両津は悩んでいた。幹事として今年の派出所の旅行をどこにするか悩んでいた。そこに中川が来てアドバイスする。
「1人2万円なら結構いいところ行けると思いますけど。例えば草津温泉や有馬温泉なんかもいいですね。」
「そこじゃあいつもと変わらん。もっと刺激的なのがほしい。」
「先輩、旅行に刺激的なのはいらないかと…」
中川のアドバイスも虚しく両津は頭を掻いていた。すると、思い出したと椅子を回転させて中川と麗子を見た。
「そういえば時行って金銭感覚どうなってる?」
「時行君?確かに考えたことなかったわね。」
「確かに気になりますね。」
両津達は考える。そしてニヤリと笑う。中川と麗子は嫌な予感がした。
「先輩、まさか…」
「時行に幹事やらせてみよう。」
「まだ子供ですよ!」
「子供でも鎌倉幕府トップの子供で大軍を率いた将だぞ。今でいうところの内閣総理大臣の子供で自衛隊指揮官みたいなものだ。中川ほどじゃないが金銭感覚が狂っている可能性がある。それを調べたい。」
その夜、超神田寿司に行った両津は時行に幹事の話をした。
「幹事…ですか?」
「そうだ。簡単に言えば旅行の計画を立ててほしい。」
「何人参加者するのでしょうか?」
「わしと中川、麗子、部長、寺井、マリア、早矢、纏、そしてお前の9人だ。予算は1人2万円だ。」
両津がいろんな旅行ガイドを時行に見せる。旅行ガイドを吟味している時行に両津が質問する。
「時行、お前鎌倉にいた頃はお金とかどうしてた?」
「私はその…いろいろと大変な時だったので贅沢は出来ませんでした。」
「そうだったな。じゃあ、仲間を労ったり褒美を与える時はどうしてた?」
「褒美は…土地ですかねぇ。」
「凄いな。中川とは別ベクトルで金銭感覚が狂っている。」
両津は少し心配しながらも時行に旅行に関する知識などを教え込んだ。
後日、時行が両津達に旅行の案内状を渡す。場所は鎌倉にある幕羅旅館というところらしい。大原部長が両津に聞く。
「両津、今回の幹事を時行君に任せたのか?」
「ええ。時行の金銭感覚が知りたくなったので」
「それで鎌倉ですか。」
「はい!やっぱり故郷に行きたくなりまして。」
中川の質問に時行がニコニコで答える。
「まぁ、両津よりはマシだろう。」
「部長、もしかすると中川と同レベルかもしれませんよ。」
両津が案内状を見せる。ノート用紙に筆で書いたものだ。それを見て大原部長達は黙ってしまう。
そして、旅行当日。両津達は朝早くから駅前に集合していた。そこに時行がやってくる。
「お待たせしました皆さん!ここからバスで行きたいと思います!」
「おお。中川よりマシだ。」
「そりゃあ1人2万円ならいけますよ。僕の時は5000円でしたよ。」
バスに乗って数時間、時行達は人気のないバス停に降りた。近くに山道があるだけで建物は見えない。
「時行、旅館はどこだ?」
「ここから2時間歩いた先にあります。」
「ここから歩くのか!?」
時行の発言に中川臭を感じた両津。寺井が時刻表を見ると1日2本しかバスが来ない。そんなところから2時間も歩くのかと思ってしまう。時行を先頭に歩いて行く。しばらく歩くと綺麗な紅葉が姿を現した。
「綺麗…」
「ほぅ。紅葉狩りをしながら行くのなら全然苦ではないな。」
楽しそうに紅葉を眺めながら歩く。しかし、早矢だけは紅葉ではなく時行を見ていた。それに気付いた纏が早矢に話しかける。
「どうした早矢?」
「鎌倉に着いた時から時行君の周りに…物凄い数の落ち武者の背後霊が見えます。」
「怖いなおい!」
纏が叫ぶ。その声に反応した両津が振り向いた。
「どうした纏?」
「カンキチ!早矢が時行の周りに物凄い数の落ち武者の背後霊がいるって。」
「物凄い数ってどれぐらいだ?」
「落ち武者の背後霊はツッコまないのか?」
「…今の東京を攻め落とすことが出来る規模です。」
「軍隊レベルじゃん!」
(う〜む。さすが足利尊氏に挑んだ武将。)
両津と纏が時行を見て唖然とする。早矢は周りをキョロキョロ見回している。
「私達の周りにも時行君の落ち武者の背後霊がいっぱいいます。」
「怖っ!」
