「禁酒!?」
その日は派出所が壊れるぐらいの両津の叫びから始まった。
耳に手を当てる中川達。両津は世界の終わりを見たのかと言いたくなるぐらいの絶望顔をしていた。
「そうだ。今日の正午から1週間、新葛飾署は全員禁酒することになった。」
「なんでですか!?禁酒週間はまだ先ですよ!」
「葛飾内で先月の飲酒運転による検挙数が去年の同時期と比べて約2.4倍になっていた。今月に入ってからも飲酒運転による事故や逮捕が増え続けている。これを機に飲酒運転撲滅するためにわしら新葛飾署もお手本として禁酒することになった。」
大原部長が説明するが両津の耳には入っていない。
「そうだ!正午からならまだ…」
「両ちゃん。たった今正午になったわ。」
「ちくしょー!」
両津が滑りながら転ける。酒好きの両津にとって突然の禁酒ほどキツいものはない。みるみる覇気が無くなっていく両津。時行は両津に少し同情している。
その日の両津は元気が無いまま仕事を終わらせ帰宅して行く。時行が両津の背中を見ていると大原部長が時行にお願いしてきた。
「時行君、悪いが両津を見張っていてくれ。」
「私がですか!?」
「そうだ。両津はわしらの目が届かないところで必ず酒を飲む。君にはそれを阻止してほしい。」
「わ、分かりました。」
大原部長のお願いを聞いた時行はその夜、早速両津のところへと向かった。時行が部屋に入ると両津がビールの缶を開けようとしていた。
「両さんそれ!?」
「時行か。心配するな。これはビールと言ってお酒じゃない。甘く苦い大人の飲み物だ。お前にはまだ早いがな。」
「でも、大原さんがビール、ウイスキー、ワイン、カクテル、焼酎もお酒の分類だから両津に絶対飲ませるなって。」
「ちくしょー!」
両津が缶を床に叩きつける。両津が自分を騙そうとしているのは分かった。時行はビールを没収して両津の前に正座した。
「なので!今日から1週間見張らせていただきます。」
「お前、超神田寿司どうすんだよ?」
「ご心配なく。ちゃんと檸檬さんから許可はいただいております。」
両津はぐぬぬと歯を食いしばっている。そこから時行の両津禁酒阻止任務が始まった。時行が学校に行っている間は大原部長達が見張る。時行は学校から帰るとすぐに両津のところへと行く。両津もあの手この手でなんとかお酒を飲もうとするも時行はそれを阻止して行く。
ある日、時行が両津の部屋に行くと両津は居ない。この日の両津は夜間も勤務しているためまだ派出所にいた。時行は両津を待つ。ついでに部屋を掃除しているとジュースみたいなラベルの缶を見つけた。
「変わったジュースですね。」
初めて見るジュースに時行は興味が勝ち蓋を開けて飲んでみた。その瞬間、ビールだと分かった。思わず吹いてしまう時行。もう一度缶を見る。やっぱりジュースに見える。
「ま、まさか…今度はこれで私を騙そうとしていたな。」
時行の様子がおかしくなる。最初に飲んだ酒の影響で酔っていたのだ。酔った時行は残り缶を見てニヘラと笑う。何か悪いことを考えているみたいだ。
「確か…玄蕃なら…」
翌日、禁酒解放まであと1日となった日も両津は夜間勤務のため帰りが遅くなっていた。帰る途中、チラッとコンビニに立ち寄る。そのままビールを買っていた。両津は帰る途中でそれに気付く。
「ぬおっ!?いつの間に!?」
無意識でビールを買っていることに気付いた両津。周りをキョロキョロ見回し誰もいないことを確認する。
「そうか。何故考えなかった。帰る途中ならいくらでも飲み放題じゃねぇか。」
両津は笑いながらビールの缶を開けようとした。その時、視線がした。刺してくるような視線の主を捜す。そして、両津は見つけた。こちらをガン見している時行を。まるで不倫現場を目撃した妻のような目で見ていた。
「両さ〜ん、それなんですか?」
「時行!もうお前ホラーだぞ!」
時行が木の陰からユラリと出る。ユラリ、ユラリ、またユラリと揺れながら近付いてくる。両津はたまらず逃げる。時行は真顔で両津を追いかけ始めた。
「ひぃ!怖い!怖すぎるぞ時行!」
両津は公園に入り突っ切って進む。しかし、時行の気配が消えることはない。チラッと後ろを見ると木から木へと跳び移りながら追いかけてくる時行がいた。
「くそ〜!逃げ上手だから逃げ道をしっかりと分かってやがる!」
「両さーん。」
「完全にホラー映画の殺人鬼だ。」
両津は必死に走るも時行が先回りしてくる。さすがに戦国時代を生き抜いてきた少年の気迫は凄まじくあっという間に後ろまで迫ってきた。両津は観念したのか時行にビールを投げる。
「参った!降参だ!」
「良かったです。」
ビールを受け取った時行はニコニコしている。その日の両津は悪夢に魘されていた。
翌日、正午になり酒が解禁された。ホッとした両津のところに大原部長が笑顔で近付く。
「どうだった両津。」
「恐ろしいものでしたよ。あんな気迫を日常的に受けていたのかと思うとさすがのわしでも滅入ってしまいますよ。」
ニコニコしながら椅子に座っている時行を見て両津が語る。麗子達が頑張ったと時行を褒める。あのあどけない笑顔の少年が殺意飛び交う時代を生きてきたなんて信じられない。
「でもおかげで禁酒できたから良かったじゃない。」
「やっとあれが飲める。」
「あれってなんですか?」
「わしが楽しみにしていたビールがある。それはちょっとジュースみたいな見た目だが爽やかな後味のするビールでな。わしのお気に入りだ。禁酒が解かれたら最初に飲もうと隠していたやつだ。」
両津の発言に時行が止まる。両津が笑って中川達に自慢している。時行の汗が止まらない。
「両さん…その…そのお酒は飲まなかったのですか?」
「おう!飲んでねぇぞ!今日帰ったら飲むつもりだ!」
「そ、そうですか…」
時行が挙動不審になる。両津はそんな時行を見て首をカシゲテいる。時行はその日のことを思い出す。
酔ったまま残りのビールを全部飲み干して缶の中におしっこを入れていた。玄蕃式嫌がらせだ。それを思い出す。時行はこれがバレたらただではすまないと直感していた。
「わ、私は用事を思い出したのでこれで失礼します!」
時行は派出所から逃げるように出て行った。その夜、帰った両津は楽しみにしていたビールを飲んだ。しかし、すぐ吐いてしまう。
「これ、中身がビールじゃない!?」
両津がもう一度確認する。缶は全て蓋が開いている。嗅いでみると少し臭い。両津はまさかと思い今日の時行を思い出す。
「ま、まさか…」
翌日
「時行はどこだ!時行出てこーい!」
「時行君ならビール工場を見学したいと言って出て行きましたよ。」
金棒を持って突撃してきた両津。大原部長や麗子は驚き中川は両津にそう答えたのだった。