逃げ上手の転生記 〜亀有の破天荒警官と〜   作:虹武者

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和洋折衷音楽コンサート

 ある日、派出所では麗子が時行にリコーダーを教えていた。初めてのリコーダーに四苦八苦しながらもなんとか吹けた。それに拍手する麗子。

 

「上手よ!」

「あ、ありがとうございます。」

「わしなんか小学生の時もまともにリコーダーなど吹いたことなかったな。」

 

 両津も久しぶりのリコーダーを見て笑っていた。そこに中川がパトロールから戻って来た。中川は両津達に敬礼する。

 

「中川巡査、只今戻りました。」

「おかえり!」

「おかえりなさい。」

「おかえりなさいです。」

 

 中川が書類を整理する。すると、1枚のチラシが落ちた。中川が拾うと“警察署交流音楽会”と記載されているのを両津が見た。

 

「もうこんな時期か。」

「なんですかこれ?」

「音楽の秋だからって警視庁主催でやる警察署対抗コンサート大会だ。」

 

 両津がチラシを中川からもらう。もちろん新葛飾署も参加する。それを見た麗子が思い出したと話し始めた。

 

「そういえば、コンサートでする曲のことで小町ちゃん達が部長さんと喧嘩していたわね。」

「珍しいな。」

 

 両津は興味が湧いたのか中川達と一緒に新葛飾署に向かった。新葛飾署に入るとすぐに小町達が大原部長や屯田署長と言い合っていた。両津は近くにいた本田に内容を聞く。

 

「なんでも小町達は今流行りのアイドルの曲にしたいと言ってるけど部長達が認めないみたいで…」

「なるほど。予想通りの喧嘩だな。ちょっと待ってろ。」

 

 両津が野次馬を掻き分けて大原部長達のところに向かった。

 

「部長!」

「両津。」

「原始人!」

「話は聞きましたよ。曲で対立しているって。」

「そうだ。あんなメッセージ性のないチャラい音楽など認めれん。演歌にすべきだ。」

「だからメッセージ性はあるでしょ!演歌なんて時代遅れじゃない!」

 

 これは収まらない。そう直感した両津は大原部長達に代替案を出した。

 

「なら、わしらで曲を作りませんか?」

「はぁ!?」

「なに!?」

 

 両津の提案に2人は訝しんだ。

 

「なんでそうなるのよ!?」

「だってお互いに納得出来る曲がないのなら作ればいいじゃないですか。」

「そんなの今までやった警察署はないぞ。」

「ないからこそです。このコンサートは言わばどの警察署がセンスいいかの評論会です。他と同じことやっても目立ちません。あの曲を歌った警察署よりあの曲がある警察署の方が記憶に残りやすいです。」

 

 両津の言うことに一理ある。それでも両者は納得していない。

 

「そもそも曲の方向性が違うでしょ!私達はアイドルソング!部長達は演歌よ!」

「なら合体させましょう。」

 

 両津の発言にさらに?が増える。

 

「何言ってんの?」

「そのままの意味だ。使える楽器全部使ってアイドルソングだろうが演歌だろうがアニソンだろうが合体させて和洋折衷オリジナル曲を作るんだよ。」

「両津!ふざけるのも大概に…」

「ならこのまま決まらず中途半端なコンサートで終わってください。」

 

 両津が去る。大原部長達は両津以上の案が浮かばない。このままでは両津の言う通り何も決まらずにコンサートを迎えてしまう。背に腹は代えられないと大原部長が両津を止める。

 

「両津、お前の言う和洋折衷オリジナル曲というのはなんだ?」

「まず、わしらは得意な楽器が違います。ギターが得意な人もいればピアノや琴が得意な人もいる。それぞれの得意は違う。練習する時間は限られている。ならば、得意な楽器を使えばその時間を短縮し曲に集中出来る。」

「そ、そうね。確かにそれはあるわ。」

「次にさっき言った記憶に残るコンサートにするにはありきたりな曲じゃダメだ。インパクトが必要だ。他とは違う個性を出した方が記憶に残る。」

  

 両津の説明に時行達が頷く。

 

「そして、新葛飾署には中川や麗子のようにヴァイオリンやピアノが弾ける者や纏のように和太鼓が出来る者、わしのようにギターが弾ける者がいます。それぞれの楽器のスペシャリストがいるのですからそれを利用しないのは勿体ない。」

 

 両津の説明にだんだん納得していく大原部長達。周りの署員達も両津の提案に興味を持ち始めた。

 

「けど、肝心の曲はどうするの?」

「全部わしがやりましょう。作詞作曲振付衣装全部引き受けましょう。」

「大丈夫かカンキチ?」

「問題無い。」

 

 自信満々の両津。大原部長達は心配しているが屯田署長が両津に任せたので従った。両津は早速寮に戻り作業を始める。隣には時行もいる。

 

「両さんって本当になんでもしますね。」

「出来ることが多い方が将来役に立つものだ。わしの場合は趣味や娯楽のためだがな。」

 

 両津が笑いながら作業を進める。両津はあっという間に作詞作曲を終わらせ中川にデータを送る。次に衣装も描き上げ今度は知り合いの服屋に発注する。それを見た時行もコンサートに興味が出てきた。

 

「私もコンサートに出たいです!」

「いや、今回は時行の出番はない。」

「な、何故です?」

「これはわしら新葛飾署のプライドをかけているからだ。それに時行には客としてわしらの演奏を楽しんでほしい。」

「そういうことなら…」

 

 時行はちょっとガッカリしている。両津はそのまま作業を続けた。

 そして、翌日の中川財閥所有のコンサートホール。そこに集まると中川が大原部長達に両津が作った歌詞を渡す。それぞれの指示に従い楽器を持つ。そこに両津がやってくる。

 

