東京都から少し離れた山の中、その道路を2台のバイクが走っていた。先に走っているバイクに乗っているのは本田速人。交通機動隊所属の巡査で両津の悪友でもある。その後ろで走っているバイクに両津と時行が乗っていた。
「凄い!凄い!速い!」
「だろぉ!」
ヘルメットから棚引く髪を揺らめかせバイクは走って行く。そして、頂上に着くと時行はバイクから降りヘルメットを取って景色を眺めた。
「綺麗…」
「ここは一部のマニアにしか知られてない絶景ポイントだ。今ならわしらの独り占めよ。」
「しかし、両津の旦那が養子をとるなんて…驚きですねぇ〜。」
本田がバイクから降りる。すると、さっきまでと性格が変わりなよなよしくなっていた。初めて会った時からバイクに乗っている本田しか知らない時行はびっくりして本田を指差す。
「本田はバイクに乗ると性格が変わるのだ。」
「そういえば保科党にも似た人達がいました。」
「南北朝にもいたのか。」
両津が南北朝はどうなってんだと驚く。本田が隣に来て一緒に景色を眺める。綺麗な夕日が照らしてくる。しかし、時行にはたまに夕日が諏訪頼重に見えてしまいまともに見れない。
「どうした?目に何か入ったか?」
「直射日光は直接見たらダメですよぉ。」
「い、いえ…」
(頼重殿…これは反則です。)
何故か笑いを堪えているように見える。なんとか落ち着き改めて夕日を眺める。綺麗だ。鎌倉で見る夕日もいいがここで見る夕日も絶景だ。
しばらく、絶景を楽しんでいると両津がバイクのところへ戻って行く。
「本田!時行!降りるぞ!」
「もういいんですか?」
「この麓に知る人ぞ知る秘湯がある。」
秘湯と聞いて時行は目を輝かせる。本田と共に山を降りて麓に向かう。近くの駐車場にバイクを止め準備を済ませて山道を歩く。しばらく歩くと湯気が見えてきた。
「おっ。見えてきたぞ。わしらだけの秘湯だ。」
時行が驚く。思っていたより大きい露天風呂があった。近くにブルーシートに布で囲っただけの簡易的な脱衣所があった。そこで両津達は全裸になってタオルを持ち温泉に向かう。
「時行!早くこい!」
「ま、待ってください。」
脱衣所から時行がモジモジしながら出てくる。
「な、何か着るものは…」
「何言ってんだ?わしらの時代は裸で温泉よ!」
両津が温泉から出て時行を引っ張る。時行は顔を耳まで真っ赤にさせて抵抗する。しかし、力では両津に敵うわけなくあっさり温泉に連れて行かれた。恥ずかしいのか顔まで温泉に浸かってブクブク吹いている。
「センパ〜イ。時行君、変わってますよね〜。」
「まぁ、世の中にはいろんな奴がいるだろ。」
本田には時行が南北朝の人物だと教えてないため誤魔化す。恥ずかしがる時行に両津が上を向くように指差す。時行が上を見ると綺麗な夜空が広がっていた。雲1つ無い空には星がたくさん輝いている。
「綺麗…」
「この時間は雲もないし都会の明かりもない。だから澄んだ夜空が綺麗に見えるってわけよ。」
戦争していた時はあまり気にならなかった空が今は綺麗に見える。しばらく入っていると気配がした。時行はすぐに立ち上がり警戒する。しかし、両津と本田は気にせずビールで乾杯している。
「両さん!誰かいます!」
「そう神経質になるな。先客だ。」
時行がキョトンとしていると足元に何か来た。すぐに木に登って確認すると猿がいた。それも1匹ではない。次から次へと現れた猿達が温泉に入って行く。
「わしらが来たから驚いて出て行ったのが戻って来たのだ。もうこいつらとは友達よ。」
両津がバナナを猿達に投げる。仲良く温泉を楽しむ両津達を見て落ち着く時行。彼を見た両津はフッと笑い時行に忠告した。
「時行〜。そこにいると丸見えだぞ。」
両津と一緒に猿達も時行を見て笑っている。時行がポカンとして下を見ると全裸だったのを忘れていたのに気付いた。だんだん顔を赤くして温泉に飛び込む。そこから夜空を楽しみ温泉から上がる。
着替えて持ってきた寝袋に包まって夜を過ごした。翌日になり時行が背伸びしながら起きる。朝日が眩しい。チラッと太陽を見る。何故かまた諏訪頼重の顔が見えてくる。
(しつこい!)
