熱い……
苦しい……
誰か……
たす……け……
「はぁっ!」
飛び起きる。
途端に、自覚する違和感。
(現実、だ……)
なぜだろう。
もう長いこと眠っていたような気がする。
そして、長い長い、苦しい悪夢を見ていたような。
「はぁ、はあ、はぁ……」
自分の現実を、本能が理解しようとする。
(ベッドの、上……?)
――――そうだ、確か……俺……
「任務で……」
思いだされる、暗い校舎。
何かの呪霊の群れに襲われて……倒壊して……気絶、して……。
「そのあと、オレ、何した……?」
そのまま、ここに運ばれた……?
いや……。
なぜかそれはない、と直感できた。
そのあとに、何か、あった。
何か時間がが存在したはずだ、と。
しかし、なぜか、うまく想起できない。
(いや、それより……)
それよりも、今は重大に思えることがあった。
「ここ、どこだ……?」
医務室のベッドではない……。
薄暗い、個室の中。
そして寝ているのは、ギシギシと音のする、パイプベッドだった。
よくお世話になっていた、柔らかい学園のベッドではない。
「気が付いた?」
「!?」
驚き、ベッドの上で跳ねてしまう。
ギシリ、とベッドの骨組みが悲鳴を上げた。
ベッドの左側に座っている女性。
それが、ふふ、と微笑んで見せた。
「おはよう。よく眠れたかい、ジャングルポケットくん」
「誰、だ?」
見覚えのない、葦毛のウマ娘……。
「そっか、覚えてないか」
にやり、と微笑む。
「えっ……」
「いや、ちゃんと目覚めてくれてよかったよ。記憶は曖昧みたいだけど」
「……?」
目の前のウマ娘が、ふふふ、と楽しそうに笑う。
「ごめんね、すこし取り乱しちゃって。わたしのことは、そうだな……チルとでも呼んでくれ」
「……? はい……?」
ジャングルポケットは、曖昧に返事をした。
「あ、あのっ」
「ん?」
「ここって、どこなんだ? オレ、任務の途中でさ、助けてくれたことはありがたいんだが、仲間んところ戻らないと……」
「ああ……やっぱり、君、学園の呪術師なんだ」
「ああ、そうだ。……って、そういや、なんで俺ん名前知ってるんだ……?」
ふふ、とチルは再び笑った。
そして、来ていたジーンズのポケットから、何かを取り出す。
「ここに、書いてあったからね」
ジャラリ、と取り出されたそれは、ドッグタグだった。
(俺とフジさんで作ったやつ……)
いつか二人で一緒に出掛けたとき、とある商店街で、たまたまドッグタグ作成の体験会に鉢合わせたのだ。
その時に、せっかくだからと、二人で造ったもの。
自らの名前が刻印された同じものを、フジさんも持っているはずだ。
「ああ、大事なものだったかな? これはすまないね。君に返すよ」
「ど、どうも」
それを取ろうと、右腕を伸ばす。
「いっ……!」
激しい痛みが腕に走った。
「……てぇ……!」
左腕で腕を抑え込み、ジャングルポケットはうずくまった。
「ああ、まだ傷が治りきっていないみたいだね。できる限りは治療したんだけども……」
「っ……マジで、ここ、どこ……! 何が、起こって……!」
うずくまりながら、ジャングルポケットは絞りだした。
「ああ、無理に動かなくていい。君はシンボリルドルフと交戦していたんだから」
「え……!?」
ジャングルポケットは顔を上げた。
(シンボリルドルフ……学園の中でも最強と称される実力を持った、一級術師)
「な、なんで俺が会長さんと……」
対して自分は、術師として成り立つかもあやしい、四級呪術師だ。
間違っても……悔しいことに、歯が立つ相手ではない。
「きみが特級呪物を取り込んだからさ」
「は……!?」
「……噂通りの声の大きさだね。やはり、そこも覚えていないのかい?」
「じ、自分が声デカいのは覚えてるっスけど……」
「いや、そこじゃなくてね」
チルは頬を掻いた。
「まあ、百聞は一見に如かず、か。よいしょ」
パチン、とチルは指を鳴らした。
その瞬間、部屋に明かりがともる。
薄暗かった部屋が、一瞬にして、コンビニの店内のようなまばゆい明かりに包まれた。
「うわっ!」
思わず目をつぶった。
しかし、それも徐々に慣れてくる。
何度か瞬きをすると、チルののぞき込んでくる顔が目に入った。
「ほら、自分のここ、見てごらん」
チルが、自身の右腕を指さす。
ジャングルポケットはその通りに、自分の右腕に目を向けた。
そして息をのむ。
「っ……! なん、だ、コレ……!?」
黒い模様のような何かが、自分の腕に巻き付くように施されていた。
(こんなもん、オレ、彫ってなかったよな……? 髪にパーマかけたりはしてたけど……)
「そこだけじゃない。上腕も見てみて」
Tシャツ――いつの間にか着替えさせられていた――の裾をめくる。
するとそこにも、腕に巻き付く黒い模様が入っていた。
「なんだよ、コレ……!?」
にやり、とチルは笑った。
「それが、取り込んだ特級呪物の副作用だよ」
「でも、オレ、そんなモン、取り込んだ覚えなんて……」
「いーや、君は取り込んだ。じゃなきゃ、その模様をどうやって説明する? そして……君がシンボリルドルフと戦った、という事も」
「っ……でもオレ、全く自覚が……」
「ふーむ」
チルは自らの顎を撫でて、鼻を鳴らした。
「やっぱり、まだ混乱しているみたいだね。よし、分かった。まずは、ここがどこだか説明しようか」