ある日、両津が時行と一緒に歩いていた。すると、時行が視線を感じた。振り返るとカレー店の前に店長がいた。こちらを見ていた。未来視を失った諏訪頼重のように見ていた。
「りょ、両さん…」
「おう…」
仕方なく『バサラ』という名前の店に入る。ガラリと空いていた。席に着いて頼もうとする。しかし、時行は難しい顔をしていた。
「あ、あの…このカレーって何でしょうか?」
時行はカレーを食べたことがなかった。南北朝時代はもちろん、ここに来てからもカレーなんて食べてない。両津はそれを思い出しオーソドックスなカレーを注文する。
「時行、これがカレーだ。」
「す、凄い…」
初めて見るカレーに時行は興奮している。両津がカレーの食べ方を教える。時行も両津を真似てカレーを食べる。すると、すぐ口を抑えた。
「どうだ?」
「弾力ある餅米が食べ応えあります。」
「米じゃねぇ。カレーだ。」
「辛いです。」
「やっぱり。」
両津が水を出す。時行が水をゴクゴク飲んでいる間、店の中を見渡すが客が誰1人来ない。そこに店長がピッチャーを持ってきてくれた。
「お、ありがとうな。」
「ウチのミセ、どうですか?」
カタコトの日本語で話す店長。
「辛いがわしはこれぐらいが好きだ。」
「アリガトウゴザイマス。」
店長がお礼を言うがなんか覇気がない。両津が周りをもう一回見る。店長以外の店員が見当たらない。どうやら店長以外の店員は居ないみたいだ。両津が気になって店長に聞く。
「しかし、なんでここまで客が居ないんだ?」
「サイキン、ファミリーレストランでもカレー流行ってる。家でもカレー、カンタンに作れる。」
「なるほどな。カレー専門店の肩身が狭いわけだ。」
両津は考える。辛いが美味しい。この店を上手く使えば大儲け出来るのではないか。そうすれば苦労せずにガッポリお金が稼げる。両津は時行と店長を交互に見てニヤリと笑った。
「よしっ!わしがこの店を人気店にしてやろう!」
「ホントウですか!」
「任せろ!」
両津は水を飲んで一息着いた時行を巻き込んでバサラの大改造を始めた。まず、カレーのメニューを1種類だけにした。そのカレーの作り方を時行に教えた。
「種類、1つでイイですか?」
「問題無い。辛さだけ変えればいい。こうすれば人件費がうく。」
「何故私が…」
両津からカレーを大量に作るよう指示された時行。両津は内装や看板などあらゆるところに手を加える。それに加えて注文するためのタブレットを設置するなどなるべく人件費がかからないようにした。そして、両津はポスターを作るのだが時行にターバンを巻きインドの衣装を着させた。
「何故これに?」
「時行、とにかく美味しそうにカレーを食べる仕草をしろ。」
両津に言われたままカレーを持って笑顔になる時行。両津はあらゆる角度から時行を撮る。写真を選び編集しポスターを作る。こうして、新しいバサラが誕生した。
初日から客が大量に来る。新しい店というのもあるが店先に貼ってある時行君ポスターの影響がデカい。連日大繁盛に両津と店長はウハウハだ。
「アリガトウゴザイマス!これで人気店デス!」
「そうだろ!このままいけば…」
「「ガーポガーポッのウーハウーハッ!ガーポガーポッのウーハウーハッ!」」
2人で楽しそうに笑う。時行は疲れでそんな気分になれない。そんな日が続いたある日、トラブルが起きた。いつものように客にカレーを提供する。しかし、思っていたより客が来てしまい材料が無くなりつつあった。
「両さん!まずいですよ!」
「くそ!」
「ドウスルですか!?」
「わしに任せろ!」
両津が店を出た。それから少しして帰ってくる。手には大量のレトルトカレーがあった。
「両さん、もしかして…」
「そうだ!これで誤魔化す!」
「ソレ、ダメですよ!」
「バレなきゃ問題ない!」
両津は残っているカレーにレトルトカレーをぶち込む。そのまま煮て客に提供する。最初はなんとか誤魔化せた。しかし、次に来たマダムの客達が不審に思って両津を呼び出した。
「あなた、このカレー前と違いますけど?」
「い、いえいえ!そんなことありませんよ!」
「本当に?そもそもポスターの子も居ないし詐欺ではありませんの?」
「いえ!ちゃんと居ますよ!」
両津が時行を呼ぶ。呼ばれた時行がヒョコッと顔を出した瞬間、マダム達が黄色い声援を上げた。彼女達は時行が目的のようだ。他の客も時行に見惚れている。
「時行、これ食べて美味しいって言え。」
「え、え〜と…」
時行は両津の目力に負け提供されたカレーを食べる。
「お、美味しいです。」
「「「きゃ〜!」」」
「ごめんなさいね!」
マダム達は時行の笑顔に悩殺されレトルトカレーを美味しそうに食べて帰った。
「両さん、これ詐欺というやつなのでは?」
「何言っている。お前がいるのは嘘じゃないしお前は本当に美味しかったのだろ?なら詐欺じゃない。ちゃんとこの店のスパイスも入れてあるしな。」
時行を言い包める両津。この日はこれで終わった。翌日、両津は大量のレトルトカレーに加えて鍋を増やしコンロや電子レンジを増設した。火力を上げるためにガスボンベも用意する。
「よし!これでどうとでもなる!」
「大丈夫デスか?」
「大丈夫だ!問題無い!」
両津達は急いでレトルトカレーを大量に作る。そのまま乗り越えようとした。しかし、また問題が発生した。いつものように接客している。すると…
「いらっしゃ…」
「ほぅ、ここが噂のカレー店か。」
「最近人気急上昇しているところですよ。」
「なんでも働いている子が凄く可愛いと評判なのよ!でも、どこかで見たような…」
(まずい!部長達だ!)
