時行は緊張している。目の前には初めて見る飲み物があった。おそるおそる口にする。
「にが〜い!」
「だろうなぁ!」
時行が口にしていたのはコーヒーだった。しかも、砂糖もミルクもないブラックコーヒーだ。両津は笑いながらコーヒーを飲む。
「わしも昔はコーヒーを作って儲けたことがあるぞ。」
「あれは結局なんだったのでしょうね。」
「考えるな。」
中川達もコーヒーを飲んでいる。大原部長のところに知り合いからコーヒー豆が送られてきたということで派出所のみんなでコーヒーを飲もうということになった。時行は砂糖とミルクを入れてやっと飲めるようになった。
「今の時代はこんな苦いのが流行っているのですね。」
「時行に至ってはカルチャーショックなんてレベルじゃないだろう。」
「文字通り産まれた時代が違いますからね。」
中川と麗子が優雅に飲んでいる。時行はそんな2人を凝視していた。
「どうした時行?」
「い、いえ。お二人が顕家卿に似ていましたので。」
「顕家って北畠顕家かしら?」
「はい。顕家卿はお二人のようにお茶を優雅に飲んでいました。」
中川と麗子がクスクス笑う。
「北畠顕家は公家出身の武将として名高い方ですね。」
「はい。高貴で優雅で上品で…罵倒が上手かったです。」
「最後のせいでとんでもない奴が誕生したぞ。」
顕家を思い出し興奮している時行。中川と麗子は複雑な心境だ。そんな時、両津は初めてのコーヒーを飲んでいる時行を見ながら考えていた。
(前回は大人のコーヒーとして出したが今回は子供向けの甘いコーヒーを出すのもありかもしれん。)
翌日、両津は早速動き出す。沖縄にいる知り合いのコーヒー農家のところに行き研究を始めた。もちろん、時行を無理矢理連れて来ている。
「コーヒー豆自体に甘味を出すか…確かに考えたことなかったな。」
「そうだ。子供でも飲めるブラックコーヒー。これなら売れる。」
「何故毎回私は付き合わされているのでしょうか?」
両津がコーヒー豆を研究している。いろんな方法を試すもなかなか上手くいかない。他のコーヒー豆同士を合わせたコーヒーを作って時行に試飲させる。
「時行、このコーヒーを飲んでみろ。」
両津に言われるがまま飲んでみる。確かに甘いが違う2つの味が混ざったなんとも言えない後味がくる。時行は難しい顔をして評価する。
「2つのコーヒーが喧嘩しています。」
「相性が悪いのか。」
「やっぱりコーヒー豆は苦味が命だよ。」
「もうそれは古い。」
両津がいろいろとコーヒー豆を組み合わせたり品種改良してみるが上手くいかない。そんな時、コーヒーが苦手な時行が疑問を口にする。
「両さん、そもそもコーヒーがこんなに人気な理由がよく分からないです。」
「時行、確かに南北朝のお前には分からんだろうがコーヒーは現代の働く大人にとっては欠かせないものになっている。」
両津が時行に顔を近付ける。
「コーヒーのカフェインには眠気覚ましの効果があり長時間働く日本人との相性がいい。日本人が1週間でコーヒーを飲む杯数は約10杯。なんなら、朝、昼、晩とコーヒーを飲む日本人もいる。それぐらいコーヒーは日本の文化に浸透しつつある。さらに、最近のコーヒーは日本人の舌に合うように改良されコーヒー専門店が日本中に増える結果となった。」
両津の力説に時行は無言のまま頷く。両津は力説している時にそういえばと思い出す。
「待てよ…確か…」
両津はロブスタコーヒーを思い出していた。物凄く苦いコーヒーだ。両津はそのコーヒーを使って儲けた経験がある。
「なら、元から甘いコーヒー豆を使えば…」
「なんか嫌な予感がします。」
両津は早速甘いと評判のエチオピアコーヒー豆を使って研究を始めた。試行錯誤を繰り返す。その度に時行が試飲する。そして、完成したコーヒーを時行に飲ませた。
「あ、甘い…」
「よし!完成したぞ!子供に合う超絶激甘ブラックコーヒー!」
両津は早速完成したコーヒーを“両津マジカルコーヒー”として販売を始めた。CMなどに時行を起用したのと子供でも飲めるブラックコーヒーというフレーズのおかげで最初は売れた。しかし、飲んだ子供が次々と不眠症になってしまう事態が続いた上によく分からない成分が検出されたことで両津マジカルコーヒーはあっという間に生産中止となった。
『不眠症の子供達が急増する原因となった両津マジカルコーヒーですが専門機関が調べたところ未知の物質が検出されたとして…』
「私は一体何を飲んでいたんだ。」
「くそっ!次こそは売れるコーヒーを作ってやる!」
「もう諦めましょう先輩。」
ニュースを前に悔しがる両津と頭を抱えて震える時行であった。