ある日、両津が時行と一緒にスクラッチを買ってきた。
「今度はスクラッチですか?」
「そうだ。たまにはこんなのもいいと思ってな。」
「両さんに言われて買いましたけどこれは何ですか?」
「スクラッチといってここを削って揃ったら当たりという宝くじみたいなもんだ。」
両津と時行は早速スクラッチを削る。大原部長達はまたかと呆れながらいつものように仕事をする。両津が削ったスクラッチは300円だけが当たった。ダメだと残りのスクラッチを投げ捨てる。そこに時行が両津の服を引っ張った。
「両さん。何か揃いましたよ。」
両津が見る。300円とは違うマークが揃っていた。どれだと見ると7億円だった。両津は顎が外れるぐらい口を開ける。
「な、7億だと…」
「どうしたの両ちゃん?」
後ろから麗子が声をかける。それに両津はびっくりして立ち上がり膝を机の角にぶつけた。そのままのたうち回る。
「何してんだバカ。さっさと仕事に戻れ。」
「は、はい。」
両津はスクラッチを何度も確認する。やっぱり7億が当たっていた。両津は落ち着けと自分に言い聞かせる。しかし、落ち着かない。ソワソワした両津はバンッと机を叩いて立ち上がった。
「部長!本官はパトロールに行ってきます!」
「お、おう。」
両津が派出所を飛び出す。それを怪しんだ大原部長達。机の上にあるスクラッチを見る。全てハズレだ。
「当たったわけじゃないのか?」
「時行君、先輩に何か言われなかった?」
「わしが預かると言って印が揃ったスクラッチを渡しました。」
「どのマークか分かる?」
中川と麗子が時行に聞く。時行が揃ったマークを指差すと2人とも納得した。
「部長。先輩、7億円当てたみたいです。」
「どちらかと言うと当てたのは時行君よね。」
「なるほど。あのバカ、勤務中に換金する気か。」
大原部長が呆れていた。両津は7億円が当たったスクラッチを握り銀行へ走る。その時、2台の車が両津の前後を塞いだ。そこから体格の良い男達が現れる。両津が男達を見ていると尾崎が現れた。
「プラモ屋のおやじ!」
「聞かせてもらったよ両さん。7億円なんだってね。それをツケとして払ってもらうよ。」
「なんで知ってんだよ!」
「聞かせてもらった。」
尾崎がニヤリと笑うので両津は体中を探る。すると、ベルトに盗聴器が仕込まれていた。両津は投げつけ踏み潰す。
「くそっ!いつの間に!」
「観念してスクラッチを渡すんだな。」
「嫌だ!」
両津はフェンスをよじ登り公園へと逃げた。男達も両津を追いかけ公園へと入る。
「速い!また、ラグビー部か!」
両津は公園を出て電柱をよじ登り建物の屋上へと移動した。さすがに追手から引き離せたようで両津は誰も居ないことを確認して路地裏へと降りた。両津が裏路地から出た瞬間、時行とばったり鉢合わせした。
「うおっ!時行!どうした!?」
「大原さんから聞きましたよ。両さん、私が当てたスクラッチを盗むつもりだって。」
時行が両津を睨む。両津はなんとかして言い逃れようと脳をフル回転させる。
「そ、そうだ!お前は換金の仕方分からないだろ!だから、わしが代わりにしてやろうと思ってな。」
「それなら大丈夫です。中川さんに方法を教えてもらいましたので。」
「そ、そうか…」
両津はとりあえず時行にスクラッチを渡す。その瞬間、商店街の借金取り達が現れた。
「まずい!逃げるぞ時行!」
「またですか!?」
両津と一緒に逃げる時行。ラーメン屋の店主が尾崎に連絡する。
「尾崎さん!両さん見つけました!時行君も居ます!」
『分かった。こちらも準備完了した。そのまま追い続けろ。』
「はい!」
両津と時行は一先ず商店街の人達から逃げ切る。しかし、銀行から離れてしまった。とりあえず銀行に向かおうした時、2人の前に二足歩行型のロボットが現れた。コックピットには尾崎が乗っている。
「なんだあれ!?」
「これこそ両さん…そして時行君を捕まえるために作ったシャッキングEXだ!」
尾崎はシャッキングEXを前進させる。シャッキングEXは足裏の車輪でスケートのように移動する。2人はシャッキングEXから逃げるため狭い裏路地に入った。
「あんなもん、狭い所に入ればこっちのもんよ!」
「両さん!前!」
両津が前を見ると既にさっきの男達が待ち構えていた。
「くそ!狭い所はこいつらに任せて大通りに絞ったわけか!」
2人は踵を返して逃げる。その先にはシャッキングEXが待ち構えている。
「やっぱりこっちを選ぶと思っていたよ。」
シャッキングEXが腕に着いている3本爪のアームを発射した。2人はなんとか避けシャッキングEXの下を通って逃げた。シャッキングEXはアームを回収し追いかける。
「さすがにあっちの方が速いか」
2人は人通りの多い場所へと出る。それでも構わずシャッキングEXは2人を追いかける。しかも、ぶつからないように上手いこと避けている。
「あんな最先端技術があるならわしを追いかけるよりも他なやることあるだろ!」
「今はツケを払ってもらうことが最優先だ!」
