時行は今、両津と左近寺とボルボと一緒に東京駅にいる。
きっかけは電極スパークが開発したある試作品のテストだった。新葛飾署の前に集まった両津達の前に電極スパークがやってくる。手には変わった形のドローンが見える。
「え〜、今回集まっていただいたのは我が社が開発した新型ドローンのテストに参加していただくためです。」
「スパークの奴、とうとう家族以外も実験に使い始めたな。」
スパークがドローンを飛ばす。ドローンの下にはカメラがあった。カメラが動き両津達を撮影する。それをモニターに映した。
「このドローンは我が社が開発した新型監視カメラ“逃さん君”だ。」
「ネーミングセンスがひどい。」
「逃さん君は約100万人の顔、体格、仕草、癖を一瞬で判断。それを衛星を通じて日本全国の警察署のサーバーに送られる。そこから指名手配犯を割り出し瞬時に場所を突き止めることが出来る。」
スパークはそう言ってモニターに両津を映す。逃さん君から撮られたものだった。
「うおっ!びっくりした!」
「今回は逃さん君の実証実験として両津勘吉を捕らえてみせましょう!」
「わしを実験に使うな!」
両津が抗議するも届かずやらされることになる。仕方なく両津は時行、左近寺、ボルボを巻き添えにして実証実験を始めることなった。
「両津、なんで俺達まで巻き込んだ?」
「スパークに勝つためだ。数で翻弄する。」
「衛星から監視されたら無理だろ。」
(頼重殿が言った通りになってる。)
みんなで空を見上げる。複数の逃さん君が両津達を捉えている。スパークが腕時計を見る。
「それでは逃げ切ってみたまえ。まぁ、1日と保たないだろう。」
「言ったな。」
スパークが開始の合図をする。それと同時に両津達は走り出した。逃げる範囲は東京都内ならどこでもOK。両津達は最低限のお金、水、スマホをリュックに入れている。両津は時行と一緒に地下鉄へと逃げる。
「ここならドローンは入れない。」
「でも、凄い時代になりましたね。どこにでも監視の目があるなんて。」
「これが監視社会日本だ。どこに居ようがすぐバレる。」
ホームへ着いた2人。人混みに紛れて前へと進む。
「時行、これはわしらと警視庁との鬼ごっこだ。この世界全てがお前を捕まえに動く。どうだ?楽しいだろ?」
「はい!」
両津が鬼ごっこと言うと時行は目をキラキラ輝かせた。やる気満々だ。すると、両津は天井に設置されている監視カメラを見てしゃがんだ。
「時行、ここから離れるぞ。」
「え?」
「多分、あの監視カメラもわしらを捉えてる。」
両津の勘は的中していた。その監視カメラの映像は警視庁に届けられていた。スパーク達がその映像を見て笑っている。
「さすが両津。気付いたか。そう、逃さん君の真骨頂は全国の監視カメラと連動出来るところだ!今はまだ東京都内だけだがいずれ日本全国の監視カメラと連動する予定だ。」
「監視カメラもここまでくるとさすがとしか言えんな。」
大原部長も驚いている。映像から両津が消えたがスパークは落ち着いている。
一方、左近寺はマスクにサングラスをしてタクシーに乗った。
「武蔵野まで頼む。」
「は、はい。」
タクシーの中で一休みしていると電話が鳴った。左近寺が出る。両津からだ。
「どうした両津?」
『左近寺、お前今どこにいる?』
「タクシーで移動中だ。安心しろ。ちゃんと顔は隠している。」
『終わったな。』
「え?」
『最近の監視システムは変装はもちろん、整形しても骨格や動きで識別出来る。それに、タクシーには車載カメラがあるからお前の場所など筒抜けだ。』
「え?嘘?やべ!前にパトカーが!後ろにも!」
左近寺の叫び声がスマホの向こうから聞こえる。左近寺は開始1時間で捕まった。両津は目を瞑りスマホを切る。
「左近寺は終わったな。」
