逃げ上手の転生記 〜亀有の破天荒警官と〜   作:虹武者

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両津、時行を養う

神奈川県鎌倉市鎌倉署

 その取り調べ室に大原部長と時行がいた。

 

「もう一度聞く。名前は?」

「北条時行です。」

「出身は?」

「鎌倉です。」

「両親は?」

「亡くなりました。」

 

 大原部長が取り調べしているのをマジックミラーを通じて両津と麗子が見ていた。

 

「両ちゃん、よく見つけれたわね。」

「これのおかげだ。」

 

 そう言って両津はスマホを取り出し麗子に見せる。画面にはSNSで時行のことが動画や写真で出ていた。

 

「今は監視社会。これ1つで場所が丸わかりよ。」

「さすがね両ちゃん。」

 

 麗子が誉める。そこに中川が入ってきた。

 

「どうだった。」

「先輩。凄いことですよ。」

 

 中川が両津に資料を見せる。

 

「北条時行、中先代の乱を主導し生涯に渡り足利尊氏と対立していた武将です。」

「同姓同名じゃないのか?」

「僕もそう思って持っていた刀を知り合いに鑑定してもらったところ南北朝時代の刀で間違いないそうです。しかも、完成してからまだ数年も経っていないとのことです。」

 

 中川が資料を捲り刀の鑑定結果を話す。それは時行が南北朝の人間であると裏付けるものだった。さらに、中川は資料を捲り時行が着けていた冠の鑑定結果も報告した。

 

「この冠は北畠顕家が着けていた物だったのですが遺体からは発見されなかったという凄い歴史的価値のある物ですよ!」

「中川、まさかあの子供がその北条時行本人だというのか?」

「間違いありません!彼の指紋が後醍醐天皇に送ったとされる書状に付着していた指紋と一致しました。もう疑いようがありません!」

 

 資料を見た両津と麗子は時行を見て絶句する。中川が取り調べ室に入り大原部長に結果を報告する。それを聞いた大原部長は時行を残して取り調べ室を出た。

 

「どういうことだ?600年以上前の人物が何故ここにいる?」

「転生ってやつでしょうか?」

 

 両津の発言に大原部長達は耳を向ける。

 

「両津、転生ってなんだ?」

「一度死んだ人間が違う世界で新たな人生を歩むっていう最近流行っている小説の導入です。そのほとんどが魔法がある世界ですが。」

「輪廻転生ですね。」

「そう!本田が最近ハマっていてよく読んでいました!」

 

 両津が話す転生に真実味が出てくる。実際大昔の人間を目の当たりにしたのだから無理もない。問題は何故時行がこの時代に転生してきたのかだ。両津達は頭を捻って考える。

 

「…絵崎が何かやらかしたか?」

「まさか〜。」

 

 みんな笑うが心当たりがあるため急に真顔になる。

 

「それよりもこれからどうするかだ。」

「そうですね。もちろん戸籍なんてありませんし普通に生きていくだけでも問題だらけです。」

 

 昔の偉人が現代に蘇ったなんて普通は信じない。戸籍がない時行は学校に通うことも家に住むこともできない。このままでは孤児院に行っても独り立ちなんて到底できない。だからと言ってホームレスにするわけにもいかない。

 なんとかして時行を保護したいと考える。すると、両津が大原部長に提案した。

 

「わしの知り合いに葛飾区役所の職員がいるから戸籍ならなんとかなるかもしれん。」

 

 両津の提案に大原部長達は乗る。

 

「いいですね先輩!」

「確かにそれがいいかもしれんが…」

「部長、そもそもあの子の存在そのものがイレギュラーなんですから今までの法律なんて通用しませんよ。」

「そ、そうだな…なら彼の面倒は両津に見てもらおう。」

「えぇ!?」

 

 大原部長の言葉に両津はびっくりする。その提案に中川と麗子が乗った。

 