「どうですか!?」

「ちょっと原始人!なんで私と奈緒子はリコーダーなのよ!?」

「私達に対する嫌がらせ!?」

「わしはお前らの能力に合わせて提供している。お前らはボーカル兼リコーダーだ。まだマシだろ。寺井達を見てみろ。」

 

 両津に言われて振り向くとカスタネットを持って棒立ちしている寺井と残念、担当がトライアングルと分かり爆笑する恵比寿と唖然とする雑、その他にも楽器が苦手な署員達のほとんどがよく分からない外国の楽器だった。

 

「なんで私達の方がマシと思えてくるのよ。」

「私達より酷いのが多くない?」

「やるぞ!」

 

 ステージにはピアノや和太鼓、ギターにドラムにコントラバスと様々な楽器を持った署員達がいる。その真ん中には1人の婦警がマイクを持って立っていた。

 

「頼んだぞ保可炉。」

「はい。」

 

 彼女は保可炉衣土。新葛飾署の交通課で本田の後輩にあたる。保可炉、小町、奈緒子がボーカルをする。その後ろに大原部長と屯田署長、その両脇に両津とマリアがギターを持って配置していた。

 コンサートホールの客席には時行だけが座っている。贅沢に1人でコンサートを独占出来るのだ。時行はワクワクしながら両津達を見る。

 

「それでは…」

 

 こうして、両津達は練習に練習を重ねてコンサート当日を迎えた。会場に多くの人達がいる。時行は新葛飾署の出番が最後なのでその時まで会場内で遊んでいた。もうすぐで新葛飾署の出番になると客席に向かう。すると、弧太郎達が時行を呼んだ。

 

「時行!こっちっすよ!」

「みんなも来てたんですね!」

「ええ。君も誘ったのですが来てたのですね。」

 

 時行が弧太郎の隣に座る。客席は満員だ。それを見た小町達が緊張していた。タキシードやドレス、着物にアイドル見たいなフリフリの服が合体したような衣装にも慣れていない。

 

「何緊張してんだ?」

「なんというか…あんたがまともな衣装にするのが意外と言うか…」

「あんたなら露出多めのエロい衣装にすると思ってた。」

「わしもそれは考えたがさすがに却下されるだろうと止めた。」

「考えてたのですね。」

 

 両津達がクスクス笑う。緊張は解れたようだ。そして、新葛飾署の出番となった。ステージに立つ両津達を見てみんな目を疑う。様々な楽器を持っていて統一感がない。

 

「時行、あれ大丈夫なのか?」

「はい。聴いてください。凄いですよ。」

「え〜、最後は新葛飾署のコンサートとなります。こちらはなんと作詞作曲全てが新葛飾署のオリジナルとなっております!ではお聴きしましょう!新葛飾署で“葛飾自由奏(ラプソディー)”です!」

 

 曲が始まった。まずは麗子のピアノ、中川のヴァイオリン、早矢の琴から始まる。それ合わせて保可炉が歌う。本当にボカロイドみたいな歌声とクラシックな始まりに観客達は夢中になる。

 すると、突然纏達が和太鼓を叩き始めた。それと同時にボルボのドラムや両津やマリアのギター、コントラバスが奏で始めた。そこに小町と奈緒子が保可炉と一緒に歌う。クラシックから一転、急にテンポの早い曲に変わったことで観客達は驚愕した。

 

「すげぇ…こんな音楽初めて見た…」

「やっぱり両さんは凄いや。」

 

 ロックミュージックのような激しい曲に変わったと思ったらアニソンやブラスバンドのような軽快な音楽に、エレクトロニカのような若者向け、アイドルのような子供向け、演歌のような大人向けと変わっていく。しかも、それら全てが喧嘩することなく1つの曲として成り立っている。

 保可炉が歌うのを止めしゃがむ。すると、今度は大原部長と屯田署長が歌い始めた。トロンボーンやピアノ、ギターなどが奏でる軽快な音楽に合わせてまるで演歌のように歌う。

 初めての音楽に観客は大興奮している。弧太郎達も乗りに乗っている。時行も両津達の音楽に心を奪われている。最後は全員で奏で歌い盛り上げる。葛飾自由奏が終わった。その瞬間、ほとんどの観客がスタンディングオベーションした。拍手が鳴り響く。

 

「やった…やりきったよ。」

「これが時代を作る音楽だ。」

 

 汗を流しながらもやりきったことに満足する両津達。コンサートが終わりステージから降りる。そこに時行がやってきた。

 

「どうだった時行?」

「最高でした!」

「そりゃあ良かった!」

 

 両津達は笑っている。

 

「これを亜也子達に聞かせたかったです。」

「亜也子?」

「はい。亜也子はどんな楽器でも使いこなせて楽しく田楽をしてました。この時代にいたら間違いなくアイドルという者になれていたでしょう。」

 

 時行が空を見上げる。両津も一緒に空を見上げた。

 

「届くだろうな。わしらの音楽は天国にまで届くからな。」

「はい!」

「楽しめよ時行。音楽は音を楽しむものだからな。」

 

 大盛り上がりの中、コンサートは幕を下ろした。葛飾自由奏は新たな音楽の始まりだとテレビや新聞で大々的に報じられた。

 

 その結果…

 

「ダメだね。ロックにヴァイオリンは相性が悪い。ロックでいきたいのならトランペットの方が面白い。」

「なるほど!」

「両さんってなんでも商売に繋げるのですね。」

「先輩の得意技です。」

 

 ちゃっかりと和洋折衷音楽の版権や商標登録などを済ませた両津が派出所で音楽関係者相手に契約して大儲けしていた。

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