「両さん。ここ行っていいんですか?」
「今のわしらは逃げる犯罪者という設定だ。一々法律なんて考える暇はない。」
両津はそう言って時行を連れて暗いところを走って行った。
「左近寺は逮捕出来たか。それで両津は?」
「それが…地下鉄のどの監視カメラにも映っていないです。」
「何!?」
スパークが驚く。両津が入った地下鉄とそこから繋がる地下鉄、電車を映す監視カメラ全てを見ても両津は映ってなかった。
「もしかして先輩、レールを走ってる?」
中川が口に出す。
「多分、先輩は電車に乗らずにレールを直接走っています。」
「なんてことしてんだあのバカ。」
「両ちゃんらしいわね。」
中川の推測は的中していた。両津と時行は地下鉄のレールを走っていた。両津は地下鉄の発着時間を記憶し電車が来ない時間を利用して逃げていた。もうすぐで次のホームが見えてくる。
「時行、ここからは二手に別れる。一緒にいれば捕まる可能性があるからな。」
「分かりました。」
時行はそのままホームへ。両津はホームとは別方向に向かって走り出した。時行がホームに入る。それを監視カメラは見逃さなかった。
「時行君いました!」
「場所は!」
「〇〇駅です!」
「本当に電車に乗らずにレールを走っていたとは…」
中川の推測が当たり呆れる大原部長。すぐに近くにいた警官が向かうも既に時行はいなかった。時行は地下鉄から出るとすぐ人混みに紛れる。しかし、その後を逃さん君が捉えた。
「時行君は渋谷方面に向かって逃走中。」
「さすがの逃げ上手と言われた少年も技術の進歩の前には無力だったな。」
「ところで両津はどうした?」
大原部長に言われて気が付く。さっきから両津が映っていないのだ。ずっと地下鉄内を走り回っているのか。そう思った矢先、連絡がきた。
「両津を発見しました!」
「場所は!?」
「浅草です!」
「何故だ!?」
再びスパークが驚く。両津が最後に確認された地下鉄からかなり離れている浅草に一度も見つからずに移動出来るはずがない。そう思っていると中川と麗子が地図を広げて推測を始めた。
「おそらく先輩は今は使われていない地下通路を通って移動したんだと思います。」
「それに、両ちゃんなら下水道を通って移動なんて普通にするわ。」
「まるでモグラだな。」
2人の推測にも両津の行動にも驚く。すると、今度は時行を発見したと連絡がきた。時行を映した映像を見る。何故かホテルの屋上のフェンスに座っていた。
「どうやって来た!?ホテル内の監視カメラには映ってなかったのか!?」
「多分、時行君は非常階段やパイプを伝って登ったのだと思います。」
「彼の行動範囲は両津と同じなのか?」
「先輩と同じです。」
スパークは驚き過ぎて声が出ない。すぐに時行を捕まえるために警官達が向かう。警官達が屋上に着く。それに時行も気付いた。
「さすがにこれで彼も捕まるだろう。」
「どうでしょうね。」
スパークは一安心しているが時行を知っている中川達は安心出来なかった。警官達が時行に近付く。すると、時行はフェンスの上を走った。警官達が慌てて追いかけると時行は何の躊躇いもなく屋上からダイブした。
時行の行動に警官達はもちろん、監視していたスパーク達まで悲鳴をあげた。中には目を背ける者もいる。時行は落ちる途中で上手く壁を蹴り着地した。それを見た監視員達はヘタれ込んだ。魂が抜けたように動かない者もいる。
「か、彼は…何者なんだ?」
(いくつもの死線を潜り抜けてきた猛将です。)
スパークも驚いているが中川達も改めて時行に驚いていた。その夜、ボルボは山にいた。地面を掘り落ち葉などで隠れる。土遁の術だ。ボルボはストローで空気の通り道を確保して隠れる。
(これならいくらでも隠れることが出来る。)
