雪菜との再会を果たした日から2日経った。今日は北の界隈でギルド主催冒険者による炊き出しが行われていると言うことなので古城はアリーゼ達とは別行動で周辺を巡回していた。
「こう言う時間が長く続いて欲しいもんだよな」
始まったばかりだが行き交う人達の顔には暗い表情が見えなくなった訳ではないが、明るい声がちらほら聞こえてきた。古城自身もどこか嬉しそうな顔をしていた。
「それにこういうののは体だけじゃなくて精神的な部分でも支えになるからな」
古城自身もタルタロスの薔薇の事件解決後に炊き出しの手伝いをしていた為食事は心身共に安らぎを与えることを理解していることから此処から明るい雰囲気が広がればいいなと考えていると。
「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「闇派閥だあああぁぁぁぁ」
「誰か助けてぇぇぇぇっ」
爆音と共に悲鳴が聞こえ、微かな血の匂いが漂って来た。
「マジかよ」
古城は騒ぎの中心へと吸血鬼の身体能力を駆使して駆けつける。
だが、戦闘はしないようにとアストレアから言いつけられていた。雪菜の話を聞いたアストレアは改めて古城になるべく戦闘しないようにとお願いしたようだ。
「避難誘導に徹すれば良いのか」
古城は伊達でも酔狂でもなく世界最強の吸血鬼の真祖なのである。いくら神々から恩恵を与えられ高レベルな相手がいるとは言え、吸血鬼としての身体能力と自然災害と同等かそれ以上の力がある眷獣の力を使うのだ。いくら敵とはいえ、大怪我を負わす訳にはいかないのと所属を隠す為になるべく戦闘しないように言いつけられていた。
「なんでこう言う日に限って邪魔してくんだよ」
逃げ遅れた者が居ないか辺りを見渡しながら、奥へと向かって行く。
「うわぁぁぁぁぁん、パパ!ママ!どこー!」
「ククク、死ね!!我々の理想のためにッ」
「ヒッ」
「やらせるかよ!」
両親と離れたのであろう子供を背後から襲おうとする人間を眷獣の魔力を使う事なく、殴り飛ばした。
「大丈夫か?」
「う、うん」
「怪我は膝を擦りむいただけか。歩けるか?」
「あ、足に力入らない」
「そうか、分かった」
古城は子供抱き抱えて安全な場所へと一気に走り抜ける。
「ここなら大丈夫か」
「お兄ちゃん、ありがとう」
「ああ、よく頑張ったな」
「レクス、レクス、何処にいるの!」
「ママ!」
どうやら母親も無事だったようだ。親子が無事に再会できたことを確認すると奥の方から小さな少女を中心とした団体が此方に近づいてくるのが見えた。
「ディアンケヒト・ファミリアです。怪我人はいませんか」
「あー、此処にはあんましいないな」
「わかりました、では私たちは奥の方へと向かいます。もし、怪我人を発見した場合はお手数ですが案内をお願いしましす」
「お、おう」
その少女は見た目に反する言動に少しばかり戸惑いながらも古城は他に怪我人やら敵が潜んでいないか確認していった。
古城はそのまま怪我人がいないか探した。なるべくアリーゼ達とは蜂合わないようにしていた。
ギルドでのウラノスとの約束は既にアリーゼ達に話してある。しかし他のメンバーならともかくアリーゼは少しばかり、否かなり抜けている所がある為に外では遭遇しないよう副団長である輝夜に言われたのだ。
「取り消してくださいっ!!」
「あ?今の声ってリオンさんの声だよな」
救助者がいないか辺りを見回っていると普段聞くことのない人物の怒声が聞こえてきた為声が聞こえた方に向かった。
「くどい!都市の平和の為、秩序をもたらす為だ!たった今、私達の周囲に広がるこの光景を撲滅せんが故だ!!」
憤激に突き動かされながら、『正義』の意思を断言するリューと何処か薄気味悪い男がいた。
「それが『自己満足』なんじゃないの?」
「なっ——」
何処か男の雰囲気が変わったような気がした。
「だって君達、お金が貰えないでしょう?」
「………黙ってください」
「パンもスープも分けてもらえない」
「……黙りなさい」
「祝福だってそこにはない」
