ある日
時行は学校で弧太郎から伯父の話を聞いていた。
「鷹匠?」
亜也が首を傾ける。
「はいっす。鷹を操っていろんなことする職業みたいっすよ。」
「なかなか聞かない職業だね。」
亜也がチラッと横を見る。時行が凄い興味を示していた。
「時行の目がキラキラだ。」
「確かに鷹匠なんて滅多に見ないですから興味も湧きましょう。」
雪長の言うことももっともだが時行は違う理由で目をキラキラ輝かせていた。
(頼直殿や弧次郎殿と同じだ!)
「是非!その方に会いたいです!」
「い、いいッスよ。」
時行が弧太郎に詰め寄る。
数日後
弧太郎が時行達を連れて公園に行く。そこには端正だが無愛想な感じの男性が腕に鷹を止まらせていた。あの人が弧太郎の伯父の鷹匠だと分かった。
「来たッスよ~!」
「待ってたぞ。」
青年は時行達に名刺を渡した。
「米津…しょうじき?」
「正直(まさなお)だ。」
正直が鷹を時行達に見せる。初めて近くで見る亜也達は興奮していた。時行も久しぶりの鷹に興奮している。
「カッコいいですね!その鷹はなんて名前なのでしょうか?」
「サンキュー。こいつの名前は頼直だ。"頼りで素直"が由来だ。」
正直が紹介した鷹の名前が頼直ということに笑いを堪える時行。
(よ、頼直殿が…鷹を使って素晴らしい偵察をした頼直殿が鷹に…)
「時行君?」
「どうかしたのですか?」
「い、いえ!なんでもありません!」
時行は誤魔化すために話を反らした。
「そ、そうです!鷹匠ってどんなことをするのですか!?」
「私も気になる。」
時行の質問に亜也が乗る。時行は内心誤魔化せたとホッとしていた。正直は時行の質問にフッと笑った。
「それを今から見せる。」
正直が電柱の上を見る。時行達も上を向くとカラスの群れがいた。すると、正直は頼直を飛ばしてカラスの群れを追い払った。
「カラスや鳩が電線に止まったり電柱に巣を作ったりすると断線や糞による被害が出る。鷹匠は鷹を使ってそういう被害を未然に防ぐ仕事をしている。」
「すげぇ!伯父さんすげぇ!」
「イベントのみの仕事だと思ってた。」
「一応それもある。」
静の発言に汗を流す正直。そのイベントでよるする芸を見せてくれた。高く飛ばした玩具を取らせたり亜也と静が作った腕の輪っかの中を通らせたりした。
「凄い…」
「テレビでよく見るやつ!」
拍手する時行達。正直が頼直にエサを与えている。すると、渚が空を指差した。振り向くと風船が飛んでいる。下には泣いている女の子がいる。
「どうやら、うっかり手を離してしまったようですね。」
「なら…」
正直は口笛を吹きながら頼直を飛ばす。頼直は真っ直ぐ風船に向かい風船の糸を咥えると下降して正直の腕に戻って行った。
「お見事。」
静がスマホでその様子を撮影している。正直は風船を女の子に返す。女の子と母親は正直と頼直にお礼を言う。親子を手を振って見送る。
「テレビで見たことありますが実際に見ると圧巻ですね。」
「鷹は戦国時代から鷹狩に使われていました。それは江戸時代になると盛んになり今もこうして鷹匠は続いています。」
「そういえば、鵜も昔から人に飼われていましたね。」
「その通り。鵜も鮎を捕まえるために昔から人に訓練されてきた鳥です。なので、鵜や鷹が獲物を探す様子に例えて、少しも見逃さずものを探し求める様子や、その目つきを表す慣用句を"鵜の目鷹の目"というんですよ。」
「「「へぇ~。」」」
正直は時行達に頼直を撫でさせながら説明する。時行は頼直をジーと見て気になったことがあった。
「私が昔見た鷹より小さいような…」
「それは鷲では?」
「鷲と鷹ってどう違うの?」
「俺も気になるッス。」
時行に加えて亜也と弧太郎も質問した。
「明確な分類はありませんがタカ科に分類される種の中でも比較的大きい種を鷲、小さい種を鷹と呼ぶようになっています。ちなみに、頼直はハイタカという種類の鷹です。」
正直が教えているとパトカーのサイレンが聞こえてきた。なんだろうと振り向くとパトカーが急いで通り抜けて行った。時行が公園を出ると丁度中川と大原部長が乗ったパトカーが来た。
「どうされたのですか?」
パトカーが止まり時行が聞く。
