逃げ上手の転生記 〜亀有の破天荒警官と〜   作:虹武者

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騎馬戦鬼ごっこ

 時行が星名に啖呵を切る。その帰り、2人の前に雪長に似た男子と出会った。一目で分かった。彼が雪長の兄信冬だ。信冬は時行の前に立つとお辞儀して自己紹介をした。

 

「初めまして。6年1組クラス委員長の高野信冬です。」

「ほ、北条時行です!」

「潮田渚です。」

 

 2人も自己紹介する。

 

「あの…星名さん達は打倒あなたを掲げて憤っていますけど。」

「承知している。」

「雪長さんも人が変わるぐらい憤ってました。」

「だろうな。昔から両親は私しか褒めていないから。」

 

 時行は理由を聞く。

 

「何故ですか?」

「結果しか見ないからだ。私は結果を残し雪長は残せなかった。ただそれだけだ。過程を見れば私も雪長も努力はしている。だが、私だけが結果を残した。本当にただそれだけだ。」

 

 信冬が去って行く。時行は雪長と信冬の関係が気になった。しかし、聞き辛い雰囲気だった。

 その夜、時行は両津に相談していた。時行は全員参加の競技以外では借り物競争、親子二人三脚、騎馬戦に出ることになっている。その親子二人三脚に両津と一緒に出たいらしい。

 

「任せろ!わしと時行なら1番間違いなしだ!」

「ありがとうございます!」

 

 時行は雪長と信冬のことを両津に聞こうとしたが結局何も言わなかった。

 翌日、時行が登校すると雪長が待っていた。いつも通りの雰囲気で時行に近付き肩に手をかけた。

 

「一緒にバカ兄貴を葬る手段を考えましょう。」

「雪長さん、人格変わりすぎです。」

 

 時行は意を決して信冬のことを聞いた。

 

「兄貴は私の努力を好意的に見てはいるが私にはそれが逆にプレッシャーになっている。両親は結果主義だ。だからこそ兄貴を超えて私が優秀だと両親に知らしめる。」

 

 いつもの雪長じゃない。信冬に対するコンプレックスが彼を変えてしまっている。時行はいつもの雪長に戻ってほしいと思い声をかけた。

 

「なら、1人ではなく私達と共に越えましょう!」

「…君となら出来そうだ。」

 

 雪長は眼鏡をクイッと上げて笑う。

 

「騎馬戦、私も参加します。」

「本当ですか!」

「もちろん彼らも。」

 

 雪長が見る先に渚と弧太郎もいる。

 

「私達が馬。そして、時行が騎手だ。」

「わ、私でいいのですか?」

「問題ない。私は君なら共に越えることが出来ると判断したから君に…君達に託す。」

「はい!一緒にやりましょう!」

 

 時行達は運動会に向けて猛特訓を重ねて行く。

 そして、運動会当日。両津達が着くと既にお祭り騒ぎだ。両津達は保護者席に座って時行を探す。

 

「懐かしいぜ運動会。わしらもよく暴れたもんよ。」

「先輩は一度運動会で笑い過ぎたことありましたね。」

「言うな。思い出したくない。」

 

 両津がそっぽを向く。両津が時行を見つけた。時行も両津を見つけ手を振る。

 

「さてと…二人三脚は午後の部の最初か。」

「カンキチ、お前が出るのかよ。」

「出るぞ!わしと時行なら1着間違いなしだ!」

「本当に1着行けますね。」

 

 選手宣誓で運動会が始まった。両津達は時行達がいる赤組を見る。赤組リーダーの星名が叫んでいた。

 

「屈辱のまま卒業出来るか!?」

「「「NO!」」」

「俺達の目標はなんだ!?」

「「「白組の殲滅!」」」

「殺るぞ!殺るぞ!殺るぞ!奴らを晒し首にするぞぉ!」

「「「おぉー!」」」

「•••あそこだけ戦国時代になってないか?」

「恐ろしい運動会になりそうですね。」

 

 星名達を見て両津達はドン引きする。殺気だった最初と違い運動会は普通に進む。弧太郎がかけっこで頑張り亜矢がパン食い競争で頑張り雪長が玉入れを頑張っている。両津達が応援していると借り物競争で走っていた時行が両津のところに来た。

 

「両さん!」

「おう!なんか欲しいものでもあるか!?」

「はい!」

 

 そう言って時行が見せたのは『強欲な人』だった。中川達が両津を見る。時行が両津の手を引っ張る。

 

「一緒に行きましょう!」

「待て!時行、わしをそんな風に見てたのか!?」

「両津、お前しかおらんだろ。」

「頑張ってください先輩。」

「行ってらっしゃい両ちゃん。」

「誰だ!これ書いた奴!」

 

 時行が両津を連れて行く。1番でゴールした。午前の部が終わり現在白組の点数が高い。両津達のところに来た時行は雪長達やその両親と一緒に食事をした。

 

