いつもの派出所。そこで両津はオリンピックの新聞を読んでいた。隣から時行も新聞を覗いている。
「今年のオリンピック、パラリンピックも盛り上がったな!」
「そうですね。日本もメダルラッシュですから相当盛り上がりましたよ。」
「柔道や水泳、体操、陸上などで大活躍した結果、金が20個、銀が12個、銅が13個、合計45個のメダルだ。過去最多だぞ。」
「凄いですねオリンピックというのは。」
「世界中の国が威信をかけてるからな。」
両津が時行にオリンピックを説明する。
「パラリンピックも車椅子ラグビーが初の金メダル、円盤投げも初出場でアジア記録を更新しての銀メダルだから大盛り上がりよ!前回大会は成功祈願として行われた儀式で披露された流鏑馬ももしかしたら正式種目になるかもしれん。そうなれば時行が世界一になるかもな。」
「そ、そうですね!」
「そういえば両ちゃん。何か忘れてない?」
麗子に言われ思い出そうとする。その時、爆発音が轟いた。何事だと派出所を出る。爆発音がした方向から煙が上がっている。それを見た両津が自転車に乗った。
「先輩!」
「あそこは寮があるところだぞ!」
両津が慌てて自転車を走らせる。中川達もパトカーで急行する。爆発したのは両津が住んでいる寮だった。両津が到着すると管理人や一緒に住んでいた人達が避難していた。
「おい!何があった!」
「両さん!ヤバいよ!日暮が怒ってる!」
両津が唖然とする。パトカーが到着し時行達も出る。煙の中から痩せこけた男性が現れた。
「しまった!日暮を忘れてた!」
「日暮?」
「日暮熟睡男。4年に一度オリンピックの年に起きる超能力警官だよ。」
「超能力?」
中川が説明してくれるも初めて聞く単語に時行は首を傾げる。超能力が何か聞こうにも両津達はそれどころではない。大原部長と屯田署長もやってくる。
「両津!これは!?」
「部長!日暮です!日暮が起きたんです!」
両津が日暮を指差す。すると、日暮が浮かび始めた。時行は初めて見る空飛ぶ人間に驚愕していた。
「何故だ…何故俺はオリンピックを見れなかったぁ!!」
日暮が瓦礫をサイコキネシスで持ち上げる。放った瓦礫が辺りを破壊していく。日暮が近隣住民を避難している両津を見つけた。
「くそっ!パリオリンピックを見れなかった怒りで暴走している!」
「両津!何故俺はオリンピックを見れなかった!」
「それはわしのせいじゃない!」
日暮は前回の東京2020オリンピックの際、コロナで延期したため翌年にオリンピックを見た。その結果、3年しか寝ておらず今年がオリンピックの年だと気付く頃にはもうオリンピックが終わっていた。
日暮は壊れた目覚まし時計を潰して小さくする。両津が日暮を説得しようとするも耳に入らない。日暮は両津をサイコキネシスで持ち上げ投げ飛ばした。
「両さん!」
「日暮の奴、完全に我を忘れているぞ。」
時行達が両津に駆け寄る。両津は頭を抱えながら起き上がる。
「日暮を止めるにはオリンピックを見せるしかない。中川、今すぐオリンピック出場選手を連れて来れるか?」
「無理ですよ!」
「なら、オリンピックの映像を編集して日本人が活躍したところを見せるしかない!」
「でも、どうやって?」
麗子の疑問ももっともだ。オリンピックの映像を見せようにも日暮に近付くことが出来ない。日暮の周りには瓦礫や破壊された電柱、道路標識などが浮いている。
どうすると悩んでいると両津は時行の肩に手をかけた。
「時行、日暮に近付いて間近でオリンピックを見せることが出来るか?」
「私がですか!?」
「そうだ。このままだと日暮はパリに行って破壊活動する可能性すらある。日暮の標的をお前にして被害を抑えつつ日暮の目の前でオリンピックの日本人活躍シーンを流す。これが今わしが考えた作戦だ。」
「先輩!それはさすがに無茶ですよ!」
「分かっている!時行、これは命懸けの鬼ごっこだ。日暮はお前がこの時代であった誰よりも強い。もしかしたら死ぬかもしれない。嫌なら断ってもいい。その場合、わしが行く。」
ボロボロの両津が時行に頼む。時行は両津のため、そして死ぬかもしれない鬼ごっこに心の底からワクワクが込み上げてきた。時行は黙ったまま頷く。
「よし。今から急ピッチでオリンピックの映像を編集する。その間、お前は怒っている日暮の猛攻を凌いでくれ。」
「分かりました。」
時行はスマホを片手に暴れる日暮の前に立つ。両津が現代最強と言った鬼。時行はワクワクが止まらない。日暮も時行を見つけた。
(両さんが死ぬかもしれないと言った鬼、日暮熟睡男さん。私はあなたと鬼ごっこがしてみたい!)