「先程、亀有銀行で強盗事件が発生した。犯人は2億円を強奪し今もこの辺りを逃走中だ。」
大原部長が教えてくれる。雪長達がどうすればいいか考える。時行は頼直を真っ直ぐ見ている。
「あの…頼直さんで強盗犯を見つけることはできますか?」
「いいっすねぇ!」
「時行天才!」
「どうでしょうねぇ。」
時行の提案に弧太郎と亜也が乗るも正直は首を傾けた。
「頼直は万能ではありません。まず、犯人の顔や体型が分からないと探すのは不可能ですし既にここから離れていると探すことすら難しいかと。」
「犯人の映像ならありますよ。」
中川は大原部長に許可を貰い銀行強盗の監視カメラの映像を見せた。帽子を被った髭面の男が映っている。
「分かりやすいですね。」
「それに銀行強盗が発生してからまだ1時間ほどです。既にこの辺りは警察がかためていますので亀有からはまだ逃走していないはずです。」
「それならばやってみましょう。」
正直は頼直に強盗の映像を見せる。そして、口笛を吹き頼直を天高く飛ばした。頼直は亀有の空を舞い強盗を探す。すると、裏路地にその強盗がいた。
「上手くいった。後は…」
強盗は周りに誰もいないことを確認すると髭を取り帽子も捨てた。近くに置いてあるスクーターに金が入ったバッグを詰め込み逃走する。頼直はそらを見ると輪っかを描くように旋回した。
「あそこだ。」
正直が頼直を指差す。中川達は急いで行く。強盗は裏路地を抜けて悠々とスクーターで逃走する。そこに中川達のパトカーが到着する。
「すみません!」
中川に止められ振り向く強盗。ヘルメットを外し中川達の質問に答える。周りの警察官は映像と強盗を見比べる。髭が無いため違うと思い始めている。
「強盗?私は知りませんね。」
「調べてもよろしいでしょうか?」
「嫌だよ。犯人は髭面の男でしょ?じゃあ、さっさとその男を探した方がいいですよ。」
しらばっくれる強盗。そこに時行がやってきた。両手には付け髭と帽子がある。映像に映っていたのと全く同じだ。
「これ、あなたのですよね?」
強盗はあんぐりと口を開ける。中川達が調べる。この付け髭と帽子は間違いなく強盗の物だった。
「なるほど。付け髭か。」
「それが俺の物という証拠は!?」
「付け髭には皮膚片、帽子には髪の毛が付着しています。これを調べたらすぐ分かりますよ。」
中川に詰め寄られ強盗は拳銃を取り出す。
「GO!」
その時、頼直が急降下し強盗の拳銃を掠め取った。強盗は青ざめスクーターで逃走を図るも慌ててしまい電柱に激突する。その際にスクーターからバッグが落ち強奪した2億円が宙を舞った。強盗はそのまま逮捕され事件は解決した。
「素晴らしい活躍でした!」
「いえ。」
大原部長が正直と握手する。
「それにしても凄いね頼直!」
「頼直君が居なかったら逃げられていたかも。」
亜也や渚達が頼直を撫でながら褒める。
「鷹は元々地上の獲物を捕るため視界は広く素早い動きで旋回、急降下が可能。頼直の場合はたまに迷子捜しもしているため人を見つけるのも得意なんですよ。」
正直の説明に唸る弧太郎達。しかし、時行だけは懐かしむ気持ちでいっぱいだった。
(南北朝でも頼直殿が鷹を使って偵察をしていましたね。大徳王寺城の時も弧次郎殿が…)
令和でも鷹の活躍を見られて満足だった時行。
「まったく。両津の奴、どこ行った?」
すると、後ろの方で大原部長が両津に悪態をついていた。両津はパトロールに出たっきり連絡が着かない。すると、時行が正直にお願いした。
「すみません正直さん…」
両津はパチンコにいた。久しぶりに儲かったと札束を見てニヤニヤしている。
「ここは部長も知らない穴場だからな。時間があれば…」
「両津。」
ギクッ!とした両津が振り向く。そこには大原部長がいた。後ろには時行達。上に頼直がいる。
「部長!なんでここが!?」
「貴様という奴は~!!!」
両津は必死に逃げるも頼直が両津を逃がさない。頼直を頼りに大原部長が両津を追う。それを見ている時行達。
「さすがですね。」
「これならどんな穴に逃げても見つかりそうですね。」
「先輩専用の鷹が必要になりそうですね。」
大原部長と頼直から逃げる両津を見て改めて鷹と鷹匠の凄さを知る時行達であった。