夜の葛飾
そこに一筋の光が通った。光はだんだん小さくなり2人の男に変わった。軍服みたいな格好にサングラスの2人組。しかし、どこかおかしい。それもそのはず、この2人は宇宙人なのだ。
「ヒサシブリニキタ。」
2人は周りをキョロキョロ見回しながら歩く。すると、ゴミ捨て場で爆睡している両津を見つけた。口からは酒の臭いを放ち制服を脱ぎ散らかしている。
「チョウドイイ。」
2人は周りを確認し両津以外誰もいないと判断する。
「カレニワレワレノジッケンニツキアッテモラウ。」
2人組の片方が両津に光線を浴びせた。
翌日
両津は起きる。頭が痛いのか唸りながら起き上がる。そこで異変に気付く。近くの鏡には両津の姿が写っていないのだ。服はちゃんと写っている。両津だけが写ってない。
「どういうことだ!?」
両津が慌てると悲鳴が聞こえた。振り向くと眼鏡を掛けた老婆が両津を見て腰を抜かしている。両津は自分の姿を見る。周りからは服だけが浮いて見えるのだ。
「まさか!」
両津は服を脱いで全裸になる。すると、老婆は目を丸くして両津の服をまじまじと見た。
「あらっ?服が浮いてるように見えたけど…気のせいかしら?」
「完全にわしの姿が見えていない。」
両津は再び自分を確認する。全裸の自分は見える。しかし、鏡には写らず影もなかった。
「完全に光を透過させてるのか?」
突然のことに困惑する両津。急いで服を隠し派出所に向かう。派出所に着くと大原部長がカンカンに怒っていた。
「両津の奴。またサボりか?」
「寮にも帰っていないみたいです。」
「また、酔ってゴミ捨て場で寝てるのかしら?」
「そんなところで寝るのですか両津先輩…」
いつもの会話だが両津は怪訝としている。
「部長!わしならここにいますよ!」
両津が叫ぶが誰も反応しない。声も聞こえてないようだ。
「まさか、わしは死んだのか。」
両津は顔を青くさせる。一度、死んだ経験のある両津には心当たりがあった。しかし、今回のはそれとは違う。そう感じた両津は大原部長の肩を叩いた。
「ん?」
すると、大原部長は振り返り両津の方を向いた。しかし、首を傾げ戻る。
「どうされたんですか大原部長?」
「いや、誰かわしの肩を叩いた気が…」
「部長さんの後ろには誰もいないわよ。」
両津は確信した。姿を見せることも声を聞かせることもできないが物理的干渉はできた。
「これは…もしや透明人間というやつか!」
自分が置かれた状況を理解した両津。すると、ニヤリと笑った。大原部長が椅子に座ろうとする。そこに両津が椅子を引く。大原部長は座れずに尻餅を着いてしまった。
「な、なんだ!?」
「部長?」
中川が心配する。今度は中川に膝カックンした。
「うわぁっ!」
「圭ちゃん!?」
今度は麗子が心配する。両津は調子に乗り麗子の耳に息を吹き掛けた。
「きゃぁっ!」
「麗子先輩!?」
椎名がビビって休憩室に逃げる。両津も休憩室に入る。周りを警戒している椎名。眼鏡を外す準備までできている。
「完全に臨戦態勢だ…」
両津は椎名への直接の悪戯を止めテレビを着けた。椎名はビクッとしてテレビを見る。自分は全く触れていないのに一人でに着いたテレビ。両津はさらにザッピングを始める。
「あ…」
椎名は震えだし休憩室から逃げた。そこに時行がやって来た。時行はお尻を擦る大原部長、跪く中川、耳を抑える麗子、休憩室を指差して怯える椎名を見て何事だと思った。
「あの…どうしたのですか?」
「時行君か。いきなり椅子が動いたのだ。」
「僕は膝を突かれました。」
「私は耳に生暖かい風が。」
「テ、テレビが勝手に…」
各々の報告に時行はポカンとしている。両津は時行にも悪戯してやろうと近付いた。その時、時行と両津の目が合った。両津は汗をかきゆっくりと移動する。しかし、時行の視線が外れない。
「ま、まさか…」
「時行様?あの…」
「私達の他に…誰かいませんか?」
「ぎゃあっ!」
時行の発言に椎名達が飛び上がる。両津も飛び上がる。完全には見えていないが時行には気配を感じているようだ。
「やっぱり時行にはバレてる!」
両津は慌てて派出所から逃げ出した。
「時行様って…幽霊とか分かるんですか?」
「似た経験ならありますけど。」
時行の発言に椎名が震えた。
