ある日、時行は鉄道や電車の写真を見ていた。どれも綺麗に撮れている。
「凄い綺麗ですね。」
「それは撮り鉄が撮影したやつだな。」
「とりてつ?」
時行は初めて聞く単語に首を傾げた。
「撮り鉄。簡単に言えば電車や鉄道を撮るヲタクだ。」
「今、その撮り鉄が問題になっています。」
時行と両津の会話に中川が入る。
「普通に撮るだけなら問題ありませんが撮るために私有地や線路内に不法侵入したり故意に敷地内を荒らしたり電車を止めるなどの迷惑行為をする者が急増しています。」
「それが原因で電車が遅延したりして多くの人が迷惑しているのよ。」
「マナーというより法律を守らないとダメですね。」
「そのせいで他の撮り鉄も同類と思われる事態になってるからな。現にその写真はちゃんと許可された場所で撮っている。」
会話に麗子と椎名も参加する。そこに大原部長がきた。
「全員、揃っているようだな。」
「どうしたんですか部長?」
「今日、ここに特殊刑事が来ることになった。」
「時行様!?」
時行が椎名の警棒で鬼心仏刀の構えをした。臨戦態勢だ。そらを見た両津はまたか…と呆れた顔をして見ている。
「それで、誰なんですか?」
「鉄道刑事というらしい。」
「名前は普通ですね。」
中川が言う。それでも時行は警戒している。
「撮り鉄の格好したTHEヲタクって感じの刑事でしょうか?」
「きっと車掌さんの服を着た人よ。」
「いや、そんな普通なやつは来ない。」
どんな刑事がくるのか推測しているとシュッシュッポッポ…シュッポッポ…と声が聞こえてきた。
「鉄道ヲタク歴40年!鉄道の事件ならおまかせ!私こそが警視庁特殊刑事課の
派出所の前に蒸気機関車を被りテカテカ光る全身タイツを着た男が現れた。
「お前はトーマスか。」
「なんですかあの変態。」
「また、強烈な人ですね。」
鉄道刑事にどう反応したらいいか困る一同。
「近年、鉄道では様々な事件が起きている。特に悪質な撮り鉄による迷惑行為の数々!私はそれを正し撮り鉄本来の鉄道や電車に敬意を払う者に変えるために立ち上がったのである!」
「そうですか?わしにはただの変態コスプレイヤーにしか見えませんけど。」
「さぁ!君達も私と一緒に鉄道に変身するぞ!」
「わしらもか!」
時行が逃げる!両津が追う!そして、捕まえる!
「放してください!」
「わしがお前の行動を読めないと思ってたか。」
両津は時行を無理矢理着替えさせる。着替えが終わり全員が派出所前に集まる。全身タイツのため身体のラインがハッキリ出ている。さらに、ラバー素材のためテカテカに光っている。全員、恥ずかしいのか下を向いている。特に麗子と椎名は恥ずかしがり顔を赤らめていた。
「下手に露出がある服より恥ずかしいです。」
「ゴキブリみたいですね。」
「モジモジ君だぞこれ。」
「さぁ、君達もこれを被りたまえ。」
そう言って鉄道刑事は電車の被り物をみんなに渡した。被り物の前後には連結部もある。
「被ったら列に並んで連結させるんだ。大丈夫。押し込めば自動で連結する。」
「無駄にハイテクっすね。」
椎名が中川の被り物と連結させた。そこで問題が生じた。時行の身長では高さが足りず連結が出来ない。それを指摘した。すると、鉄道刑事はならばと何か取り出した。
「そういう時は腰に取り付ける用の電車もある。」
「なんでそんな物まで用意しているのですか?」
「大丈夫。腰を動かせば連結できるぞ。」
「「いやぁ!」」
「やめろ変態!」
電車を腰に着けた鉄道刑事がお手本として腰を前後に動かす。それを見た麗子と椎名が叫び両津が舌と目玉が飛び出るぐらい鉄道刑事を後ろから椅子で殴った。
「今、とんでもない下ネタが飛び出たぞ!」