「どんな奴だ?」
「凄く…顔が濃い人達です。」
「どんな落ち武者だ。」
両津もだんだん怖くなる。
「でも、時行君に一番近い背後霊は子供達みたいですね。」
「子供?」
「はい。時行君とほぼ同い年の少年少女です。」
「そういえば時行は友達を亡くしていたな。」
早矢の言葉に両津が合わせる。纏は時行のことを心配している。
「時行…」
「その子達ですけど…今、双六をしています。」
「なんで!?なんで幽霊が呑気に双六してるの!?」
「今、結婚しました!」
「人生ゲーム!?人生ゲームしてるの!?」
「なんで人生終わった背後霊が人生ゲームしてるんだよ。」
「たった今、破産しました!」
「死んでも破産する奴いるのかよ!カンキチみたいだな!」
「やかましい!」
両津達の会話を聞いていた中川と麗子もツッコミたくなる。大原部長が両津の声に反応する。
「両津。折角の紅葉狩りなのだから少しは静かにせんか。」
「あっ、すみません部長。」
もうすぐで旅館に着く。しかし、両津達は時行の背後霊のことが気になってそれどころではない。時行はマリアと会話している。
「時行君の故郷って鎌倉なのですね。」
「はい。鎌倉にいた頃、友達とよく遊んでいました。もう…亡くなってしまいましたけど今でも近くで私を見守っている気がします。」
((いえ。人生ゲームをしています。))
時行が空を見上げる。両津と纏は雰囲気を壊さないように笑いを堪える。そこから歩いて行くと旅館が見えていた。少し寂れているが雰囲気はいい。時行達が旅館に入っていくが早矢が足を止めた。
「どうした早矢?」
「この旅館に数多の地縛霊、いえ悪霊が住み着いています。」
「嘘!?」
纏も足を止めた。入るのが怖くなったが両津が早く来いと言うためおそるおそる入っていく。時行達が女将達に挨拶する。
「ようこそ幕羅旅館へ。」
女将が時行達を案内する。客は時行一行以外いないようだ。
「私が見たガイドではもっと人がいたと思いましたけど…」
「ここも昔は座敷わらしが出ると有名だったけど最近じゃここに訪れた人が次々と不幸になっていくもんだから座敷わらしじゃなくて悪霊が住んでるなんて噂が広まってね…」
女将が元気のない声で話す。時行は申し訳ないことを聞いたと謝罪する。早矢が周りをキョロキョロ見ながら歩いている。纏は聞くことすら躊躇ってしまう。そこに両津が聞く。
「どうした早矢?」
「時行君の背後霊とこの旅館の住み着く悪霊が睨み合っています。」
「亡霊大戦争でも起きかねないな。」
女将の案内で部屋に入る。両津、時行、中川の3人が部屋に入り一休みする。両津が窓から外を見る。夕日に照らされた紅葉の森に両津は絶賛していた。中川と時行も両津と一緒に黄色と赤が混じり合う景色を見て舌を巻いていた。
「悪霊が出るって言っていたが景色はいいじゃねぇか。」
「そうですね。さっきの紅葉がさらに綺麗に見えます。」
「ここを選んで良かったです!」
一方、纏と早矢も部屋に入って一休みする。すると、早矢が1箇所を見て動かない。纏が気になっていると歩き出し部屋の隅で正座して誰かと会話を始めた。しかし、そこには早矢以外誰も居ない。纏が怖がっていると早矢が戻ってきた。
「早矢、誰と話してたの?」
「時行君の隣にいた神々しい少女の背後霊と女の子の座敷わらしですわ。」
「何その組み合わせ?」
「2人の話に寄りますと元々はここには座敷わらしだけがいたのですが何時からか大量の悪霊が住み着くようになり居場所がないみたいです。」
「座敷わらしも大変なんだな。」
纏が部屋の隅を見る。まだ、早矢の言っていた2人がいるみたいだ。早矢が纏と1人分の間隔を空けて座った。纏が気になって聞く。
「なんでここに座らないの?」
「こちらにいらっしゃるので。」
「いるの!?」
纏が飛び退く。
「はい。とても高貴で優美で雅、そして派手な方がこちらでお茶を飲んでいます。」
「もしかして…」
「時行君の背後霊です。」
「時行、なんでそんなに背後霊がいるんだよ。」
夜になり夕食の前にと温泉に入る。両津は一番乗りして身体を洗い露天風呂に飛び込んだ。後から来た大原部長達も身体を洗い露天風呂に入る。
