「い〜やっほー!」
両津と時行は今、海にいる。ウォータージェットに乗り海上を走り回っている。時行は両津の前に乗って水飛沫を浴びている。
「どうだ?凄いだろ?」
「はい!海の上をこんな風に走れるなんて驚きです!」
ウォータージェットで走っていると海上に大きな施設が見えた。観客席とステージがあり大きなモニターが目立っていた。
「あれはなんですか?」
「あれか?あれは今流行りのバーチャルアイドル“鶴子”の初ライブステージだ。」
「バーチャルアイドル?」
「生身の人間じゃなく二次元、つまり人間が作った架空のアイドルのことだ。鶴子は今大人気のアイドルなんだよ。ちょっと近付いてみるか。」
「いいんですか!?」
「あたぼーよ!」
両津が少しステージ会場に近付く。すると、クルーザーの上に大原部長がいるのが見えた。大原部長も両津に気付く。
「両津!ここで何をしている!?」
「部長こそ!制服着てアイドルライブなんてガラじゃないでしょ!」
「お前と一緒にするな!こっちは仕事で来ているんだ!」
部長が怒る。そこに中川と麗子がウォータージェットに乗ってやってきた。2人も両津を見て驚く。
「先輩?確か有給休暇をとって…」
「そうだ。時行と一緒に海でウォータージェットをしてた。それでなんで中川達も一緒なんだ?」
両津が聞く。中川が大原部長を見ると大原部長が自分から言うと首を縦に振った。
「実はここにアメリカ駐日大使の息子が御忍びで来る。」
「アイドルフェスに?」
「そうだ。我々は息子をテロリストから守るためにここに派遣された。」
「態々ご苦労ですね。」
「ついでだ両津。お前も参加しろ。」
大原部長の発言にウォータージェットごと転ける両津。もちろん時行も巻き添えだ。ウォータージェットを元に戻して乗る両津達。
「なんでわしが!?」
「これも何かの縁だ。もちろん、仕事として扱うから有給休暇は消費されん。それに、上手くいけばボーナスが出るかもな。」
「部長!やらせていただきます!」
ボーナスという言葉にあっさり釣られ了承する両津。
「そうそう。大規模な警備になるから本庁から特殊刑事がくることになった。」
「待て!時行ぃぃぃぃぃぃ!」
特殊刑事と聞いた瞬間、時行がウォータージェットで逃走した。逃げる時行を見て乾いた笑いをする中川。
「もう特殊刑事がトラウマになってますね。」
「無理もないわ。」
「待て!時行!」
「いやです!もうあんな目に合いたくないです!」
「違う!今回来るのは海パン刑事じゃない!」
時行が落ち着く。両津はウォータージェットを操作して大原部長達のところへと戻る。
「海上で今日の気温は37.2度。こんな時に来る特殊刑事は1人しかいない!」
ウォータージェットが進んでいくと目の前の海面からブクブクと泡が発生した。それを見て両津はウォータージェットを止める。泡はだんだん大きく、増えていきそこから潜水艦が現れた。
「来た!」
「なんですかあれ!?」
「ラ〜♪海を愛し!正義を守る!誰が呼んだか!誰が呼んだかポセイドン!タンスに入れるは、タンスにゴン!私が水上警察隊隊長・海野土佐ェ門!お茶目なヤシの木カットがトレードマークの、ドルフィン刑事だ!!」
潜水艦から現れた男。ふんどし一丁にセーラー服の襟とスカーフ、頭には小さなヤシの木がある。時行はその男を見た瞬間、ポカンとして両津を見た。
「あれがドルフィン刑事だ。」
「鎌倉武士よりも変態ですよ。」
「そんなので超えたくなかった。」
両津が嫌な顔をする。時行を見つけるドルフィン刑事。
「夏の暑くなるこの時期は犯罪が多発する。私はそんな犯罪を抑止するために現れる幻の刑事なのだ。」
「お願いします。そのまま幻になってください。」
時行が懇願する。そこに大原部長達も合流して会場に向かった。警備は厳重でライフルを構えた人までいた。アメリカ駐日大使の息子が来るのだから当然ではある。
「なんであんたがここの警備責任者になってんだ?」
「エリート刑事としては当然である。」
パイプを蒸して喋るドルフィン刑事。すると、また時行を見た。時行はビクッとなって両津の後ろに隠れる。
「君が北条時行君か。」
「そ、そうですけど…」
「聞いているぞ。エリート刑事顔負けの大活躍したと。」
「それほどでも〜。」
「チョロいな。」
照れている時行。両津はもうこの後の展開が読めてしまう。
「そこで君にも手伝ってもらいたい真っ裸刑事!」
「えへへ…え?」
時行が目を丸くする。両津達はやっぱりと頭を抱える。時行はすぐ海に飛び込んで逃げようとする。その瞬間、時行の真下からイルカ達が現れた。イルカ達は時行を乗せてドルフィン刑事の前まで運ぶ。
「時行、諦めろ。そいつは元イルカ調教師だ。」
イルカが可愛いと思ってしまった時行はそのままドルフィン刑事と一緒に潜水艦の中へと消えて行く。その間イルカ達が芸をして時間を繋いでくれた。しばらくしてドルフィン刑事が出てくる。時行は顔半分だけ出す。真っ赤になっている。
「普通の水着でよくないですか?」
「それでは面白くない。」
「これに面白さいりませんよね!?」
時行は仕方なく潜水艦から出る。スクール水着にドルフィン刑事と同じセーラー服の襟とスカーフを着けていた。ただし、スクール水着は女子用だった。
