時行は迷っていた。いつもならもうとっくに派出所に着いてもおかしくない。…はずなのに何故かノスタルジックな町並みにいた。濃い霧が立ち込める。
時行は記憶を頼りに進む。すると、派出所が見えてきた。時行は安心して走ると銃声と共に派出所から犬が逃げてきた。続いて拳銃を持った警官が犬に向けて乱射した。
「てめぇ!」
時行の横を通って逃げる犬。時行も弾丸を避けながら近くの茂みに飛び込む。チラッと覗く。雰囲気が大分違うが両さんだ。引金を引いてもカチッカチッと鳴るだけの弾切れになった拳銃をしまう両津。
「くそっ!また、カツ丼食われた!」
凄いイライラしている。時行はおそるおそる近付く。両津が時行を睨む。腹を鳴らしトボトボ派出所に戻る。
「くそ~!朝から何も食ってねぇ!」
机に俯せになって愚痴を言う両津。そこに人相の悪い警官が派出所にやって来た。
「どうした両津?」
「戸塚~。わしになんか食い物くれ。」
「そこの丼はなんだ?」
「さっき犬に食われた。器用に箸まで使いやがって。」
戸塚と会話する両津。戸塚が時行に気付いた。
「こいつは…この前出会ったガキじゃねぇか。」
戸塚は時行に見覚えがあるようだ。そんなのはどうでもいいと両津が嘆く。そこに中川と寺井が入ってきた。
「どうしたんですか先輩?」
「腹へった~。」
「両津。あれやるんだろ?」
戸塚が休憩室を指差す。両津はそうだと立ち上がり中川達と一緒に休憩室に入る。時行もおそるおそる休憩室を覗くと両津達が麻雀をしていた。
「負けたら勝った奴に何でも奢れ。」
「いいぜ。」
麻雀を初めて見る時行はルールも分からずただジーと見ている。すると、両津の顔がだんだん険しくなった。
「おい。両津の出番だぞ。」
「ぐぬぬぬ…待て。」
「なんど待てと言ってんだ?」
両津の汗が凄いことになる。何を捨てても勝ち目がない様子だ。すると、突然叫び台をひっくり返した。
「あぁ!突如、局所的な地震が!」
「先輩!?」
「またか!」
両津は負けたのか仰向けになって不貞腐れていた。
「くそ~。何もやる気がせん。」
「中川。何か食わせた方がいいだろ。」
「じゃあ、ビーフジャーキーがありますよ。」
「それって犬用じゃ。」
中川がビーフジャーキーを出す。寺井が止めた方がいいと進言するも両津はビーフジャーキーを奪い取り食べた。
「犬がカツ丼食って人間が犬用ビーフジャーキーを食うか。」
「あべこべですね。」
時行は唖然としてている。雰囲気が違う両津もそうだがあの真面目な中川までが勤務中に遊んでいるのだ。
「あ、あの~…」
「ん?まだいたのか?」
時行が声をかける。両津達が邪魔くさいという感じの視線を送る。そこに大原部長が来た。
「ほう。勤務中に子供を無視して麻雀か。いいご身分だな。」
突然の大原部長に慌てて麻雀を片付ける両津達。
「嫌だなぁ~。そんなことないじゃないですか~。」
「いや。さっきまで…」
「迷子だな!俺達が親のところまで送ってやるよ!」
時行が話そうとしたのを戸塚が口を抑えて遮る。そのままニコニコで時行を連れて派出所から逃げる両津達。ちなみに、麻雀は寺井が1人で慌てて片付けている。
「腹へった~。」
「さっきからそればっかだな。」
元気のない両津に戸塚が声をかけるも同じ返答しかしない。中川が時行を指差す。
「それよりどうするんですかこの子?」
「知らん。」
「どっかで会ったと思うが?」
「忘れた。」
戸塚が聞くも両津はそれどころではない。仕方ないと戸塚は近くの定食屋で両津に飯を食わせることにする。定食屋に着くなり両津は片っ端から頼んで食い尽くす。
「両津の胃袋を甘くみてた。中川、俺の代わりに払ってくれ。」
「えぇ~。」
中川が財布を覗く。その隣で時行は両津をジーと見る。だんだんいつもの両さんと同じ雰囲気になってきた。両津は腹いっぱいになり満足してている。
「食った食った!」
両津が笑いながら定食屋を出る。そこに1人の女性がやってきた。金髪に目立つピンクの制服。秋本麗子だ。でも、雰囲気が違う。
「あら、両ちゃん。」
「麗子か!」
両津が麗子に駆け寄るも麗子は時行が気になり両津を無視して時行に近付いた。
「この子は?」
「さぁ?俺達に懐いてるガキだ。」
「可愛いじゃない。私は秋本麗子。この人と同じ派出所勤務の警察官よ。」
