ある日、時行が派出所に行くと両津が何か作っていた。いつものプラモデルじゃない。気になった時行が両津に聞いてみる。
「両さん。何を作っているのですか?」
「城だ。松本城を作っている。」
「城ですか?」
時行はキョトンとして見ている。
「知らんのか?」
「そう言えば城が本格的に軍事基地として使われるのは室町時代からですね。」
両津の後ろにいた中川が補足してくれた。
「そうなのか?」
「少なくとも私は城を知りません。」
城を知らない時行に教えようとする両津。そこに大原部長が入ってきた。
「またサボりか両津。」
「ぶ、部長!」
「ほぅ。松本城か。」
両津が作っている途中の状態でも当てた大原部長に時行は驚いた。
「凄いですね!」
「この特徴的な黒い天守は松本城だけだからな。」
「実は両さんから城について聞いていたところなのです。」
時行の発言を聞いた大原部長は両津を見る。そして、フッと笑うと時行の頭を撫でた。
「城なら両津よりもわしの方が詳しいぞ。」
「そうなのですか?」
実際にそうだからと何も言えない両津。
「ならば、わしが時行君に城というものを教えてあげよう。」
「はい!」
「長くなるぞ。」
大原部長はついでと両津も交えて2人に講義を始めた。
「まず、城というものはなんだ両津?答えてみろ。」
「戦うための軍事基地です!」
「そうだ!本来、城とは敵から身を守るためにある!そのため見つかり難く攻め難い山奥や頂上に築く!」
「確かに私も小笠原殿と最後に戦った場所は山奥にある大徳王寺城でしたね。」
大原部長の説明に時行が反応する。
「おかげさまで4ヶ月ぐらいはなんとか保ちました。」
「そうだろう!かの有名な比叡山延暦寺も足利尊氏から後醍醐天皇を守った!最終的に織田信長によって1571年に焼き討ちされるまで耐えたのだ!」
「延暦寺って凄いのですね。」
「そこから城は軍事よりも政治の拠点として利用されるようになった。城には最初に言った難攻不落にするために山奥や頂上に築く『山城』。政治拠点のために人の多い丘などに築く『平山城』。平地に築く『平城』がある。」
大原部長は両津にメモするように促す。両津は嫌々ながらも言われたとおりにメモする。
「時行君の時代はまだ軍事拠点としての城が少ないため寺などを拠点にしていた。」
「そうなのですね。」
大原部長の講義はまだまだ続く。両津は飽きて寝ようとする。そこに大原部長が木刀で頭を叩く。両津は頭を抱えのたうちまわる。
「ちゃんと聞け!」
「あの…大原さんはどんな城が好きなのですか?」
「うむ。いい質問だ。」
上機嫌になった大原部長がいろいろ考える。
「まずは幻の安土城。あと犬山城や二条城もいいな。…だが、今わしが好きなのは…白鷺城と呼ばれた国宝、姫路城だ。」
大原部長が窓から外を眺め呟く。それを両津は呆れた顔で見ている。すると、大原部長は何か思い付いたのか振り返った。
「そうだ。今度、姫路城に行こう!」
ということで大原部長は休日に時行を連れて姫路城に向かった。後ろには一緒に連れて来られた両津と中川と麗子もいる。
「おぉ…大きいです。」
「そうだろう。姫路城は1346年に赤松貞範によって築城された。」
「あれ?1346年って…」
「時行がまだ生きていた時代か。」
大原部長の蘊蓄に時行が反応する。時行が処刑されたのは1353年。つまり、姫路城は時行が生きている時代からあったのだ。しかし、時行は姫路城の存在を知らなかった。
「そう言えば、私は京都より西に行ったことがありませんでした。」
「だから知らなかったのか。」
「そこから姫路城は小寺頼季や山名宗全の名前で知られる山名持豊や豊臣秀吉を名乗る前の羽柴秀吉が入城した。そして、1600年に池田輝政が最後に入城した。」
「長くなるな。」
「始まりましたね。」
大原部長の話に両津がしかめっ面をする。大原部長の蘊蓄を聞きながら姫路城に向かう。
「かなり遠いですね。至るところに門もありますし。」
