ある日、両津が新葛飾署で新聞を読んでいると纏が後ろから覗きこんできた。
「私の高校載ってるじゃん。」
「ん…本当だ。」
両津がある記事を見る。『桜稟女子大学附属高校、剣道で都大会優勝』と載っていた。桜稟女子大学附属高校は纏の母校だ。纏は高校生の頃を懐かしむ。
「桜稟女子か。あそこ野球も強かったな。」
「私のおかげでな。」
纏が記事を見て微笑む。
「実は私も少しだけ剣道やったことあるんだよ。」
「そうなのか?」
両津が聞くも纏は嫌な顔して天井を見る。
「高校と剣道を繋げると卒業の日を思い出して…」
「悪かったな。相手がわしで。」
「本当に悪い。」
纏は頭を抱えて跪く。綺麗な思い出が汚されたと嘆いている。両津はまだ言うかと言いながらも纏に昔のことを聞く。
「纏が剣道とか初めて聞いた気がする。」
「ちょっと助っ人に呼ばれただけだ。まともにやったことなんてないよ。」
「その話聞いてみたいです!」
「うお!時行!いたのか!」
突然の時行に両津が驚く。時行が興味津々で聞くので纏がその時の思い出を話す。
高校生の時から男勝りだった纏はソフトボール部で時速150kmの豪速球を投げたと聞いた同級生から剣道の助っ人に頼まれた。部員の1人が捻挫で次の交流試合に参加出来ないとのことだ。当時は部員も少なく他に頼める相手もいなかったという。
「なんで私?」
「纏さんって凄く肩が強いって聞いたから。」
「ええ…」
纏は悩んでいるが渋々了承した。しかし、剣道のルールを知らない纏は負けてしまった。それでも他の部員達が頑張って交流試合は桜稟女子高校の勝利で終わった。
それから剣道はやってないらしい。纏の話が終わる。両津がそれで終わりかと聞くと纏を目を反らして終わりと答える。思ってたより短く中身のない話に両津が呆れる。時行はウンウン頷いている。
「それのどこがやっただ?ただ恥をかいただけじゃねぇか。」
「うるさいなぁ!私はどちらかというと薙刀なんだよ!」
「あの野生児薙刀か。」
「言うな!」
纏が恥ずかしそうに叫ぶ。纏はため息をしながらパトロールに出た。両津に恥ずかしい過去を話したことを悔やんでいる。それを忘れようと桜稟女子高校の前を通った。昔と変わらないと懐かしんでいた。
すると、言い争う男女の声がした。声がする方向へ行ってみると桜稟女子高校の制服を着た女子高生達が男子高生達にナンパされていた。
「何してんだあんたら。」
纏が声をかける。
「何ってただのお誘いだよ。お巡りさんは誘いを邪魔する権利ないだろ?」
「その子達嫌がってるぞ。」
「すぐに仲良くなるって!」
男子高生の1人が女子高生の腕を引く。明らかに女子高生は嫌がっている。それを見た纏が男子高生の腕を掴む。そのまま取り抑える。
「嫌がっている人を助けるのもお巡りさんの仕事だよ。」
「婦警だからってなめてんじゃねぇ!」
仲間が殴りかかる。纏は避けて女子高生達の前に立つ。すると、女子高生が竹刀を持っているのに気付いた。
「少し、貸してくれないか?」
「は、はい!」
纏が竹刀を借りると向かってきた男子高生達をあっという間に伸した。女子高生達は纏の後ろで纏の強さに惹かれている。男子高生達は地面に倒れのたうち回っている。
「警察が暴力とかいいのかよ。」
「時と場合による。」
纏が男子高生達を連行しようとした時、どこからか拍手の音が聞こえた。振り向くとのたうち回っている男子高生と同じ制服の青年がいた。さっき倒した男子高生とは違い優男の雰囲気がある。
「見事だったよ。」
「し、斯波崎さん!」
「あんたの仲間か?」
「まぁ、同じ学校の生徒なのは事実かな。初めまして。斯波崎孫一と言います。擬宝珠纏さん。」
斯波崎にフルネームを言い当てられ少し動揺する。
「なんで私の名を?」
「この辺りは新葛飾署が担当する地域だ。それとさっきこの高校を見たあなたの目は懐かしんでいた。ってことはこの学校の卒業生で新葛飾署の婦警ってことになる。そこまで分かれば後はスマホでちょちょいのちょいと検索しただけさ。」
斯波崎の推理は的中している。
「あんたもナンパ目的か?」
「いえいえ。僕は別に女性に困ってませんから。僕は新葛飾署に興味があるのです。」
「なんで?」
「あそこは武術に秀でた署員がたくさんいます。中でも名門磯鷲家長女で弓術の天才磯鷲早矢、全国警察柔道大会優勝者左近寺竜之介、そしてあらゆる武術と我流による制圧が得意な問題警官両津勘吉。この辺りは目を着けているんですよ。」
