すると、時行の目におにぎりが写った。誰かがおにぎりを渡してくれたのだ。
「あ、ありがとうございま…」
時行はおにぎりを受け取りお礼を言うため顔を上げる。そこにいたのは両津だった。
「やっと見つけた。逮捕だ。」
ニヤリと笑う両津。空腹でもう動く気すら湧かない時行。令和鬼ごっこ最初は両津の勝利に終わった。