両津がテレビを見ている。そこに時行が来た。時行もテレビを見ると流鏑馬をしていた。
「流鏑馬ですね。」
「そうだ。お前ならトップいけるだろうな。」
両津は時行にスマホを見せた。『令和の犬追物選手権』と載っている。
「犬追物…それって犬に矢を当てるのですよね?そんなことしたら…」
「甘いな。確かにお前がいた南北朝は犬だが令和の犬追物はドローンに当てるんだ。」
両津がスクロールしてルールを見せる。
一.出場者は馬に乗りドローン、又は騎手に矢を当てることでポイントを得る。騎手の背中に的がある。
二.矢は先がゴムで出来ている。最初の手持ちは10本。指定場所で補充は可能。
三.制限時間は3時間。ポイントを多くゲットした者を優勝とする。
四.犬型ドローンは10P、飛行ドローンは50P、騎手は100Pとなる。
五.落馬しても続行可能。但し、怪我などで継続不可と判断された場合は退場となる。
六.制限時間経過した後、ポイントが同じになった場合、一騎討ちにて先に相手に当てた方を勝者とする。
「ドローンを使った犬追物…」
時行が興味津々に見ている。南北朝時代では小笠原貞宗とやった犬追物。それを令和に、さらに安全に出来るというのだから無理もない。
「やりたいか?」
「はい!」
両津の問いに二つ返事で出場を決める時行。両津も参加すると言って2人で参加を申し込んだ。両津はスクロールする。そこには《賞金1000万円》と表示されていた。
大会当日
両津達は馬に乗りヘルメットや鎧を着け会場に集まった。時行はワクワクが止まらない。そこに見覚えのある人を見つけた。時行は直ぐ様そこに行く。
「早矢さん!」
「時行君。」
凛とした佇まいの早矢がいた。両津も気付きやって来る。
「やっぱり早矢も来たか。」
「はい。皆さんも来てますよ。」
早矢が見つめる先に右京と左京がいた。時行はさらに目をキラキラ輝かせているが両津はライバルが増えたと警戒していた。そこに時行達に気付いた右京と左京が近付いてきた。
「お久しぶりです時行君。」
「久しぶりだな。」
「お久しぶりです!右京さん!左京さん!」
「お前達も来てたか…」
よく見ると早矢も右京も左京も愛馬に乗っていた。
「自分の馬有りか。」
「申請すれば許可出ますわ。」
両津達が仲良く会話している。その様子を観客席から椎名達が見ていた。
「時行様って馬乗れるんですね。」
「あの歳で既にプロ級よ。」
「見たら驚くでしょうね。」
麗子達が会話しているとステージに主催者が現れた。派手な鎧を身に纏い大きい弓矢を構えている。
「顕家卿みたいな方ですね。」
「派手だな。」
「皆の衆!よくぞ集まってくれた!我輩は日本流鏑馬連盟会長の…北畠顕光之助伊右衛門太郎である!」
「顕家卿と同じ名字!」
「まさか、あいつが北畠顕家の子孫とかじゃないだろうな。」
時行と両津が汗を流して顕光之助伊右衛門太郎を見る。
「流鏑馬は世界一美しい競技である!人と馬が絆を合わせ一瞬の時を持って的を射ち抜く!そして、犬追物はその的を犬にした戦国時代の競技である!我輩はそれをドローンで再現した!」
「令和って凄いのですね。」
「今の時代に南北朝の犬追物なんかやったら叩かれるだろうからな。」
(確かにそんな感じのことを頼重殿が言っていたような…)
顕光之助伊右衛門太郎が熱弁する。顕光之助伊右衛門太郎による開会式が終わる。両津達はスタート位置に並んで弓矢を構える。
「準備はいいかぁ!?行くぞぉ!3…2…1…スタートぉ!」
一斉に飛び出す参加者達。最初の1時間は騎手に当てるのは禁止となっているためドローンを狙う。時行も飛行ドローンを狙って射つ。その瞬間、正確無比な一射が時行が狙っていたドローンに命中した。そのせいで時行の矢は外れてしまう。
「!」
時行が振り向くと小笠原時宗がいた。両津も時行の隣に来る。
「時宗殿!」
「お前か…」
「面白いところで会うな北条時行。」
「流鏑馬もできるのですね。」
「小笠原流は流鏑馬も含まれているからな。」
(貞宗殿だ!)
