ある日、両津がアルバムを見て懐かしんでいた。時行が気になって見てみると猿が電車を運転している写真があった。
「あの、これは?」
「これか?こいつはおさるの電車と言って戦後アメリカから来た猿が電車を運転したところから始まった1種のショーだ。」
両津がおさるの電車にまつわる思い出話を語る。そこに急に誰か来た。
「大変ですお巡りさん!猿の集団が人里へ降りて暴れています!」
「なに!?」
両津は急いで向かう。現場に着くと100は超える数の猿達が農園を占拠していた。大原部長達も合流する。両津は虫取り網を持っているが意味無いと捨てた。
「これは人海戦術しかありませんよ。」
両津達は猿の群れに突撃し片っ端から猿を捕まえる。猿も激しく抵抗し両津は傷だらけになる。他の警察官達も苦戦している。
「いてててて!こいつら凶暴ですよ!」
「そんな捕り方するからだ。麗子を見習え。」
大原部長が指差す先には麗子が猿にバナナをあげていた。猿も大人しく麗子に従う。…と見せかけて油断した麗子の胸を触りスカートをめくった。麗子が悲鳴をあげると残りのバナナも強奪して一目散に逃げた。
「…」
「部長、あれのどこを見習うんですか?こいつら、凶暴なうえにずる賢いですよ。」
大原部長もどうするか悩んでいる。両津が猿の群れを観察する。すると、果物が大量に置いてあるところに一回り大きい猿がいた。
「部長、この群れのボスザルはあいつです!あいつを捕まえれば終わりますよ!」
「なら、行ってこい。」
「人使いが荒い!」
両津は文句を言いながらもボスザルに突撃する。しかし、猿の群れが両津を妨害する。顔を引っ掻き果物を投げつけ金的までした。
「こいつら…」
猿達が両津を煽る。そこに時行が動き出した。猿の妨害もくぐり抜けボスザルの前まで来る。ボスザルは慌てて逃げるも時行が素早く先回りした。時行はボスザルの目線と同じ高さまで屈む。
「落ち着いてください。これ以上皆さんを困らせるのは止めてくれませんか?何か願いがあるなら私が聞きます。」
時行がボスザルの手を優しく握る。ボスザルは参ったのか時行に平伏した。他の猿も全員時行に平伏す。両津達はその光景を見て驚愕する。
「時行の奴、猿まで手懐けたぞ。」
「あれが将軍の器なんでしょうね。」
事件は解決した。しかし、まだ問題がある。捕まえた猿達をどうするか考えなければならない。両津達が猿が元々いたであろう山を調べる。
「こいつら、山で食う者がないからここに来たのは間違いないですよ。」
「そうですね。今、土地開発による森林伐採が原因で動物達の住処が失われていますからね。」
「う〜む。」
中川が理由を話す。森や山を切り拓いた結果、猿や鹿、猪や熊が住宅街に出現する事件が相次いでいる。これもその1つだ。
このまま殺処分するなんて出来ない。悩んでいると両津はさっきのことを思い出した。
「中川、確か葛飾に最近閉園した遊園地があっただろ。」
「確かに小さい遊園地なら…まさか!」
「いけるぞ。中川、手伝え。」
両津はニヤリと笑った。それから数日後、閉園した遊園地で新たに『葛飾おさるパーク』というテーマパークを両津が開いた。捕獲した猿達を使った案内や芸、遊具の操作などが人気を呼ぶ。その中でも1番の目玉は遊園地内を周るおさるの電車だ。先頭車両のボスザル達が操縦して遊園地を周るというのが戦後のおさるの電車を復活させたとしてニュースになる。
「凄い人気ですね。」
「おさるの電車はわしらが子供の時代は珍しくて何度も乗った。大人の事情で何度も変わり最後は廃止になったがそれを懐かしむ人は少なからずいる。」
時行も開園前におさるの電車に乗って遊園地を周っていた。それが楽しかった。両津は時行に車掌の帽子を被せる。さらに、車掌の制服も着せる。
「両さん?」
「ここの園長はお前だ。お前がいなかったら捕獲出来なかったし猿達もお前なら信頼しているしな。」
「わ、分かりました!一生懸命頑張ります!」
