新葛飾署前
そこに複数の人影があった。駐車場を通った椎名が警戒している。しかし、周りの警察官達は誰も怪しんでいる様子はなかった。隣にいる小町に聞く。
「小町先輩。あの人達は誰ですか?」
「あの人達?あぁ、あれね。借金取りよ。」
「借金取り?」
「あの原始人、いつも商店街でツケにして逃げてるから給料やボーナスがくる度に商店街の人達が結託して捕まえるのよ。」
「あれはもううちの署の風物詩よね。」
小町と奈緒子が呆れている。すると、フルヘルメットをかぶった男が入口から猛ダッシュで出てきた。そこに体格の良い男達が速攻で捕まえた。ヘルメットの男の前に尾崎が現れる。
「両さん。今度こそちゃんとツケを払ってもらうからね。」
尾崎がヘルメットを取る。しかし、両津ではなかった。尾崎の後ろに商店街のメンバー達が集まる。
「違う!?」
「あ、あの…私は警察官にこの格好で警察署前にいる人達から逃げ切れたら罰金免除と聞いただけです…」
「やられた!」
「問題ない。まだ、想定内だ。」
尾崎のトランシーバーが鳴る。裏手に張り込ませた仲間達からの連絡だ。
『すみません!両さんに逃げられました!』
「なに!?」
『両さん、2階のトイレの窓から飛び降りたようで…』
裏手に張り込ませた八百屋の主人が申し訳なさそうに話す。しかし、尾崎は怒るどころか余裕の笑みをこぼしていた。
「甘いよ両さん。こちらには奥の手がいるんだ。」
その両津は逃げ切れたと思い笑っている。
「わははは!このままデパートに行って買い込んでやる!」
両津がデパートに向かって走っている。すると、そこに時行が現れた。
「両さん。どちらに行かれるのですか?」
「時行か。ボーナスが入ったからパーっと買い物するつもりだ。時行もどうだ?」
「はい!お供いたします!」
2人は並んでデパートに向かって歩く。その様子を後ろから見ている人影がいた。時行はチラチラ後ろを見ている。気になった両津は時行に話しかけた。
「どうした時行?」
「い、いえ。なんでもありません。」
時行はとっさに嘘をつく。デパートの前に到着した。すると、今度は時行が両津に話しかけた。
「両さん。その…」
「なんだ時行?」
「ボーナス…私が預かりましょうか?」
「いきなりなんでだ?」
両津の言葉に時行は尋常じゃない汗を流す。
「さ、さっきボーナス取られそうになったと聞きましたので!私なら安全です!」
「そうか。なら渡そう。」
両津はそう言って封筒を渡す。そのままデパートに入ると時行は両津から離れた。そのまま後ろにいた人影に連れられ近くの車に行く。そこには尾崎達がいた。
「えっと…」
「よくやった時行君。」
尾崎は時行から封筒を受け取る。しかし、封筒を開けると中は新聞紙を札束のように纏めた偽物だった。時行は目を点にして見ている。
「え、えっと…」
「やられた。両さん、もし取られた用に偽物を予め用意していたか。」
時行はしょぼんとしているも尾崎はフッフッフッと笑いトランシーバーを取り出す。
「そっちはどうだ?」
『両さんはこちらを警戒しています。』
「ならばプランBだ。」
一方、両津は隠し持っていた現金を数えている。すると、両津の前に時行が現れた。
「時行か。」
「両さん。商店街の皆さんにツケ払いましょう。」
「単刀直入できたな。」
両津は後ろをチラッと見る。こちらを監視している人影がいる。さっきの人達だ。彼らも両津からツケを払ってもらおうとしている商店街の人達だ。
(予想通り時行は商店街に着いていたか。)
「約束を先延ばしにするのは良くないですよ。」
「悪いな時行。」
「そうですか…」
時行が深呼吸する。
「では両さん。鬼ごっこしましょう!」
「何故そうなる!?」
「私が鬼になります!」
「なにぃ!?」
時行が素早く両津に接近する。それを両津は避けた。
「行きますよ両さん!」
「時行君なら油断すると思ったがそれでも失敗した場合、時行君と協力し両さんを追い詰め捕まえる。これがプランBだ。」
時行や監視している商店街の人達に着けているカメラから見ている尾崎が笑っている。両津は逃げる。それを時行は楽しそうに追いかけ始めた。
︽ 令
北 借 和
条 金
取 鬼
時 り ご
行 鬼 っ
︾ こ
両津は人混みの中を抜け逃走を図る。しかし、時行と距離を離すことが出来ない。時行は身体を低くし人混みに隠れる。
「まずい。どこに時行がいるか分からん。」
両津は人混みは不利と判断しエスカレーターを降りて広いフロアに逃げた。それを商店街の人達が追うも見失う。
「すみません!見失ってしまいました!」
「大丈夫だ。両さんは今2階フロアを南に逃走している。」
尾崎は横のモニターを見る。暗い画面内を明るい点が移動している。時行に着けている発信器だ。
「時行君は常に両さんを追いかけている。我々はデパートの出入口と各フロアを見張っていればいい。」
「油断するんじゃないよ。時行君ばかりに頼るなんて情けないじゃないか。」
「分かっています。」
駄菓子屋のおばちゃんが隣に来て指示を出す。一方の両津はまたエスカレーターを上がろうとするも商店街の人達が既に先回りしていた。