「両さん、諦めましょうよ。」
「ダメだ!」
両津は駐車違反の自転車を見つけると時行を後ろに乗せて漕ぎ出した。
「両さん!これって盗みでは…」
「違う!駐車違反した自転車の没収だ!」
「逃がすか!」
シャッキングEXは背中からブースターを出し猛スピードで追いかける。両津も負けてはいない。自転車とは思えないスピードで爆走する。前に商店街の車が立ち塞がる。すると、歩道橋を駆け上がりそこからジャンプした。
「両さん!」
「舌噛むぞ!」
「まだまだぁ!」
シャッキングEXもブースターで飛んで追いかける。両津はこのままでは銀行が閉まってしまうと判断した。
「時行、これはお前の物だ。中川からやり方を聞いたなら今すぐ亀有銀行に行って引き換えてくれ。後でわしが預かる。」
「は、はい…」
両津からスクラッチを受け取った時行は自転車からジャンプして裏路地へと入って行った。シャッキングEXは依然両津を追う。
「時行君が別の道に入った。私はこのまま両さんを追いかけるから君達は時行君を捕まえてくれ。」
『はい!』
時行ご裏路地から出る。そこには両津を追いかけていた男達がいた。時行は鬼ごっこの感覚でピョンピョン跳ねると男達に向かった。男達も時行を捕まえようも走り出す。しかし、時行は捕まらない。華麗に避け切った。
「すばしっこい!」
「なんだあの身の熟し!」
男達が追いかけるが時行は人混みを素早く抜け姿を消した。一方、両津はシャッキングEXから逃げている。シャッキングEXは肩からミサイルを飛ばす。ミサイルは空中で爆発し両津の周りに何か振りかけた。
「ブワックション!これ、胡椒じゃねぇか!」
両津はくしゃみと涙で上手く逃げれない。そこにシャッキングEXが網を放ち遂に両津を捕らえた。両津の周りに集まる商店街の人達。両津を取り抑えスクラッチを探す。
「見つかったか?」
「ありました!」
「今回は両さんが持っていたか。」
「尾崎さん…これ、300円です。」
「何!?」
尾崎が確認する。確かに300円だ。
「残念だったな!わしが当てたのは300円だ!それはお前らにやる!さっさと帰れ!」
「な、7億じゃ…ない。」
尾崎達はショボンとしながら300円のスクラッチを持って去って行った。それを確認した両津は心の中で笑っていた。
一方、時行は亀有銀行に到着し中川から教えてもらった方法で7億円を手に入れた。
「まさか、君のような子供が7億当てるとはね。何か欲しい物があったりするのかな?」
「いえ…まだ何も考えておりません。」
「だよね。まぁ、おめでとう。」
「ありがとうございます。」
とりあえず、時行に7億円は重たいので誰か保護者が来てもらうことになった。もちろん来るのは両津である。その両津は亀有銀行の近くにいた。周りをキョロキョロ見回しながら亀有銀行へと向かう。それを遠くから尾崎が双眼鏡で覗いていた。
「やっぱり7億を当てていたか。私を騙せると思うなよ。」
尾崎は既に亀有銀行の周りに商店街の人達を配置している。両津もそれに気付いた。慌てて近くのコンビニに入って隠れる。
「バレてたか。あのまま帰れば良かったのに。」
両津は雑誌を読むフリしながら時行を待つ。時行は両津を待っている間暇なので壁に貼ってあるポスターを眺めていた。その中に“親のいない子供達に”と支援金を求めるポスターがあった。それを見た時行は自分と同じ境遇の子供がまだたくさんいることを知った。
「私のような子供がまだいるのですね…」
時行は考える。今自分が出来ることを。今、自分は7億円を持っている。目の前には積まれていく7億円。それを見た時行は思い付いた。
両津が待っていると亀有銀行から時行が出て来た。それを見た両津がコンビニを出る。一目散に時行のところへと駆け寄る。尾崎達も両津を追いかけ亀有銀行へと向かう。
「時行!どうだ!?」
「ちゃんと貰えました!」
「よし!今すぐ…」
両津が時行を連れて行こうとするが時行は何も持っていない。それに尾崎達も気付いた。
「時行、7億はどうした?」
「あれにあげました!」
そう言って時行は孤児支援金のポスターを指差す。両津は青ざめ銀行内を見る。みんな、時行を尊敬の眼差しで見ていた。時行は嘘を言っていない。7億全てを孤児達に寄付したのだ。
「す、全てか?」
「はい!私と同じ子供達を1人でも多く救えたらと思いまして!」
「私達はこんな純粋な子供から7億取ろうとしてたのか…」
ニコニコしている時行を見た尾崎達は膝から崩れ落ちた。両津はショックで立ち尽くしている。その後…
「あの…両さん?どうかしました?大丈夫ですか?」
「時行君。君が気にする必要はない。欲深いバカの自滅だ。」
「無欲な人に当たるってよく聞くけど本当なのね。」
「まさか全て寄付するとは…」
『スクラッチで7億当選した少年 全て孤児達に寄付!』という見出しの新聞を読みながら時行を見る麗子と中川。いつも通り仕事する大原部長。そして、ミイラみたいに真っ白に枯れた両津を心配する時行であった。