両津達は派出所でテレビを見ていた。数人の女性の中から男性が結婚相手として選ぶ企画の番組だ。男性は花束を候補者の中で1番美人な女性を選んだ。
「やっぱりな。そいつだと思ったよ。」
「ですよね〜。あの人が1番綺麗でしたから。」
「いくらなんでも人を見た目で選ぶなんて酷いですよ。」
「そうよ。人は中身よ。」
「お前ら今すぐ鏡を見てこい!」
文句を言う中川と麗子に両津が反論する。
「時行!お前ならわしの言うことが分かるだろ!」
「ん〜、私も人は見た目で決めるべきではないと思いますが…」
「お前も今すぐ鏡を見てこい。」
両津に言われて鏡を見る。戻って来る。
「別に普通でしたけど?」
「ダメだ…時行もわしらの嘆きが聞こえていない。」
「先輩、人は見た目で判断するものじゃありませんよ。」
「そうよ両ちゃん。」
「中身で全部決まるなら整形という言葉は生まれねぇんだよ!」
両津と本田は見た目が美男美女の中川達を見て頭を抱える。その帰り道、時行は寄り道をしていた。すると、電気屋に置いてあるテレビのニュースに目がいった。
『現在も逃走中の指名手配犯“巣子桑類増”が東京で目撃されたと言う情報を受け警察は…』
時行はテレビに移る巣子桑の顔を見る。ヒゲモジャで目つきが悪くいかにも悪人面という顔だった。周りの人は怖いとか言っているが時行は全然気にしてなかった。
「鎌倉にいた頃はよく見ましたね。」
時行が寄り道していると路地裏の方から音がした。気になって音がする方向に歩く。すると、古びた扉があった。おそるおそる開けてみる。中はもう使われていないBARのようだ。時行が店内を歩く。割れた瓶に煙草の吸い殻、コンビニ弁当などが散乱していた。
「最近まで誰かいたみたいですね。」
時行が奥へと進む。すると、後ろから人影が現れた。ゆっくりと時行に近付き両手を伸ばす。そして、掴みかかった。その気配を察した時行は身体を反らして避ける。その気配の主を見る。ついさっき見た顔だ。巣子桑類増だ。巣子桑は時行を捕まえようと迫る。しかし、すばしっこい時行を捕まえることが出来なかった。諦めた巣子桑はそこから逃げようとした。
「あの!」
それを時行が止める。すると、巣子桑のお腹が鳴った。
「えっと…食べる物が欲しいのですか?」
「あ、ああ…」
「ちょっと待っててください!」
時行がBARを出る。それから数分後におにぎりやお茶を買った時行が戻って来た。時行はレジ袋を巣子桑に渡す。巣子桑は一心不乱におにぎりを食べる。食べ終わった巣子桑は時行を見る。自分を全く怖がってない。
「お前、俺が誰だか知ってるのか?」
「ええ、確か巣子桑類増さんですよね?」
「なんで知ってるのに通報しなかった?」
「あなたが悪い人に見えませんでした。」
巣子桑は驚く。自分を見て悪い人に見えないなんて言う人があるのかと。しかも、自分とは正反対の美少年が真っ直ぐな目で言い切った。
「俺は5件も強盗を犯した犯罪者だぞ。こんな顔だぞ。」
「顔は関係ありませんよ。」
巣子桑は自分がどんな人間か教える。それでも時行は巣子桑を怖がることはない。時行にして見れば巣子桑なんて北畠顕家の郎党のうちの1人ぐらいしか感じていない。
もうすぐ夕方になる。時行は夕日を見ると外に出た。巣子桑は逃げる準備をする。時行が戻って来た。巣子桑は驚いてずっこける。
「帰ったんじゃないのか!?」
「檸檬さんに今日は友達の家に泊まると電話しただけです。」
巣子桑の目が丸くなる。時行はコンビニ弁当やお茶などを机の上に置く。
「一緒に食べましょう!」
「お、おう…」
