逃げ上手の転生記 〜亀有の破天荒警官と〜   作:虹武者

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小笠原貞宗は凄い人

 服も着替え法律や常識を学んだ北条時行。次に行くのは葛飾署だ。両津が時行を養うことを署長の屯田五目須に報告しに行くのだ。

 葛飾署に到着し中に入る。周りの職員達は時行に目がいった。両津の隣に子供がいる。それだけでも驚いているのにフードを被っても溢れてくるオーラに目が離せなくなっていた。

 

「な、なんか凄い視線を感じます。」

「そりゃ、わしと一緒にいるだけで大騒ぎよ。」

 

 両津が笑いながら歩く。そこに2人の婦警が突っかかってきた。

 

「原始人!何しに来たのよ!」

「何しようとわしの勝手だろ!」

 

 いきなり張り合う両者。両津と言い合いしている紫のショートヘアーの婦警が小野小町。その隣で両津を睨んでいる茶髪のポニーテールの婦警が清正奈緒子。

 両者の言い合いに時行が仲裁に入ろうとした時、フードが取れ顔が露わになった。小町と奈緒子が時行を見た瞬間、両津を飛ばして時行に詰め寄った。

 

「「可愛い〜!」」

「ぎゃー!」

 

 時行は驚いて自動販売機の上に逃げる。その速さに周りにいた者達はびっくりした。

 

「す、凄い速さ…」

「お前らが脅かすからびっくりして逃げたじゃねぇか。」

 

 起き上がった両津が2人に文句を言う。

 

「ちょっと原始人。誰なのあの子?」

「わしが育てることになった時行だ。」

 

 両津の言葉にその場にいた全員が驚愕の声をあげた。

 

「ありえないでしょ!?あんな品格のある子を育てるの!?」

「下品なゴリラに子育てとか無理よ!」

「あんな上品な子、絶対原始人に合わない!」

「お前ら言い過ぎだろ!」

 

 両津が怒る。時行は自動販売機から降りて両津の後ろに隠れる。

 

「そもそもなんで原始人が育てることになってるのよ?」

「部長命令だ。」

「はぁ!?」

  

 2人が首を傾げていると中川と麗子が来た。

 

「先輩!そろそろ…」

「「中川さーん♡!」」

 

 2人がすぐ中川のところに寄る。

 

「中川さ〜ん。あの原始人の後ろにいる可愛い子。誰なんですか〜?」

「彼は北条時行君と言って身寄りが亡くなってしまいましたので先輩が引き取ることになったんです。」

「なんで原始人なんですか?絶対中川さんがいいと思います。」

 

 2人の態度に時行は訝しむ。

 

「態度が違いすぎませんか?」

「ああいう奴らだ。気にするだけ無駄だ。」

 

 両津は時行を連れて先に署長室へと入った。署長である屯田五目須が座っている。時行は両津の隣に立つと礼儀正しくお辞儀した。

 

「今日からこちらでお世話になります。北条時行です。」

「うむ。私が葛飾署署長屯田五目須である。」

「署長、別に無理しなくてもいいですよ。」

「無理はしていない!」

 

 最初の威厳はどこへやら。屯田署長はバンと机を叩き赤面して怒鳴った。それで落ち着いたのかオホンと咳して座る。屯田署長も時行が南北朝時代の重要人物だと中川から聞いている。

 

「まぁ、話は大原君から聞いた。家族を失った少年を保護、養子として迎え入れると。でもまさか君が養子にするとは。」

「養子縁組に必要な書類は中川がなんとかしてくれますので。」

「中川君じゃダメだったのか?」

「部長命令ですので。」

 

 両津と時行を交互に見る。不安しかない。それでも屯田は両津に時行の世話係を命じた。本当は自分も面倒事が嫌なだけだった。

 

「くれぐれも問題は起こさないように。」

「はい!」

 

 両津はニッコニコで返事すると署長室を出た。中川と麗子は小町達の相手をしていて来ない。すると、両津は時行に提案した。

 

「さて、署長への挨拶は済ませたことだしわしが署内を案内しよう!」

「本当ですか!」

 

 時行は目を輝かせて両津を見る。案内と言っても大したことではない。でも時行には全てが新しい。すると、弓道部の練習を見て足を止めた。

 

「どうした?」

「美しい…」

 

