TCG世界で、俺は神になる(MtGでいうPW的な意味で)   作:衝動書きする人

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コントロールは頭使うけど単純なビートはもっと頭使う

 

「いいぞ!そのままやっちまえ!」

 

「陰気な黒使いなんてブッ倒しちまえ!」

 

 フィールドの中に声が届かないことをいいことに、観戦室では黒井正行に罵声を浴びせたり緑山和也を応援したりと、中にはその様子を見て表情を歪ませている者もいたがその数は少ないほど、異様な盛り上がりを見せていた。

 実際、緑山和也の手札は少ないがライフは残っておりフィールドには大型のモンスターが残っているのに対し、黒井正行は手札や墓地こそ多いもののフィールドには貧弱なステータスのモンスターとライフは残り僅か。この場にいる多くは緑山和也の優位を疑ってなかったが、中には緑山和也が圧されていることを理解している者もいた。

 

「どう見ます?」

 

 一般の観戦室とは別の、それなりの地位にいる者のみが入れる観戦室の中の2人は熱狂している一般の観戦室とは反対に静かにバトルを見ていた。長い髪をポニーテールにした堅そうな目の少女はフィールドに集中しながらも横で同じように観戦している黒縁メガネの長身の青年に端的に尋ねる。黒縁メガネの青年はフィールドを注視していて表情を変えることはなかったが、その目は少年のように輝いているようだった。

 

「君はどう思う?」

 

()()緑山和也が()()挑戦しに行くほどの実力者とは思えなかったのですが、今は己の浅知恵に恥じるばかりです」

 

 緑山和也は中学時代に全国大会の優勝を経験した天才だ。優勝したのは1度だけだが、それでも何万といるライバルの中で優勝を経験できるのはほんの一握りであり、さらに優勝を逃していても全国8位以内には確実にいる実力者だ。

 そんな彼は乱暴な言動が目立ってはいるが強者の自負は必要以上に持っている。強者の誇りを穢すことを嫌う彼は自ら()()することは滅多にない。自分は挑戦者ではない、と言えば傲慢に見えるが、実際彼が無作為に無制限にバトルをすれば周りの勝率は一気に激減するのは火を見るよりも明らかだ。

 だからこそ、それを知っている彼は自分からバトルを行うことはしていなかった。今日この時を除けばだが。

 

「黒のカードは6()()()()()()()()()()()()()()()()()()知られています。自分のフィールドのモンスターを自分から破壊し、自らの命とも呼べるライフを食い物にし、自分の全てを積み上げてきたデッキを墓地に送る。考えることが、やることがとても多く、とてもじゃないですが常人が使い熟せるようなカード群ではありません」

 

 次点で青や白も使いにくいとは言われているが、どれも黒と比べればそこまでではないと言われている。逆に使いやすくやることもわかりやすい色である赤や緑は相当な人気を誇っている。それほど人気があると言うことは、すなわちカードの争奪戦も激化しているのだ。

 しかし、逆に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということでもある。人気のある色であれば対策も容易である。そんな中で全国8位以内に必ず入るほどのデッキの完成度とそれを回すプレイングと身に着けている知識は驚嘆に値するものだ。

 

「あれが、ハーミットフェイスの実力ですか」

 

 だが、それでも黒井正行は優位にいた。ライフは少なくフィールドにモンスターも少なくいても貧弱。手札と墓地は多いが、それでも劣勢にしか見えない。現にこのバトルを見ているほとんどの生徒は緑山和也が優位だと思っているが、もしそうであるなら緑山和也が苦悶の表情を浮かべているわけがない。最上位レアの大型スタッツモンスターを場に出しているのに苦しそうにしているわけがないのだ。

 

「緑山和也は強い。知識も、プレイングも、運も、何もかもを彼は持っている。そうでなければ全国8位以内常連などできるはずもない」

 

 そうでなければあのカードを持っているはずがない。青年の脳裏には緑山和也の切り札である暴竜が襲い掛かってくる様子が思い起こされる。あの時はすれすれで対処をすることができたからなんとか勝つことができたが、もう一度同じことが起きたら勝てると断定することはできない。それほどの実力と運を緑山和也は持っているのだ。

 

「だが、それほどの実力者を彼は打ち破っている」

 

「プレイ。”死者の怨念”」

 

 バラバラと黒井正行の墓地からカードが除外されていき、闇のように黒い手がいくつも緑山和也のモンスターの影から出現した。モンスターは自身を掴んでいる手から逃れようと暴れるが、それも意味をなさずその体は影へと沈み込み、破壊された。

 

 ハーミットフェイス。常にマスクをつけている黒のカード使いとして名がはせていたプレイヤーだ。そう呼ばれ始めたのは彼が小学生の頃であり、大規模ショップでの大会で3度目の優勝してからだった。その大会は老若男女混合で行われており、中には県外やプロ試験に合格をもらっていた者もいたほどに有名な大会だった。それゆえに子供、それも小学生が数戦も勝つことができれば天才ともてはやされる中での3度の優勝だ。黒のカードを使っていなければ間違いなく麒麟児としてもてはやされていただろうが、残念ながら黒のカードを使うこと、そして顔を隠すような恰好をしていたことにより正体を隠す気味悪いやつ(ハーミットフェイス)との名がついたのだ。

