ある日の派出所
そこにはあまりの暑さに参っている時行と両津がいた。
「暑いですね...」
「時行。今、何度だ…」
「えっと…39.8度です。」
時行が温度計を見る。
「今の日本ってこんなに暑いのですね。」
「20年前は30度で暑いと言ってたのに...」
両津は団扇をパタパタさせているが汗は止まらない。そこに中川がパトロールから帰ってきた。両津も時行もぐったりしている。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねぇ。もう9月だぞ。そろそろ涼しくなる時期だろうが。」
「確かにそうですね。」
「冷やし中華かかき氷が食べたい。」
「でしたらいいのがありますよ。」
中川の発言に両津と時行は耳を向けた。
翌日
両津と時行は中川に連れられあるレジャーランドにやってきた。大きなプールに数々の屋台と夏休みを彷彿とさせていた。
「ここが一年中夏を満喫できるレジャーランド。"サマーワールドジャパン"です。」
「「おぉー!」」
両津と時行はまだ誰もいないサマーワールドジャパン内を歩き回りながら興奮している。大きな流れるプール、長いスライダー、夏の料理が楽しめるレストランと数多くの施設があった。
「9月になってもこの暑さだ。需要は凄いだろ。」
「えぇ。まさにそれが狙いです。暑くなる昨今、熱中症で倒れる方が増える一方、プールや海水浴場が減っているのが現実です。なので常にプールに入れるのをコンセプトに造られました。」
「地球温暖化の影響で春と秋が少なくなってる。このままだと春夏秋冬という四字熟語が消え夏冬という二字熟語になってしまうぞ。」
「私が生きていた時代ではこんなことなかったです。」
南北朝では体験しなかった酷暑に時行もフラフラしてしまっている。しばらく歩いていると大きな飛行船が見えた。側面にはサマーワールドジャパンの広告が載っている。
「宣伝も派手にやるのか?」
「はい。来年にオープンするのに合わせて明後日から始める予定です。」
両津達は一通り回るとレストランでかき氷を食べた。
「氷を食べるのって不思議な感じがします。」
「南北朝にはなかった食べ物だからな。」
両津はかき氷を食べながらさっきの飛行船を見る。すると、何か思い付いたのか「そうだ!」と言い急に立ち上がった。それに驚く時行と中川。
「どうしたんですか先輩?」
「中川!さらに派手に宣伝できるいいアイデアが浮かんだぞ!」
両津は中川に耳打ちでアイデアを話す。中川が怪訝そうな顔をするも両津は無理矢理圧しきる。
それから数日後
多くの人々が街中を歩いていると突然冷たい感覚がした。上を見上げるとサマーワールドジャパンの宣伝飛行船がかき氷を降らしながら飛行していた。
『え~。こちら、来年開業致します。"サマーワールドジャパン"宣伝用飛行船、かき吹雪屋でございます。皆様には暑い夏でも寒い冬でも快適にプールや祭りを満喫していただけるよう…』
かき吹雪屋を操縦しているのは両津だ。その隣で時行が窓から下を眺めている。かき吹雪屋の下部には多くの巨大氷があり自動でかき氷機にセットしてかき氷を吹雪のように降らせるシステムだ。
「凄い景色ですね。」
「だろ?近年は猛暑と猛吹雪で日本中が大変なことになっている。だから、丁度いい吹雪が必要になる。これなら熱中症対策にもなるし派手に宣伝できる。」
「両さんの発想力は吹雪にも匹敵しますね。」
「あの燃費の悪い大食いで片目が隠れている二刀流の少年か。」
両津は天国で出会った吹雪を思い出す。
「はい。吹雪は逃若党の参謀で凄く強くて…」
時行は吹雪との思い出を振り返る。
「1人で諏訪の食糧庫を空にし頼重殿からの貯金を買い食いで使い果たし戦場ではお握り片手に凄い作戦を立案してくれるのです。」
「ほぼ食いしん坊の思い出だぞ。」
うっとりしながら思い出を語る時行に両津がツッコミする。
「吹雪の作戦は本当に凄いですよ。どれだけこちらが不利な状況でも一発逆転、味方の士気を100倍にする作戦をあっという間に立案してくれるのです。」
「吹雪のプレッシャー凄かっただろうな。」
時行の無茶振り、それも善意と期待100%だから無下にできない。そんな吹雪の苦労を想像して同情する両津。時行が吹雪との思い出を語っている間もかき吹雪屋は順調に飛行している。
「いい宣伝でしたよ先輩。」
戻ってくると中川がSNSを見せて喜んでいた。宣伝効果はバッチリのようだ。それを見て時行も喜んでいる。しかし、両津は喜びとは別に何か企んでいるようでニヤリと笑っていた。
数日後
両津と時行はいつものようにかき吹雪屋で宣伝をしている。しかし、両津はどこかと電話している。
「はい!では、そちらに…」
時行も両津が電話をしているのに気付いた。両津が電話を終えると気になって聞いてみた。
「両さん。誰とお話していたのですか?」
「幼稚園の園長だ。」
「園長?」
「そうだ。幼稚園にかき吹雪をしてくれってな。」
両津はかき吹雪屋を幼稚園に向かわせる。幼稚園に到着すると両津は園長と電話しながらかき吹雪を降らした。園児達は大喜びではしゃいでいる。
「みんな、楽しそうですよ。」
「10分1万円。1時間6万円ですね。お支払い方法は振り込み。それでよろしくお願いします。では。」