「オリンピック〜!」
日暮の狙いが時行に向いた。時行はワクワクしながら日暮に向かって走り出した。壊れたラジオから音楽が流れる。
オリンピック 令和鬼ごっこ パラリンピック
超能力鬼 《日暮熟睡男》
日暮が放つ瓦礫を避ける。両津達は近付くことすら出来ない。日暮が瓦礫を時行の目の前に連続で飛ばす。時行はそれをハードル走のようにジャンプして避ける。次はさっきより高くなった道路標識のポールで攻撃する。それを走り高跳びの要領で背面跳びして避けた。
「な…!」
「時行君、凄い。」
麗子が呟く。両津達も言葉にはしていないが時行の凄さを目の当たりにする。日暮は瓦礫を飛ばす。時行はその瓦礫を足場にして日暮に接近した。無造作に飛ぶ瓦礫を避け、足場にして、日暮に近付く。日暮はさらに飛ぶ。さすがに近付けない時行は一度降りる。
「時行!無理はするな!編集が完了するまで逃げ続けろ!」
「はい!」
「何故オリンピックが見れない〜!」
日暮がさらに激しく暴れる。電柱を槍のようにして飛ばす。時行はそれも避ける。電線すら時行の髪に当たらない。時行は楽しくなってきた。
(神力とも違う。まだ私の知らない力。凄い!)
時行は地面が隆起すると高飛び込みのように華麗にジャンプして近くの家に着地した。マンホールから水が溢れ出す。火災が発生する。日暮の周りは阿鼻叫喚の地獄だった。それでも時行は逃げるのを止めない。
時行の援護が出来ない両津は苦虫を噛み潰したような顔をする。そこに中川から連絡が入った。
「先輩!パリオリンピック日本勢メダルラッシュ編集終わりました!」
「よし!時行!」
両津が時行のスマホに送る。時行はスマホをチェックすると日暮に向かって走り出した。日暮から逃げながら日暮に近付く。今までにない鬼ごっこに時行は興奮している。瓦礫の山を掻い潜り円盤のように飛んでくるマンホールを踏み台にしてジャンプする。そのまま飛んでいる瓦礫を足場にして日暮に近付いた。とうとう日暮の目の前まで来た時行は動画を再生して日暮に向けた。その時、日暮の姿が一瞬で消えた。
「時行!後ろだ!」
「え?」
「オリンピックが見たい〜!」
時行が動揺していると両津が声を荒げて呼んだ。時行が体を捻って後ろを見る。日暮はテレポートで時行の背後に回ったのだ。そのまま瓦礫を飛ばして攻撃する。反応が遅れた時行の顔面に瓦礫が命中した。
「時行ぃ!」
両津が叫ぶ。麗子が目を背ける。中川も最悪を予想する。よく見ると直前で仰け反り避けていた。しかし、額を掠めたためそこから血が垂れてくる。
(当たった!もし、少しでも遅れたら…死んでいた。)
時行の視界がぼやけてくる。日暮がそこに追撃しようと瓦礫を浮かせる。
「オリンピックを見せろー!」
(怖い……怖い…怖い、怖い、怖い…)
「…楽しい!」
起き上がった時行の顔は興奮していた。目をキラキラさせ頬は紅潮し笑っていた。今の時代しか味わえない鬼ごっこ。南北朝にはなかった鬼ごっこ。魅魔の神力とも違う。まだ見ぬ力と鬼ごっこ。それが時行の興奮を最高潮まで上げていた。
その顔を見た両津達は唖然としていた。死にかけ恐怖を体験したはずの少年の顔とは思えない。その顔に日暮も動きを止めて見入っていた。我に返り瓦礫を飛ばす。時行は瓦礫を蹴って避け飛んできたスケボーを手に取りポールを滑った。
「この少年…」
日暮は驚いている。オリンピックを見れなかった怒りが薄れていく。時行はスケボーを捨てると目の前のポールに捕まり鉄棒のようにクルクル回る。瓦礫を蹴って空中捻りを見せる。その姿を見て攻撃を止めた日暮のところまでジャンプした。そして、そのままスマホを向ける。