ニコニコで話す斯波崎。それが不気味に思えてくる。斯波崎が纏の隣を歩く。いつでも攻撃は出来るが警察官としてこちらから攻撃するわけにはいかない。斯波崎は倒れている男子高生達に話しかけている。
「そいつら、暴行未遂だからな。連れて帰るなよ。」
「もちろんですよ。こってり絞って構いません。ですが僕からも1つ助言を。あなた達は無防備すぎる。もっと警戒心を持たないと…こんな風に取られますよ。」
そう言って斯波崎は竹刀を見せた。纏は竹刀を持っている。後ろにいた女子高生の1人が竹刀を持っていないことに気付いた。
「おい。それ、窃盗だぞ。」
「僕は教えただけです。被害者もまた加害者になると。痴漢や窃盗は被害者の油断が理由の1つです。なのに、そこは誰も言わない。悪いの加害者だけだと。違いますよね?加害者を作らないことも大切だと思いません?」
斯波崎はクスッと笑うと竹刀を振り回しフェンシングのように構えた。
「竹刀でフェンシングか?」
「少し違います。これは我流です。僕から攻撃しますので存分に正当防衛してください。」
自信たっぷりの斯波崎を纏は警戒する。斯波崎が宣言通り先制攻撃した。素早い突きを纏の顔に向ける。纏は避け竹刀で弾く。斯波崎は下がりながら体勢を戻す。そこから連続で突きを放った。纏も防御するがなかなか攻勢に出れない。
(チャンスは竹刀を引いた時…)
斯波崎が竹刀を引く。そこに合わせて纏が接近した。そのまま綺麗に胴を入れる。
「お見事!あなたのことも記憶しておかないといけませんね。」
「別にしなくていい。」
「昔、剣道でもやっていたんですか?」
「ちょっとだけだ。」
纏の後ろにいる女子高生達は2人の会話を聞いてもしかしてと思っている。斯波崎は少しずつ近付く。纏はまた来ると警戒し構える。思った通り突き出してきた。纏は避けて引く時に再び接近しようと試みる。しかし、今度は腕を引くのではなか自分自身が近付いてきた。纏は予測が外れたことに動揺し動きが鈍る。そこに斯波崎が掌底で纏の腹を攻撃した。
「なんだよそれ…フェンシングじゃねぇ。」
「ええ。言いましたよね?これは我流だと。」
纏が攻撃するも今度は左手で竹刀を弾かれカウンターで突きをされた。纏は避けるも頬に掠り血が出てしまう。そのまま肘打ちをされて下がってしまう。
「どうですか?フェンシングは元になってますがこれが僕のオリジナル武術です。」
右手の竹刀で突き左手は防御か懐へ入った時の攻撃に使う。初めて見る戦い方に纏は苦戦していた。そこに声が聞こえてきた。
「時行、お前は帰れ。」
「いいじゃないですか。私も両さんの仕事が見たいのですよ。」
両津と時行だった。曲がり角から出てきた両津が斯波崎と纏を見つける。2人とも竹刀を持っている。纏は腹を抑え頬からは血が出ている。それを確認した両津が斯波崎を睨んだ。
「おい。お前、纏に何した。」
「あちゃ〜。1番厄介な人に見つかっちゃったかな?」
両津が斯波崎を殴ろうと飛び出す。それを纏が止めた。
「待てカンキチ!今度そんな暴行したら謹慎じゃすまなくなるぞ!」
「構わん!クビ上等だ!」
「待ってください両さん。」
いつの間にか纏の前に来た時行が両津を止める。
「両さんがクビになるのは私が嫌です。なので、ここは私が代わりを務めます。」
「へぇ。君って確かいろんなところで有名になっている北条時行君だよね。」
「はい。」
時行は纏から竹刀を貰うと構えた。斯波崎も構える。両津は纏のところへと走り肩を貸す。
「おい。大丈夫か纏?」
「私は大丈夫だ。それより…」
纏が時行を見る。弓術が凄いのは知っているが剣術の方は全く知らない。両津も時行が剣術を使うところを見たことないのでどんなものか気になっていた。
先に攻撃したのは斯波崎だ。素早い突きを何度も繰り出すが時行はそれを全て避けた。斯波崎は驚きつつも突きと同時に接近し掌底をする。それすらも避けた。
「凄いね君。」
「それほどでも!」
時行が竹刀を振った。しかし、凄い遅い。フラフラしながら斯波崎の前を通る竹刀。斯波崎は竹刀を掴む。そのまま連続突きを放った。時行は避けようにもさっきより増えた上に不規則な軌道を描く剣筋に翻弄されだんだんとかすり傷が増えていく。
「なんだあの剣術。フェンシングでもねぇぞ。」