麗子が自己紹介する。やっぱり時行のことを知らないようだ。時行も慣れない状況におどおどしながらも自己紹介をする。
「ほ、北条時行です!」
「よろしくね時行君。」
両津達のパトロールに麗子が加わる。時行はジーと見る。両津達と楽しそうに会話している麗子。やっぱりいつもの麗子と雰囲気が違う。
「そういや。中川は放っといて大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。」
両津は戸塚達を連れて競馬場に向かう。ここはいつもの両さんだと時行は思った。両津は鉄板だと言って馬券を握りしめ手すりに凭れかかっている。その様子を時行達が後ろから見ている。
「いつもあんな感じなのですね。」
「そうだな。」
時行は呆れている。そこに麗子が聞いてきた。
「時行君はどこから来たの?」
答え辛い。本当は両津達と親しい仲だが今の両津達は時行のことを知らない。時行は悩んだ。
「か、鎌倉から来ました。」
「ここへは何しに来たの?」
時行はまた悩んだ。
「え、え~と…人を捜してまして!」
「誰だそいつは?」
戸塚が聞く。その時、両津が歓声をあげた。どうやら、馬券が的中したようだ。戸塚が駆け寄る。
「当たったか!?」
「おぅ!」
両津は喜んでいる。ウキウキで換金する両津。
「やっとわしに運が回ってきた!50万だぞ!」
両津は戸塚達に万札を見せる。
「これで寿司、ステーキ、カツ丼食い放題だ。」
「俺達もご相伴に預からせてもらおうか。」
戸塚が両津の肩を掴む。その時、悲鳴が聞こえた。両津達が駆けつけるとバイクに乗った男がお婆さんからバッグを引ったくりしていた。
「警官の前で引ったくりとはふてぇ奴だ!」
両津が追いかけようとする。そこに麗子が車に乗って来た。どうやら、どこからか借りてきたようだ。両津と戸塚はすぐに乗る。時行も流れに乗る。
「なんでこいつまで乗ってんだ!」
「勢いで…つい…」
「もう下ろす暇はないぞ。」
麗子が車を発進させる。
「おい。確か麗子って…」
「あっ…」
車が猛スピードで走る。シートベルトをしてていない両津達は車の中で暴れる。
「しまったぁ!麗子の運転は凄く荒いんだった!」
ビュンビュン飛ばす麗子。歩行者達が驚いて逃げる。引ったくりのバイクを見つけた。引ったくりもこちらに気付き逃げる。
「逃がさないわよ!」
「麗子さんって…こんな人でしたっけ…?」
時行が酔いそうになる。バイクも車も信号など無視して走る。時行は我慢できず窓を開けた。その直後、両津の懐から万札が飛び出る。そして、窓から外へと吹き飛んでいった。
「わしの50万がぁ~!」
両津が必死に取り返そうとするもカーブを曲がったちめ危うく窓から飛び出そうになった。それを戸塚が抑え戻す。もう車の中はめちゃくちゃだ。
「吐いて…よろしいでしょうか?」
「ダメだ!」
「麗子!もっと優しく運転しろ!」
「それだと逃げられちゃうでしょ!」
戸塚の言葉が届かない。引ったくりはまだ追いかけてくる車に恐怖を感じている。引ったくりは余所見をしてしまう。その結果、真っ直ぐに進んだ状態でガードレールに激突し川へと飛び込む。麗子も真っ直ぐ進みガードレールを突き破り川へと突撃した。
「ぎゃあ~!」
バイクは大破、車も大破、引ったくりは気絶、麗子は平気で引ったくりを捕まえる。
「これで解決ね。」
「どこが解決だ!わしの50万が全部消えたんだぞ!」
「こりゃあ始末書で済まんだろ。」
「あら?そういえば時行君は?」
麗子が時行を心配する。その時行は酔いながらフラフラと歩いている。すると、また霧が立ち込めた。けど、時行は気付いていない。そのまま歩いていると霧が晴れた。
「えっと…ここは...」
やっと酔いが覚めた時行が周りを見るといつもの派出所があった。おそるおそる中を確認する。両津達がいる。両津と麗子が時行に気付く。
「時行君。」
「どうした?」
いつもの2人だと安心する時行。目をうるうるさせながら2人に駆け寄る。
「良かったです~!両さんも麗子さんもそのままでいてください~!」
「え?」
「何があった時行?」
「麗子君はともかく両津はまともに変わってほしいんだが。」
泣いている時行に困惑する両津と麗子であった。
時行が体験した不思議な霧の街。次はあなたのところに来るかもしれません。