「これ絶対男が着る水着じゃないです。」
「似合っているぞ真っ裸刑事。」
「何もかも嬉しくないです。」
恥ずかしいと下を向く。そこに両津が来る。
「時行、よく考えてみろ。前回は完全アウトの変態だったが今回は場所も相まってちょっと変わった水着程度にしか見られん。それに、お前は見た目が女に見えるから堂々とすればバレない。」
「そ、そうですよね。知り合いにさえ会わなければ大丈夫ですよね?」
時行が一安心して振り返ると弧太郎達がいた。冷たい目で時行を見ている。
「あ、あの…」
「俺は何も見てないっすよ。」
「凄く似合ってるよ。」
「時行…さん…」
「いい写真が撮れた。」
「安心してください。その程度で私達の友情は壊れませんので。」
そそくさと去って行く弧太郎達。涙を流す時行に両津がそっと肩に手を置いた。
「ドンマイ。」
「最悪だぁ!」
時行が叫ぶ。ライブが始まる。会場は熱狂していた。モニターに現れる鶴子。
『みんなー!こんにちはー!今日は白拍子天女鶴子のライブに来てくれてありがとう!』
今のところ何事もなくライブは進行している。両津の前で蹲りブツブツ言っている時行。両津が時行を慰めながら大使の息子がいる櫓を見る。会場の上に特別に作られた櫓の中に息子がいる。
「態々防弾設備を作ってまで見たいのか。」
両津が呆れている。すると、遠くからこちらに向かってくるエンジンの音が聞こえた。両津がその方向を見る。そこにはこちらに向かっている2隻のクルーザーがいた。方向を変えることなく真っ直ぐ来る。だんだんとスピードが上がっている。
「部長!来ました!」
両津が叫ぶ。大原部長も気付いてすぐ連絡する。クルーザーは二手に別れる。片方にドルフィン刑事の潜水艦が向かっていく。両津もドルフィン刑事と一緒にクルーザーへと向かう。
「行くぞ時行!」
「待ってください!イルカが何か訴えてます!」
両津がチラッと横を見るとイルカがキュイキュイ鳴きながらヒレでプクプクなっているところを指す。両津は慌てて海中に潜り沈んでいく潜水艦からドルフィン刑事を救出した。
「まさか…エンジンが動かなくなるとは…」
「なんで毎回沈むんだあんたの潜水艦。」
2人が浮上する。そこにクルーザーからライフルを向けるテロリスト。その時、時行がウォータージェットを飛ばしクルーザーに体当たりした。バランスが崩れ1人落ちる。
「ナイス時行!」
一方、大原部長達はもう1隻のクルーザーを追う。既にステージに突入している。中では激しい戦闘音が聞こえる。大原部長達が応援に駆けつけるとそこには破壊されたライフルの破片が散らばりテロリスト達が倒れていた。その先には長い木刀を担いだ眼鏡の男子高生が立っている。
「白拍子天女鶴子のライブを汚したな…万死に値する。」
「「「ええ…」」」
迫力ある男子高生に大原部長達は声が出なかった。
同時刻、クルーザーに体当たりした時行は海中へとダイブする。テロリスト達が海面に向けて乱射する。それを見た両津がドルフィン刑事に指示した。
「ドルフィン刑事!時行をクルーザーにあげろ!」
「ん?…なるほど。分かった!」
ドルフィン刑事はイルカに乗り笛を吹く。すると、海中にいたイルカ達が尾鰭で時行をクルーザーへと投げ飛ばした。時行がクルーザーの先端に着地する。
「なんだと!?」
「小娘ごときが!」
「私は男です!」
「ジャパンの男は誰でも女装するって噂は本当だったのか!?」
「何その噂!?」
テロリスト達が連射する。しかし、クルーザー内を縦横無尽に逃げる時行に当たらない。すると、テロリストの足元に手榴弾が落ちてきた。テロリストは慌てて手榴弾を海に投げる。イルカに乗ったドルフィン刑事が手榴弾を投げまくっていた。
「海の守護神がいる限りこの海を荒らせはしない!」
「あんたが一番荒らしてるぞ。」
手榴弾による爆撃でクルーザーが壊れていく。そして、とうとうクルーザーが沈んだ。転覆したクルーザーに上がるテロリスト達。そこに両津がウォータージェットで体当たりした。完全にノックアウトするテロリスト。仲間も武器も戦意もないようで両手を挙げていた。両手は時行を引き上げる。
「ナイス活躍。」
「何故でしょう…全然嬉しくありません。」
イルカ達が拍手してくれている。しかし、時行はショボンとしている。そんな時行に両津は何も言わなかった。
翌日、テロリストを制圧し再びライブが開催された。時行達もクルーザーからライブを見ていると目の前に潜水艦が現れた。時行はすぐ奥へと逃げる。
「昨日は見事だったぞ真っ裸刑事!」
「海パン刑事と同じ展開だぞ。」
奥からドルフィン刑事を威嚇する時行。そこにイルカ達から包が送られてきた。
「それは私からの感謝の印だ。受け取ってくれたまえ。」
時行が恐る恐る包を開ける。そこには昨日着たスクール水着とドルフィン刑事と同じ服(?)があった。
「こ、これは…」
「それは等身大時行君フィギュア真っ裸刑事スク水バージョンとドルフィン刑事バージョンのセットだ。着替えさせて楽しんでくれ。」
「いりません!」
怒りながらスクール水着を叩きつける時行であった。