「黙れっ」
激昂するリュー。古城は2人の問答を聞いて、違和感を感じていた。
「なんだ、あいつは。さっきからわざとリオンさんの感情を逆撫でするみたいな事ばっか言ってんだ」
そうまるで何かを求めているかの様に、答えをリューに聞けば分かるのではないかと疑わず信じているみたいだった。
「富と名誉だけでなく、一時の感謝さえ求めていないというならー君達の言う『正義』とは真実、ただの『孤独』じゃないか」
「黙「そこまでにしたらどうすか」」
「なんだい君は」
リューが声を荒げる寸前で古城は間に入った。
「リオンさんとこのファミリアでお世話になってるもんですよ」
「ふーん。所謂居候ってことかな。……悪いけど話の腰を折らないで欲しかったな」
「あんたが何を聞きたいのか知らないけどな、まだ怪我人がいるかもしれないんで邪魔しないで貰えますかね」
「古城…私は…」
「早く、行ってください。 それに今の状態じゃコイツに良いように言われるだけっすよ」
古城にそう言われたリューは何か言いたげだったが、結局何も言わずに救助活動に戻っていった。
「さて、あんた何が目的だ」
「はて、何のことかな」
「惚けんなよ。わざとリオンさんの感情を逆撫でして、何かを聞き出そうとしてたろ」
「……ククク。君もしかして案外勘が良いのかな」
「その薄気味悪い表情もやめろ。何が目的でリオンさんに近づいた?」
古城にそう言われた男は先程までの薄気味悪い表情を消して、何処か暗く、昏く、黒より黒いまるで深淵を纏っているかの様なモノに変わっていた。
「本当なら彼女に聞きたかったが……まぁ君でも良いかな」
「何を聞きたい」
「そう身構えないでほしい。アストレアが居候を許しているなら君にも少なくとも『正義』があるんだろう」
「正義?」
「そう君達にとって『正義』って一体なんだい?」
何を聞きたいのか良く分からなかった。
「あんたはそれを聞いてどうしたい」
「何、単なる趣味いや興味かな。正義を司る女神の眷属である彼女達が一体どのような正義を掲げて、活動しているのか。それを知りたくなったのさ」
嘘はないのだろう。それに目は何処か真剣なモノだった。
「あの人達がどんな正義を持っているのかは知らねぇ。『正義』なんてものに明確な答えなんてないのかもしれない」
「つまらない回答だね」
「ああ。俺はこれまで正義なんてモノを深く考えて力を使ってこなかったからな。…でも!」
古城は今までの戦いを思い出す。自身の監視役である雪菜が言っていたことを思い出す。
『あなたは絶対にそんなことはしない……誰かが勝手に他人の運命を決めるのを、先輩は何よりも嫌がってたじゃないですか!』
彼を長く
「俺にとっての正義は理不尽な運命から誰かを守ることだ」
「……青い、実に青い回答だ。君は本当に誰からも感謝もされず、見返りがなくなっても同じことが言えるかい?」
「最初からそんなもん求めてねえよ。感謝されなくたって見返りがなくたって俺は自分の正義を、意思を信じて戦って来たからな」
「あ、あはははははは。そうか、そうか。随分自分勝手な正義だ。だが——」
古城の答えを聞いて一頻り笑った男の顔は何処か満足げだった。
「それが君の中にある揺るぎない正義、理想なんだね」
そのまま踵を返して男は去ろうとしていた。
そう古城が語った正義は彼自身が掲げている理想そのものだ。ある意味男が求めていた正義の一つなのだ。
「あ、おい。何処に行くつもりだよ」
「なに、もう帰るよ。ある意味、良い答えが聞けたからね。それに」
「古城、こんなとこで何してやがる」
「リオンから話を聞いて来てみれば、今はそんな胡散臭い神など放っておけ」
「僕は彼女達から嫌われているからね」
合流したであろうリューから話を聞いた輝夜とライラが古城の元へと駆けつけてきた。
「面白い子を迎え入れたみたいだね、アストレアは」
これが『絶対悪』と『第四真祖』との初めての会合となった。
ここから物語は急速に動き出す。舞台役者は揃ったと言わんばかりに。
———『大抗争』まで、あと四日。