神田姉ヶ丘小学校
「ドッジボール大会?」
クラス委員長である雪長がプリントを配る。そこには“クラス対抗ドッジボール大会”と記載されている。初めて聞く言葉に時行が?を浮かべる。そこに隣の席に座っている亜矢が説明してくれる。
「6対6に別れてボールをぶつけるの。ぶっかった人は外野に出るの。それで内野にいる人を全員外野に出すか時間が切れた時に多く内野にいたら勝ちってゲームだよ。」
亜矢のおかげでドッジボールが何か分かった。1週間後に開かれるドッジボール大会。クラスごとにチームに別れて行う。1,2,3年の下級生組と4,5,6年の上級生組に別れ優勝を競い合う。最後に下級生組と上級生組の優勝チームが特別マッチを行う。簡単に言うとこんな感じだ。
「ドッジボール大会に出たい人はいるか?」
雪長が聞くと全員が手を挙げた。時行も面白そうだと感じている。雪長は迷う。
「じゃあ、今から体育館で練習して決めよう。」
雪長がそう言うとみんな体操服に着替え体育館に集合した。ボールを投げたり避けたりする。時行は弧太郎のボールを全て避けた。弧太郎は驚いている。
「やっぱり時行の避けはすげぇな。」
「じゃあ、次は投げてみて!」
亜矢が手を振る。時行はボールを持って弧太郎の前に立つ。そして、弧太郎を狙って投げた。
「へぇやぁ~。」
ネゥロョ〜ンという効果音と共に投げられたボールは跳ぶことなく弧太郎のところまで転がっていく。弧太郎が拾って投げると時行はすぐに避けた。
「避けるだけかよ!」
「変な音が聞こえた気がする。」
時行の攻撃力ゼロに呆れる弧太郎達。時行もなかなか上手く投げれないところに悩んでいる。その時、後ろから殺気がした。跳んで下がると渚がいた。
「な、渚君!」
「え、え〜と…い、一緒にやりませんか…なんて…」
渚が照れくさそうに誘う。が、時行はそれどころではなかった。一瞬、殺気に近い物を感じていた。渚も時行に何か感じている。
(あの距離まで殺気どころか気配すらしなかった。鎌倉で殺気を読み続けてきた私が…)
(僕に気付いた…いつも影が薄いって言われる僕が声をかける前に気付いてくれた…)
(気配を消す才能…)
(気配を感じる才能…)
((この人…凄い…))
時行と渚はお互いを見て冷や汗を掻く。
「な、なんか凄いバチバチになってる!」
「いや、俺には凄い雰囲気で凄いくだらないこと考えてるように見えるが。」
2人を見て各々の感想を言う。その時、きゃっと言う声がした。振り向くとガラの悪そうな上級生が体育館に来ていた。クラスメイト達を追い払いコートを占領する。すぐに雪長達が上級生の前に出る。
「今は私達が使っています。」
「おいおい!上級生が寄越せと言ったら寄越すのが下級生だろ!」
「お前達雑魚より去年優勝の俺達が使った方が効率的だ!」
両者だんだん増えていく。生徒同士のいざこざに担任の先生が介入する。それでも言い合いは止まらない。そこに時行も参戦する。
「上級生というのは賊みたいに領地を奪うのが好きなんですか?」
「領地は言い過ぎよ時行君。」
一触即発の雰囲気。いつ、喧嘩が起きてもおかしくない。そんな時、上級生達の後ろから窘める声がした。
「平野!」
上級生達が振り返る。道を開けるとスキンヘッドの上級生が時行達の前に現れた。
「すまない。うちのクラスも来週のドッジボールにいろいろとプライドをかけているんだ。」
平野の見た目がある人物と被ってしまう。時行にとってあまりいい思い出じゃない相手だ。どう反論しようか考えていると平野が提案してきた。
「なら、君達対俺達で1つ勝負しないか?」
「え?」
「これならお互いコートを取り合う必要もないし実戦という形で練習が出来る。理想的な解決だろ。」
「そ、そうね。」
平野の提案に担任の先生が乗ってしまう。確かにこれ以上いざこざを続けるわけにはいかない。雪長も提案に乗ることにする。コートには雪長や弧太郎を含めた6人が出る。時行と渚は外から応援する。
「下級生だからってナメてんじゃねぇぞ。」
「そういうのは口ではなく行動で示すものだ。」