両津は時行を葛飾おさるパークの園長に就任させ自分は副園長として運営やメディアへの対応をこなした。可愛過ぎる園長と器用な猿達の人気で瞬く間に葛飾おさるパークは葛飾区の名物となった。
両津は記者達を集め葛飾おさるパークの中を案内をする。名物の復活おさるの電車に記者達を乗せる。閉園した遊園地を改造した新たなテーマパークに記者達は興味津々だった。両津が記者達に熱く語る。
「おさるの電車は昭和23年に開通して以降、様々な人達に愛されてきました。しかし、運営が東京都に変わると利益優先となり猿達はただの置物同然となってしまった。最後は大人の事情で廃止になってしまったのです。わしはその昔ながらのおさるの電車をもう一度皆さんに見ていただきたいと思い復活させたのです!」
記者達は拍手する。しかし、そんな中で1人の女性が挙手した。
「すみません。動物愛護団体の者です。猿を無理矢理調教して従わせるのは動物虐待にあたりませんか?」
その言葉に記者達は黙ってしまう。拍手も無くなる。両津は機嫌を損ねないように言葉を選ぶ。
「い、いえ!彼らは自ら望んでここにいます。彼らは住処を失い路頭に迷ってしまったところを保護し…」
「それはつまり、野生動物を捕まえ無理矢理したくもないことをされているということですよね?それって立派な動物虐待ですよ。」
女性の言葉に他の記者達も賛同してしまう。次々と確かにや非道いといった言葉が飛び交う。それにとうとうキレた両津が叫んだ。
「やかましい!これに文句言うなら動物園や水族館にも文句言え!あそこも象やアシカを調教してるぞ!サーカスなんかライオンに火の輪くぐりさせてるぞ!それには文句言わんのか!」
両津の叫びに女性は慄く。
「それに動物を守れと言うのなら住処を奪って土地開発している国に文句を言え!あいつらは土地開発の犠牲者だぞ!」
「え、えっと…」
「それと熊を殺したマタギに非難や罵声浴びせてるだろ。もしその熊が人を殺した時、あんたは責任取れるのか?」
「そ、それとこれとは話が…」
「別じゃない!お前らは熊による被害やマタギの葛藤など無視して殺したという事実だけで非難しているだろうが!マタギは命の大切さを知り覚悟と責任があるから引鉄を引けるんだ!お前らにその覚悟と責任はあるか!?」
両津の質問に女性は答えれない。両津はさらに女性のバックを指差す。
「それ、ワニ革のバックだよな?それもワニを殺して作ってる奴だぞ。猿はダメでワニはいいのか?」
「そ、それは…」
「お前らだって動物殺すな言いながら牛肉、豚肉、鶏肉普通に食ってるだろ!動物愛護言うならまず菜食主義者になれ!命の重みを知ってから文句を言え!」
両津の熱弁に女性はとうとう何も言うことが出来なくなっていた。記者達は両津の熱弁を取材する。
「めちゃくちゃやってますね先輩。」
「だが言い分に一理あるから強く言えん。」
その様子を中川達が見ている。両津は取材を終わらせると時行のところへと行った。時行も両津の熱弁を聞いていたみたいで拍手している。
「凄かったですよ。」
「まぁな。そういえば、時行は動物愛護についてどう思ってる?」
「私ですか?…う〜ん。私はまず自分の命を守ることで精一杯だったのでそこまで考えていませんでした。」
「そうだった。お前の時代は動物より人間の命の方が軽い時代だった。」
両津は今回の熱弁を利用してさらに動物愛護について問いかけた。それがさらに人気を呼び葛飾おさるパークは毎日大繁盛だった。しかし、ここからだんだんおかしくなっていった。両津は相当儲けると調子に乗り始めた。
まず、園長の時行は学業優先のため実際に葛飾おさるパークに来るのは週末だけだ。後はほとんど両津が経営している。それを利用し売上のほとんどを両津が着服。猿達への給料はバナナだけだった。
「人件費はほとんどかからんし時行はお金に無頓着だから売上のほとんどはわしの物だ。」
両津がニヤニヤしている。そこにボスザルが仲間を率いて抗議にきた。さすがにバナナだけじゃ満足出来ないようだ。抗議がだんだんうるさくなる。すると、両津は鞭を取り出しパンと鳴らした。