「あいつの我流だと。」
両津も参戦したいと思っているが纏が両津の腕を掴んで離さない。以前、自分のために謹慎してしまった両津に少し負い目がある。だけど時行が心配なのも事実だ。
(この人の雰囲気…突きの攻撃…あの人を思い出します。)
時行はこの状況から脱する方法を考える。斯波崎をよく観察する。すると、彼の制服を見て思い出した。意表をつく技があった。そして、あの時のように勝つ戦法も閃いた。だが、これには条件がいる。時行はまずこの状況を脱するために斯波崎を観察する。
(何か企んでるね。)
斯波崎はさらに、突きの頻度を上げる。このまま押し込もうというのだ。時行が下がろうとする。斯波崎はそうはさせまいと竹刀を強く握る。その時だった。時行が竹刀を手放した。斯波崎の視線が竹刀に向かう。その一瞬、時行は斯波崎の前で猫騙しをした。
「!?」
斯波崎は仰け反るもすぐに体勢を立て直した。それが隙となった。時行は斯波崎から逃げた。斯波崎は時行を追って桜稟女子高校に入る。
「時行!」
纏が叫ぶ。時行は条件に合う場所を探している。その場所を見つけたのか一目散に走り出した。斯波崎も逃さないように追いかける。時行の先には教室がある。窓には鍵が掛けられているため入ることは出来ない。
(どうする?窓を破って入るか?それとも左右のどちらかに避けるか?)
斯波崎は左右のどちらかに逃げると判断した。時行は真っ直ぐ進む。そして、窓ガラスに自分を追いかけている斯波崎が映った。斯波崎もそれに気付く。が、既に遅かった。時行は壁を蹴りジャンプすると斯波崎に肩車するように乗った。両足でがっしり斯波崎の腕を固定し首に手をかけた。
「降参してください。」
「…参った。やっぱり凄いよ君。土壇場であんな戦法とるなんて。」
「経験したことがありますので。」
「どんな人生を送ったんだ?」
斯波崎は竹刀を時行に渡す。時行は竹刀を受け取ると持ち主の女子高生に返した。両津が斯波崎に詰め寄る。
「お前、卑差志蛮高校の学生だな。」
「ピンホーン!大正解。さすがですね両津勘吉さん。」
「わしも有名になったもんだ。」
「ええ。始末書の数世界一でギネスに載ってますよ。」
「そんなギネスはない!」
ニコニコして誂う斯波崎に両津が顔を真っ赤にさせて叫ぶ。纏はあり得るとから笑いしている。斯波崎は時行にバイバイた手を振ると素早く塀の登った。
「おい!お前には纏の傷と不法侵入の件でしょっ引かんといかん!」
「そういうの面倒だから僕のことは彼らから聞いて!」
両津が追おうとするも斯波崎は消えてしまった。とりあえず両津は残りの男子高生達を捕まえる。纏が頬の傷をなぞっていると女子高生達がやってきた。
「本当に擬宝珠纏先輩ですか!?」
「は、はい!」
「嬉しいです!擬宝珠先輩は私達の憧れなんですよ!」
「ソフトボールで150kmの豪速球を投げたり巨漢を一瞬で倒したり初めての剣道で相手を圧倒したり今でも語り継がれているんですよ!」
「そ、そうか。」
女子高生達に熱い視線を向けられて纏はタジタジだった。
「凄いモテてますね。」
「だろ?纏は女にはモテるんだ。男からはモテないのに。」
「うるさいぞカンキチ!」
女子高生達を別れを言って両津達は新葛飾署に戻る。その途中で両津が纏に聞いた。
「お前、署内じゃ言ってなかったが初めての剣道で圧倒したのか?」
「ま、まぁな。」
「じゃあ、なんで負けたなんて言ったんだ。」
「確かに剣道では勝った。けど…その後にガッツポーズしてしまった。」
「なるほど。」
両津が納得する。実は剣道には審判細則に『打突後、必要以上の余勢や有効を誇示した場合などは、不適切な行為としてたとえ有効打突だとしても取り消される事になる』というものがある。
つまり、纏は試合には勝ったがガッツポーズしてしまったせいでその勝ちが無効になったということになる。時行はそんなルールがあるなんて知らないからなんとも思ってないが両津はさらに呆れていた。
「お前、そんなことしてたのか。」
「仕方ないじゃん!剣道にそんなルールがあるなんてあの頃は知らなかったんだから!」
纏が顔を赤くして叫ぶ。
「おっ、赤くなってる。」
「夕日のせいだ!さっさと帰るぞ!」
「ムキになってるところが怪しい。」
「うるさい!」
「お二人とも…まるで夫婦みたいですね。」
時行は後ろから両津と纏の口喧嘩を見てクスッと笑っていた。