「くそっ!」
両津は近くの洋服店に逃げ込む。時行も追いかけて入る。後から来た商店街の人達も入ろうとしたところを駄菓子屋のおばちゃんが止めた。
『あんたらが行っても時行君の邪魔になるだけだよ。出入口を塞いでおきな。』
「分かりました。」
洋服店に逃げ込んだのはいいが時行のような小柄な少年は隠れるのにうってつけだった。両津は洋服店から出ようと時行から隠れながら出入口を見る。
「やはり見張りがいるか。」
「観念しましょう両さん。」
「断る!」
両津の真後ろまで時行が迫った。両津はすぐに出入口に向かう。商店街の2人が捕まえようとするも両津は2人の間をすり抜けるように避け逃げた。
「しまった!」
両津はすぐに洋服店から出てフロアへと逃げる。時行も洋服店から出て両津の追跡を続ける。
「すみません!逃げられました!」
『大丈夫だ。全ての出入口はこちらで見張っている。デパートにいる限り時行君から逃げることはできん。』
尾崎がデパート内にいる仲間達に指示を出す。一方の両津は時行から距離を取ることが出来た。しかし、出入口は固められている。しかも、警察官の格好だから目立つ。
「しっかりと固められてるな。」
両津は後ろをチラッと見る。まだ、時行も商店街の人達もいない。
「よし。今なら…」
時行は尾崎から連絡を受けていた。
『両さんは買い込んでボーナスを使いきる算段かもしれん。両さんが行きそうな店はこちらで見張っているから君は両さんを追いかけることに集中してほしい。例え捕まえることが出来なくても追い詰めることが出来ればこちらで捕まえる。』
「わ、分かりました。」
時行は両津の性格を考え逃げ道を考察する。目の前に警備員を見つける。
「両さんなら…」
その両津は堂々と歩いていた。警備員のふりをし関係者以外立入禁止の場所に向かっていた。
(例え買い込んでもそれを取られたら意味がない。買ってすぐ食べるにしてもこの姿じゃ目立つ。なら、今はデパートから逃げきることを優先だ。)
両津は尾崎達の裏をかこうと敢えて何も買わずに関係者としてデパートを出ようとした。その時、両津の前に時行が現れた。先回りされていたのだ。
「なっ!?時行!?」
「両さんなら囲まれた状態での買い物より先に囲いから脱出すると睨んでましたよ。デパートには両さんに似た服の人が普段は入れない場所に入るのを見ましたので多分ここだと予測しました。」
「しまった!」
両津が逃げようとするも後ろも塞がれた。
「よくやった時行君!」
尾崎も車から出て急いで向かう。ジリジリと追い詰められる両津。その時、両津は1万円札を投げた。
「こんなところにお金が!」
両津の声に反応した商店街の人達。急いで取ろうとした瞬間、聞いていた客達も押し寄せ奪い合いになってしまった。両津はその隙をつき逃げる。それを時行が追いかける。
「今だ!」
両津は人混みを抜けエスカレーターを駆け上がる。時行もエスカレーターを駆け上がり両津を追いかける。
「さすがに時行は惑わされんか。」
両津は立体駐車場に入り降りようとするも時行が近道するのを見て反対方向に逃げた。
「くそぉ!逃げ上手だからどう逃げたら相手が嫌がるか熟知してやがる!」
「逃がしません両さん!」
一方
「馬鹿野郎!これは玩具のお札じゃないか!」
尾崎が逃がしてしまった商店街の人達に怒っている。
「両さんめ。新聞紙の他にもダミーを用意していたとは…」
『両さんなら立体駐車場を上がっているよ。今、時行君が追いかける。』
「よし!我々も向かう!そっちも車で追い詰めてくれ!」
両津は時行から逃げ立体駐車場を上がった。しかし、前に来た車に塞がれた。
「まずい!」
両津は車の間をすり抜け屋上まで逃げた。そこに時行や尾崎筆頭に商店街の人達が集まる。
「観念しろ両さん。」
「時行を使うとは…」
「以前見た逃げ足を買ったのだよ。」
ジリジリと詰め寄る尾崎達。しかし、両津は諦めない。猛ダッシュで駐車場を走り向かいの工事中の別館駐車場に飛び込もうとした。それを見越した尾崎が時行に手錠付きの弓矢を渡した。
「頼んだぞ!」
「任せてください!」
時行は弓矢を引き狙いを定め矢を放った。矢は両津の脇をすり抜け手錠が両津の腕を捕らえた。
「なにぃ!?」
「さすがだ時行君!」
尾崎は手錠に着いているワイヤーを引き両津の動きを止める。時行は直接捕まえようと駆け出す。
「時行!この前寝言で言っていた『主従逆転ごっこ』ってなんだ!?」
「!?」
時行は赤面して止まる。尾崎達も?を浮かべ隙が出来てしまった。両津はそれをチャンスと逃げを試みるがワイヤーが足に引っ掛かり派手に転んだ。その際、隠していた本物のボーナスが懐から出てしまった。
「しまった!」
両津が叫ぶも時既に遅し。札束はヒラヒラと落ちていきながら舗装中の道路のコンクリートに混ざっていった。結局、ボーナスは道路へと消えていったのだ。それを見た両津や時行、尾崎達は諦めるしかなかった。
後日
「すみません両さん。」
「時行君が気にすることはない。この馬鹿の自業自得だ。」
派出所の机にうつ伏せになり絶望している両津がいた。