両津は慌てて隠れる。何があったのか聞こうとした時行を連れて奥へと行く。
「な、なんですか?」
「まずい。部長達が来ている。中川や麗子にはレトルトカレーだとすぐバレるし時行パワーも通じん。」
「時行パワーってなんですか?」
両津は考える。このままバレずに通す方法を。すると、思い付いたのかサングラスと付け髭で変装し大原部長達のところに行った。
「いらっしゃいませ!ご利用アリガトウゴザイマス!」
「いえ。」
「当店のオススメはこちらには載っていない一番辛いオリジナルカレースペシャル辛口です!」
「そうなんですね。では、一番辛いのをお願いします。」
「じゃあ、私も。」
「私もそれで。」
「はい!アリガトウゴザイマス!」
両津は戻って来るとすぐに倉庫から大量のタバスコや唐辛子を持ってきた。
「時行!店長!有りっ丈のタバスコと唐辛子をカレーに入れろ!」
「なんでですか!?」
「部長達の舌をバカにして誤魔化す!」
「もうそれダメじゃないですか!?」
「いいからやれ!」
両津達は大急ぎでレトルトカレーにタバスコや唐辛子を入れる。その時は誰も気付いていない。店長がガスボンベを蹴って動かし、時行がバルブに当たり、両津がホースを蹴って外したことでガスボンベから大量のガスが吹き出していることに…
両津は超辛くしたレトルトカレーを大原部長達に持って行く。大原部長達はカレーを食べる。その瞬間、口から火を吹いた。
「辛い!凄く辛いです!」
「こんなに辛いの!?」
「はい!こちらで一番辛いスペシャル辛口でゴザイマス!」
両津の企みは成功し大原部長達は味どころではなかった。両津は心の中でシメシメと笑っている。大原部長達が水を飲んでいるのを見ていると後ろから時行が声をかけてきた。
「両さん。来てください。」
「なんだ?」
時行に言われて厨房に戻る。すると、鼻をつくような刺激臭がした。両津は思わず鼻を抓む。店長が外れたガスボンベを指差している。
「これは…ガス漏れか!」
「なんですかそれ?」
「危ないものだ!」
両津はすぐに窓を開ける。しかし、大量に漏れ出たガスは止まらない。両津達がなんとかしようとガスボンベを運ぶ。刺激臭は大原部長達のところまでくる。
「なんだこのにおいは!?」
「皆さん!早く店から出てください!」
中川達が他の客を外に出す。両津達はガスボンベを運ぶがだんだん刺激臭がキツくなる。
「まずいぞ…」
「ワタシ、用事思い出しました!」
「おい、待て!」
「ごめんなさい両さん!」
「時行、逃げるな!」
店長と時行が裏口から逃走する。両津も逃げようとした。そこに心配した大原部長が来る。両津が振り返った瞬間、ターバンやサングラス、付け髭が落ちて正体がバレた。
「両津!」
「部長!」
両津が驚きガスボンベを落としてしまう。その時、落ちたガスボンベが床と接触し火花が散った。その火花がガスに引火し店を吹き飛ばした。
「両〜津〜!」
後日
「あ、あの…両さんは…」
「両津ならインドだ。悟を開くまで戻ってこんよ。」
お茶を飲みながら答える部長。それを聞いた時行は気不味そうな顔をしていた。