「お前ら!誰のおかげでここに暮らせると思ってる!わしの言葉は時行の言葉だ!ちゃんとすればもっといい報酬や暮らしが手に入るぞ!」
両津が時行の名前を使ってボスザル達を黙らせた。次に両津は目玉のおさるの電車の1日の回数を増やした。それに伴い猿達のシフトも増やした。また、猿達がキーキー抗議する。
「お前ら、時行のために頑張りたいと思わんのか?」
だんだん両津の態度がデカくなる。時行を利用した両津の猿達への圧政がだんだん激化していく。労働基準法外にいるため猿達を最低限の休息以外は働かせその収入はほとんど独り占めする。
その様子を大原部長達が見ていた。両津が反抗する猿達に時行の名前を出して弾圧する。
「完全に動物虐待と言われても文句言えない状態ですよ。」
「自分で動物虐待について抗議していたというのに…」
さすがに大原部長達が止めに入る。
「両津!」
「部長!?」
「両ちゃん、それはさすがに可哀想よ。」
大原部長が詰め寄る。すると、両津が鞭を大原部長達に向けた。そのままボスザル達に命令する。
「お前ら!今すぐこの楽園を奪おうとする者共を排除しろ!」
両津の命令でボスザル達が大原部長達に襲いかかる。ヒモで縛り葛飾おさるパークから追い出す。
「両津の奴…」
「ひどすぎますよ。」
「これでこの楽園はわしのものだ!」
両津が笑う。それからも圧政は続く。まるで王様の権力を利用して悪政を行う大臣のようだ。両津は表向きは動物愛護のための葛飾おさるパークを運営しているが裏ではほぼ独裁国家みたいになっていた。そんな悪政に耐えかねたボスザルが深夜、仲間と共に葛飾おさるパークを脱走した。
「両さん、大丈夫かな?」
その夜、時行は月を眺めながら葛飾おさるパークへ向かっていた。自分が居なくても大丈夫なのか心配している。すると、時行の前にボスザル達が現れた。短い時間で一生懸命時行の場所を捜していたのだ。
「大丈夫ですか!?」
時行が駆け寄る。ボスザルは身ぶり手ぶりで現状を伝える。凄く分かりやすく両津の悪政を教えてくれた。時行は心配していたことが恥ずかしくなる。時行は考える。現状を打開出来る策を。すると、思い付いたと時行はある行動に出た。
翌朝、両津がボスザルを捜していた。凄い怒っている。そこにボスザルが仲間と共に現れた。両津に対して反抗的である。
「お前ら!どこに行ってた!?脱走は重罪だぞ!」
両津が鞭を振るう。すると、ボスザルは両津に紙を広げて見せた。
二 一
つ つ 綸
を 葛 へ 両 旨
好 飾 の さ
き お 圧 ん
に さ 政 は
し る を 葛
て パ や 飾
よ | め お
い ク る さ
の こ る
北 皆 と パ
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時 は の
行 両 皆
さ さ
ん ん
それは時行からの綸旨だった。綸旨とは簡単に言えば命令書である。それを見た両津は口をあんぐりと開けた。時行からの命令ということは少なくとも葛飾おさるパーク内では自分より上の立場の人間からの命令だ。
両津は震えている。ボスザルに綸旨を近くで見せてくれとお願いする。ボスザルが綸旨を両津に近付けると両津は綸旨を奪いビリビリに破いた。
「はっはー!これで…」
両津が足掻くもボスザルの仲間達が綸旨を見せた。全て時行が書いた同じものだ。両津は冷や汗を掻く。ボスザル達は時行の赦しを得たことで両津に詰め寄った。
「ま、待て君達!話し合おう!そうだ!給料をバナナとリンゴにしよう!それならどうだ!?」
両津の言葉など耳に入らない。猿達はジリジリと両津に近付くと一斉に両津に襲いかかった。葛飾おさるパークに両津の悲鳴が響く。そして…
「部長!時行!助けてくださ〜い!」
「しばらく反省してください両さん。」
「いいかね?あれが自分の権力を誤認した挙げ句悪用したバカの末路だ。覚えておくように。」
縛られ爆走するおさるの電車に引き摺られる両津。そんな両津を冷たい目で見る時行と観客に説明する大原部長であった。