両津達は時行を連れていち早く葛飾区に戻っていた。時行のこともあり大原部長だけが鎌倉に残った。両津達は葛飾区に戻ると中川のフェラーリに乗って中川の会社に向かう。もちろん時行はフェラーリに乗るのは初めてでその速度に驚いている。
「す、凄い!諏訪の駿馬よりも速い!」
「当たり前だぁ!中川のフェラーリは最高時速400km超えだぞ!」
時行は凄まじい風に目が開けられない。それに対し両津は笑いながら風を感じていた。そろそろ会社が見えてくる。これも初めて見る時行は興奮していた。
「あれは何ですか!?」
「あれが中川財閥本社ビルだ!この辺りじゃ一番高いビルだ!」
フェラーリが本社ビルの下に入って行く。整備されたトンネルを抜け駐車場に停まる。両津達が降りたので時行も降りる。中川が案内する。
「私が生きていた鎌倉と全然違う。何もかもが見たことない!」
時行はワクワクが止まらなくなっている。自動ドアもLED照明も社員が掛けている眼鏡すら初めて見る時行は興奮が止まらない。
「着きました。まずはここで休んでください。」
中川が案内したのは客人用の宿泊部屋だった。中に入ると豪華な装飾が散りばめられていた。時行は走って部屋を見回す。初めてだらけで目がキラキラしている。
「ああやって見ると普通の子供だな。」
「そうですね。過酷な運命に翻弄された武士には見えませんね。」
2人はベッドにジャンプしている時行を見て微笑む。
「では先輩、僕は時行君の服を選んでくるのでここで待っていてください。」
「おう!任せろ!」
中川が居なくなり両津はソファに座ってテレビを着ける。もちろんテレビを初めて見る時行はすぐに反応し両津に駆け寄った。
「なんですかそれは!?」
「こいつはテレビだ。これ1つで世界中の情報が集まる。」
両津はリモコンでチャンネルを変える。ニュース、バラエティ、ドラマ、様々な番組を見る中、時行の目に止まったのは時代劇ドラマだ。そこには『足利尊氏 南北朝を作った男』と言う題名で足利尊氏を演じる役者がカッコよく映っていた。それを見た時行は表情を強張らせる。
「これが…足利尊氏…?」
「そうか。お前が相手したのがこいつだったか。」
「足利尊氏はあんな男じゃない。」
「それは仕方ないな。なんせ南北朝は情報が少ない上に内容も荒唐無稽なものが多い。」
足利尊氏に故郷である鎌倉を滅ぼされた時行にとってこの時代劇は喜ばしいものではなかった。それを察知した両津はチャンネルを変えてお笑い番組にした。
「もうこの世界に足利尊氏は居ない。少しは肩の力抜いて楽しんでいける時代だ。」
両津は時行を落ち着かせる。その言葉に時行は落ち着く。時行も一緒にお笑い番組を見ているとクスクスと笑い始めた。
「凄い時代です。」
時行の一言が両津に刺さる。自分は恵まれた時代に産まれてきたのだと実感する。両津はクスクス笑っている時行と一緒に笑い始めた。そこに生活用品を買い終えた麗子が入ってきた。
「あらっ。随分馴染めたのね。」
「おかげさまでな。」
麗子は時行に歯ブラシなどを見せる。もちろん使い方など分からない。麗子は洗面所に行って時行に歯ブラシの使い方を教える。
「虫歯なんて考えたことありませんでした。」
「そうよね。南北朝時代は虫歯より刀が怖い時代だもの。」
麗子が他に蛇口やシャワーの使い方を教えていると中川が大量の服を持って入ってきた。すぐに着替えをする。初めて見る服に時行は興味津々だ。
「一応いろんな種類を持ってきましたので気に入るものがあればいいのですが。」
中川達が時行に服の着方を教える。いろんな服を着させてみる。さすが北条家跡取りというべきか…何を着せても上品さが溢れている。しかも、どんな服でも似合っている。
「凄いわ…こんなに着こなす小学生は初めてよ。」
「わしでも分かる。こいつはとんでもない逸材だ。」
時行を見て3人は唸る。時行は初めて着る服に恥ずかしそうにしていた。その顔が可愛い。それを見てさらに服を着させる。いろんな服を着させていると両津が時行に聞いてきた。
「時行、どんな服がいい?」
「あの…その…できれば動きやすい服でお願いします。」
「それはなんでだ?」
「私は…逃げるのが好きなので動きにくいと逃げれない。」
時行は自分が着ている服を見ながら話す。今着ているのはタキシードだ。上品だが動きにくいのが嫌なのだろう。
「確かに時行君の時代は戦国ですからね。生き残ることに特化するのは当たり前ですね。」
「わしらじゃ考えられん時代だな。」
時行が髪を触りながらモジモジしている。麗子が時行の長い髪が気になり触ってみる。
「凄い綺麗な髪よね。」
「はい。長い髪は生命の現れ。この髪を切るのは親と決めています。」
(そう。頼重殿だけ…)
時行の顔を見て麗子は微笑む。
「いいじゃない。ねぇ両ちゃん?」
「ああ!時行ならどんな姿でも似合うぞ!」
「あ、ありがとうございます。」
「じゃあ、動きやすい服は…」
「待て!わしが決める!」
両津が中川に代わり服を選ぶ。しかし、どれも両津の目には適わなかったのか全部没にした。
「どれもダメだ!上品だろうが時行の要望に合ってない!わしが買ってくる!」
「先輩!?」
両津は猛スピードで部屋を出ていく。それからしばらくして両津が何着か買って戻ってきた。そして、最終的にジーンズとフード着きパーカーに落ち着いた。この姿でも十分上品さが出ている。
「いいですね!」
「時行は絶対目立つからな。多少隠せる服が好ましい。それにそれなら動きやすいだろ。」
「そ、そうですけど…」
時行が下半身を抑えてモジモジしている。
「なんといいますか…このパンツというものが…恥ずかしすぎて…」
両津達は黙る。確かに時行にとってパンツは初めてだ。しかも、生地も初めてのものだから肌触りも初めてだ。さらに、普段露出することないため露出の多い服は苦手なのだ。
「慣れろ時行。この時代はそれが主流だ。」
「は、はい。」
服が決まったところで両津が中川と麗子に指示した。
「中川、麗子。まずは時行にこの時代の法律を教えろ。」
「そうですね。それ大切です。」
「そうね。時行君にこの時代の常識を教えないと。」
中川と麗子が時行に法律などの知識を教える。両津はその間テレビを見ていた。
時行にとって初めてだらけの時代。それにワクワクする時行だった。