「それが城の特徴だ。相手が攻め難いように迷路のような通路や区切るための門。上がり難い階段。狭い道。無数の狭間。登り難い石垣。これらが城の魅力なのだよ。」
「狭間?」
「弓矢や鉄砲で迎え撃つための設備だ。撃つ側の方が少し広がっているため様々な角度から撃つことが出来る。」
大原部長が狭間を指差して時行に説明する。そのまま姫路城に入ると中は外から見た白い壁とは違い質素な感じになっている。
「中は白くないのですね。」
「城は要塞だ。攻め込まれた時用の防御設備や最低限の生活環境だけがある。」
いろいろと聞いてくる時行に大原部長は気持ちよくなっている。大原部長は蓋された場所を指差して時行に問題を出した。
「時行君。これが何か分かるかね?」
「え、え~と…」
「ヒントはこの蓋を開けると下は石垣だ。」
「何かを…落とす?」
「正解だ!これは石落としと言って下にいる敵兵や石垣を登ろうとする敵兵に向かって石を落とすための設備だ。」
大原部長が時行に説明する。そこに両津が補足した。
「ちなみに、石が無い場合は糞尿を撒き散らすこともあるぞ。」
「バカモン!それは教えなくていい!」
「いいじゃないですか!」
大原部長が両津を殴る。そこからも大原部長は広く長い廊下や洗い場、東小天守、乾小天守、西小天守、そして本丸の大天守を案内しながら時行に説明した。
「部長さん。ご機嫌ね。」
「部長は教えたがり世代だからなんでも聞く時行とは相性がいい。」
完全に両津達は蚊帳の外状態になっている。時行は大原部長の話を聞きながらも気になったことを質問した。
「そう言えば、私の時代から現存する城ににしては綺麗ですね。外も内も汚れはもちろん、傷すらないようですが…」
「素晴らしいところに眼を着けた!」
大原部長のテンションがさらに上がる。
「実は…姫路城は一度も戦火にみまわれたことがない。」
「そうなのですか!?」
「そうだ!軍事拠点として使われたことはあっても攻められたことが一度もないのだよ。」
「それと年に一度、自衛隊が姫路城を訓練として清掃しているんですよ。」
大原部長の説明にさらに中川が補足した。
「普通にボランティアでいいだろ。なんでわざわざ訓練にする必要がある?」
「それは…そうですが…」
両津の言葉に中川が言葉を濁す。中川はすぐに時行に補足を追加して両津の言葉から逃げた。
「他にも空襲の際、目立たないように黒く染めた偽装網を被せたり姫路城周辺でドローンを飛ばすのを禁止にしたりと国宝を守る取り組みが何百年と続いているんです。」
「その間に何度も改修されている。」
「凄い歴史があるのですね。」
「時行君もその凄い歴史の中にいたのよ。」
大原部長達の説明に時行が頷いている。
「城には歴史がある。戦の歴史。人の歴史。そして、文化の歴史。当時の歴史がこうして知れるのも城の魅力なのだよ。」
「…私の時代って本当に何も残ってないですね。」
「それは時行君の時代が特殊すぎるからですね。」
遠い目をしている時行を中川がフォローする。姫路城から出て外から本丸を見る。白く美しい姫路城に心撃たれる。今度は大原部長が時行に質問した。
「もし、時行君が姫路城の城主だとしたらどうやって籠城する?」
時行はいろいろ考える。
「まずは逃げ道と逃げる先をいくつか用意します。」
「時行君らしい考えね。」
「それともし奪われそうになったら城の至るところに糞尿を撒き散らします。」
「両津のせいだぞ!」
「わしですか!?」
(玄蕃ならそうしますね。)
時行の発想に脱帽する中川達。
「と、時行君らしい考え方ね…」
「確かに僕ならそんなところを拠点にしたくはないですね。」
こうして、大原部長の姫路城観光は終わった。
そして…
「時行君。これが豊臣秀吉が築城した大阪城だ。1583年に築城され…」
「あれから部長、時行君にずっと城を教えてますね。」
「部長にとって時行は孫みたいなもんだからな。」
派出所で延々と様々な城を時行に教えている大原部長。それを両津と中川はじっと見ていた。