「しかし、それしか方法は…」
「ないのなら私はお留守番ということで…」
ホッとした時行が逃げようとした。それを鉄道刑事が止める。
「ならば...」
鉄道刑事は両津の腰に取り付けそれを時行と連結させた。その結果、両津は頭と腰に電車をつける羽目になった。
「両さん…」
「なんで、わしがこんな目に…」
「全員、連結できたね。では…出発進行!」
「まさか、このまま行くのか!?」
鉄道刑事を先頭に麗子、中川、椎名、大原部長、両津、時行と変態車両が繋がる。このまま町中に行くものだから注目の的だ。
「何故こんなことに…」
「ただの罰ゲームだ。」
「これなら、小学生の時にやった電車ごっこがまだマシです。」
どこからどう見てもテレビのおバカ企画でやってそうな人間電車だがこれでもちゃんとしたパトロールである。すると、鉄道刑事が突然止まった。そのせいで勢いでぶつかってしまう両津達。
「急に止まるな!」
「たった今踏切でドライバー同士のトラブルが発生した。急行するぞ!」
鉄道刑事は両津達にローラーシューズを渡す。言われるままに履き替える。
「特急!参ります!」
「速すぎるぞ!」
物凄いスピードで出発進行する鉄道刑事達。あっという間に現場に着いたはいいが鉄道刑事以外は疲労と恥ずかしさでぐったりしている。
「到着~。到~着~。到着致しました~。」
「もっと安全に走れ!」
両津が文句を言う。そんなの無視して鉄道刑事は言い争っている2人のドライバーを見つけた。鉄道刑事が声をかける。ドライバー達は鉄道刑事を見ると言い争いを止めて目を丸くする。
「言いたいことは分かるがわしらのためにもさっさと答えてくれ。」
2人のドライバーは渋々答える。簡単に話すと前を走っていた車が煽ってきたと後ろの車に乗っていたドライバーが言いがかりをつけたため言い争いになったとのこと。
鉄道刑事が2人から事情聴取している。その時、警報が鳴った。そして、遮断機が降りた。両津と時行は線路内にいる。
「しまった!」
「まずいですよ両さん!」
時行が叫ぶ。カンカンカンとけたたましく鳴る警報と共に電車が近付いてきた。両津が動けと叫ぶ。しかし、鉄道刑事には聞こえず事情聴取を続けている。前にいる大原部長から伝言ゲームのように伝える。しかし、間に合わない。両津と時行はなんとかして逃げようとする。
「あっ。外れました!」
「嘘だろ!」
時行はなんとか外し逃げる。しかし、両津はなかなか外せない。大原部長が早く外せとせがむ。が、残念。電車はブレーキをかけるも両津に激突してしまった。
「何をしている両津君。」
「あんたのせいだろ!」
時行が両津を心配する。電車にはねられても外傷がない両津。頭を抑えながら鉄道刑事に文句を言う。応援に来た警察官に事情を話している鉄道刑事。
「これ、わしらが電車の妨害してているぞ。」
「本末転倒ですね。」
両津は壊れた被り物を投げ捨てる。
「でも…これでわしは電車になれませんね。」
「安心したまえ。」
両津が安心していると鉄道刑事が代わりの被り物を渡した。それにずっこける両津。
「なんであるんだ!?」
「鉄道界隈は備えが必要だ。」
「そんな備えはいらん!」
両津は拒否するが両津だけ逃げるのは許さないと大原部長達が捕まえる。ついでに、こそこそ逃げようとしている時行も椎名が捕まえた。
「せめて私だけでも!」
「ダメです時行様!」
「時行君もすっかり先輩に近付きましたね。」
再び連結し出発する鉄道刑事達。今度はどこに向かうのか分からない。すると、線路脇に三脚を立て高そうなカメラで撮影の準備をしている集団がいた。撮り鉄である。
「確かあそこは侵入禁止だろ。」