顔を覆って下を向く。すると、両津が欠伸しながら起きてきた。それに続いて本田も起きる。
「ふわぁ…おはよう時行。早起きだな。」
「い、いえ。私もたった今起きたところです。」
起きた両津達は片付けてバイクに乗る。そこからまた走って行くとキャンプ場に来た。両津が他のキャンプしている人達に挨拶している間に本田と一緒に食事の準備をする。
「よし!今日は魚を釣って昼飯にするぞ!」
「おー!」
両津と時行が釣り竿を使って釣りをする。見たことない釣り竿に苦戦するも時行はなんとか頑張って魚を釣り上げた。しかし、凄く小さく稚魚のようだ。それを見た両津は魚を針から外して湖へと戻した。
「あれぐらいの大きさの稚魚は返してまた大きくなるのを待つ。これが釣りのルールよ!」
「はい!分かりました!」
時行はまた頑張って釣ろうと意気込む。しかし、なかなか釣れない。すると、両津の竿に魚がかかった。両津が上手く釣り上げると大きな魚が釣れた。
「よし!大物だ!」
「凄いです!」
時行が褒める。両津はすぐに魚をバケツに入れてまた釣りをする。時行も負けじと根気よく待つ。それでも魚はかからない。時行は少し拗ねてしまう。それを見た両津は時行の頭にポンッと手を置いた。
「慌てるな。慌てると魚もそれを察知してますます寄ってこなくなる。冷静に落ち着いて我慢する。それが釣りの秘訣よ。」
「はい!」
時行は両津の言う通りに落ち着いて我慢して待った。すると、いきなり引っ張られた。時行は慌ててリールを巻こうとするも両津の助言を思い出し落ち着いてゆっくりとリールを巻いた。それと同時に両津にも魚がかかった。2人一緒にリールを巻いて魚と格闘する。そして、同時に魚が釣れた。
「やったなぁ時行!」
「ありがとうございます!」
一緒に釣った魚を見て笑う。釣った魚をよく見ると時行の方が大きかった。しかも、両津が最初に釣った魚よりも大きい。両津は自分が釣った魚と見比べ負けたと肩を落とした。
「わしが負けるとは…」
両津は時行に負けじとまた釣りをする。しかし、そこからは一切釣れなかった。
「冷静に落ち着いて我慢です!」
「うるせぇ!」
両津はもう冷静じゃなかった。負けず嫌いが発動したが結局釣れた魚は3匹だけだった。本田が用意が出来たというので両津が魚を捌く。その手際に時行は感心した。
「凄いですね。」
「わしは寿司職人もやっているからな。こういうのはお手の物だ。」
両津は時行が釣った魚を綺麗な刺し身に料理した。残った2匹はそのまま焼き魚にする。醤油と山葵で味わう刺し身に時行は舌鼓を打っていた。
「上手いだろ!」
「はい!美味しいです!」
一緒に食べて一緒に遊んで鬼ごっこでまた時行に惨敗してキャンプを楽しんだ両津達。一通り楽しんだと片付ていると騒ぎ声が聞こえてきた。時行がそれに気付き何か問題でも起きているのかと向かう。すると、喧嘩している男性がいた。状況から察するに場所の取り合いみたいだ。
「あれ、止めないのですか?」
「いや。あんなのに関わりたくない。」
「せっかく楽しいキャンプなのにああいうマナー知らずには困るよ。」
野次馬がめんどくさそうに見ている。すると、時行が仲裁しに喧嘩している男性達のところへと向かった。男性達も時行に気付き怒鳴る。
「何の用だ!」
「あの…皆さんが困っていますよ。」
「知るかボケ!」
「殺すぞ!」
殺す。その言葉は南北朝の時からなんども体験してきた。言葉ではなく殺意で感じてきた時行にとって今更チンピラの殺すなど怖くなかった。
「あれぇ〜。お兄さん達、殺すなんて言うだけでしょ〜。ちゃんと行動で示さないとダメだよぉ。」
殺すと脅してきた男性に時行が挑発する。顔を赤く上気させ、薄笑みを浮かべながら挑発する。その挑発にピキピキと怒った2人が時行を殴る。しかし、当たらない。パンチや蹴りをするも全然当たらない。業を煮やした1人が近くにあった薪を掴み殴りかかってきた。周りの人達が危ないと叫ぶが時行は涼しい顔で避けた。
「な、何なんだこいつは!?」
「おい。」
男性の1人が青筋を立て金槌を手に取る。その瞬間、両津がその腕を掴んだ。
「それはアウトだ。」
両津は背負投げで1人目を倒すと即座に2人目を顎をパンチして気絶させた。楽しんだ時行が両津の元へと来る。両津は時行に軽くチョップした。
「まったく。こんな揉め事はわしらの仕事だ。お前はなんでもかんでも首を突っ込み過ぎだ。」
両津に言われてシュンとしてしまう。
「よし!こいつらわしに任せて本田のところを手伝ってくれ。」
「は、はい!」
暴れていた2人を両津に任せて飯盒の準備している本田のところへと走る。それからは問題も無く楽しくキャンプをして一夜を過ごした。
翌日になりバイクに乗って帰路に着く。南北朝では経験できない楽しいことをいっぱいやった時行。ニコニコしながら太陽を見る。何故かというよりやっぱり諏訪頼重の顔が見える。しかも、凄い笑顔だ。
どんだけ出たいんだ頼重殿!
時行は反対方向を見て笑いを堪えていた。