「両津、子供じゃないんだからみっともないことをするな。」
「いいじゃないですか部長。こんな広い露天風呂楽しまないと損ですよ。」
両津達が露天風呂に入っていると麗子達の声が聞こえてきた。両津達が振り向くと別の扉から麗子達が現れた。お互い相手の顔を見て固まる。そして、麗子が近くの桶を投げた。
「なんでいるのよ!?」
「それはこっちのセリフだ!」
「もしかして両さん、ここって混浴なんじゃ。」
顔を赤らめ湯船に顔を沈める寺井。それを知った麗子は出ようとするがマリアと早矢が気にせずに入ってくる。
「両様ー!一緒に入れますわね!」
「やっぱり女の人だ。」
まだ疑っている時行がマリアの身体を見て呆然とする。マリアと早矢が入るので麗子と纏もタオルを巻いて露天風呂に入る。両津が早矢の隣に移動した。
「早矢、女将が悪霊がいるって言っていたが本当か?」
「はい。疫病神の類の悪霊です。ここに来た人に乗り移り不幸を招きます。」
「ここにも居るのか?」
「いえ。ここには悪霊はいません。」
「良かった〜。」
早矢の隣で聞いていた纏が安心する。
「ここには時行君の背後霊がいます。」
「そっちはいるのか!」
「きゃあ!」
纏と近くで聞いていた麗子が驚く。
「両さんの隣にも白目を向いた親子の背後霊がいます。」
「怖いぞおい!」
両津も驚く。大原部長達は両津達の行動を見て呆れている。
「まさか、この露天風呂いっぱいに背後霊がいるのか?」
「います。時行君の周りなんて背後霊で見えなくなってます。」
「どんだけいるんだよ。」
「大原さんの顔に座っている背後霊もいます。」
「なんて罰当たりな…」
露天風呂を堪能し夕食にするため大広間に来た。そこには既に料理が並べられている。お腹を空かした両津達は早速並んで食べ始める。
「美味しいですね!」
「本当に中川の時よりいいぞ。」
「まだ言いますか先輩。」
みんなで楽しく食事している。早矢も食事していると急に後ろを向いた。纏はまた時行の背後霊と会話しているのかと思っている。その時、部屋中からカタカタと音が鳴り始めた。
「なんだねこの音は?」
「こ、これは!」
女将が頭を抱える。カタカタ音はだんだん大きくなり部屋全体が揺れ始めた。突然の揺れに驚く大原部長達。
「地震か!?」
「違います!幽霊の仕業です!」
パニックになる一同。しかし、時行だけ冷静だった。両津が早矢に聞く。
「早矢!まさか例の悪霊か!?」
「いえ。時行君の背後霊が悪霊を斬り倒しています。」
「嘘だろ!?」
早矢の回答に両津と纏が驚く。さらに揺れが激しくなる。唸り声すら聞こえる。早矢は誰か守るように部屋の隅に移動する。両津と纏も早矢のところへと行く。
「凄いです。この子のために時行君の背後霊達が悪霊を成敗しています。」
「座敷わらしのためにそこまでするのか。」
「わしらにはただのポルターガイストに見えるが早矢には南北朝が見えているのか。」
荒れていく大広間を見て両津は改めて時行の凄さを知ることになった。
後日
「先輩、あの幕羅旅館悪霊が全て消えて座敷わらしが出るようになったみたいです。」
「凄いな時行。」
「?」
逃げ上手の転生記 〜亀有の破天荒警官と〜が50回を突入した記念としてアンケートしたいと思います。皆さんはどんな時行君が見たいですか?
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カッコいい時行君
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可愛い時行君
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エロい時行君
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真っ裸刑事
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その他(コメントお願いします。)