「先輩なら大丈夫ですね!」

「そうね!両ちゃんなら安心ね!」

「ちょっと待て!それなら中川か麗子の方が適任でしょう!」

「い、いえ!先輩の方が適任ですよ!」

 

 中川達が挙動不審過ぎる。両津が詰め寄ろうとすると大原部長が両津の肩を掴んだ。

 

「両津、これはお前にしかできないことだ。このことを知っているのはわしら極一部だけ。その中でも一番彼が信頼できるのは両津、お前だけだ。」

「部長…」

「それに彼の生活費は署から出るしもしかしたら褒賞金が出るかもしれんぞ。」

「部長!不肖両津勘吉!北条時行を養子にしたいと思います!」

 

 お金で簡単に乗せられる両津。それを聞いて大原部長達はホッとした。両津はそんな大原部長達を気にすることなく両目が¥になっている。

 

(さすがにこんな大物を養子にするのはわしでも緊張する。)

(先輩なら緊張しないで接してくれるはず。)

(両ちゃんなら気にしないから大丈夫よね。)

 

 それぞれ北条時行というビッグネームに慄いていた。こんな大物、しかも歴史的偉人を養子として迎え入れるにはプレッシャーが大きすぎる。その点、両津はそんなもの一切気にしない。だから、3人とも両津に責任を押し付ける感じで時行の養子をお願いした。

 

「じゃあ、戸籍登録とあとは着替えや生活に必要な物を準備しないとな。」

「生活用品なら任せて。」

「着替えは僕が用意します。」

「お前ら、わしが養うと言った瞬間態度が変わってないか?」

「そ、そんなことありませんよ!」

「そ、そうよ!」

「頼むぞ両津!」

「あ〜、分かりましたよ!わしが養子にしますので生活費褒賞金諸々頼みますよ!」

 

 両津は再度大原部長に確認させる。そのまま時行が待つ取り調べ室に入った。時行が両津を見てビクッとする。

 

「どうした?」

「い、いえ!なんとも個性的な鎌倉武士だなぁと…」

「誰が鎌倉武士だ。」

 

 両津は時行の向かいに座る。

 

「今回の信号無視や道路交通法違反、銃刀法違反、不法侵入はそもそもここの常識を知らなかったということで厳重注意だけに留める。」

「は、はぁ。」

「それとお前はこれからわしが預かることになった。」

 

 時行はびっくりして目を丸くする。

 

「あ、あなたがですか?」

「そうだ。今のお前は戸籍がないから金なんて入らないし生活すらできん。そもそも知り合いの居ない世界でどうやって過ごすつもりだ?」

 

 両津に言われて時行は黙る。自分は南北朝時代の人間でありこの時代のことは何も分からない。戸籍はもちろん金も家も頼れる人もない。そう考えると時行には選択肢がない。

 

「お前のことはわしらしか知らん。お前が頼れるのはわしらだけということだ。」

 

 両津が中川に頼んでいたカツ丼を時行の前に出す。時行は初めて見るカツ丼に涎が止まらない。

 

「今の時代は殺し合いなどないしこんな美味いもんがたくさんある。今の日本はお前がいた時代よりは平和だ。」

 

 平和…それは時行が望んでいた世界だった。今の日本は自分がいた時代より平和。そう思うと逃げている途中見かけた人達は鎌倉武士のような野蛮さもなければ飢えている様子もなかった。それを思い出し自分が願っていた平和が今ここにあるのだと実感した。

 

「よ…よろしくお願いします。鎌倉幕府第14代執権、北条氏得宗家当主・北条高時の次男、北条時行です。」

「おう!わしは葛飾区亀有公園前派出所巡査長両津勘吉だ!」

 

 両津が手を伸ばす。時行も伸ばすと両津が時行の手を取り握手した。ここから時行の新しい人生が始まる。

 

「まずはメシにしようか!」

「はい!」

 

 波乱万丈な人生を歩んだ北条時行。彼はこの時代、令和の日本で再び人生を歩むのだった。

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