逃げ上手の転生記 〜亀有の破天荒警官と〜   作:虹武者

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ハルが来た!ウララかに!

「行けぇ~!」

 

 両津は叫んでいた。場所は競馬場。両津は手に汗握りながら競走馬を見ている。馬券も握っている。隣では椎名が冷たい視線を送っている。

 1着になった競走馬を見て両津は馬券を投げ捨てる。どうやら、外したようだ。ため息をつき手摺に凭れかかる。

 

「やっぱり時行がいないと当たらん。」

「今、パトロール中ですよ両津先輩。」

 

 両津は頭を抱えながら競馬場を出る。椎名が競馬場のポスターを見ながらふと気になったことを両津に聞いた。

 

「時行様って馬好きですよね?この間も流鏑馬で馬乗りこなしてましたし。」

「時行は昔から馬に乗ってたから乗馬は得意だ。それに、馬と長く接していたから馬の気持ちも分かるぞ。」 

「時行様、凄い…」

 

 椎名が感心している。両津は競馬場の外を出ると乗馬体験している子供達を見つけた。すると、「そうだ!」と言い出した。それを聞いた椎名はまた何か企んでいると確信した。

 

 それから数日後

 両津は時行や中川を連れてある場所に来た。そこには多くの馬が並んでいた。厩舎のようだ。時行は並んでいる馬達を見ていた。すると、周りの馬より一回り小さい馬に目を惹かれた。

 

「どうした時行?」

 

 両津が時行が見ていた馬を見る。額に瑪瑙のような模様がある馬だ。

 

「琴姫やハルウララのような馬だな。」

「ハルウララ?」

 

 時行は首を傾げた。琴姫は右京の愛馬として知っている。しかし、ハルウララは初めて聞いた馬だ。時行は両津にハルウララのことを聞いた。

 

「ハルウララ。113戦0勝113敗。一度も勝ったことが無い競走馬だ。」

 

 両津は時行にハルウララという競走馬の話を始めた。

 

 ハルウララ

 1996年2月27日、新ひだか町の信田牧場で誕生。小柄で臆病な馬で、セリ市で買い手がつかず信田牧場の所有となり、高知競馬場の調教師である宗石大氏へ預託される。

 1998年11月17日、高知競馬場の第1競走でデビューするも最下位。それからも連敗が続き競走馬を引退させる話がくるも宗石氏はこれを拒否。

 2003年7月23日、毎日新聞全国版に記事が掲載されたり、テレビ番組などで取り上げられた。これをきっかけにハルウララは全国的な注目を集めるようになり、様々なグッズが販売された。

 2004年8月3日、最後の出走。

 2005年、正式に引退。

 

「…とまぁ、これが競走馬としてのハルウララだ。」

「さすが先輩。詳しいですね。」

 

 両津がハルウララに似た馬を撫でながら時行に教える。時行もハルウララに興味を持ったようだ。

 

「負け続けても諦めない。…どこか私に似ていますね。」

「どっちも諦めないところや最後まで走り切るところが確かにそっくりだ。」

 

 両津は競走馬を引退してからのハルウララの話を始めた。

 

 2014年2月、マーサファームの宮原代表がハルウララを支援する「春うららの会」を設立、ハルウララは「春うららの会」に移り、マーサファームで余生を送る。

 2018年4月、ハルウララをモチーフとしたウマ娘のキャラクターが登場し、再び注目を集める。

 2025年9月9日未明、疝痛により死亡。

 

「こうして、ハルウララは生涯の幕を下ろした。」

「そこもどこか時行君と似ている気がしますね。」

 

 両津がハルウララの話を終える。時行はジーっと馬を見る。すると、両津にお願いした。

 

「両さん。この馬に乗ってみたいです。」

「よし!わしが乗せてやろう!」

 

 両津は馬主に許可を取り時行を馬に乗せる。時行は馬を走らせる。

 

「走りはいいな。」

「ガッツもあるんだけどねぇ…」

 

 両津が褒めるも馬主の歯切れが悪い。

 

「両さんが言ったようにハルウララぐらい小さいから競走馬としては弱いんだ。あれで今年3歳だ。」

「ハルウララが初めて出走した歳と同じか。」

 

 両津は考える。時行が乗っている馬は確かにいい走りをするもイブキライズアップやディープインパクトなどの名馬に比べると弱い。さらに、体躯が小さいため普通の騎手では重荷になる可能性だってある。

 

「そうだ。この前、時行が調教師として活動していた場所があったな。」

 

 両津は早速、知り合いに頼み時行をファームに連れて行く。

 

「久しぶり!」

「両さんかい。」

 

 広い原っぱに多くの馬がいる。ここは引退した競走馬が繁殖や体験乗馬する場所だ。時行は馬に乗った状態で話しかける。

 

「走りたいですか?」

 

 馬は時行の質問に答えるように駆け出した。

 

「おぉ…想像以上だ。」

「小さいわりによく走るね。」

「それに気性も荒らそうだ。」

 

 時行は楽しんでいる。南北朝時代に感じた風を令和で感じている。

 

「あの時と同じだ!今川殿と鬼ごっこしたあの時と!」

 