 そんな彼だが、いやそんな名前を付けられたからか中学の頃から大会で見ることは少なくなっていき、そして去年1年間は全く名前を見なくなったのだ。何人もの人たちはようやく黒のカードを使うことに罪悪感を覚えたかと嗤っていたが、当の本人は大会に出ても楽しくないから出てないだけでそういった感傷は持っていなかっただけだったのだが。

 だが、それを面白く思っていない者は少なからずいた。その1人が緑山和也だった。

 

「ターン、エンドだ……!」

 

 ギリギリと残り1枚の手札を握り締めて苦悶の表情を浮かべる緑山和也。始終優位だったとは言えないが、それでも残りライフを5にまで落とし込むことはできた。だが、それ以上減らすことができない。自身のデッキが大型のモンスターを召喚して攻撃するデッキだと言うこともあるが、それ以上に黒井正行のリスクマネジメントがうますぎるのだ。

 

 緑山和也は黒井正行に勝てたことがない。最初は周りと同じように黒のカード使いということで嫌悪感を持っていた。今思えば恥ずかしくなるほど言いがかりも甚だしい理由で何度も対戦をしてきたが、黒のカードを使われた時は1度も勝てたことがないのだ。

 カードが強いだけなら諦められた。誰もが使っているカードを使っているのなら諦められた。本気のデッキで負けていたのなら、何も思うことはなかった。緑山和也は黒井正行に勝てたことがない。そう思っているのは黒井正行も含めて本人ともう1人だけなのだが、他の人のデッキを使われて拾った勝利など幼い子供からの勝利よりも価値はないと断言している緑山和也は、この状況を悔しく思い、同時に嬉しく思っていた。

 

「ターンをもらう」

 

 黒井正行は淡々と自身のターンに入り、デッキからカードを引く。引いたカードを見ては目を軽く開き、考えるように口を歪ませるが、1秒も経たずに引いたカードを盤面に叩きつけた。

 

「自分フィールドの”魂括り”を生贄にしてコストを4軽減。”腐食を操る龍 ドラゴエディン”を召喚」

 

 ”魂括り”と呼ばれた、腐敗した体に糸を巻き付けて奇声のような笑い声を上げていたモンスターは、影から現れた巨大な口に食われた。肉を食み骨を砕く音を鳴らしながらいなくなったはずの”魂括り”の影からその巨体が姿を現した。

 

「黒の、レジェンダリーレアカード……!?」

 

 その姿は瘴気を纏う黒いドラゴンだった。口から炎を吐き出すかのように緑と紫の混じった煙にもにた瘴気を吐き出し、緑山和也を喰らわんと紅い目を光らせていた。

 

「まさか、この目で見られるとは……!」

 

 レジェンダリーレアは流通がとてつもなく小さい。正確な枚数は把握していないが、それでも一種類につき10枚もないとすら言われているカードだ。その中でも不人気の色である黒のレジェンダリーレアとなれば、30年間生きてきて見れるかどうか怪しいとすら言われているほどのものだ。

 それをまさかこの目で見られるとは思わなかった、と少女は驚きで目を見開き、鉄面皮に近い表情だった青年の顔は喜色に満ちていった。

 

 詰みだ。黒井正行の敗北を願って見に来ていた観戦者はこの時にようやく緑山和也の敗北を悟った。”腐食を操る龍 ドラゴエディン”は黒のモンスター以外のステータスを弱体化させ、さらには自身が受けるダメージを軽減する効果も持っている。そしてフィールドにはモンスターの体力を下げる”瘴気が満たされた地下世界”が存在しており、マナも手札もまだまだ残っている。モンスターを並べようにも常在効果で破壊され、ステータスが高いモンスターはコストが高く何体も出すことはできないから手札の除去カードで容易に破壊される。可能性としては除去カードを引いてくることだが、残念ながら緑には単体で破壊するカードは存在しない。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 それを理解してもなお、緑山和也は投了しない。自分はプレイヤーだ。負けを悟っていようと、それが確定的な物じゃないのなら投了するようなことはしない。

 手札に除去カードがあるかもしれない?かもしれないだけだ。手札が多く持っていたとしても、攻撃してブロックできない状況であったとしても、ブラフである可能性が、大型のモンスターには対処できないカードしかない可能性がある以上投了するわけがない。

 

「座して死ぬぐらいなら、やることはやって死んだほうがマシだ!”恐山の絶対的捕食者”を召喚!」

 

 緑山和也の気炎に応えるかのように、そのモンスターが姿を現す。すべてを噛み砕く牙に、すべてを抑えつける巨体に、すべてをなぎ倒す尾。その姿は、まさに絶対的捕食者の名にふさわしい巨大なモンスターだった。

