時少し遡り……
呪術総監部より通達。
ジャングルポケット四級術者を術師登録より除名。
重ねて同名を特級討伐対象とし、可能な限り迅速な討伐を命ず。
手段及その他はすべて学園に一任するものとする。
「…………」
ぺらり、と二枚目をめくる。
学園より通達。
ジャングルポケット特級受肉体の第三次討伐任務に以下の者を任命する。
アグネスタキオン 二級術師
ダンツフレーム 二級術師
トウカイテイオー 一級級術師
シンボリクリスエス 一級術師
「……これで、以上ですか?」
マンハッタンカフェは書類から顔をあげて、静かに言った。
「はい。その二枚で全てです」
訝しげに、彼女は眉根を寄せる。
「……わたしにこれを通達する意味は、あるんですか?」
彼女は再び書類に目を落とす。
どこにも、自分の名前は見当たらない。
「……本来は、『特級』である、
たづなさんは、眼の前に座るカフェに目を向けた。
頭にはまだ包帯が巻かれてあり、白い包帯から黒い耳が二つとび出している。
その片足には、太もも辺りから足首近くにまで、関節を固めるためのギプスが巻かれていた。
完治にはあとどれだけかかるかわからない。
「でしたら、なおさらなぜですか?」
「今回の一件……ジャングルポケットさんの暴走の原因が、呪霊操術の使い手によって引き起こされた可能性が見つかりました」
「…………!」
カフェは目を見開いた。
「……わたしではないですよ」
「わかっています。これはそれを目撃したクリスエスさんによる証言ですから」
「そうですか……」
それならば、信頼できる。カフェはそう思った。
「……ですので、今回カフェさんには、特例で任務に同行してもらうお願いをしにきました。バックアップとして、後方の任務に。もし相手が同じ呪霊操術であれば、なにか知見を得られるのではないかと」
「…………? でしたら、なぜ直接任務に入れないんですか?」
「……事情が、あるんです」
「事情…………?」
「今は、話せません。ただ、お願いをするしか……」
カフェは、眼の前の人を、じっと見つめた。
(…………嘘は、ついてないかな)
(うん、ついてないよ。このひとはうそをついてない。だいじょうぶ、だよ)
(……わかった。ありがとう)
「わかりました。たづなさんの頼みでしたら、断るわけにはいきません」
たづなさんがぺこりと頭を下げる。
「ありがとうございます」
(……まあ、
「……でも、任務地はどこなんですか? この体では、かなり無理があると思いますが」
「その件については、ご安心ください。クリスエスさん」
ガラリ、と部屋にシンボリクリスエスが入ってくる。
「クリスエスさん」
カフェが小さく頭を下げる。
クリスエスは無言でそれに会釈で返した。
「たづなさん……?」
疑問の視線をたづなさんに向ける。
「そのまま、動くな」
「えっ……!?」
「……違う。私があの時見たあの者とは、異なっている」
「え…………?」
マンハッタンカフェは呆けた声を出した。
たづなさんの、安心のため息が部屋に響く。
胸元を押さえながら、たづなさんは申し訳無さそうにカフェに言った。
「本当に申し訳ありません。本当にカフェさんが無実かを確かめるために、クリスエスさんに手伝ってもらったんです」
「あ、そういう……」
「実は、総監部から疑いがかかっていたんです。クリスエスさんは総監部からも信頼されていましたから……。本当に申し訳ありません、騙すようなことをしてしまって……」
「いえ、べつに、そういうことなら」
すっ、とクリスエスがカフェのもとにしゃがみ込む。
「く、クリスエスさん……?」
「そのまま、動くな」
ギプスで固定されている脚を、両手で包むようにクリスエスは手をかざした。
「ふぅ…………」
集中するように息を吹く。
「まさか……クリスエスさん……」
ギプスの上から下へと、ゆっくりと、クリスエスは動かしていく。
「これは…………」
「これで、大丈夫だ」
「もしかして……!」
「……力を、入れてみろ」
「はい……ふっ!」
バキイッ
ギブスが膝の位置から音を立てて破断する。
「……! すごい、治ってる……。クリスエスさん、反転術式のアウトプットなんてできたんですか」
「ああ……だが、このことは、内密に頼む。秘密に、しておきたい」
(……事態は思ったより、複雑みたいですね)
「わかりました」
一瞬思案してから、カフェは頷いた。
そして顔を上げ、たづなさんへと尋ねる。
「それで、任務はいつからですか?」
「はい。任務は三日後……の予定です。そこにおいてカフェさんには、書面上は任務に加わっていない状態で後方からの監視をお願いします」
(……おそらく、総監部の内部にもぐりこんでいる可能性がある、ということでしょうか)
総監部の腐敗具合は、カフェもよく知るところだった。
シンボリルドルフ会長やたづなさんたちの尽力によって自分たちはほとんど不自由なく動くことができているが、それに対応する彼女たちには感謝しかない。
「しかし、予定とは?」
「……まだ、ジャングルポケットさんの居場所の手がかりが掴めていないんです」
たづなさんがいうと、クリスエスが視線を落とした。
「相手の、呪力の隠し方が……perfect……完璧に近い、状態だった……。その、のこり……」
ちらり、とクリスエスはたづなさんの方を見た。
「残穢ですか?」
「そう、残穢を、追跡することも、難しかった。わたしの、力不足だ」
「……クリスエスさんが無理なら、誰でも無理だと思いますけど」
「……そうか」
呪力の追跡や解析において、シンボリクリスエスに勝るものは存在しない。
それが、学園内での共通認識であった。
そんな彼女でも追跡できないというのであれば、誰も講義するものはいない。
それに、相手はそれほどの相手、ということだ。
「場所がわからないなら、どうするんですか?」
「もちろん、目処はたっています」
うなずき、たづなさんは言った。
「タキオンさん……彼女の研究の可否によって、全ては決まります」