ある日、両津は屯田署長に呼ばれていた。
「両津君、最近地震や大雨、洪水などによる被害が日本中で多発しているだろ。葛飾区も災害に備えてどこが危険なのか?どこが安全なのか?をマップにしてほしい。」
「署長、それならわしよりも適任者がいるでしょう。」
「彼か。なら、彼と一緒に葛飾防災マップを作成してくれないか。」
「分かりました!わしに任せてください!」
両津が署長室を出る。時行と中川が世間話をしていた。
「先輩、どうでした?」
「今から災害に備えた地図を作る。」
「どんなものなのですか?」
「…そうだ。時行も一緒に来い。会わせたい奴がいる。」
両津は時行を連れて部屋を見回る。時行は誰を捜しているのだろうと思いながら両津の後ろを歩く。両津が会議室に入る。見た感じ誰も居ないように見えるが両津はここにいるとボソリと呟いた。すると、深く息を吸い叫んだ。
「火事だ!」
「うおっ!」
突然消火器を持って現れた男。この男は根画手部不吉。両津達と同じ新葛飾署の署員だ。両津は根画手部に近付く。
「やっぱりここか。」
「さっき千葉県沖で震度3の地震があったから。」
「本当だ。たった今速報できましたよ。」
中川がスマホを見せる。確かに千葉県沖で震度3の地震が発生したと速報が入っていた。両津と時行が驚いている。
「相変わらず機械より正確だな。」
「当たり前だ。素早く危機を察知するのは生き残るうえで重要だからな。」
「両さん?この人は?」
「根画手部不吉。お前に会わせたいと思った奴だ。」
両津が根画手部に時行を紹介する。根画手部は時行をジーと見ている。時行は苦手なタイプなのか近寄っていかない。雰囲気はあまり良くない。それを察した両津が渡し船を出した。
「時行、根画手部はお前と同じ逃げ上手だぞ。体を鍛えるのも自分が先に逃げるためだ。」
「逃げることの何が悪い!私が体力を付けるのも知識を付けるのも逃げるため…引いては生きるためだ!」
根画手部の言葉が時行に刺さる。
「生きるために逃げる。これは生き物なら全てが持つ本能だ!特に最近は地震が多い!私はどんな災害が来てもいいように日々鍛錬を怠ることはない!南海トラフ大地震が来た時も誰よりも早く逃げる自信がある!」
「す、素晴らしいです!」
時行が目をうるうるさせて根画手部を見ていた。
「私も逃げるしか能がないとか武士の恥だとか全裸逃亡ド変態稚児とか散々言われてましたので…その言葉に感動です!」
「やっぱりな。時行と合うと思ってたんだ。」
「確かに似た者同士ですね。」
嬉しそうに話す時行を見て両津と中川は微笑んでいる。
「根画手部、今日はお前に手伝ってほしいことがあってきた。」
「手伝ってほしい?」
「そうだ。署長から葛飾区の防災マップを作ってほしいと言われてな。手伝ってくれ。」
「必要無い。既に作ってる。」
そう言って根画手部は机に地図を広げた。東京都のどこまで津波が来るのか?地震が起きた場合、どこが危険か?どこが混雑するか?安全な場所はどこか?などが細かくびっしり印されていた。時行は青く丸されている場所を指差した。
「これは?」
「もし地震が起きた時、液状化する危険性が高い場所だ。濃い青ほど危険性が高い。」
「さすが根画手部。これで出来たも同然だ。」
「まだですよ先輩。」
両津が地図を屯田署長に持って行こうとするのを中川が止めた。
「危険は日々変わっていきます。昨日大丈夫だから今日も大丈夫という考え方が危険です。常に新しい情報を正しく認識するのが大切です。」
「さすが中川。その通りだ。」
「じゃあ、今から作りに行くぞ。」
「分かった。」
両津、時行、中川、根画手部の4人で葛飾区を散策する。見た感じ何事も無く平和そうに見える。しかし、根画手部は警戒していた。上を向きながら壁伝いに歩いている。
「何に警戒してんだ?」
「この辺りは地震が起きた瞬間電線が切れて落ちるからな。感電の恐れがある。」
「今すぐ起きるわけないだろ。」