 

「緑のレジェンダリーレアカード……」

 

「彼の切り札であり、絶対的エースか」

 

 黒井正行の残りライフは残り僅かであり、それに対し”恐山の絶対的捕食者”の攻撃力はすべてのカードの中でも最上位。攻撃した時にはあらゆるダメージを受けず、例えブロックされても何度でも起き上がる、フィニッシャーの名にふさわしい切り札だ。この状況下であれば常人は勝つことを諦める、運命的な引きであることは明白だった。

 

「攻撃前にプレイ。”避けられぬ死”」

 

 だが、それも黒井正行には関係ない。わずか数%でしかない可能性を祈ったところで、その数%を引き当てないように動いてきた黒井正行は当然のように”恐山の絶対的捕食者”を破壊する。

 

「……ターン、エンドだ……」

 

「俺のターン、ドロー」

 

 絶対的切り札をあっさりと処理された。もはや勝ち筋は蜘蛛の糸の細さもあるかどうかしかない。だが、まだ可能性はある。あと数ターンをしのげば、その数ターンで”恐山の絶対的捕食者”に次ぐカードを引くことができれば、まだ可能性はある。

 

「”腐敗したドラゴンゾンビ”を2体召喚し、攻撃に入る」

 

 しかし、その祈りも黒井正行のフィールドに現れた腐敗した体のドラゴンが2体出たことで届かなかったことを悟る。ここで仮に”腐食を操る龍ドラゴエディン”の攻撃を防ぐことができた、あるいは破壊することができたとしても次のターンには”腐敗したドラゴンゾンビ”2体の攻撃で自分のライフは0になる。

 そして、そうでなくても緑山和也の手札には攻撃を防げるカードはない。これで、負けだった。

 

「来やがれ!」

 

 前提ルールとして、緑山和也はこの時点で投了はできる。時間短縮にもなるため、投了ルールでは『いかなる場面においても両者の同意がある場合、もしくは片方が投了を示した場合において審判が妥当だと認める場合、投了を示したプレイヤーの敗北が執行される』とある。ここで緑山和也が投了を申し出れば黒井正行はそれを了承するだろうことはわかる。だが、それを緑山和也は是としなかった。誇りだけではない。正規のルールでの敗北を受け入れないことなんて、そんな無様なことはライバルに見せたくないという意地だった。

 

「”腐食を操る龍 ドラゴエディン”で攻撃」

 

 黒井正行の宣言と共に”腐食を操る龍 ドラゴエディン”の口から火炎のように噴き出された瘴気が緑山和也に襲い掛かっていく。到達する前に薄い膜のようなものが張られ、ライフを表示していた数字が下がっていく。そしてライフは0になった瞬間にガラスが割れたような音とともに膜が割れ、バトル終了のブザーがフィールドと観戦室で響いた。

 

「ありがとうございました」

 

「ありがとうございました」

 

 ブザーが鳴り終わると同時にお互いに礼をする。黒井正行は終わったことによる安堵と疲労により疲れたと言わんばかりに深く息を吐き、緑山和也は悔しそうな表情を隠そうともせず自動的にカードを収納されたデッキケースを手にして早々にフィールドから去っていった。

 

「予想外でした。あの緑山和也が負けるなんて……」

 

 あの緑山和也が自分から挑戦しに行くほどだから実力はあるのだろうとは思っていた。だがいい勝負をしたどころか勝ってしまうとは、たまたまフィールドに用事があったがゆえにバトルのことを耳にした時には思いもしなかった。

 

「会長?」

 

 普段ならバトルについて一言二言は必ず感想なりを言う青年、この学校の生徒会長の赤崎桃矢がバトルが終わっても何も言わないことに不審に思った少女は赤崎桃矢を見る。そこには普段はあまり表情を変えない赤崎桃矢が、喜びのあまりか目を輝かせて口角を上げてフィールドから去っていく黒井正行を見ていた。

 

「まさか、ここまでの実力者が2人も入学するなんてね。私は運がいいようだ」

 

 その様子は、黒幕がいい実験体を見つけた様子だと言われそうなほどに不信感というか胡散臭さが溢れていたが、ただ単に子供の様に純粋に喜んでいるだけで他意は全くないのだと理解していた少女は軽く息を吐く。 

 あの黄色使いが県外に出ていったことが悔やまれたが、まさかそれを比類できる人材が、それも2人も入学してくれていたとは予想外だった。黒井正行は黒のデッキ使いとしか知らなかったし、緑山和也はこの学校以外でいい条件を出す学校はいくらでもあったはずなのにここを選んだ。これを幸運と言わずなんというのか。

 

「団体戦全国優勝の夢が叶いそうだよ、兄さん」

 

 そして、その幸運をつかみ取ろうとしないのは愚か者がやることだ。これから忙しくなると、予定外の忙殺に口角を吊り上げる青年とそれを見てこの1年が忙しくなることを察した少女は軽くため息を吐いて見学部屋から出ていった。

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