いつもの派出所に時行と両津がいた。
「ワイン…ですか?」
「そうだ。中川がイギリスから取り寄せたシャトー・ラフィット・ロートシルトという高級ワインだ。これ1本で20万する。」
「20万…」
時行は目を丸くして見る。
「こんなんで驚くな。1945年物のロマネ・コンティなんか約10億で落札されたんだぞ。」
「10億!?」
時行がワインボトルから離れる。
「中川ならそれぐらい普通の買い物程度にしかならないがな。仕事が終わったらこれを飲むぞ。中川のワイン蘊蓄は5時間ぐらいするからな。」
「5時間ですか…」
2人が談笑していると中川が派出所に来た。しかし、何か悩んでいる様子だ。両津が「どうした?」と聞く。
「実は…我が社で父を騙って社員からお金を奪う詐欺が問題になりまして…」
「中川財閥を標的にするとか命知らずにも程があるだろ。それで、いくら騙し取られた?1万か?10万か?」
「10億です。」
「10億~!?」
あまりの額に時行が目玉が飛び出すほど驚き両津がずっこける。
「りょ、両さん。ロマネ・コンティが買えますよ。」
「馬鹿野郎!なんでそんな被害額になるまで気付かなかった!?」
両津が中川に詰め寄る。
「それが…父が載った雑誌や新聞からAI無断学習させ社員に一斉に送信していたみたいです。」
「確かに中川の父親は表情がほとんど変わらんからAIに学習させ易いだろうけど。」
「それでも何故10億など…」
「近いうちに実施する一大プロジェクト費用として1人1人に約100万前後振り込ませたみたいです。」
中川の言葉に両津は呆れている。
「本当にするプロジェクトなら騙せるかもしれないだろうがそもそもアカウントとかですぐバレるだろ。」
「父は盗聴やハッキングを嫌いスマホを持っていません。」
「そういえばあのスパイが使うような衛星通信機器しか使ってるところしか見たことないな。」
両津が嫌な感じで納得してしまう。
「それで不審に思った社員の1人が僕に報告したことで発覚したんです。」
「もっと早く報告するべきだろ。」
両津が呆れながら聞く。
「中川。お前の会社のセキュリティってどうなってる?」
「常に我が社独自の管理システムで24時間監視し社員しか知らないパスワードを1日おきに変更しています。実際、今までここまでの被害額になることはありませんでした。」
「それが原因だな。」
両津が呆れながらアドバイスする。
「その気の緩みが原因だ。自分は関係ない。自分は大丈夫。その思い込みに付け込まれたんだ。詐欺師が騙すのは機械じゃない。人間だ。」
両津が時行の肩を叩きアドバイスを続ける。
「どれだけセキュリティが厳重になろうとも最後に判断するのは人間だ。機械を信用してもいいが信用し過ぎるな。もっとも騙しにくいのは直接会って情報を交換することだ。」
「それはそうですね。」
「時行の時代なんか詐欺の話はゼロだ。それは自筆の手紙か直接の会話でしか情報を交換しなかったからだ。」
(玄蕃なら直接会っても相手を騙せますね。)
時行は玄蕃が今までやった変装や騙しの手口を思い出していたが話が拗れると思い、口には出さなかった。
「中川。その話、まだニュースにはなってないんだな?」
「はい。まだ外部にこのこと一切は伝わっていません。」
「なら、まだ間に合うかもしれん。」
両津は時行と共に被害にあった中川財閥のビルに向かった。中は詐欺の対応であわただしくなっている。両津は中川から例の詐欺メールと動画を見せてもらった。
「確かに本物と区別がつかんな。」
「今の日本の技術って凄いんですね。」
「技術の進歩は日本に便利さを与えた凄いものだが比例して犯罪者にとっても便利になった。使い方次第でプラスにもマイナスにもなるのが技術だ。」
両津はメールや振込先から逆探知して詐欺師を特定しようとした。
「ここまで大規模にやるんだ。組織的な犯行なのは間違いない。」
「どうするのですか?」
「逆にこっちから罠にはめる。」
両津は会社のメールのやり取りから犯行手口を調べる。