時行はワクワクしていた。獲物を横取りされたがそれ以上に再び対決できることに喜んでいた。3人は別れ別々のドローンに矢を当てる。
『1時間が経過しました。今から騎手も標的になります。』
アナウンスが流れた。その瞬間、一斉に近くにいる騎手に矢を向ける。背中の的に当てないと点数にならず意図的に顔などに当てれば失格となるため慎重に狙いを定める。そんな中で最初に当てたのは左京だった。
「左京さん!」
その光景を時行は見ていた。周りから飛んでくる矢を躱しながら左京を見る。そこに右京も来た。右京も流れるような矢で騎手に当てる。そして、時宗が早矢を狙った。早矢はそれに気付き避ける。
この場に5人が揃う。全員、弓矢も馬術も達人レベルだ。お互いに距離を取り周りからの矢を避けお互いを確認する。
「久しぶりの鬼ごっこですね。」
「そうですわね時行君。」
「負けんぞ。」
「私もですわ。」
「これほど興奮することはないな。」
「わしが完全に蚊帳の外だ…」
矢が激しく入り乱れる中、5人が一斉に馬を走らせた。
令和鬼ごっこ
磯鷲流
《磯鷲 早矢》
飛鷹我流 飛鷹我流
《飛鷹 左京》 《飛鷹 右京》
小笠原流
《小笠原 時宗》
最初に矢を放ったのは時行だ。左京の背中目掛けて射る。しかし、左京はそれを身体を捻って避けた。続いて時宗が早矢を狙う。早矢もそれを避けた。
「さすがにこれで当てれる程、磯鷲流は弱くないか。」
時宗が再び早矢を狙おうとする。そこに時行が近付いて来た。至近距離から矢を射る。時宗はすぐに気付き時行の矢に自分の矢を当てた。
「凄いです時宗殿!」
「あの時の再戦といこうか北条時行。」
時行と時宗が射ち合いを始める。早矢がそれを見守っていると左京が来た。
「私達も再戦しましょう早矢。」
「はい。」
早矢も左京とバトルを始める。右京は2つのバトルを邪魔させないように周りを牽制しつつ見守る。その様子を見ていた中川達は言葉を失っていた。
「なんか…時行様のところだけ、次元が違う。」
「さすがですね。」
「小笠原流も日々進歩している。あの時の俺とは思わないことだ。」
「はい!」
2人の矢が激しく入り乱れる。そこに早矢と左京がバトルしながら割り込んで来た。その瞬間、時行は早矢に、時宗は左右に狙いを変えた。
「飛鷹左京。丁度いい。貴殿の腕も経験したかったところだ。」
「いいだろう。」
「私も入りたいですわお姉様。」
「早矢さん!」
「時行君。あの時の続きをしましょう。」
「はい!」
目まぐるしく変わる戦況に追い付かなくなる中川達。全員、後ろを取られないように馬を走らせる。早矢が時行の背中を取った。そのまま時行に目掛けて矢を射る。それに対して時行は身体を大きく仰け反らせ矢を避けると同時に矢を射った。
《パルテノンショット》
時行の矢は早矢を掠め右京に飛んでいく。右京もギリギリで時行の矢を躱した。
「右京。お前は時行だ。」
「分かりました。」
右京が時行と早矢のバトルに混ざる。変幻自在の矢がなくとも右京は強敵だ。再び静寂に包まれる。周りの雑音が聞こえなくなる。その瞬間、走り出すと同時に3人の矢が放たれた。3人とも身体を反らしたり捻ったりして躱す。
「凄いですわね時行君。」
「ありがとうございます右京さん。」
時行は楽しそうに笑うと鞍に立った。驚異のバランス力で立ちながら矢を2本同時に弓にセットする。そして、勢いよく身体を捻りながら矢を放った。
「あれは…」
早矢と右京が紙一重で避ける。時宗はその姿に最初に時行と闘った時を思い出す。そこに左京が矢を射る。時宗も左京ももう矢が無い。2人は急いで指定場所に向かい矢を補充する。そこに時行達も来た。
「楽しいですね!」
「はい。」
時行達が笑い合っている。矢の補充を終え再び駆け出す。時宗が先制し矢を連射する。それを時行達は避ける。右京が前にいる犬型ドローンに矢を当て弾き飛ばす。そこを左京が駆け抜ける。
「行くぞ右京。」
「はい!」
左京と右京が同時に時行を狙う。時行は馬の上でジャンプし身体を回転させて躱した。それを見た観客達から歓声があがる。
時行が馬に乗る。その瞬間を時宗は狙った。そこに早矢が援護するように時宗に向かって射る。時宗は紙一重で躱して早矢に射った。
5人の乱戦が大会の最大の目玉になっている。それに顕光之助伊右衛門太郎は感動してていた。
「これだ…これこそが私が望んでいた美しい流鏑馬だ。」
キラキラ輝く鼻水を垂らし涙を流している。流鏑馬大会も佳境に入る。5人の乱戦はさらに熱くなる。時行が乱戦の中心にいる。四方八方から射られる矢を躱しカウンターで射る。
「これでも背中どころか身体のどこにも当たらないとは。」
「さすが時行君ですね。」
時行が時宗を狙う。そこに騎乗したまま高くジャンプした左京が上から時行を狙った。時行は狙いを変え放たれた左京の矢に自分の矢を当てた。左京はそのまま時行から距離を取る。隣に早矢が来る。至近距離から一射を互いに避ける。右京が早矢を狙う。早矢は左京から離れ背中を隠す。右京は狙いを時宗に変える。時宗も右京から距離を取る。その時、時宗の背後から時行が現れた。
「これなら…」
時行が至近距離で射る。その矢を時宗が掴んだ。それに驚く時行に時宗はお返しと掴んだ矢で射った。時行は馬の腹に移動して掴まり避ける。
「もう曲芸の域だな。」
さすがの時宗も引いていた。そして、時行達全員が弓矢を構え狙った瞬間…
『タイムア~ップ!』
ベルの音と共に終了のアナウンスが流れた。時行達は弓矢を収め集まる。前にあるモニターからは白熱した時行達の乱戦が映し出される。
「では、第1回流鏑馬大会優勝は…」
全員が固唾を飲んで待つ。
「両津勘吉選手~!」
全員がポカンとする。時行達の誰でもない。全く見てなかった両津が優勝したのだ。映像には次々とドローンに当てる両津がいた。
そこで気付く。時行達は時間のほとんどをお互いに当てることしか考えてなかった。一方、両津はその間にドローンや他の騎手に当て順当にポイントを取得していたのだ。
「そ、そういえば…点を取る競技でした。」
「完全に忘れていたな。」
「夢中になりすぎた…」
「やった~!」
両津が大喜びでステージに上がり賞金を受け取る。それを見た大原部長が呆れて席を立つ。
「さぁ。茶番は終わりだ。帰ろう。」
「先輩…」
時行達に期待していた多くの観客達が帰る。優勝はできなかったものの久しぶりに楽しい鬼ごっこが出来たと時行達は満足していた。