ある日の朝
超神田寿司で時行がシャワーを浴びていた。シャワーが終わり浴室から出ると電話が鳴っていた。非通知だ。誰だろうと思い出てしまう。
「もしもし。」
『もしもし。そちらは北条時行さんの電話ですか?』
「はい。そうです。」
『私、新葛飾署の田中と申します。実は先日逮捕した振り込め詐欺の主犯があなたのスマホを通じて振り込め詐欺を行ったと供述していましてこのままですとあなたを振り込め詐欺の共犯として逮捕することになります。』
「ええ!?」
時行は驚く。もちろん振り込め詐欺に加担した覚えなどない。どうしようと聞くとスマホにきたURLからラインに友達登録するように指示された。言う通りにするとトーク画面に警察手帳を見せた男性の写真が出てきた。すぐに電話がくる。
「は、はい!」
『もしもし。先程の新葛飾署の田中です。たった今あなたの逮捕状が発行されました。このままですと詐欺罪で10年以下の懲役に処することになります。』
「ど、どうすれば…」
『後ほど弁護士からこちらにビデオ通話がくると思いますので待っていてください。』
通話が切れる。そこに自分の名前が書かれた逮捕状の写真が送られてきた。それを見た時行はスマホもタオルも落とし全裸で震えていた。
派出所では両津達がいつものように仕事している。そこに時行が泣きながらやってきた。
「両さ〜ん!」
「うぉ!?どうした!?」
「私は逮捕されるのでしょうか?」
「はぁ!?」
両津が驚く。時行は事の経緯を話しラインを見せた。すると、両津達の顔がしかめっ面になった。
「ひどいな。」
「確かにひどいですね。」
「最低ね。」
「全くけしからん。」
時行は涙を流して震えていた。けど、よく見ると両津達は誰も時行に対して言っている様子はなかった。両津が時行のところに来て肩を掴む。
「安心しろ時行。これは詐欺だ。」
「え?」
「最近、警察関係者を装い逮捕すると脅してお金を奪い取る悪質な詐欺が増えているんですよ。」
「警察を偽り詐欺するなど言語道断だ。」
誰も時行を責めていない。時行がほんとに大丈夫なのか聞く。
「大丈夫だ。まず、逮捕する時に電話で逮捕しますなんて警察は絶対にしない。直接本人の前で言う。逮捕状もそうだ。直接見せる。」
「警察がラインで警察手帳を見せるのもおかしいし逮捕状が簡単に発行されるわけないわ。」
「そもそもスマホが振り込め詐欺の中継に使われたからと言って逮捕はされませんよ。」
「それに、新葛飾署の田中はこんなイケメンじゃない。」
両津達がそれぞれおかしいところを言って時行を納得させる。時行は逮捕されないと分かり安堵する。
「わしはこの事をすぐ報告して…」
「待ってください部長。」
両津が大原部長を止める。
「時行、その弁護士からの通話はきたか?」
「い、いえ。まだです。」
「よし。部長、このまま泳がせて特殊詐欺グループを一網打尽にしましょう。」
「出来るのか?」
「出来ますよ。わしに任せてください。」
両津は電話で誰か呼んでいた。しばらくして本田がやってくる。
「どうしました先輩?」
「本田、今から時行になれ。」
「はい?」
両津の発言に本田は首を傾げる。両津は本田を休憩室に連れ込み無理矢理普通の服に着替えさせてマスクを着けた。
「お前は今から北条時行としてテレビ通話に出ろ。内容や会話は時行が直接する。お前はそれっぽいリアクションをするだけでいい。」
「両ちゃん。なんで本田さんを時行君の代わりにするの?」
「ビデオ通話ってことは相手は直接時行の顔を確かめようとする。その時に相手が小学生だったらすぐに逃げるだろ。まずは餌を吊るしてかかるのを待つ。」
「それなら中川でも出来るだろ。」
「部長、中川を見てください。こんな立派な大学出てそう感溢れる相手を騙せると思いますか?わしなら絶対無理と判断します。わしの周りで詐欺に引っ掛かりそうな見た目してるのは本田か雑ぐらいですよ。」
「先輩ひどい!」
両津が説明していると電話が鳴った。急いで本田の胸ポケットに隠しカメラを設置して電話に出る。ビデオ通話に出たのは田中とは違う小太りの男だった。
『北条時行さんですね。』
「はい!」
『私、東京弁護士会の山本と申します。先程、被害者の方が示談金として200万円を払えば訴えないとおっしゃってました。』
「わ、分かりました!」
『では、2時間後に新葛飾署の南にある公園のベンチで待っていてください。警察の方が訪ねてくると思いますのでその方の指示に従ってください。』
「はい!」
通話が切れた。これを見た両津達は確信する。
「これは間違いなく複数犯ですね。」
「ええ。田中も山本も違う人でした。」
「受け取り場所を新葛飾署の近くにするとは不届きな。」
「敢えて警察署の近くにした方が警察だと信憑性が上がりますからね。」
特殊詐欺の手口もそうだが新葛飾署が詐欺に使われたことに大原部長はご立腹だ。両津はすぐに中川に命令する。