「東京の電線をなめるな!至るところにあるくせにすぐ切れる!」
「それはお前の偏見だろ!」
根画手部が両津に詰め寄る。手帳にこの場所の危険性をメモする。そのまま再び壁伝いに歩きながら周りをキョロキョロ見回している。
「端から見たら不審者だぞ。」
「とてもマップ作りをしているようには見えませんね。」
「お前もそう思わんか時行…」
両津と中川が呆れている。両津が隣を見る。時行が居ない。どこだと捜していると根画手部の隣で同じように壁伝いに移動していた。それを見た両津と中川はずっこける。
「お前まで何やってんだ!」
「完全に根画手部君に感化されてますね。」
「ここは下水管が多い。しかも、老朽化が激しい。いつ、破裂してもおかしくない。」
「そうなんですね。勉強になります。」
「ダメだ。完全に根画手部に懐いてる。」
両津が呆れて見る。
「ここは交通量が多い。もし、地震などで非難する時高い確率で渋滞になる。逃げるのなら最低限の荷物を持って走って逃げろ。」
「分かりました!」
「お前の荷物は最低限じゃない。」
両津が根画手部の持っているバッグの中身を見せろと言って根画手部からバッグを取る。時行に中身を見せる。懐中電灯や非常食、2Lペットボトルの水、折りたたみヘルメットの他にバット・信号弾・ハーネス・ストロボ・スタングレネードまで入っていた。
「これ、どうやって入れているんですか?」
「わしもよく知らん。」
「それらは非常時になった際に役立つ。」
「まずお前が非常識だ。」
根画手部が荷物をバッグに入れる。すると、急に動きが止まった。空を見上げて汗を掻いている。気になった時行がどうしたのか聞く。
「あの…」
「待て。…今、この辺り一帯に低気圧が発生している。」
「そんなのわしらに分かるか。」
「まずい!雨が降る!雷が落ちるぞ!」
周りの目も憚らず根画手部が暴れる。両津が急いで止め近くの公園に連れて行く。根画手部をベンチに座らせて一息つかせるがまだネガティブになっている。
「ここは周りに木が多い!地震が起きたら倒木するぞ!」
「大丈夫ですよ!この辺りの木はまだ元気です!」
「雷が落ちたら真っ先にここが…」
「近くに避雷針あるから大丈夫だ!落ち着け根画手部!」
「先輩、ここは僕が…」
中川が両津の代わりにと根画手部を説得する。
「根画手部君、この公園は災害時避難場所に指定されているぐらいしっかりとした作りになっています。」
そう言って中川はベンチをあっという間に竈門に変えた。それに驚く時行。さらに、近くのマンホールを開けるとトイレになった。
「ここはこのように災害が起きた時、多くの人が避難出来るように炊き出し用の竈門や簡易トイレ、地下水を汲み上げるポンプなどがあります。さらに、周りの木は防風林の役割を果たしあの広場はヘリが離着陸しても大丈夫なようになっています。」
「最近の公園は凄いな。」
両津が公園を見回す。普通に見る分にはただの公園だ。それが有事の際には避難場所になるという。中川はベンチを元に戻す。
「どうです根画手部君。これが今の日本です。」
「ああ。さすが中川だ。」
やっと落ち着いたのか根画手部は新たに防災マップを作る。そして、とうとう完成した。最新の葛飾防災マップだ。それを見た両津は満足している。
「これを署長に出せば終わりだ。根画手部君のおかげで簡単に終わったよ!」
両津が笑いながら根画手部の背中を叩く。両津は公園の中を見回す。並んでいる木を見て歩く。一際大きい木を見つけ眺める。すると、突然根画手部が騒いだ。
「まずい両津!そこに行くな!雷が落ちるぞ!」
「大丈夫ですか!?」
「気にすんな!そんな予言…」
ゴロゴロ…ピカッ!…ドーンッ!!
「な!言っただろ!」
「もう…お前、喋るな…」
「頼重殿と同じぐらい精確ですね。」
雷が一際大きい木に落ち爆発し黒焦げになって吹き飛ぶ両津。心配する中川、予言が的中したことを両津に伝える根画手部、その根画手部に文句を言う両津、そして根画手部の凄さを知った時行であった。