コンビニ弁当を食べる。巣子桑は時行を警戒する。こんな子供が自分の素性を知って尚一緒に居てくれるわけがない。何か企んでいるのではないか。
しかし、時行は巣子桑が思うような素振りは見せず普通に食事して普通に会話して普通に寝た。巣子桑は落ちかけた毛布を時行にかける。
「変な子だ。俺なんかと関わったところで得などないのに…」
翌日、巣子桑が起きる。そ〜と時行のところに行く。可愛い寝顔を見せていた。今なら口封じ出来る。逃げることも出来る。でも、巣子桑にはその考えがなかった。時行をただ見詰める。時行が起きた。
「おはようございます。」
「あ、おはよう。」
時行は起きるとおにぎりを食べ始めた。巣子桑も一緒に食べる。時行は食べ終わると巣子桑と会話を始めた。他愛も無い普通の会話。それでも巣子桑は嬉しかった。今までまともに会話したことがないのだろう。会話していると時行のスマホが鳴った。すぐに出る。
「すみません!お友達のところに行ってきます!」
「べ、別にいいぞ。」
「失礼します!」
スマホを切った時行が出て行った。巣子桑はラジオを聞く。自分が見つかったという情報はまだない。時行は自分のことを誰にも言っていないと分かった。
「何故あの子は俺にこんなに構ってくれるんだ?」
それから時間が過ぎていく。いつ逃げようか考えていると時行が戻って来た。びっくりそてビール瓶を持って警戒する。時行の手にはおにぎりがいっぱいあった。
「なぁ…なんで俺に構うんだ?」
「何故でしょう?でも、あなたを放っておくことが出来ないと思ったからでしょうか。」
時行と一緒におにぎりを食べる。
「お前は変わった子だ。」
「よく言われます。」
「お前は俺が怖くないのか?」
「全然怖くありません。」
巣子桑は時行に心を開いた。
「お前のような見た目のいい奴は俺と関わるべきじゃない。」
「何故ですか?」
「お前の評判が落ちるからだ。俺は昔からこんな顔だからいつも悪者扱いだ。顔が悪いと言う理由でいじめられ、真面目に仕事をしても顔が理由で痴漢や窃盗だと言われてクビだ。世の中は顔で価値が決まる。」
巣子桑が時行に心情を打ち明ける。
「価値ですか…」
「お前は見た目がいいからこんな苦労なんぞしたことないだろ。」
「いえ、私もたくさんの苦労はしてきました。それに人の価値は見た目では決まらないと思っています。」
時行が立ち上がる。その表情は穏やかなだが覚悟があった。巣子桑をその顔を見て驚く。
「人の価値は見た目や性格では決まりません。私は人の価値というものは今まで何をしてきたかで決まると思っています。」
「何を…してきたか?」
「はい。見た目が平和そうでも人を殺したがる人もいます。見た目が悪くても優しい人はいます。そして、優しい顔で殺戮を繰り返す人もいます。人は見た目が大事といいますが私は見た目は最初の印象を決めるだけで本質を見抜くためのものではないと思っています。」
時行が両手を伸ばして前に出す。
「あなたは確かに罪を犯しました。しかし、それだけであなたの全てが決まるわけではありません。人はやり直せます。あなたも償って1から…いえ、0からやり直しましょう!後世に胸を張って自慢出来るように。素晴らしいことを成し遂げたと言えるように。」
「ほ、仏様だ…」
窓から溢れる月明かりが時行を照らす。その姿はまさに仏と言うに相応しかった。巣子桑はその姿を見て涙を流し手を合わせ懺悔した。
翌日
『強盗などの容疑で指名手配されていた巣子桑類増が新葛飾署に出頭しました。巣子桑容疑者は調べに対し「仏様のような少年に会い改心した。」と供述しており…』
「先輩…」
「まさかな…」
ニュースをニコニコしながら見ている時行を両津と中川が目を丸くして見ていた。