『••••選手、金メダル〜!』
日暮は時行からスマホを受け取り凝視する。日本人が過去最多の金メダル、総メダルの獲得を知ると暴走を止め降りて来た。時行も着地する。
「す、凄い…メダルラッシュじゃないか。」
「オリンピック大作戦成功か。」
破壊活動を止めオリンピックを目に穴が空くほど見る日暮。時行が近付くと日暮は時行の顔を見た。額から血が出ている。すると、日暮は時行の額を触った。その瞬間、額の傷が消えた。
「日暮、お前いつの間にそんな能力を手に入れた?」
「さっきはごめんね。」
「い、いえ!その…凄く楽しかったです!」
時行のキラキラした顔に日暮はキョトンとしている。そこに両津が来て時行の頭を撫でた。
「日暮。その子は北条時行。わしの子だ。」
「4年で随分と変わったな。」
「3年だ。前回はコロナのせいで1年延期したからな。」
両津が日暮に新聞を見せる。日暮が眠っていた分の情報を教える。
「凄い変わってるね。」
「だろ。阿部元総理が撃たれ、サッカー日本代表がW杯でベスト16に入り、野球では日本代表がWBCで優勝し、新型コロナが5類へ移行し、広島でG7サミット開催され、日大アメフト部が廃部になり、ジャニーズ事務所の名前が変わったりと怒涛の3年だったぞ。」
日暮の目が点になっている。すると、新聞の1部を指差した。
「この強盗事件の犯人、神戸市に潜伏しているよ。」
「おい。さらっと超能力使って重大情報を出すな。」
両津と日暮が仲良く会話している。周りでは大原部長達が慌ただしく動いている。日暮が新聞に載っている未解決事件を次々と解決していく。それを見た時行は呆然としていた。そこに中川がやってくる。
「本来、日暮さんは4年に一度起きて未解決事件を超能力で解決する警察官なんだ。今回のようなのは稀だよ。」
「現代って凄い人がいるんですね。鎌倉に来てほしい。」
(日暮さんが南北朝にいたら歴史が変わってしまう。)
あっという間に未解決事件を解決させた日暮が時行のところに歩く。
「時行君。」
「はい!」
「君は将来凄いオリンピック選手になれるよ。」
「ありがとうございます!私もあなたと鬼ごっこ出来て本当に楽しかったです!」
「鬼ごっこか…僕もまたしたいかな…4年後に…」
「日暮!今寝ると餓死するぞ!」
そう言って日暮は寝てしまった。両津が起こそうとするももうぐっすりだ。騒動も収まり一安心と大原部長と屯田署長も胸を撫で下ろしている。両津がねむってしまった日暮を中川達に任せて時行のところへ行く。
「時行、サンキュー。お前が居なかったら今頃大変なことになっていたぞ。」
「ありがとうございます。でも、今も充分大変じゃないですか?」
そう言って時行が瓦礫と化した寮を見る。寮だけではない。道路は陥没し住宅街は崩れ電柱は倒れ水道管が破裂している。既に多くの地域でインフラに影響が出ていた。それを見た両津達は唖然としている。
「りょ、両津君。どうしよう…」
「請求はうちにきますね。」
「そんなぁ。」
膝から崩れ落ちる屯田署長、荒れ果てた町を見て乾いた笑いをする両津、両津達に同情はしつつも久しぶりの命懸けの鬼ごっこを楽しめて満足の時行であった。
逃げ上手の転生記 〜亀有の破天荒警官と〜が50回を突入した記念としてアンケートしたいと思います。皆さんはどんな時行君が見たいですか?
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真っ裸刑事
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