 時行は馬の背に立ち巧みに操り急旋回までやって見せた。それに驚愕する両津達。

 

「あれは背伸乗りじゃないか。子供が大人用の馬を制御する乗り方だぞ。」

「両さん。前から思ってたけどやっぱり時行君、普通じゃないよね?」

「わしも驚いている。」

 

 両津は直感する。今の時行は南北朝時代の時行になっている。

 

「ハルウララも小さいが身体が丈夫で年に20走も出走したり23歳になっても元気に走れたりしていたがあの馬も相当だぞ。」

「身体が大きかったらディープインパクト並みの名馬になっていたかもしれないぞ。」

 

 馬主や調教師達は迷っていた。あの馬を競走馬にするかどうか。競走馬にするにしてもハルウララのようになれるとは限らない。繁殖用や体験乗馬にしても小柄で気性が荒いとそれも難しい。

 

「あのまま終わらせるには惜しい馬だ。」

 

 両津は馬を見る。乗っている時行を見る。どちらも楽しそうだ。すると、両津はニヤリと笑い馬主達に提案した。

 

「ならわしが買い取ってやる!」

「両さんが!?」

「わしなら馬主の経験もあるしあの馬も時行が気に入っているみたいだからな。」

 

 馬主達が相談している。その後ろで両津がニヤリと笑う。

 

(時行ならあの馬を名馬にできる。そうすれば、競馬で大活躍、馬主のわしも大儲け…)

 

 両津が悪巧みを考えていると馬主達が相談を終えてやってきた。

 

「分かったよ両さん。ここは両さんに任せるよ。」

「よしきた!わしに任せろ!」

 

 両津は馬を買い取った。派出所に戻り大原部長達に見せつける。

 

「また、あの時のようにならなければいいが。」

「心配しかないわよね。」

「まぁ。今回は時行君がいますので大丈夫かと…多分。」

「そうだな。両津は迷調教師だが時行君は名調教師だからな。」

「さっきから聞こえてますよ!」

 

 馬に干し草や人参をあげている両津が叫ぶ。

 

「さてと…実際に競馬場で走らせてみるか!」

「はい!」

 

 両津達は近くの競馬場で馬を走らせることにした。今はオフで自由に使える状態だ。時行は馬をコースに着き走る準備をする。

 

「私は準備できています。あなたは?」

 

 時行が優しく語りかける。馬も準備はできているようだ。スターティングゲートが開く。それと同時に走り出した。軽快な足取りでコースを爆走する。

 

「いいぞ!」

 

 時行はカーブに差し掛かると背伸乗りをして華麗に曲がった。その様子を見て大原部長達は感嘆する。

 

「いつ見ても凄いな。」

「武豊選手みたいですね。」

(武豊よりも乗ってるかもしれんぞ。)

 

 ものすごいスピードで最終コーナーを回りあっという間にゴールした。汗を拭き満足気な時行の元に両津達がやってくる。

 

「さすがです時行様。」

「凄いわね。」

 

 椎名と麗子が褒める。時行が照れているのを見て両津は悪巧みをする。

 

「よぉし。これなら競馬でトップ間違いなし!そうすれば馬主のわしはガッポガッポ…」

「やはりそれか。」

 

 大原部長が呆れている。時行が馬から降りると両津はニッコニコで馬に近寄った。

 

「お前の名前も決めてある!ズバリ!リョーツダイヤモンドだ!」

 

 その瞬間、馬は両津を蹴り飛ばした。凄い距離飛ばされて地面に落ちる両津。顔に蹄鉄の跡を着けた両津が起き上がる。

 

「貴様!わしに逆らうか!」

「名前が嫌だったのよ。」

「実は私も名前を決めています!」

 

 時行が挙手する。

 

両さんから聞いたハルウララという競走馬。彼女のようにどれだけ負けてもいい。最後まで走り続けるようになってほしい。

 

 そんな願いと自分と重ねた結果、付けた名前を時行が発表した。

 

「トキハル。トキハルと付けたいです!」

「いいじゃない!」

「両津が付けた名前より遥かにマシだ。」

「そんなぁ~…」

 

 両津が項垂れる。気に入ったのかトキハルは時行に懐いていた。

 

「先輩。そもそもトキハル君は時行君以外に背中に乗せるつもりないようですよ。」

「なら…」

「時行君を騎手にすらのは無しだ。」

 

 両津の提案が出される前に大原部長が却下した。両津は競馬でガッポガッポ作戦を諦める。時行はまたトキハルに乗ってコースを走り出す。

 

「イキイキしてますね。」

「ハルウララも負けてばっかりだから競馬ファンからクレームや脅迫を受けたこともあるがどれだけ負け続けても走りきる姿から馬券が御守りになったり世界から注目されたりいろんな人励ましになったことで世代性別問わず人気が出た。」

 

 立ち直った両津が時行とトキハルを見守る。

 

「それが繋がり高知競馬場を救うことになった。走り続けることで最後まで生き抜いた時行とどこかシンパシーを感じるんだろうな。」

「…トキハルならフェラーリより速く走れますよね?」

「…さすがにあれは無茶振りだ。」

 

 恍惚とした表情でトキハルに語りかける時行に両津達は気まずそうな顔をしていた。

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