ボルボは余裕だった。しかし、だんだん音が大きくなる。なんだと思っていたら突如逃さん君が現れた。
「馬鹿な!?バレたのか!?」
ボルボが驚く。逃さん君にはなんと暗視機能とサーモグラフィカメラが搭載されていた。警官の懐中電灯の光が見える。ボルボはマズいと判断して木に登る。すると、逃さん君から何かが発射された。それがボルボに命中するとボルボは痺れて動けなくなった。
「テ、テーザー銃も装備してたのか…」
ボルボは痺れたまま警官に捕まってしまった。結果、ボルボは半日で捕まってしまった。一方の時行は川に入り魚を捕まえ焼いて食べていた。それを逃さん君が発見する。
「あの子、サバイバル技術もあるのか。」
「最早野生児ですね。」
時行の行動にみんな唖然としている。食べ終わるとすぐに森の中へと逃げる。子供とは思えない身の熟しで木から木へと移動する。スパークは時行を諦め両津を捜す。すると、逃さん君が東京タワーの展望台の上で寝ているのを発見した。
「両津も両津でなんてとこにいるんだ。」
「両ちゃんも大概よね。」
寝ていた両津は逃さん君に気付いた。下を見るとパトカーが集まってくる。両津はパトカーを確認するとなんと跳び下りたのだ。また叫ぶスパーク達。すると、両津はパラグライダーを広げ滑空しながら降りて行った。
「いつの間にあんなものを買ってたんだ?」
両津の行動も理解出来ない。なかなか捕まらない2人にスパークは業を煮やしたのか逃さん君をさらに投入した。それに加えて意地でも捕まえようと警官も増員した。両津はテナント募集となっているビルの屋上から様子を見る。
「スパークの奴、形振り構ってられなくなったか。」
両津はボルボに電話した。しかし、繋がらない。ボルボは捕まったと判断し時行に電話する。
『はい!』
「時行、今どこだ?」
『分かりません。え〜と…凄く高い塔が見えます。』
「スカイツリーか。他には?」
『他は…来ました!』
時行が通話していると逃さん君が大量に現れた。時行が逃げると逃さん君はテーザー銃を発射した。それを時行は避ける。他の逃さん君もテーザー銃を発射するが全て避けた。それを見たスパークは呆然としていた。
「テーザー銃まで躱すのか。」
「時行君、楽しそうですね。」
映像に映っている時行は頬を赤く染め満面の笑みで逃げていた。スパークは時行に恐怖すら覚える。その時の時行は気付いていない。逃げるのに夢中でスマホを落としていた。両津が何度も声をかけるが反応がない。
「時行の奴、まさか捕まったのか?」
両津が時行を心配していると逃さん君が真後ろに現れた。両津は急いで隣のビルに跳び移る。すると、逃さん君から大量の札束が落ちてきた。
「札だとぉ!」
両津は条件反射で札束に飛び付く。そこに逃さん君がテーザー銃を発射する。両津は痺れながらも逃げようとする。さらに、逃さん君が集まりテーザー銃を発射する。
「卑怯だろぉ!」
両津がとうとう捕まった。残るは時行だけだ。しかし、逃げることが目的の時行にはお金もゲーム機も見向きしない。さらに、地下鉄、下水道、森の中と逃げる範囲もかなり広いため見つけても捕まえることが出来なかった。
「何なんだあの少年は…」
「時行君が特殊なだけです。」
とうとうスパークの心まで折れた。そのまま逃さん君の実証実験は終わる。一応、両津達は捕まえることが出来たため逃さん君は有用と考えられた。
それから時行に連絡しようとするもスマホがない。逃さん君を使っても見つからない。実証実験が終わったことを知らせることが出来なかった。
それから、3日後…
「なんで誰も鬼ごっこしてくれないのですか!?」
「すまん時行。スパークが諦めてお前を捜す手段が無くなってしまってな…」
ボロボロで涙目になった時行が派出所に戻ってきた。そんな彼を見て気まずくなる両津達であった。