「すみません。私達も一緒に。」

「いいってことよ!食事は大勢の方が楽しい。」

 

 楽しく食事していると信冬がやってきた。信冬の両親は迎え入れるも雪長は睨んでいた。

 

「長男の信冬です。ここの生徒会長も務める優秀な息子ですよ。」

「ほぉ。それは凄いですな。」

「いえ。私はただトップが好きなだけなので。」

 

 雰囲気は良い。しかし、両津は信冬にいい感情を向けていない雪長に気付いていた。食事も終わり二人三脚の準備をする。その途中、両津は時行に聞いた。

 

「時行、雪長と信冬になんかあったのか?」

 

 両津に言われて時行は2人の関係を話した。それを聞いた両津は笑った。

 

「いいな!わしも弟がいるがわしよりも賢く優秀だぞ!よく喧嘩もしたがそれでも兄弟仲はいいぞ!」

「そうなんですね。」

「信冬の方は雪長に対して敵意は感じれなかった。雪長が一方的にライバル視している状態だ。ここで勝てば雪長も少しはコンプレックスなんぞ感じなくなるだろう。頑張るぞ時行!」

「はい!」

 

 両津と時行のコンビの出番になった。スタートと合図が鳴る。その瞬間、両津時行ペアが凄まじいスピードで走り出した。それを見て他の親子は驚愕する。

 

「さすが両津。」

「時行君も凄いですよ。」

 

 圧倒的な1着でゴールする。それからも運動会は続く。時行達が応援するがリレーで弧太郎がミスをした。それでも弧太郎は頑張ってゴールした。総合結果はまだ白組の点数が高い。しかし、僅差だ。

 

『さぁ!楽しい運動会も次が最後の競技となりました!最後は全学年代表による騎馬戦です!』

 

 騎馬戦に勝ったチームが勝利。分かりやすい条件だ。ハチマキを取られるかフィールドから出る、騎馬が崩れると失格。相手を全滅させるか多く残ったチームが勝利。弧太郎が前、雪長が右後、渚が左後、そして時行が騎手として出る。

 

「なんとしてもここで勝つぞ!」

「「「おおー!」」」

「白組を斬り刻むぞぉ!」

「「「うおぉぉ!」」」

「やっぱり星名先輩怖いです。」

「勝てば全て解決です!」

 

 審判の先生が空砲を撃つ。それを合図に全騎馬が動き出した。時行達はまずは様子見と突撃しない。観察していく。星名は圧倒的なパワーで片っ端から倒していく。隣では二宮が細かい手数の右手と勢いで抉る左手を使い分けてハチマキを取っていく。

 時行が観察していると2組の騎馬が襲ってきた。時行達は急いで逃げる。しかしその先はラインがある。ここを越えると失格だ。

 

「どうするんだ!?」

「弧太郎は右に重心を傾けてターン!渚はラインを踏まないように気を付けながら勢いに任せる!いっせーのっせ!」

「指示テキトー過ぎだろ!」

 

 そう言いながらも指示通りに曲がる。追いかけていた2組は止まることが出来ず崩れたりラインを超えてしまった。これをチャンスと捉えた時行は髪止めを外した。その瞬間、全員の目が時行に向いた。

 

「綺麗…」

「凄い…」

 

 士気を高めるのに1番有効なのは何か?それは目立つことである。どれだけ混沌した戦場でも1番目立つ存在は仲間にとっては希望となる。その反面敵からも目立つため狙われやすい。だからこそ1番目立つ者は逃げ上手でなくてはならない。

 時行は笑いながらフィールドを駆け巡る。その姿に多くの人が見惚れていた。両津達も見惚れている。その隙に星名達がハチマキを取っていく。

 

「凄いな時行。」

「私はここにいるぞ!」

「おっと、私としたことが見惚れてしまうとは。」

 

 信冬は仲間に時行を捕まえるように指示する。すぐに時行のところに白組が行くが時行は捕まらない。白組の猛攻を全て避けていた。そこに星名と二宮が来て全滅させる。

 

「やっぱり6年の先輩は強いっすね。」

「ええ。それは相手も同じです。」

 

 雪長が見た先には信冬と平野がいた。2人とも相当強く周りにいた赤組はあっという間に全滅した。残りは6年組と時行の騎馬だけだった。

 

「これで集中出来る。」

「久しぶりだ我が仏よ。敬意を込めて葬ろう。」

「こいつらを殺れば完全勝利だ!」

「油断するなよ。」

「来るぞ時行!」

「はい!」

 

          令和鬼ごっこ

           騎馬戦鬼

       馬頭        牛頭

     《高野 信冬》     《平野 将》

 

 騎馬戦も終盤に差し掛かる。星名と二宮が信冬と平野に打つかる。お互い一歩も引かずに渡り合っている。時行は2組のバトルを観察する。すると、信冬が星名と二宮を相手取った。残った平野が時行の前に出る。

 

「君の相手は私がしよう。」

「来たぞ。」

「騎馬で鬼ごっこ…」

 