「両さん?」
時行は訝しむ。
「まさか…」
「時行。これは宣伝だ。みんなにサマーワールドジャパンを知ってもらうためにやっているのだ。」
「中川さんの許可は?」
「かき吹雪屋に関しては全て許可を貰っている。」
「本当ですか?」
時行は疑っている。それでも、両津は軽く流す。幼稚園へのかき吹雪が終わると別のところに向かった。今度はビーチだ。ビーチに来ていた人達がかき吹雪屋に向かって手を振っている。幼稚園の時と同じようにかき吹雪を降らす。
「はい。…では、よろしくお願いします!ありがとうございました!」
「やっぱり商売してますよね。」
時行がさらに疑り深くなっている。チラッと両津のスマホを見ると『かき吹雪屋始めました』と載っている。さらに、『10分1万円』や『お支払い方法』なども見えた。両津はいつの間にかネットでかき吹雪屋自体を宣伝していた。
「やっぱり商売している!」
時行は我慢できず叫んだ。
「両さん!絶対中川さんから許可貰ってませんよね!?」
「大丈夫だ時行!前は部長にバレてしまったが今回はバレないように工夫している!」
「全然大丈夫じゃない!」
やっぱり無許可でやってると確信した時行。両津は強引に時行を納得させようとする。
「こうすれば、中川はサマーワールドジャパンの宣伝ができる!わしは儲かる!時行も一緒だ!」
「吹雪より悪どい気がしてきました。」
時行は両津に戦いている。両津がもし逃若党にいたら吹雪とは別方向でヤバい作戦を立案しそうだと。
「金策なら吹雪よりも凄い作戦を立案しそうです。」
「当たり前だ!わしは金儲けの天才だぞ!」
「それをもっと別の方向で発揮させませんか?」
時行は不安しかなかった。
それから、数日後
両津は派出所で仕事をしている。そこに中川が来た。
「先輩。」
「どうした中川?」
「最近、かき吹雪屋の飛行ルートを外れてますよね?」
ギクッとなる両津。
「ど、どういうことかな?」
「かき吹雪屋にはGPSを搭載しています。もし、決められたルートを通っていなかったらそれが表示されるんです。」
中川ぎタブレットを見せる。確かに両津が通ったルートは決められたルートを大きく外れていた。
「そ、そうだったの!全然気付かなかったなぁ~!」
両津はなんとか誤魔化そうとする。そこに時行と椎名が来た。
「椎名蘭。ただいまパトロールから戻りました!」
「遊びにきました両さん!」
2人は汗だくになる両津が気になった。
「どうされたのですか両津先輩?」
「な、なんでもないぞ!」
「まさか…かき…」
時行は察したのかかき吹雪屋のことを聞こうとした。それを察した両津が時行の口を塞ぐ。
「じゃ、じゃあわしは時行を連れてパトロールに行ってきます!」
両津は時行を連れて派出所を出る。それと入れ代わりに大原部長が派出所に来た。
「どうしたんだ両津の奴。」
「さぁ?」
両津は誰もいないことを確認すると時行を解放した。
「両さん。正直に話しましょう。」
「ダメだ。今、いいところなんだ。ここで打ち切られてたまるか。」
両津は効率を上げると同時にバレないようにするためかき吹雪屋を急いで改造した。スピードを上げるためにエンジンを増やしもっと多くのかき吹雪を降らすために氷を大量に用意した。
「よし!これでもっともっとガッポガッポ稼げるぞ!」
「もう止めませんか?」
時行の言葉も虚しく両津はかき吹雪屋を出す。スピードを上げ急いで注文があった場所に向かう。時行はもう楽しんでいない。不安が勝っていた。その不安が的中した。次々と無茶な飛行を続けた結果、乗せてあった氷が溶け出しエンジンを濡らしショートさせてしまった。
「なんだ?スピードが落ちてる?時行、ちょっと見てきてくれ。」
「は、はい。」
時行は両津に言われてエンジンルームに向かう。すると、扉の隙間から煙が出ているのを見つけてしまった。時行は目を点にさせ冷や汗をかく。
「ま、まさか…」
時行は確信した。エンジンルームが燃えている。ショートした結果、火花が散りそれが原因で引火してしまったのだ。さらに、火花はかき氷機にも飛び散り故障を起こす。
時行は逃げた。慌てて両津のところへと向かう。
「両さん!火事です!」
「なにぃ!?」
両津は自動運転に切り替えエンジンルームへと向かう。扉を蹴破り消火器で消火しようとするも火の勢いが強すぎて無理だった。
「あの改造と無理矢理な飛行が原因ですよ!」
「くそ~!」
どうすればいいんだ!と悩んでいるとガクッとかき吹雪屋が傾いた。両津が慌てて操縦席に戻ると自動運転機能が切れていた。かき吹雪屋はそのままサマーワールドジャパンへと墜落していく。
「どうするのですか両さん!?」
「わしに聞かれても知らん!」
両津が逃げた。時行も逃げた。しかし、逃げ場がなくかき吹雪屋はそのままサマーワールドジャパンに墜落し大爆発を起こした。
そして…
『サマーワールドジャパンに墜落したかき吹雪屋ですが調査の結果、違法な改造をしていたことが判明しました。この結果、サマーワールドジャパンは閉鎖、経済的損失は約8000億円とみられ…』
「やっぱり先輩に任せるんじゃなかった...」
「両津め。そのままかき氷のように溶けていればよかったのに。」
後日、ニュースを見て絶望する中川と憤る大原部長がいた。