新葛飾署で用事を済ませた両津と時行は両津が住む警察寮の前にいた。戸籍登録も済ませた。生活に必要な服や物資もある。常識も教えた。後は暮らしていくだけ。
両津が寮に入ると管理人が顔を出した。両津の隣にいる時行を見て目を丸くさせた。
「両さん!なんだいその子!?」
「今日から世話する時行だ。よろしく頼むぞ。」
管理人の声に他の住民が集まる。時行を見て管理人と同じように目を丸くさせた。
「両津が子供連れてきた!」
「両さんに子供!?」
全員時行と両津を交互に見る。
「絶対合わない。」
「ああ。一目で分かる。こんな綺麗で上品な子供が両津と合うわけがない。」
「まるでダビデとモアイだ。」
「うるさいぞお前ら!」
口々に言う同僚達に両津がツッコむ。後ろからじろじろ見られながら両津の部屋に行く。初めての寮に時行はワクワクしている。しかし、後ろにいる同僚達は心配していた。
「ここがわしが暮らす部屋だ。」
両津がドアを開ける。ワクワクしていた時行が部屋の中に入った瞬間、真顔になった。布団は乱れゴミが散乱し所々汚れゴキブリがカサカサと音を立てて跋扈していた。
「あ、あの…これは…?」
「少し汚いが住めば都だ。」
「どう考えても都にはなれんだろ。」
「ここにあの子を住まわれるのか?」
「両さん、やっぱり掃除ぐらいした方がいいよ。」
両津の部屋を見た同僚や管理人達が次々とダメ出しする。部屋を見回す時行が同僚達と会話している両津に近付いた。足元にいるゴキブリが苦手なようで涙目になっている。
「あの…両さん…掃除しませんか?」
「お、おう。」
(((良かった〜!この子がまともな子で。)))
時行を見てホッとする同僚達。それから急いでゴミを出し汚れを落としゴキブリ達が時行に平伏し部屋の掃除がなんとか終わった。最初に見た時とは見違えるような部屋に時行は満足していた。
一仕事終えた時行のドヤ顔が可愛い。両津も片付いた部屋に満足はしているようだ。出てくるゴミの量に引く同僚達。今日はゴミの日ではないが仕方無いと出してくれる管理人。
「これからは部屋を汚さないようにね両さん。」
「分かってるよ。」
こうして、時行の転生1日目が終了した。ちなみに、夕飯のコンビニ弁当が美味しかったという。
翌日、派出所で仕事する両津に同行して来た時行は奥の休憩室にいた。両津は始末書を書いている。そこに近所の子供達が遊びに来た。
「両さん!遊ぼうよ!」
「待て。今日中に済ませなきゃならん仕事があるんだ。後にしてくれ。」
「え〜。いつもの始末書でしょ。サボってよ。」
図星の両津はギクッとした。そこに休憩室から時行が顔を覗かせた。子供達が時行を見て止まる。両津が振り向くと状況を理解しニヤリと笑った。
「丁度いい!時行、この子達と遊んでくれないか?」
「私がですか!?」
「そうだ。お前も年頃の子供と遊ぶ機会なんてあまりなかっただろう。少しは今の子供と遊ぶのもいい勉強になるぞ。」
両津に言われて確かにと納得する。自分はこの時代に来てからまともに遊んでいない。時行は元気良く返事すると子供達と一緒に出て行った。
それから始末書を終わらせると丁度大原部長が戻ってきた。
「両津、始末書はどうなった?」
「部長!丁度終わりました!」
「ん〜。相変わらず字は汚いがお前にしてはちゃんとやってるではないか。」
「時行がわしの子になったので少しは頑張らないと。」
「お前も人の親になると変わるのか。いいことじゃないか。」
両津が胡麻を擂るようにヘコヘコしているとさっきの子供の1人がやってきた。
「両さん!」
「なんだ?隼人か。どうした?」
「時行なんとかして!」
「喧嘩でもしたのか?」
「違うよ!とにかく来て!」
隼人君が両津を引っ張って行く。そのまま近くの公園に着くと時行が木の上でニコニコして座っていた。下では子供達がきゃーきゃー騒いでいる。
「どうなってる?」
「時行が鬼ごっこしようって言って鬼ごっこしたら凄い逃げ足で木に登ったんだよ。」
理由を聞いて納得する。時行は南北朝時代に多くの武士から命を狙われ続けて逃げた実績がある。その時行にとって今の子供達程度なら文字通り足元にも及ばないだろう。
両津は納得すると時行の下まで来て呼びかけた。
「時行!この辺りの木には登るな!降りて来ーい!」
「え、あ、分かりました!」
そう言って時行は飛び降りた。子供達が悲鳴をあげる。時行は木の幹を蹴って華麗に着地した。それを見た子供達が驚く。
「す、凄い!」
子供達に褒められ照れる時行。でも、鬼ごっこじゃ時行に敵わないと分かった子供達が両津に懇願する。
「両さん!一緒に時行君捕まえて!」
「わしが!?」
どうしようと悩んでいると大原部長が公園にやってきた。
「珍しく始末書を終わらせたからな。パトロールの時間まで相手してやりなさい。」
「部長!分かりました!」
両津が敬礼する。大原部長が居なくなると子供達のところに戻った。既に公園中の子供達が集まっている。
「よっしゃあ!わしらで時行を捕まえよう!」
「「「おぉー!」」」
子供達が拳を上げるをそれを見た時行も楽しそうにしている。
遊びの鬼ごっこ。命を賭けない鬼ごっこ。平和な世界の鬼ごっこ。
それは時行が願っていた鬼ごっこだった。そして、今楽しい鬼ごっこが始まった。
令和鬼ごっこ 遊鬼《両津軍団》
子供達が一斉に時行に向かって走る。時行も笑いながら滑り台に登る。二手に別れて挟み打ちする。階段から上がる子供達から逃げるように滑る。その先に子供達が待ち受ける。すると、時行は滑り台からジャンプして子供達の真上を飛んだ。
「えぇ!?」
子供達が驚く。時行が着地しようとしたところに両津がいた。すると、時行は両津の肩に手を置き両津の手から避け後ろに着地した。
「なんだとぉ!」
両津が振り向くと既に時行が居ない。ブランコの上で気持ちよさそうに風を浴びていた。両津が走って追いかける。時行は子供達が集まる前にジャンプして距離をとる。
「待てー!」
両津が走る。100m10秒で行けるかというスピードで追いかけるも時行は楽しそうに笑って逃げる。目の前に子供達が待ち構えている。それも華麗に避けて捕まらない。長い髪すら触れることができない。
「速いよ!」
(楽しい!楽しい!鬼ごっこが凄く楽しい!)
時行は幸せだった。夢にまで見た命を賭けない鬼ごっこ、つまり平和な時代にいることが楽しかった。できれば逃若党のみんなと鬼ごっこがしたかった。そう思いながら空を見上げる。一瞬太陽が諏訪頼重に見えたが気の所為だろう。そう頷き後ろから来た両津から避ける。
そして、2時間が経過した。結局、捕まえるどころか触れることすらできず時行が勝利した。中川がパトロールの時間だと伝えに行く頃には子供達はもちろん両津までもぜぇぜぇ言っていた。
「さ、さすが乱世を生き延びた少年。」
その光景に中川が改めて時行の凄さを思い知ることになった。