 時行は凄いワクワクしている。それが雪長達にも伝わってきている。お互い距離を保ちつつ牽制し合っている。先に動いたのは平野だった。少しずつ近寄る。ジワジワと距離を詰めて行く。時行達も距離を保つために下がる。

 

「どうした?来ないのか?ならば…こちらから行くぞ!」

 

 平野が迫ってきた。時行は逃げる。しかし、2年生と6年生では体力が違い過ぎた。だんだんと詰められていく。さすがの弧太郎達も疲れが見えてきた。逃げるために走り過ぎたのだ。

 

「もう…これ以上逃げるのはキツいっすよ。」

「泣き言言わないでください。私達が負ければ同点。そうなれば赤組の負けです。それだけは阻止したい。」

「頑張って!弧太郎く〜ん!」

 

 弧太郎が驚く。知らない人から名指しで応援されたのだ。弧太郎が振り向くとみんな弧太郎を見ている。

 

「なんで俺の名前を知ってるんすか!?」

「だってそこの綺麗な子が大声で君を応援してたから!」

「え?」

「してましたね。」

 

 弧太郎が上を向くと満足気な時行が笑っていた。雪長が話す。

 弧太郎がリレーで頑張って走っている時、時行が観客達の前で大声で応援していた。

 

「頑張れ弧太郎ー!あ、あの子弧太郎!私のクラスメイト!」

「行けー!弧太郎ー!見て見て!あの子弧太郎!私の親友!」

 

「恥ずかしいっす!」

 

 弧太郎が顔を真っ赤にする。でも、嬉しかった。ここまで応援してくれたらもう頑張るしかない。弧太郎は汗だらけの顔で笑う。しかし、状況は良くない。雪長や渚も本気で逃げれるのはあと1回だろう。

 

「作戦とかあるの?」

「「あります。」」

 

 渚の質問に時行と雪長が答える。チラッと横を見る。信冬が星名と二宮の猛攻を捌いていた。荒々しい星名の腕を弾き二宮の素早い腕を避ける。

 

「なぁ、あいつら本当に小学生か?」

「最近の小学生は凄いですね。」

 

 信冬を見て両津がぼやく。時行も信冬に驚いている。雪長が時行に前を見るように言う。時行は目の前の平野に集中した。深呼吸しもう一度平野を見る。相手が年下だからといって油断していない。それを確認すると時行達は平野に背中を向けた。

 

(何の真似だ?もしや、さっきの逃げをもう一度するつもりかな?)

 

 平野は時行達がやった急カーブ逃走を思い浮かべる。雪長が弧太郎達にコソコソ声で指示する。すると、真っ直ぐ走り出した。それを追って平野の騎馬も走る。時行達の走る先はフィールドの隅だった。観客達は時行を見る。

 

(隅ならさっきのように大きく反れることはない。どっちに逃げようが捕らえる自信がある。)

 

 平野が追いかける。観客達が平野を見る。その瞬間、ラインギリギリで弧太郎達が止まった。

 

「今だ!」

「なにぃ!」

 

 雪長の声で後ろに下がる。勢いが止まらない平野達にバックしながら体当たりした。時行の顔が平野の顔の隣に来る。そのまま平野の頭に手を伸ばしハチマキを取った。平野達が崩れる。時行時行達はそのまま信冬のところへと向かう。信冬は片手でそれぞれ星名と二宮を圧倒していた。そこに時行達が来るのを確認する。

 

「下がるぞ楠瀬、新島。」

「「了解。」」

「OK!」?

 

 信冬は2人を弾いて後ろに下がる。挟み撃ちにされないように陣取る。

 

「今が好機!行くぞ吉井!」

「オーケー!」

「こっちも行くぞ。」

「乾、了解。」

「辻本、了解。」

「鳩村、了解です。」

 

 3つの騎馬が信冬に立ち向かう。

 

「タイムアップ〜!終了です!」

 

 その時、騎馬戦終了のホイッスルが鳴った。結果、3対1で赤組が勝利した。そのまま運動会の閉会式を開く。両チームの点数が発表される。そして…

 

「勝ったのは…赤組!」

 

 赤組が勝利した。赤組のみんなは帽子を投げたり雄叫びを上げたりした喜んでいる。時行達も抱き合って喜ぶ。負けた信冬は上を向いて笑った。

 

「北条時行…彼は雪長にとっていい刺激になったようだ。」

 

 赤組の勝利に両津達も拍手している。こうして、運動会が終わった。着替えも済ませ下校する時行達。そこに両津達が待っていた。

 

「おめでとう!」

「ありがとうございます!」

 

 時行が両津の元へと駆け寄る。そこには檸檬もいた。

 

「おめでとうじゃ。」

「ありがとうございます。」

 

 時行にとって初めての運動会。時行は南北朝時代とは違う逃げを経験出来たと笑っていた。眩しい夕日が時行達を照らす。時行は両津達と楽しく会話しながら帰るのであった。

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