深夜、両津は体を震えさせながら派出所に入った。今日は両津が夜勤の日のようで誰も居ない派出所に入ると椅子に座った。
「う〜、寒い!昼は暑いくせに夜は急に寒くなる。こう寒暖差が激しいと風邪ひくぞ。」
両津は奥に行って何かないか探す。すると、古い石油ストーブがあった。両津は石油ストーブを引っ張り出してつける。手を擦りながら石油ストーブが温かくなるのを待つ。そこに時行がやってきた。
「なんだ時行?」
「寿司、持って来ましたよ。」
「ナイス時行!夜食が神田寿司とは贅沢だ。」
両津と時行は寿司を食べる。
「時行、お前はもう寝る時間だろ。」
「今日はよく寝れませんので両さんの仕事が見たいです。」
「仕事と言っても…夜勤はすることほとんどないぞ。」
両津は寿司を食べ終えると始末書を書いた。そこに顔から血が流れている男が現れた。それを見た時行は驚いた。両津は冷静に対応している。
「どこで転んだ?」
「さっき、そこで。」
「飲み過ぎだ。」
「大手との契約に成功したから舞い上がっちゃった。」
「時行、奥に救急箱がある。水と一緒に持って来てくれ。」
「は、はい!」
両津が男の傷を見る。大したことはないようだ。両津は血を拭い包帯を巻く。男は水を一気に飲んで落ち着く。まだ、酔ってはいるみたいだ。
「ねぇ、お巡りさん。ここに泊まっていい?」
「馬鹿野郎、ここはホテルじゃねぇ。さっさと帰って寝ろ。」
「はぁ〜い。」
男は両津にバイバイして去って行った。両津は誰も来ないのを確認すると競馬新聞を開いた。
「いいんですか両さん?」
「大丈夫よ。これが夜勤のいいところ。1人だから気楽でいい。」
「そんなものですか?」
両津が競馬新聞を読む。後ろから時行が覗く。何もない時間が過ぎていく。両津は競馬新聞を読むのを止めると石油ストーブを叩いた。
「なかなか温かくならんな。電気ストーブの時代に石油ストーブはもう時代遅れか?」
両津がまた奥へ行く。すると、灯油が入った缶を見つけた。両津は灯油を石油ストーブに入れる。
「古いがまだ使えるだろ。」
「なんか変な臭いしません?」
「電気ストーブがない時代、わしらはこの灯油の臭いを我慢しながら石油ストーブを点けたもんよ。」
両津が石油ストーブの前で手を擦っている。すると、だんだん温かくなってきた。時行は初めて見る石油ストーブに興奮している。
「温かい…」
「だろ?わしがまだ派出所に入ったばかりの時はよく世話になった。」
両津が石油ストーブの上に薬缶を置く。また、競馬新聞を読んだ。時行は石油ストーブに魅入られじっと見ている。両津が競馬新聞を投げ捨て仰向けになる。
「ダメだ…時行がいないと当たらん。」
両津は頭を掻く。薬缶がピーと水蒸気を噴き出して鳴る。両津は薬缶を持って台所に行くとお茶を入れて持ってきた。時行と一緒にお茶を飲む。
「温かいです。」
「この寒空にはあったかいお茶がいい。」
静かな夜だ。そう思った瞬間、突然大学生ぐらいの男が入ってきた。
「助けてくださいお巡りさん!」
「なんだ!?」
「明日、試験なのに全然覚えれない!」
男の発言に両津がずっこける。
「バカヤロー!そんな理由で警察を頼るな!」
「だって警察は住民の困りごとならなんでも解決してくれるって。」
「個人的過ぎる困りごとじゃねぇか!そんなの自分で解決しろ!」
両津が男を追い払う。時行は目を丸くして見ていた。今度は若い女性だ。パジャマのまま来たみたいだ。
「ねぇ…彼氏と喧嘩してさぁ…ここに泊めてくれない?」
「ここをホテルと思ってる奴が多すぎる。」
「お礼はするからさぁ〜。」
「バ…止めろ!」
女性が突然服に手をかける。時行が顔を赤くする。両津が止めようとすると数枚の一万円札を出した。両津と時行がずっこける。
「泊めてくれたらさぁ〜もっと払うから。」
「だからホテルじゃねぇ!彼氏とちゃんと話し合え!」
両津は女性の愚痴を聞きながら帰す。両津が汗を拭きながら戻って来る。時行がお茶を出す。
「お疲れ様です。」
「サンキュー。」
「いろんな人が来るのですね。」
「まぁな。特に深夜はいろんな奴が来る。これの対応も警察の仕事だ。」
両津がお茶を飲みながら話す。時行があくびをする。
「もう寝る時間か。」
「みたいですね…」
時行がそう答える。すると、男が慌てて入ってきた。