「中川!すぐに200万と発信器と盗聴器を用意しろ!」
「はい!」
「そうだ。あれも使おう。」
両津は電話しながら休憩室を出る。2時間後、言われた通り新葛飾署の南にある公園のベンチに本田が座っていた。そこに2人組の男がきた。どちらもベージュのロングコートを羽織っている。
「新葛飾署の田中です。」
「同じく金崎です。」
本田が2人の指示通りにお金を渡す。それを胸ポケットの隠しカメラから近くに停めた車の中から両津達が見ていた。
「見ろ時行。新葛飾署の警察なら本田を知らないわけがない。」
「だんだん腹が立ってきました。」
「それが正しい反応ですよ。」
2人組が去って行く。両津はまた誰かに電話した。
「スパーク、そっちに特殊詐欺グループのメンバーの顔を送るから照合してくれ。」
「スパークさんに電話していたんですか?」
「そうだ。こういう時の逃さん君だろ。」
両津はスパークが開発した逃さん君の認証機能と追跡機能を利用したのだ。すぐにスパークから返事が返ってくる。
『金崎と名乗った方が指名手配されている。そいつは伊藤という男と組んで何度も特殊詐欺を繰り返していた。』
「よし。そいつらがどこに向かったか追跡してくれ。わしらも発信器から追跡する。」
『よし。分かった。』
両津が電話を切る。
「中川、お前はすぐに新葛飾署に応援要請だ!」
「分かりました!」
「わしらであいつらを追うぞ!」
「ええ!」
「よし!」
「先輩、僕は?」
「お前は帰っていいぞ。」
「ええ!」
中川が新葛飾署に向かい麗子が車を運転する。発信器と逃がさん君の連携で2人を追いかける。2人は盗難車で移動しているようだ。しばらくするとマンションに停まった。両津達も後を追う。
「随分いいとこ住んでるじゃねぇか。」
『両津君、そのマンションの205号室に奴らはいる。』
「よし、分かった!」
両津達がマンションに入り特殊詐欺グループがいる部屋の前まできた。その部屋では4人の特殊詐欺グループが金を数えていた。
「ラクショー!やっぱ警察はいいや!」
「それっぽい手帳と逮捕状を見せれば誰でも従う。」
「こいつならもっと金を踏んだくれるぞ。」
「次のターゲットが決まった。」
4人の男が笑っていた。すると、ピンホーンと玄関から呼び鈴が鳴った。田中がモニターを見る。そこには麗子がいた。
「何かの勧誘か?」
「誰だ?」
「べっぴんだぜ。」
「断れ。」
田中が伊藤の言う通りにチェーンを着けたままドアを開けた。
「すみません。そういうのに…」
「こんにちは。警察です。」
ドアを両津が押さえる。
「新葛飾署の人間ならわしのこと知ってるよな?わしは有名人だから。」
「え?え?」
「あなたを特殊詐欺の現行犯で逮捕します。」
「はぁ?証拠あるの?逮捕状は?」
「だから、現行犯だって言ってるだろうがぁ!」
両津が力強くでチェーンを引き千切りドアを開けた。田中が逃げようとするもぎ取り押さえた。すかさず大原部長と麗子が突入する。
「警察だ!」
「観念しなさい!」
「なんで警察が!?」
大原部長と麗子はそれぞれ金崎と山本を捕まえる。隣の部屋で窓を開ける音がした。麗子がその部屋に行くと伊藤が窓から逃走した。
「しまった!」
「なんで警察が…」
逃げようとする伊藤。その前に時行がいた。珍しく怒っている。
「誰だお前?」
「北条時行。あなたに騙されかけた人です。」
「え?マジか。大学生じゃなかったの?」
伊藤は踵を返して逃げるも時行が先回りした。そのまま伊藤の周りをグルグル駆け回る。伊藤が時行に目を取られる。そこに両津がマンションからジャンプして伊藤にのしかかった。
「逮捕だ。」
そこに中川が応援と共に駆け付けた。特殊詐欺グループの一掃に成功する。時行は安心して胸を撫で下ろした。そこに両津が来る。
「時行、よくやった。」
「あ、はい。」
「詐欺に引っ掛からないために1番有効なのは誰か第三者に話すことだ。家族でも友人でもいい。1番いいのはわしら警察だな。」
「そうだ。1人で悩まずに誰かに相談する。これだけでも詐欺を未然に防ぐことが出来る。」
「さすが詐欺に引っ掛かったことのある先輩と部長ですね。」
「経験ね。」
時行が2人を見る。2人とも違う方向を見て口笛を吹いている。時行はえ〜とジト目になる。そんな話をなかったことにしようと両津が無理矢理話題を変えた。
「よし!今日はどこか美味いところ行って食うか!」
「両さん、話変えないでくれます?その詐欺の話もっと聞きたいです。」
「それは…部長!どうぞ!」
「何故わしなのだ!お前こそ詐欺に騙されただけじゃなく詐欺もやっていただろうが!お前がお似合いだ!」
小悪魔的な表情で両津を誂う時行。両津は大原部長に振るもすぐに返される。それを見て笑う中川と麗子。時行はこれが派出所の日常なんだと改めて感じて一緒に帰るのだった。