逃げ上手の転生記 〜亀有の破天荒警官と〜   作:虹武者

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奈緒子の料理修行

 ある日、新葛飾署の交通課で奈緒子が料理を出していた。しかし、色が橙黄色で具材もよく分からない状態の料理に小町達はたじろぎしている。

 

「奈緒子、これは料理じゃないよ。」

「嘘、そんなにひどい?」

「ひどい…」

「何を作ろうとしたの?」

「に、肉じゃが。」

「全然肉じゃがじゃないよ!肉も赤いし!」

「なんで橙黄色になってるのよ。」

 

 小町達が奈緒子の料理にダメ出ししていると騒がしいと両津が入ってきた。

 

「お前ら、何してんだ?」

「来るな原始人!あんたには関係ないでしょ!」

「なんだそれ?」

「肉じゃがよ!見て分かんない!?」

「分からん。全然肉じゃがに見えん。」

「じゃあ何に見えるのよ?」

「暗殺スープ。」

「一度食べなさい!」

 

 奈緒子が料理の口に肉じゃがを押し込む。両津は青ざめ倒れ痙攣している。

 

「し、死ぬ…助けて…」

「一度死になさい。」

(食べなくて良かった…)

 

 悲惨な両津を見て安心する小町達。なんとか三途の川から逃げ切れた両津が起き上がる。

 

「あんなもんは肉じゃがと言わん。」

「そもそもなんでいきなり肉じゃが作ることになったのよ?」

 

 交通課の1人が奈緒子に聞く。

 

「その…この前、中川さんに美味しい肉じゃが作ってあげると言っちゃった…」

「お前、そんなに中川のこと恨んでたのか?」

「今度はちゃんと三途の川を渡り切りなさい!」

 

 奈緒子は残りの肉じゃがも無理矢理両津に食べさせた。再び痙攣しながら倒れる両津。なんとかまた生還した両津は奈緒子にアドバイスした。

 

「こいつらに作り方見てもらえよ。」

「奈緒子、今回はこのゴリラの言うことに一票。私達が見てあげるから。」

「でも、神の舌の中川さんに通じる肉じゃがが作れるか…」

「なら、時行に味見してもらうか?」

 

 両津の発言に奈緒子達は固まる。

 

「なんで時行君?」

「時行は中川も認める神の舌の持ち主だ。和食に関しては中川以上と言える。」

「嘘でしょ?」

「だから、時行がお墨付きを出せば中川は絶対美味しいと言う。」

「それならいいかも…奈緒子!一度時行君に味見してもらいましょう!」

 

 小町達に迫られ奈緒子は両津の提案に乗った。両津は時行を呼んで奈緒子の肉じゃがを試食してもらう。今度は見た目は普通の肉じゃがだ。時行はいただきますと肉じゃがを試食した。目を瞑り肉じゃがを味わう。が、何故かそのまま動かなくなった。

 

「時行、どうした?」

「なんで動かないの?」

 

 両津が時行を揺さぶる。すると、時行の魂が抜けるようなモヤが見えた。

 

「まずい!時行が死にかけてる!」

「ええ!?」

「今すぐAEDを持ってこい!ここで心肺蘇生と人工呼吸を行う!」

「それほどなの!?」

 

 なんとか両津が時行を現世へと戻す。目を覚ました時行は起き上がり周りをキョロキョロ見回す。

 

「あれ?頼重殿は?弧次郎は?亜矢子は?雫は?みんなは?」

「時行、ここはあの世じゃない。落ち着いて聞け。お前は肉じゃがを食べた結果、あの世へと旅立ちかけた。」

「肉じゃが…そうでした!確か試食して感想を言うのでした!すみません!覚えていませんのでもう一度試食します!」

「止めろ時行!今度は救急車を呼ばないといけなくなる!」

 