「大変ですよ!」
「なんだ?」
「酔っ払い同士の喧嘩です!」
「分かった。時行、ここで待ってろ。」
「私も行きます!」
両津は待っていろと何度も言うが意外と頑固なところを見せた時行に負け一緒に現場に行く。既に野次馬が集まっていた。2人の酔っ払いが口喧嘩しながらどつきあっている。両津が止めに入る。
「お前ら、わしが話聞いてやるから一旦落ち着け。」
「うるせぇ!」
「黙ってろゴリラ!」
両津はピクピクさせながらも我慢して宥める。
「周りの迷惑なので話は派出所で…」
「部外者が入るな!」
「ブサイクな顔だな!」
酔っ払いの言葉に両津はイライラする。そこに時行が割り込んだ。
「両さんをそんな風に言うのは止めてもらえませんか。」
「ガキが来るとこじゃねぇぞ!」
酔っ払いが殴る。時行はヒョイッと避けるもその行動が両津の逆鱗に触れた。両津が酔っ払いの胸ぐらを掴む。
「てめえ!わしなら我慢してやったのに子供に手あげてんじゃねぇ!」
「「ひ〜!」」
「喧嘩なら、わしが買ってやる!」
「両さん!?」
両津が酔っ払い2人をボコボコにした。そこに他の警察官がやって来て両津を止める。警察官に怒られ派出所に戻る。両津は椅子に座って愚痴る。
「まったく、これでまた始末書だ。」
「あんなに怒らなくても…」
「これがわしだ。これでも前よりは丸くなってるぞ。」
両津が始末書の続きを書く。
「でも、なんか余り見ない両さんを見れた気がします。」
「そうか?」
2人は駄弁る。他愛もない世間話。それでも楽しく話し合っていた。
「ここまでお喋りするなんて久しぶりな気がします!」
「まぁな。最近はスマホやインターネットの普及で直接会わなくても会話出来る時代になった。それに合わせて派出所や交番も減っていく。」
両津は語る。
「確かに便利にはなった。しかし、人は利便性や効率を求め過ぎると冷たくなる。たまにはこうやって直接他愛もない会話するのも大切だ。時行の時代は人と人の繋がりが今よりもずっと強い。もし、時行の時代にスマホなんかがあったら時行は大将にはなれなかったかもな。」
「確かに…想像出来ますね。私もみんなを見てみんなの前で自分の思いを打ち開けたからこそ私に着いて来てくれたのだと思います。」
時行ももしものことを考える。もし、自分がスマホやインターネットで仲間を呼んでも来てくれるのは逃若党ぐらいだった。それに時行は頭を抱える。
「想像出来たか?」
「…会話って大切ですね。」
両津が笑った。それを見た時行も笑い始めた。
「楽しいだろ時行。」
「はい!私も両さんと話すの楽しいです!」
2人が笑い合う。
「両さん、始末書いいのですか?また大原さんに怒られますよ。」
「何を〜!お前も中川みたいになりやがって!こうしてやる!」
「や、やめてください両さん!」
両津が時行を捕まえ擽る。その時、両津の足が石油ストーブを蹴り飛ばした。倒れる石油ストーブ。そこから出火する。擽られ笑う時行。すると、焦げ臭いと感じた。
「あ、あの両さん。焦げ臭くありませんか?」
「え?…ヤバい!石油ストーブが燃えてる!」
2人は慌てて消そうとする。両津が上着を脱いで叩く。
「時行!お前も服で叩いて消せ!」
「はい!」
時行も服を脱いで叩くが効果がない。
「ど、どうしましょう!」
「そうだ!」
「何かいい考えが…」
「今のうちに始末書燃やしておこう。」
両津の行動に時行がずっこける。
「両さん!?」
「ついでに中川と麗子の借用書も燃やそう。」
「早く消しましょう!」
「落ち着け!まずはわしにとってヤバい書類を燃やしてからだ!」
「どこで落ち着いているのですか!?」
両津がいろんな書類や競馬新聞を燃やす。すると、火の勢いが激しくなった。火が派出所のあらゆるところへと燃え移っていく。
「ちくしょー!さらに燃えやがった!」
「当たり前ですよ!」
「逃げるぞ時行!」
「派出所どうするのですか〜!?」
翌日
「ちゃんと言い訳は用意してるのだろうな両津?」
「い、言い訳なんてそんなぁ…突然派出所が燃えたのですよ!人体発火ならぬ派出所発火、なんちゃって…」
「すぐバレる嘘ね。」
「なんか懐かしい感じがします。」
真っ黒焦げになった派出所の中で出勤してきた大原部長達に必死に言い訳する両津と土下座する時行であった。