「そうだ。撮り鉄界隈でいい写真が撮れると有名になっている場所だ。何度も注意したり柵や看板を建ててもやって来る迷惑な撮り鉄だ。」
鉄道刑事が説明する。そこに電車が走ってくる。電車が曲がった瞬間、撮り鉄達が一斉に撮影を始める。中にはフェンスをよじ登っている者もいる。
「早速、注意するぞ。」
「待て!その前にこの格好をなんとかしろ!」
両津が抗議するも効果無し。鉄道刑事は撮り鉄達のところに行く。
「君達!そこは侵入禁止だ!撮影場所なら他にいいところがあるぞ!」
「うるさい!どこで撮ろうと俺達の…勝手…」
文句を言っていた撮り鉄が鉄道刑事達を見ると言葉を失い絶句していた。他の撮り鉄達も気になり鉄道刑事達を見る。全員、撮影を忘れて見入っている。
「これは…どういう状況でしょうか?」
「知らん。」
「わしも知らん。」
よく分からない沈黙が続く。
「変態電車だ!」
「やかましい!」
「さっさと解散しろ!」
「嫌だ!」
撮り鉄達が騒ぎ始める。
「ここは立入禁止だ!」
「誰が決めた!」
「鉄道会社だ!」
両津が撮り鉄達ともめる。
「好きな物を撮って何が悪い!」
「お前らは撮り鉄から権利を奪おうとしている!」
「撮り鉄の自由を奪うな!」
「自由ってそんなに便利じゃないですよ。」
撮り鉄達の怒号が止まる。
「確かに自由は素晴らしいものです。しかし、自由のためなら何をしてもいいという考え方は無法と変わりません。」
時行は南北朝を思い出す。
婆娑羅な格好をした魅摩や道誉…強盗や殺人を繰り返す瘴奸や結城宗広…国司や各地で盗賊になる武士達…あれ?私の時代、無法すぎでは…御成敗式目は?私の時代って今と比べると法律がちゃんとしてなかった?
時行は昔を振り返る。まともに機能した法律ってなかったのか…と。時行は咳払いをして話を戻す。
「決められた法があってこそ自由を謳歌するべきだと思います。」
「…お前ら。小学生に言われてるぞ。」
撮り鉄達が静かになる。そこに鉄道刑事が入る。
「ここは撮影禁止エリアだ。私なら素晴らしい写真が撮れる場所を知っている。」
鉄道刑事が撮り鉄達を諭す。
「鉄道は力強く走る姿。毎日、同じ時間に見せる正確さ。季節によって違う光景。それぞれが素晴らしい姿だ。しかし、その姿を撮るために不法侵入したり通行の邪魔をするのは本末転倒だ。素晴らしい写真は撮り方も周りに誇れるようでなければならない。」
鉄道刑事が力説する。言ってることは良いのに姿は全身ラバータイツで頭にSLを被っているものだから内容が入ってこない。それでも、撮り鉄達は大人しくなった。
鉄道刑事が撮り鉄達を取り締まる。今回は厳重注意だけで済ましたようだ。去っていく撮り鉄達の背中を見送る鉄道刑事達。両津は納得してないのか鉄道刑事に聞く。
「いいのかあれで?」
「鉄道ヲタクであることは罪ではない。しかし、法律やマナーを守らないヲタクが増えている。そのせいで鉄道ヲタクは肩身が狭い。私はいつか法律やマナーを遵守し迷惑をかけない誇りある撮り鉄達になってくれると信じている。中川家礼二のように。」
「あんたの好きな芸人は分かった。」
「やっぱりって感じですよね。」
こうして、鉄道刑事とのパトロールはなんとか終わった。
後日
『さぁ!始まりました人間鉄道レース!解説の鉄道刑事さん。どう見ますか?』
『そうですね。私としては京阪チームに期待しています。』
「まさか、あの変態電車がテレビになるとは…」
「刑事の仕事はどうした?」
「今の時代って何が採用されるか分かりませんね。」
テレビで両津達がした格好と同じ格好で繋がりレースをしている芸人達を見てあれが企画で通るのかと呆れる両津達であった。