両津は派出所、というより時行から逃げるとどうしようか考えた。透明だが全裸の男が堂々と街中を歩いているのは異様な光景だ。
「完全に変態だな。海パン刑事に何も言えん。」
両津は新葛飾署に来た。全裸で入っても誰も何も言わない。周りを見回しある部屋に入る。そこには眼鏡を掛けた警察官がパソコンを操作している。両津が後ろから覗くと今月の署員へのボーナスが記載されていた。両津は自分の欄を見る。"1980"と記載されている。
「1980円…今時の中学生の小遣い以下だろうが!」
両津が叫ぶも警察官は反応しない。警察官は作業が終わり部屋を出て行く。それを確認した両津はパソコンを点けボーナス支給ページを開いた。
「たった1980でわしが満足すると思うな。」
両津はニヒヒと笑うとパソコンを操作し一桁、二桁と0を増やしとうとう198000000にした。
「ボーナス1億9800万…ククク…笑いが止まらん。」
両津はさらに調子に乗り他の署員のボーナスを弄り始めた。大原部長や中川は下げ気に入っている署員は上げた。両津は満足するとパソコンを本に戻し部屋を出る。
「さてと次は…」
両津が物色していると新葛飾署に時行が来た。両津はまずいと判断し隠れる。時行は早矢やマリア、小町達と会話している。両津はバレないように去る。しかし、時行はキョロキョロも見回すと両津を見た。
「どうしたの時行君?」
「いえ…先程から何故か視線を感じるのですが…」
「何?幽霊?」
「私は何も感じませんけど。」
早矢も同じように見回すが両津を感じていないようだ。そこに今度は纏とジョディーが来た。さらに、麗子達も来る。
「そういえば両様は?」
「両ちゃん、今日は来てないのよ。」
「きっとサボりですよ。」
「そうですよ麗子さん。」
当たっていらため何も言えない両津。どうやら、両津を捜しているようだ。
「こっちにも居なかったわよ。」
「超神田寿司にも居なかったぞ。」
「どこにいるのかしら両ちゃん。」
ここに居る。…そう言いたいが声は聞こえない。すると、両津は近くの机に置いてある紙とペンを使って『ここにいる』と書いた。それを然り気無く麗子達の足元に落とす。
「ん?何か落ちてるわよ。」
それジョディーが拾う。麗子達も見る。
「『ここにいる』?何よこれ?」
「きしょ~。」
小町と奈緒子がドン引きしている。両津はもっと分かりやすい方がいいかと考え再びペンを取ろうとした。しかし、態々知らせる必要がないと判断した。
「このまま透明でいた方が面白いな。」
両津はひっそりと小町と奈緒子に着いていきミニパトに乗る。
「え?今、後ろの扉が開いた?」
「き、気のせいよ!」
両津はニヤニヤしながら小町と奈緒子のパトロールに同行した。
「それにしてもあのゴリラ。ほんといい迷惑よ。」
「ほんっと。ミニパトにラクガキするわ女子更衣室にゴキブリ放つわ迷惑なことしかしない。」
「やっぱりあのゴリラに時行君は合わないでしょ。」
「中川さんか麗子さんに変えてもらった方がいいんじゃない。」
2人の会話に両津はイラッとする。どんな悪戯してやろうか考える。その時、ミニパトに緊急連絡が来た。
『葛飾区○○丁目で包丁を持った男が民家に立て籠り女性を人質にする事件が発生!至急現場に急行せよ!繰り返す!…』
「ここから近いじゃん!」
「行くよ奈緒子!」
ミニパトが急カーブして現場に向かう。その時、シートベルトをしていない両津は窓ガラスに激突した。
「奈緒子。後ろから変な音しなかった?」
「さぁ?」
2人が現場に駆け付けると大原部長や椎名を含めた警察官や機動隊が民家を囲んでいた。その民家の2階の窓から包丁を持った男が顔を出している。常に女性を刺せるように包丁を構え暴れている。
「今すぐポケモンカード5000枚を持ってこい!」
「部長…これは?」
「わしも来たばっかりでよく分からん。」
大原部長達が困惑する要求をする犯人。交渉役の警察官が必死に説得を試みるが通用しない。両津はどうするか考えると囲んでいる機動隊の隙を着き家に入った。2階に上がると犯人が外に向かって叫んでいる。両津に気付いていない。両津はこっそり近付く。その瞬間、机に足を当ててしまった。
「しまった!」
「なんだ!?」