 両津が時行を無理矢理止める。時行が死にかけるレベルの肉じゃがを作った奈緒子に小町達は慄いていた。両津と時行も加わって奈緒子の料理を見る。

 台所にあるのは豚肉、じゃがいも、人参、糸こんにゃく、玉ねぎ、グリンピース、枝豆、醤油、みりん、砂糖、塩、酢、料理酒、濃塩酸、濃硝酸…

 

「待て。この2つはなんだ?」

「なんかあったから調味料として持ってきた。」

「バカヤロー!こんなの混ぜたら死ぬぞ!」

「奈緒子、これは調味料じゃなくて化学薬品よ。」

「あれ?」

「料理以前の問題が出たぞ。」

 

 さすがに小町達も引いていた。ちなみに、濃硝酸と濃塩酸で王水という金すら溶かす危険な液体が出来上がる。

 両津は肉じゃがに必要のない物を片付ける。両津はそこで気付いた。奈緒子は料理に関する知識がない。両津は小町を見て奈緒子の料理の腕前を聞く。

 

「お前、一緒に料理したことないのか?」

「…そういえばなかった。」

 

 小町は机を手を置き項垂れている。

 

「料理ぐらい教えておけよ。」

「教える機会がなかった。」

「なら、今やるぞ。」

 

 両津が台所に立つ。

 

「そういえばあんたって料理出来るよね?」

「超神田寿司の板前だからな。」

「この前も凄い綺麗な弁当作ってたわね。」

「自分は賞味期限切れのコンビニ弁当を平気で食べるくせに。」

「当たり前だろ。檸檬や時行は育ち盛りだぞ。そういう時こそちゃんと栄養バランスを考えた食事を摂らないかん。」

 

 普段の両津とのギャップに小町達は目を丸くする。

 

「ちゃんと考える人だった。」

「原始人のくせに。」

「ゴリラのくせに。」

「野蛮人のくせに。」

「やかましい!」

 

 両津は慣れた手付きでじゃがいもや人参を切る。両津は奈緒子に手本を見せる。切り終わると奈緒子に自分の真似をするように促す。

 

「やってみろ。」

「う…」

 

 奈緒子が野菜を切る。しかし、ぎこちない。両津だけではなく小町達も呆れていた。

 

「普段、料理してないだろ。」

「うるさいわね!」

「ねぇ、時行君は料理とかするのかな?」

「い、いえ…私は見るだけでした。」

(料理は全て雫がやってくれましたから…)

 

 時行は別の方を向いて答える。まぁ、8歳だしと小町達は納得している。逆になんでも出来そうな時行にも苦手なものがあると分かりさらに可愛く思えてきた。

 

「なら、私達が料理教えてあげる。」

「時行の前にこいつだろ。」

 

 両津が奈緒子を指差す。奈緒子は肉を焦がしていた。慌てて出すも炭直前だ。奈緒子は膝から崩れ落ちる。両津と小町が手本を見せるも上手くいかない。

 

「なんで…なんで上手くならないの…」

「もう肉じゃが諦めて卵かけご飯にしろ。」

「いや!中川さんに肉じゃが作ると言った以上上手くなってみせる!」

「その意気よ奈緒子!」

「不安しかないぞ。」

「ハハハ…」

 

 目をメラメラ燃やす奈緒子。小町達は応援するも両津は不安に思っていた。そこからも小町達の助力もあり奈緒子はなんとか肉じゃがを作ることが出来た。時行に試食させてみる。

 

「うん!美味しいですよ!」

「やったー!」

「時行君に美味しいって言ってもらったよ!」

 

 喜ぶ奈緒子達。

 

「ここからは1人で作ってみて!」

「うん!頑張る!」

 

 奈緒子は1人で肉じゃが作りに挑戦した。見守る小町達。奈緒子が完成した肉じゃがを時行に食べさせる。しかし、今度は複雑な表情をしていた。

 