 時行が見る先には磯鷲早矢がいた。彼女もここの交通課に勤務する女性警察官だ。早矢の弓の構えに見惚れていた。両津は早矢をジーと見ている時行に話しかける。

 

「時行、弓好きなのか?」

「はい。父が弓が好きなので私も幼少の頃から弓を習っていました。なので弓は得意です。」

 

 自慢気に言う時行を見て両津はニヤリと笑う。時行が両津の顔を見る。両津は時行を連れて弓道場に入った。最初は両津を見て訝しむ婦警達だったが時行を見てすぐに目の色を変えた。

 

「え!?何々この子!?凄い可愛い!」

「なんでゴリラと一緒にいるの!?」

 

 あっという間に囲まれる時行。あたふたして戸惑っている。そこに両津が助け舟を出す。

 

「こいつは時行。わしが預かることになった子だ。」

 

 両津の言葉に小町達と同じようにびっくりする。もう慣れたのか時行も逃げない。また両津に罵倒が入るが全く気にせず話を続ける。

 

「時行が弓道をやってみたいと言うから来た。」

「じゃあ、やってみよう!」

 

 部員達は時行を着替えさせて弓を持たせる。そこに中川や小町達が来た。時行を見ている両津に小町が詰め寄る。

 

「やっぱり下品な原始人に上品なあの子の親が務まるわけがない!」

「それを言うならお前も時行の上品さには勝てんぞ。」

 

 両津に言われ小町は黙る。自分でも分かっていた。あの上品さには勝てないと。小町が中川と麗子を見るも2人とも勝てないと首を横に振った。

 

「中川さんや麗子さんでも勝てないの…」

「時行君、何者…」

(時代が違えば将軍になっていた人ですね。)

 

 中川が心の中で時行を評価する。準備が終わったのか時行が的の前に立った。

 

「やり方分かるかな?」

「はい。父から教わっていたので。」

 

 時行が弓矢を構える。その構えにみんなが見惚れている中、時行は一瞬目を瞑り落ち着く。そして、目を開け射る。放たれた矢は真っ直ぐ飛び的のど真ん中に命中した。それを見て全員呆然とする。しばらくの沈黙の後、歓声が上がった。

 

「凄い!1発目で真ん中射ったよ!」

「天才!」

「本当に小学生!?」

 

 みんなに褒められドヤ顔する時行。中川や麗子、両津までも拍手していた。その中でも早矢は時行の構えに注目していた。

 

「真ん中を射抜いたのも素晴らしいですが構えが美しかったです。」

 

 早矢の着眼点に確かにと同感する。時行は深呼吸すると早矢を見た。

 

「私もあなたの構えを見て美しいと思いました。」

 

 時行が早矢を誉める。早矢もニコッと笑う。

 

「ありがとうございます。」

「そういえばこの型、どこかで見たような…」

「これは小笠原流という戦国時代から伝わる由緒正しい弓術です。」

 

 小笠原流…その単語を聞いた時行は目を丸くする。確かに早矢は見たことある構えをしていた。それを思い出しまさかと冷や汗を掻いた。

 

「小笠原…?」

「はい。小笠原貞宗。武士の規範となる小笠原流中興の開祖です。」

 

 小笠原貞宗と聞いた時行は急いで両津の元へと走った。

 

「この型は小笠原貞宗の型なのか!?」

「早矢が言うなら間違いない。」

 

 コソコソ話す2人に中川と麗子も加わる。

 

「そういえば小笠原貞宗も南北朝の人物でしたね。」

「そうだ。弓は美しいが目玉一杯に性格の悪さが詰まった男だぞ。」

「それ、実際見た本人じゃないと言えない台詞だぞ。」

 

 時行は驚愕していた。何度も死闘を繰り広げた小笠原貞宗の弓が現代でも続いていたのだ。

 

「しかも、小笠原貞宗は弓術だけじゃなく馬術も小笠原流が残っていますよ。」

「それに正座などの礼儀、礼法も小笠原貞宗が開祖よ。」

「な…」

 

 時行は絶句している。あの小笠原が現代に大きな影響を与えている。その事実に動揺を隠せない。

 

「小笠原貞宗は凄い人なのか?」

「凄い人です。」

 

 時行は唖然としていた。そして、思った。

 

小笠原貞宗は凄い人だったのだな…

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