「そもそもする予定のプロジェクトで騙すとなると内部、つまり社員の中に情報を詐欺グループに渡している裏切り者がいる。」
「まさか…」
両津はメールのやり取りから怪しい社員をピックアップする。すると、ピックアップした社員全員に『次のプロジェクト お願いします。』と送った。
「両さん。なんですかこれ?」
「合言葉だ。履歴を調べると例のアカウントからさっきの言葉が送信されている。だからこっちもアカウントを真似て送った。」
「それで騙せるのですか?」
「自分が騙している側と思っているうちは簡単に騙せる。」
両津が時行に説明していると返信が来た。『分かりました。』と書いている。
「やっぱり。ちゃんと確認しないで返信してきたな。中川、このアカウントから逆探知して特定しろ。」
「分かりました!」
中川がすぐに行動に移る。両津のメールに返信した社員を特定し履歴を調べ証拠を掴み逮捕。そこから電光石火の如く詐欺グループはあっという間に全員逮捕された。
事件はなんとか解決し安心する中川。
「すみません先輩。」
「いいってことよ!」
「さすがですね両さん。」
両津が満足気に笑う。
「やっぱり人間、最後は機械じゃなくて人間を信じるべきだ。」
「痛感しましたね。」
中川も笑う。両津が笑っているとふとある考えが頭を過った。
(待てよ。今、中川の会社はセキュリティの見直しでゴタゴタしている。)
両津はさっきまでとは違う笑いに変えた。
数日後
両津は中川の会社に行き会社の幹部に会った。
「この度は事件解決に助力していただきありがとうございました。」
「いいってことよ!それより中川が今度やるプロジェクトだがわしも参加することになった。」
「そうなのですか?」
「そうだ。その件で100万必要なんだが今用意できるか?」
「今ですか?」
幹部は疑っている。しかし、両津は押されない。逆に圧をかける。
「中川きらもわしのような頼れる人間になら大金を預けても大丈夫と言っている。わしは中川の親戚だからな。」
「そ…そうですね。かしこまりました。」
幹部は両津に押され現金を渡した。
「うむ、ご苦労。それとこれは極秘事項だ。絶対他言無用だ。分かったな。」
「は、はい…」
両津は応接間から出るとそそくさと走る。
(こんな簡単に現金が手に入るとは!やはり騙すなら機械など使わず対面でした方がいい!)
両津は調子にのり他の社員達からも同様に現金を要求した。最初は詐欺事件のこともあり疑っていた社員達も中川の親戚ということと直接会って頼んでいるということで最終的には渡してしまった。
(素晴らしい!信頼は騙す上で最大の武器だ!)
両津はウハウハが止まらなくなっていた。しかし、いくら口止めしても一度疑われてしまったら意味がない。さすがに怪しいと思った社員の1人が中川に報告した。
「先輩にそんなこと頼んだ覚えはありませんが…」
中川はまさかと思った。それを見た時行が中川に提案する。
「中川さん。両さんが解決してくれた方法と同じ方法を使ってみては如何でしょうか?」
両津がニヤニヤしていると電話が来た。時行からだ。
「どうした時行?」
『両さん。中川さんが両さんにプロジェクトの参加をお願いしたいので本社に来てくださいと言っていました。』
「そうか!」
両津は電話を切るとニヤリと笑った。
「実際にプロジェクトに参加すれば信憑性がぐんと上がる。堂々と出来るぞ!」
両津がニコニコで本社に来る。すると、中川と時行がいた。後ろには両津が騙していた社員達もいる。全員が両津を睨んでいる。
「あ、あれ?皆さん、どうかされました?」
両津は冷や汗だっくだくの状態で惚けるが中川達の反応は変わらない。
「本当に騙していると思っているうちは簡単に騙せるのですね。」
時行が呆れている。そして、社員達が一斉に両津を追いかけた。
「お金返してください!」
「信じてたのに!」
「くそー!このままいけると思ったのに!」
「先輩が騙すの得意だと忘れてました。」
「両さん。最初はカッコ良かったのに…」
社員達から逃げる両津を見て中川と時行は呆れてしまっていた。