「何故でしょう。じゃがいもが固く煮えていません。牛肉が溶けています。人参が液状に…あ、雫だ。」

「まずい!小町、AED用意しろ!」

「またぁ!?」

 

 両津が倒れかける時行を介抱する。なんとか起きた時行と一緒におさらいする。

 

「おかしいなぁ?ちゃんと練習通りに作ったはずなのに…」

「おいこら。なんだこれ?」

 

 両津がビンを奈緒子に見せる。ラベルには“酢酸”と書いてある。

 

「それと間違えたのかな?酢だし。」

「なんで危ないものを料理に使うんだ!」

「奈緒子、あれも化学薬品だから。」

「酢って書いてるのに…」

 

 どうやら、肉じゃがに入れるはずの調味料のどれかと酢酸を間違えて入れてしまったらしい。両津は何故こんなものがあると愚痴りながら酢酸を片付ける。

 

「まずいぞ。目を離したら本当に暗殺スープを作りかねないぞ。」

「確か中川さんに出すの明後日よね?」

 

 小町達がどうするか悩む。代わりに作るや一緒に作るぐらいしか思いつかない。

 

「よし。わしがなんとかしてやろう。」

「出来るの?」

「任せろ。逆転の発想だ。」

 

 両津は新葛飾署から出るとその足で中川のところに向かった。

 

「中川、明日味見して欲しい料理があるんだが?」

「構いませんよ。」

 

 翌日、中川は両津に呼ばれたところへと行く。既に両津と時行がいた。

 

「今日は世界の珍しい料理を中川に試食してもらいたくてな!」

「大丈夫ですよ。ただ、味の鑑定人としてはっきり言いますよ。」

「構わん!まずはこれだ!」

 

 時行が中川の前に料理が入ったクロッシュを出す。中川がクロッシュを開けると昆虫が皿の上にびっしりと乗せられていた。中川は頬を引き攣らせて両津を見る。

 

「先輩、これは?」

「タガメの素揚げだ。タイじゃ有名な料理だぞ。」

 

 中川はタガメの素揚げを箸で取る。チラリと見ると時行が何の躊躇いもなくタガメの素揚げを食べていた。中川もタガメの素揚げを食べる。

 

「い、意外と…濃い味付けですね。でも苦い。」

「そうか。次はこれだ。」

 

 両津が時行な言って次の料理を出す。大量のカタツムリが入っていた。

 

「それはエスカルゴのソテーだ。」

「確かにエスカルゴはアフリカとかで食用として有名ですけど…」

「さすが中川。博識だな。」

「食べたことはないですよ。」

「だから、お前に試食してもらいたいんだ。」

「それなら時行君が…」

「知名度はお前の方が上だ。」

 

 両津に強制されエスカルゴのソテーを食べる。なんとか食べ切り終わったと安心する。しかし、まだ終わらない。今度はコウモリとネズミとイモムシが煮詰まれた鍋が出てきた。

 

「いろんな国の料理を混ぜた鍋だ。」

「何故闇鍋にするんですか!?」

「いいから食え!」

 

 両津は無理やり中川に食べさせる。だんだん中川の様子がおかしくなっていく。両津はさらに嫌がる中川にアリやエイ、蜂の子などの料理を食べさせた。

 そして…奈緒子の肉じゃが試食当日。奈緒子は小町達に見守られながら作った肉じゃがを中川の前に出した。

 

「大丈夫よ奈緒子。」

「うん…」

 

 奈緒子が作った肉じゃがを中川が食べる。

 

「上手い!上手い!上手い!上手い!凄く上手い!世界一だにゃ〜!」

「やった!私の肉じゃがが褒められた〜!」

「良かったのですかあれで?」

「あいつの料理の腕を上げるよりも中川の舌をバカにする方が簡単だ。」

「あんた、最低ね。」

 

 喜ぶ奈緒子達。両津の行いを批判する小町。この後、中川は生死の境をさまようことになった。

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