ガタッと音が鳴り犯人が振り返る。しかし、誰も見えない。「誰かいるのか!?」と声をかけるも両津は伝える術は無いし伝える気もない。犯人が再び外に目を向ける。その隙に両津は近付いて犯人を擽った。
「うひゃひゃひゃ!」
「「!?」」
突然笑う犯人に大原部長達は驚く。笑いながら暴れる犯人。その隙に女性は逃げた。犯人が暴れるも両津は擽りを続ける。そして、犯人が包丁を落としてしまった。それを確認し人質の女性を保護した大原部長が突入を叫ぶ。機動隊が突入し犯人を捕まえた。ちなみに、その間両津は蹴られ踏まれ散々な目に合っていた。
「痛てて…」
両津はなんとか民家を出る。犯人がパトカーに入れられ連行されていくのを見送る。腰を抑えて立ち上がると小町が椎名と会話しているのを見つけた。
「今夜、女子寮で女子会するけど来る?」
「行きます!」
椎名が大原部長と別れる。両津は小町達への悪戯を考えミニパトに乗った。後部座席に座った椎名が横を見る。もちろん両津など見えない。
「なんかドアが勝手に開いたような…」
「「気のせいよ!」」
仕事が終わり女子寮に行く小町達。その後ろに両津がいる。女子寮のセキュリティを潜り抜け中に入る。
「あれからさらに豪華になってやがる。」
予算をいくら積んだんだと愚痴を言う両津。すると、麗子と一緒にいる時行を見つけた。どうやら、麗子達に誘われたようだ。さらに、マリアや纏、ジョディーもいた。
「時行や中川は優遇か。気に入らん。」
時行は久しぶりの女子寮にドキドキしている。すると、奈緒子が時行を風呂に誘った。時行を顔を赤くさせ断った。それを聞いた両津はニヤリと笑った。
麗子達が風呂に入る。その後ろを両津が着いてきた。両津は目の前に広がる楽園に感激していた。両津は風呂に入ろうとする。しかし、両津が湯船に浸かったところはちゃんと形になっていた。
「おっとまずい。これだとバレるな。」
両津は近くに置いてある石鹸を床に転がす。それを踏んだ小町が転けた。奈緒子が心配して小町を起こそうとする。そこに今度はうなじに息を吹き掛けた。
「きゃあ!」
突然のことに驚く麗子達。両津は調子に乗り湯船に浸かっている纏にお湯をかける。纏が見るも誰もいないことに恐怖し早矢に抱き付く。
「何よ?」
「突然石鹸が…」
小町や奈緒子だけではなく他の女性署員達もだんだん怖くなってくる。そこに椎名が時行を連れて来た。時行は顔どこらか全身真っ赤になるほど恥ずかしがっている。
「どうしたんですか小町先輩?」
「なんか突然石鹸が動いたのよ。」
小町の発言に椎名が顔を青くさせる。両津も顔を青くさせる。時行はまだこちらに気付いていない。両津は今すぐ逃げようとさるが小町が踏んでしまった石鹸を踏みスッ転んだ。そして、頭を打って気絶した。
「なんか怖い!」
「とにかく一旦出ましょう。」
気味が悪いと麗子達は風呂場を出て行った。今、風呂場には両津しかいない。そこに例の2人組の宇宙人が現れた。
「ナルホド。」
「ヨソウイジョウダ。」
2人は頷いている。どうやら、ずっと両津を観察していたようだ。
「ワレワレノホシデハコノトウメイカギジュツハアンサツニシカツカワレナカッタ。シカシ、コノホシはソレイガイノホウホウヲオシエテクレタ。」
「ソレトトウメイカヲミヤブルコトガデキルカノウセイヲアノショウネンガミイダシテクレタ。」
「レイヲイウ。」
「コレハカッテニジッケンダイニシタオワビダ。」
2人組は両津の透明化を解除すると地球を去って行った。
翌日
両津が目を覚ます。視界に入ったのは怒っている麗子達だった。
「両ちゃん。何をしているのかしら?」
「れ、麗子…わしが見えるのか?」
「何言ってるのよ原始人。」
「覗いてたわけ?サイテー。」
汗を流しながら横をチラッと見る。鏡には自分の姿が写っていた。
「と、透明人間じゃなくなってる。」
「覚悟はいいかしら両ちゃん。」
「ま、待て…」
両津が言い訳する暇もなく麗子達はモップやスタンガンを持ち両津に近付く。女子寮内に両津の叫び声が響く。そして…
「待ってくれ~!本当にわしは透明人間になったんだ!」
「どうしますか大原部長?」
「これからは透明人間として扱おうじゃないか。」
麗子達にお仕置きされ磔にされている両津。必死に弁明するも聞いてもらえない。そんな両津に呆れる大原部長達であった。