先攻をもらった弧太郎が投げる。しかし、平野にあっさり取られてしまった。弧太郎が警戒すると平野は隣にいる仲間にボールを渡した。
「志郎。お前が見せてやれ。」
「へい。」
志郎がボールを投げる。その速さは弧太郎を軽く超えていた。弧太郎の隣にいた生徒に命中し外野に出す。続いて雪長が外野にパスしようと投げた。しかし、それを最初に寄越せと言ってきたガラの悪い上級生がジャンプして取った。
「志郎の兄貴!やってくださいよ!」
「もちろんそのつもりだ。」
再び志郎が投げる。また1人外野に出される。これを繰返していくうちに雪長と弧太郎以外は全員外野に出てしまった。対する上級生は誰も外野に出ていない。
「どうした?ナメられたくないのだろ?」
「てめぇ…」
「落ち着くんだ弧太郎!」
時行が呼び掛けるが聞こえていない。弧太郎が全力で投げる。狙いは平野の後ろにいる頬がコケた上級生だ。上級生は胸で受け止めるも弾かれた。
「よっしゃ!」
弧太郎がガッツポーズする。しかし、弾かれたボールは平野が難なく取ってしまった。焦る弧太郎。平野は志郎にボールを渡す。志郎が投げる。弧太郎が構えるも狙いは雪長だった。雪長も豪速球に負け外野に出てしまう。
下級生チームの残りが弧太郎だけになってしまう。チラッと後ろを見ると外野の上級生2人はつまらなさそうに欠伸していた。圧倒的な力の前に震える。
「このままタイムアップでも構わんぞ。」
(やべぇ…怖ぇ…)
弧太郎はヤケクソに投げる。それは虚しく志郎に取られてしまう。そして、志郎の豪速球に弧太郎も外野へと出されてしまった。
「勝者!6年3組!」
圧倒的な大敗に弧太郎は膝から崩れ落ちてしまう。そこに弧太郎の前に転がっているボールを取りに平野が近付く。
「いい勝負だった。」
そう言い残し平野は仲間達と去って行った。時行と渚はその後ろ姿をジッと見ていた。
翌日、元気がない弧太郎をどうにかしたいと時行達が集まる。
「どうしよう…」
「昨日の敗北が凄く効いたみたい。」
あれから雪長が出場者を募るも平野達の力を見た他の子達は慄いてしまい辞退していく。
「なんなのよあいつら!勝手に来て勝手にボコボコにしてあっさり帰って!何がしたいのよ!?」
「多分威圧だ。」
亜矢の叫びに時行が答える。
「あの上級生の狙いは最初から私達と勝負して圧倒的な力を見せつけることだ。そうすれば本番でもなんなく勝てる。現に他のクラスメイト達はみんな怖がってドッジボールに出ようとすら思ってない。」
「その考察、おそらく正解でしょう。」
雪長も眼鏡をクイッと上げながら賛同する。
「酷い!非道いよ!頭にきた!」
亜矢が憤る。
「でも、どうするの?」
「それはこれから…」
雪長が渚の質問に答えようとした時、静が入ってきた。
「言われた通り昨日主力と思われる4人を調べてきた。」
「ご苦労。」
「完全にスパイみたいなことしてる。」
「情報は大切です。昨日の敗因も相手を知らなかったというのも含まれます。」
雪長は静からもらった資料を見る。
「薙村志郎。唯一投げていた豪速球の持ち主ですね。野球部で将来が期待されているみたいです。」
「あれが?」
亜矢が嫌な顔をする。
「次が弧太郎の最後の1球を弾いて取るのをサポートした白骨百太郎。ラグビー部でフォワードをしているようです。背番号は8番。」
「この学校ってラグビー部あったんだ。」
渚が驚く。
「次が私のパスをジャンプで防いだのが海府乱児。帰宅部。」
「あっさりしすぎじゃない?」
「ガラ悪いしか特徴がない。」
亜矢が資料を見るも乱児のことはほとんど書かれてない。
「最後にリーダーの平野将。戦略家で状況把握に優れ冷静、そして力で荒れた6年3組を支配している。」
「どんな小学生だよ。」
渚がツッコむ。時行は考える。弧太郎は貴重な戦力だ。仲間だ。友達だ。このまま終わらしたくはない。けど来週までに強くする方法が思い浮かばない。
「実戦…」
その時、平野の言葉を思い出す。生死が関係ないなら実戦をふまえた練習をすればいい。そあ思い付くとすぐに弧太郎のところへ向かった。
「弧太郎!」
「な、なんすか?」
「明日、修業しよう!」
「え?」
時行のスパルタ(?)特訓が始まる!