ある日、両津がパソコンに向かって難しい顔をしている。そこ時行がひょっこりやってきてパソコンの画面を見た。人間みたいなのが何かやっている。全然分からない。
「両さん、これなんですか?」
「時行か。こいつはメタバースという。」
「メタバース?」
メタバースが分からない時行に両津はパソコンの画面を見せながら説明を始めた。
「アバターという自分の分身を作り仮想空間でできた世界に住まわせる。この仮想空間のことをメタバースという。簡単に言えば現実とは違うもう1つの世界だ。この世界では基本自由にすることが出来る。普通に歩き回るのもよし、売買して富豪になるもよしとなんでも出来る。新たな副業の1つとして注目されている。」
両津が見せた画面にはいろんなアニメキャラクターのマスクが売ってあった。
「今わしはメタバースでなりきりマスクというものを売っている。こいつを買うと…アバターの見た目を変えることが出来る。これで好きなアニメのキャラクターに成り切れるというわけだ。」
「全然分からない。」
「なら、時行も入ってみるか?」
両津は時行の写真をインストールしデータに送り込むとメタバースに時行そっくりのアバターが現れた。時行は自分そっくりのアバターに驚く。アバターの頭には“トッキー”と表示されている。
「これで登録完了だ。あとは好きに動かせるぞ。」
「トッキー?」
「このアバターの名前だ。基本アバターの名前は本名にしない方がいいからな。ちなみに、わしは“RII”だ。」
トッキーはとりあえずRIIの後ろを着いて行く。すると、周りのアバターがトッキーに注目しだした。だんだん寄ってきてコメントに可愛いを連呼する。
「な、なんですかこれ!?」
「コメント機能だ。アバター同士で会話が出来る。時行も録音機能を使ってコメントしてみろ。」
時行はとりあえず『よろしくお願いします。』とコメントする。さらに、可愛いが増えた。それに加えて時行の貯金額が突然増えた。
「な、何か出てきましたよ!?」
「投げ銭だな。気に入った相手にお金を貢ぐ機能だ。そうだ…」
両津はトッキーに何かインストールする。すると、トッキーが突然踊り始めた。さらに、コメントと投げ銭が増えていく。
「両さん、これは?」
「ダンスモーションだ。アバター特有の動きを売っている。」
「?」
「これを買うと…ほら、みんな同じ動きをした。こうやって自分にない物を売っているのだ。」
両津の言う通り周りにいるアバターが次々とトッキーと同じ動きを始めた。トッキーの所持金がものすごいスピードで増えていく。
「今回は人気アニメのOPのダンスを売っているから大儲けよ。曲は版権があるがダンスの方はまだないから売り放題だ。」
両津はトッキーの所持金をちゃっかり自分の懐に入れる。時行は楽しくなりトッキーで走り回る。RIIもトッキーと一緒に走り回っている。しばらくメタバースを堪能するとRIIはトッキーを自分の店に案内する。
「わしはここでなんでも売っている。たまに出張もするが基本はここを拠点にしている。」
「なんかいっぱいありますね。…衣装、メイク、バイク、ミニゲーム…よく分からないものばかりです。」
「だろうな。時行もここで何か売ってみるか?」
両津に言われてみるも初心者の時行にはどうすればいいのかさっぱり分からない。すると、見覚えのあるガタイの良いアバターが現れた。頭上には“サコンジ”と表示されている。
「両さん…この人…」
「完全に左近寺だな。ちょっと待ってろ。」
両津がトッキーにインストールする。すると、サコンジの前で突然誘うような動きをした。それを見たサコンジは震えている。
『それは!ドキメモ2で好感度75%超えで発生するイベント“一緒に下校”で主人公を下校に誘うサオリの仕草!』
「よく分かりません。」
「わしも分からん。」
完全に左近寺だと分かったが2人は無になっている。サコンジはすぐにトッキーのジェスチャーを高値で買った。その場で同じ動きをするもムキムキマッチョのアバターがやるとなんか…気持ち悪い。
サコンジが満足して去って行く。一応売れたは売れた。それが時行にはちょっと嬉しかった。時行はワクワクしながらトッキーを動かす。
「どうだ?」
「なんか…新鮮です。」
「だろうなぁ。南北朝時代にこんなのはなかったしな。」
両津はトッキーを見て気付く。メタバースでも時行の人気が凄まじい。すると、ニヤリと笑い悪巧みを考えた。
(時行を介していろいろと売れる。以前はわしだとすぐバレたから中川にやられたが今度は上手くいけば…)
「時行、わしが売る物を提供してやるからなんでも好きに売ってみろ。」
「本当ですか!」
時行はノリノリで両津の指示通りに物を売っていく。服、モーション、アクセサリー、小説、車、ゲーム。さらにASMRや他の会社の株まで売っていた。しかし、何も知らない時行は疑うことはなかった。時行君効果は絶大であっという間に売れていく。
(これはいい副業ができた。)
両津の行為はどんどんエスカレートしていく。トッキーにいろんな衣装やマスクを着けて変装させ他のゲームで使うマネーやいかがわしい動画にフィギュアまで売り始めた。
しかし、どれだけ巧妙に隠しても事態が大きくなれば何処かしら綻びは生まれる。不審に思ったアバター達が運営に報告した。それが中川の耳に入る。中川が調べてみる。
「トッキー?」
「はい。メタバース内で売買禁止にされている物を売っていると報告がありました。」
中川が大原部長に報告する。中川のアバターがトッキーの後を着ける。すると、トッキーがマスクを取った。素顔が中川達にバレる。
「この見た目って時行君よね?」
「時行君が違法売買…」
「両津だな。」
「両ちゃんね。」
「先輩ですね。」
即バレる。大原部長達はすぐに時行を捜す。時行は超神田寿司のパソコンでメタバースに入っていた。時行には両津に利用されていたことを伏せて両津の居場所を聞く。
「両さん?そういえば昨日から見ていませんね。」
時行が答える。メタバース内を捜してみるが拠点は既にもぬけの殻、両津がいた痕跡が完全に消えていた。
後日
『メタバース内で小学生のアバターを利用し違法売買していた自称警察官が逮捕されました。被疑者は“本人の同意で売っている”と主張し…』
「何しているんですか両さん…」
「自業自得だ。気にする必要はない。」
テレビのニュースで流れた両津の逮捕を見て呆れる時行達であった。